プラス的 異世界の過ごし方

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8章 そうしてわたしは恋を知る

第326話 今を壊せ

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『兄さまに聞いたの?』

「何を?」

『兄さまの幸せが何かって』

 わたしは驚いた。

「聞けないよ」

『なんで?』

「兄さまは責任感があるし、情もあるだろうし。自分の気持ちより他の人の気持ちを優先する人だもん。本当の想いは聞けないと思う。だから兄さまをちゃんと見て兄さまの願いをいち早く知るのが、わたしの役目だと思ってる」

『兄さまの思いをリーが決めるのは変だよ』

『うん、変』

『フランツはリディアのことが一番好きなのに』

 わたしはレオに告げる。

「わたしも兄さま好きだよ。でも人族には好きに種類があるの」

『好きに、種類?』

 わたしは頷いた。
 兄さまがわたしを好いてくれているのは確かだけど、それはきっと家族としてだと思う。
 だって、それこそ、ミニーじゃないけど、〝求められた〟ことないもの。
 デコチューはあるけど、それ以上はないし。

 そりゃそうだ。兄さまは16歳。わたしは11歳。胸がぼよーんとある女性らしい体型を持ってるわけではなし、特にかわいいわけでもない。家族でなかったら視界に入ることもなかったはずだ。

『……では、フランツのリディアに対する好きの種類を聞いてみればいいのではないでしょうかねぇ?』

「それ、ダメ。兄さまはわたしの婚約者の役割を果たしてくれているんだもん、本心は聞けないよ」

『リディアの気持ちもわかるけど、フランツの気持ちも大事だろ? とりあえずカトレアが言ってたみたいに〝兄さま〟から名前を呼ぶようにしてみたら?』

「……でも」

『フランツがリディア以外の誰かを好きな場合、今と同じ状態なら言い出せないってことなんだろ? 今言えてないんだから。だったら今の状況を壊さなくちゃ』

 レオの意見はもふもふ軍団に説得力があったようで、みんながそうだと頷く。
 でも、確かに。兄さまが何か思っていることがあっても兄さまからは言いにくいよね。だって婚約破棄はどうしても、女性側の方がダメージがある。わたしの評判はよくないし、街を半壊させた噂がある今、わたしを伴侶にと選んでくれる人はいない気がする。兄さまは言いにくい。
 ……今のままだと兄さまは言いにくい。何かが変わっていかないと、兄さまの気持ちは見えにくい。
 わたしは兄さまに好きな人ができたら、その時に考えようって逃げているのかな? 結局、兄さまを婚約者に縛りつけているのかな?

 でも、だけど……わたしは兄さまと婚約を解消したいわけじゃないんだよ。
 それは他に結婚できそうな人がいないからとかの打算ではなく……。
 わたしは兄さまに近くにいて欲しいんだと思う。
 ……そっか。わたしは兄さまに婚約者でいて欲しいんだ。

 そうなのだとしたら、……兄さまに好きな人ができたら諦めるけど、でもわたしは婚約者でいたいってことは、薄く主張するべきなのかもしれない。

 兄さまは、優しくて、カッコ良くて、頭がいいし、頼りがいがあって、なんでもできちゃう人。ファンもいっぱいいる。学園にはきれいだったり、かわいかったり、そんなスーパーガールたちが山ほどいる。
 わたしはアピールするべきなのかもしれない。だけど、そっとね。兄さまを情で縛り付けてしまわないように。

「ふたりの時だけ、名前で呼ぶって言ってみる」

 覚悟を決めて告げると、もふもふ軍団は沸きたった。

『リディア、フランツの部屋に行こう』

『リー、行こう』
『リー、行こう』

「え、今?」

『そうだよ、今すぐ!』

 みんなリュックの中に入り、もふさまが器用に首にかける。
 ……みんな来るつもりなのね。
 2階にあがり兄さまの部屋のドアをノックする。

「はい?」

 いた。いないといいと思ったのに。

「兄さま、ちょっといい?」

 ドアが開く。

「どうした? リディーが私の部屋に来るなんて珍しいね。どうぞ」

 招き入れられる。

 ベッドに並んで座る。

『リディア』

 レオの急かす声。
 もうなんて言えばいいのよ。

「あのね、お願い? お願いじゃなくて、ええと、宣言というか……」

 ふたりの時は兄さまを名前で呼んでいい? そう聞くだけなのに、こっぱずかしい!!!!!!!

「ん、どうしたの?」

「ふっ」

「ふ?」

「そ、その、ふたりの時」

「ふたりの時?」

「兄さま、じゃなくて……名前で呼んでいい?」

 な、なんで名前で呼んでいいか聞くだけでこんな心臓が煩くなるの!
 拷問だ。ダメならダメってすぐ言ってよ。この間が非常に辛い。
 恐る恐る隣に座る兄さまを見上げる。
 頬を染めた、とろけたような笑みの兄さま。

「呼んでみて」

 うっ。

「ふっ、フランツ」

 なんとか名前を呼ぶと、兄さまの表情が固まる。顔が一瞬にして赤くなった。

「これは危険だな」

「き、けん?」

「ああ、大丈夫、なるべく抑えるから」

「抑える?」

「いや、こっちのこと。リディーに名を呼んでもらえて嬉しいよ」

「本当?」

 兄さまは頷く。

「ミニーから何か聞いたの?」

 まぁ、急に言い出して、それはミニーたちと会ってからだから、すぐに予想はつくよね。

「その、婚約者なのにまだ〝兄さま〟って呼んでいるのかって言われて……、わたしもそうだなって思ったの」

 わたしは兄さまの腕を掴んだ。

「でも。もし、兄さまに好きな人がいるなら。できた時は、わたし、兄さまを応援するつもりだから!」

「それはリディーに好きな人がいるから?」

 え?
 とても冷たい瞳の兄さまがいた。わたしの知らない人みたいだ。

「ああ、ごめん。怖がらせたみたいだね。リディーの気持ちはわかったから」

 わたしはこの時、すぐに言葉が出なくて、兄さまの言葉の意味を確かめなかった。そして兄さまの奥底にある誤解を解くことも思い当たらなかった。
 後日、それを深く後悔することになる。
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