328 / 823
8章 そうしてわたしは恋を知る
第328話 夏休み前②回生案
しおりを挟む
「帽子?」
「うん。夏に帽子、大切。今ある帽子って頭の小さい人しか似合わない形なんだもの。だから帽子イヤなんだけど。ないならちょうどいいのを作ればいい! 今、食品は売れないけど、他のは売れてるから、代わりに帽子を売っていけばいいと思う」
拳を握り締めて力説する。
「わかったから、今夜はお休みなさい」
母さまが同じテンションでいいと言ってくれなかったから、ちょっと不満だ。
ノック音がして兄さまが入ってきた。
「兄さま」
「気分はどう?」
「大丈夫」
そういうとお腹がギュルっと鳴り空腹だと主張した。
「食べられそう?」
母さまに聞かれたので、うんと頷く。
「おかゆを持ってくるわ」
母さまが部屋を出て行った。
「兄さまが運んでくれたんだよね? ありがとう」
わたしは明るく言った。
「保健室から家まではね。リディーが倒れたところから保健室まではロサ殿下が運んでくださった」
「その時、一緒に女の子がいなかった?」
「……ああ、メロディー公爵令嬢が居合わせて、一緒に来てくださったようだよ」
「兄さま、公爵令嬢のお名前、知ってる?」
「え? …………コーデリア・メロディーだ」
コーデリア、ね。コニーとはずいぶん親しげだね、ロサ。
しかもメロディー嬢は第一王子殿下の婚約者。
わたしは頭を押さえた。
選び放題だろうに、よりによって、なんでそこにいった?
人気のないあの場所。ひとりでやってきたロサとコーデリアさま。薄れゆく意識でも、呼び方に愛情がこもってて心に残った。ふたりはあそこで会う約束をしてたんだ。
彼女がロサの想い人だ。確信する。お兄さんの婚約者に懸想って、茨の道でしかない。
「コーデリア嬢がどうかしたのかい?」
「うーうん、なんでもないよ」
兄さまが口の中で何か言った。
母さまがおかゆを運んできてくれた。お腹は空いているのに3口ぐらい食べるとお腹が膨れ上がった気がして、受け付けなくなったのがショックだった。日射病、恐っ。これで軽症なんて。
次の日兄さまは学園に戻ったが、わたしは大事をとって1日家にいた。そして何パターンか帽子の草案を作った。アラ兄に絵を描いてもらえたら、どんな帽子を作りたいか、もっとわかりやすくなるんだけどな。
帽子って職業別の制服の一部として着用したのが元なんだよね。神官さまたちが祭儀の時にかぶる背の高いツバのない帽子とか。魔法士の正装は立派で洒落た防災頭巾みたいな帽子。学生はベレー帽とか。
おしゃれ帽子は、男性はシルクハットで女性はガーデンハット。
ベレー帽も冬はいいんだけど、夏は暑すぎる。
だから、夏にかぶれる、今あるそれらとは違うタイプ、ツバが広めのキャップと、麦わら帽子的なものを作ろう。暑い時に日差しから頭を守るためのものをね。倒れるのはもうごめんだ。
土魔法で好きな形の帽子をいくつも作る。その上に薄くコーティングした。
これを型にしてと母さまに丸投げするだけだ。えへん。
鏡を見ながら、自分で被ったりもして、いいと思う形にしていく。
これなら野暮ったくないし、それでいて日もしっかり遮る。なかなかいいんじゃないかな。あとは夏用だから素材だね。暑いと蒸しちゃうもんな。ひんやり素材とかできないのかな。
あ、自分のだけは水でコーティングしよう。涼しそう。
「お、お嬢さま、お休みになられたのではないのですか?」
アルノルトが軽いノックの後に入ってきて、いささか呆れている口調だ。
「帽子の見本を作ってたの。ね、これかぶってみて」
大人用のを作ってみたんだけど、わたしのサイズから大きく広げただけという適当さだから。
アルノルトはため息をつきながらもかぶってくれた。
サイズはいい感じだ。ツバがもっとあってもいいかも。その方が顔にかかる影がかっこいい気がする。
かぶってもらったまま調整していく。
「ありがとう。これを母さまに全部送ってと」
あとでフリンキーにハウスさん経由で母さまに届けてもらう物をまとめておく。
「お嬢さまは何かをこしらえているときが、一番イキイキとされていますね」
「うん、楽しい。それと、食品のことも考えたんだ。わたしが砂漠に行ったのは事実だし知れ渡っているのだから、それを前面に押し出すことにする」
「前面に押し出すとは?」
「これからちょうど夏だし、砂漠の町の屋台で売ってたものを砂漠フェアとして売り出すの!」
収納ポケットからユハの街で買ったものを取り出していく。
「サボテンジュース。トゲトゲのある植物なの。砂漠っていうか、暑いところで育つ植物ね。これはサボテンの中でもテンっていう食用のもので、皮を剥いて果肉も食べられるし、汁が飲めるぐらい水分をいっぱい含んでいるの。ほのかに甘しょっぱいのよ。暑い所の植物を体に摂ると、熱を下げてくれるんだって。向こうで好まれているの。こっちはユハの実、殻が硬くて割るのは大変なんだけど、甘い実で中の果汁も濃厚よ。砂漠って本当に暑くてね、そこらへんの岩で卵が焼けるぐらいなのよ。体温を下げるような果物と飲み物、それから向こうでは乾燥肉を炙って酸っぱめのタレで食べるの。ユオブリアでは向かないだろうから、しっかり肉を炙って、それを小麦粉で焼いた皮に野菜と挟んで酸っぱかったりからかったりするタレと一緒にするのはどうかな? 砂漠に怖いイメージがあるなら、それをおいしい食べ物で払拭しちゃえばいいわ」
アルノルトがクスクス笑っている。
「どうしたの?」
「いえ、お嬢さまが、とてもお嬢さまらしかったので、安心しました。近頃元気がないようにお見受けしましたので」
「暑くてよく眠れなかったから」
このところグジグジしていた。兄さまとのことを考えるとどうしたらいいのかわからなくなって。いくら考えても答えが出ないことをグダグダ悩むのはしんどすぎる。兄さまとのことは出たとこ勝負よ。手に負えなくてほっぽり投げる説もあるけど。いや、そんなことはない。ほっぽり投げたくはない。だけど実際しんどくて、体調崩しただけだから。そんな〝わたし〟は終わりにしたかった。
「うん。夏に帽子、大切。今ある帽子って頭の小さい人しか似合わない形なんだもの。だから帽子イヤなんだけど。ないならちょうどいいのを作ればいい! 今、食品は売れないけど、他のは売れてるから、代わりに帽子を売っていけばいいと思う」
拳を握り締めて力説する。
「わかったから、今夜はお休みなさい」
母さまが同じテンションでいいと言ってくれなかったから、ちょっと不満だ。
ノック音がして兄さまが入ってきた。
「兄さま」
「気分はどう?」
「大丈夫」
そういうとお腹がギュルっと鳴り空腹だと主張した。
「食べられそう?」
母さまに聞かれたので、うんと頷く。
「おかゆを持ってくるわ」
母さまが部屋を出て行った。
「兄さまが運んでくれたんだよね? ありがとう」
わたしは明るく言った。
「保健室から家まではね。リディーが倒れたところから保健室まではロサ殿下が運んでくださった」
「その時、一緒に女の子がいなかった?」
「……ああ、メロディー公爵令嬢が居合わせて、一緒に来てくださったようだよ」
「兄さま、公爵令嬢のお名前、知ってる?」
「え? …………コーデリア・メロディーだ」
コーデリア、ね。コニーとはずいぶん親しげだね、ロサ。
しかもメロディー嬢は第一王子殿下の婚約者。
わたしは頭を押さえた。
選び放題だろうに、よりによって、なんでそこにいった?
人気のないあの場所。ひとりでやってきたロサとコーデリアさま。薄れゆく意識でも、呼び方に愛情がこもってて心に残った。ふたりはあそこで会う約束をしてたんだ。
彼女がロサの想い人だ。確信する。お兄さんの婚約者に懸想って、茨の道でしかない。
「コーデリア嬢がどうかしたのかい?」
「うーうん、なんでもないよ」
兄さまが口の中で何か言った。
母さまがおかゆを運んできてくれた。お腹は空いているのに3口ぐらい食べるとお腹が膨れ上がった気がして、受け付けなくなったのがショックだった。日射病、恐っ。これで軽症なんて。
次の日兄さまは学園に戻ったが、わたしは大事をとって1日家にいた。そして何パターンか帽子の草案を作った。アラ兄に絵を描いてもらえたら、どんな帽子を作りたいか、もっとわかりやすくなるんだけどな。
帽子って職業別の制服の一部として着用したのが元なんだよね。神官さまたちが祭儀の時にかぶる背の高いツバのない帽子とか。魔法士の正装は立派で洒落た防災頭巾みたいな帽子。学生はベレー帽とか。
おしゃれ帽子は、男性はシルクハットで女性はガーデンハット。
ベレー帽も冬はいいんだけど、夏は暑すぎる。
だから、夏にかぶれる、今あるそれらとは違うタイプ、ツバが広めのキャップと、麦わら帽子的なものを作ろう。暑い時に日差しから頭を守るためのものをね。倒れるのはもうごめんだ。
土魔法で好きな形の帽子をいくつも作る。その上に薄くコーティングした。
これを型にしてと母さまに丸投げするだけだ。えへん。
鏡を見ながら、自分で被ったりもして、いいと思う形にしていく。
これなら野暮ったくないし、それでいて日もしっかり遮る。なかなかいいんじゃないかな。あとは夏用だから素材だね。暑いと蒸しちゃうもんな。ひんやり素材とかできないのかな。
あ、自分のだけは水でコーティングしよう。涼しそう。
「お、お嬢さま、お休みになられたのではないのですか?」
アルノルトが軽いノックの後に入ってきて、いささか呆れている口調だ。
「帽子の見本を作ってたの。ね、これかぶってみて」
大人用のを作ってみたんだけど、わたしのサイズから大きく広げただけという適当さだから。
アルノルトはため息をつきながらもかぶってくれた。
サイズはいい感じだ。ツバがもっとあってもいいかも。その方が顔にかかる影がかっこいい気がする。
かぶってもらったまま調整していく。
「ありがとう。これを母さまに全部送ってと」
あとでフリンキーにハウスさん経由で母さまに届けてもらう物をまとめておく。
「お嬢さまは何かをこしらえているときが、一番イキイキとされていますね」
「うん、楽しい。それと、食品のことも考えたんだ。わたしが砂漠に行ったのは事実だし知れ渡っているのだから、それを前面に押し出すことにする」
「前面に押し出すとは?」
「これからちょうど夏だし、砂漠の町の屋台で売ってたものを砂漠フェアとして売り出すの!」
収納ポケットからユハの街で買ったものを取り出していく。
「サボテンジュース。トゲトゲのある植物なの。砂漠っていうか、暑いところで育つ植物ね。これはサボテンの中でもテンっていう食用のもので、皮を剥いて果肉も食べられるし、汁が飲めるぐらい水分をいっぱい含んでいるの。ほのかに甘しょっぱいのよ。暑い所の植物を体に摂ると、熱を下げてくれるんだって。向こうで好まれているの。こっちはユハの実、殻が硬くて割るのは大変なんだけど、甘い実で中の果汁も濃厚よ。砂漠って本当に暑くてね、そこらへんの岩で卵が焼けるぐらいなのよ。体温を下げるような果物と飲み物、それから向こうでは乾燥肉を炙って酸っぱめのタレで食べるの。ユオブリアでは向かないだろうから、しっかり肉を炙って、それを小麦粉で焼いた皮に野菜と挟んで酸っぱかったりからかったりするタレと一緒にするのはどうかな? 砂漠に怖いイメージがあるなら、それをおいしい食べ物で払拭しちゃえばいいわ」
アルノルトがクスクス笑っている。
「どうしたの?」
「いえ、お嬢さまが、とてもお嬢さまらしかったので、安心しました。近頃元気がないようにお見受けしましたので」
「暑くてよく眠れなかったから」
このところグジグジしていた。兄さまとのことを考えるとどうしたらいいのかわからなくなって。いくら考えても答えが出ないことをグダグダ悩むのはしんどすぎる。兄さまとのことは出たとこ勝負よ。手に負えなくてほっぽり投げる説もあるけど。いや、そんなことはない。ほっぽり投げたくはない。だけど実際しんどくて、体調崩しただけだから。そんな〝わたし〟は終わりにしたかった。
105
お気に入りに追加
1,239
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】聖騎士団長で婚約者な幼馴染に唐突に別れを告げられました。
空月
ファンタジー
『聖騎士団長・レーナクロード・シルヴェストルは、異世界の少女と恋に落ちた』。
巷で囁かれていたそんな噂によるものなのかそうでないのか、幼馴染であり婚約者でもあるレーナクロードから婚約解消を申し出られたエリシュカ・アーデルハイド。
けれど彼女は、その申し出にあっさりと頷いた。
そうしてその話はそこで終わった――そのはずだった。
しかし、目が覚めたら三月経っていたという異常事態に見舞われたエリシュカは、その元凶がレーナクロードだと聞き、『異世界の少女』と旅に出たという彼を連れ戻すことを決意する。
それが別れた婚約者に、無様に追いすがるような真似に見えると承知の上で。
知らない異世界を生き抜く方法
明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。
なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。
そんな状況で生き抜く方法は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる