プラス的 異世界の過ごし方

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8章 そうしてわたしは恋を知る

第323話 兄さまとダンス

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 わたしたちの演奏を聞いていたら、久しぶりにピアノが弾きたくなったとクジャク家のひいおばあさまがおっしゃった。ワルツの軽快なかわいらしい音が響くと兄さまが立ち上がって、わたしに手を差し出して……ダンスのお誘いだ。
 わたし、下手なのに!

「兄さま、わたし下手だから」

 小さい声で告げたのに、兄さまはにっこりと微笑んだ。

「授業でAマルもらったって聞いたけど。パートナーのリードがうまかったのかな?」

 え?

「リディーは私のリードは下手だと思う?」

 仕方なく立ち上がると、隣ではアラ兄がセローリア令嬢を誘い、ロビ兄はヤーガン嬢を誘っている。

 部屋が広いって凄いね。ピアノの周りに3組は踊れてしまうスペースがあるのだから。ふと見ればテーブルの上はたちまち片付いていた。

 気を取られているとグイッと引き寄せられて、兄さまがとても近かった。

「私に任せて」

 兄さまもダンスがとても上手かった。軽やかに舞えていると思ったのは気のせいで、タンとステップを踏む以外は兄さまに持ち上げられていた。でも、こんなに長く宙に浮いて飛ぶようにステップを踏めていたら楽しいだろうなと思うと、自然と笑みが溢れる。
 曲が終わり、挨拶をする。みんなが拍手をしてくれた。

「兄さま、疲れたでしょう?」

 小声でいうと小声で返ってくる。

「レディーと踊れるのは喜びなのに、どうして疲れることなんてありましょう?」

 曲はムーディなものになり、大人たちが今度は踊るみたいだ。わたしたちは椅子に座ってその様子を見守る。

「リディーのダンスのパートナーはなんていう子?」

 兄さまが小さな声で尋ねてきた。 

「いつもはニコラスだけど、実技試験の時は、ゴーシュ・エンターさまとだよ」

「ゴーシュ・エンター……留年した子だね?」

 わたしは頷いた。

「リディーを抱きしめたって聞いたけど」

 な、なんで授業中のことを兄さまが知ってるの? 焦りながらわたしは訂正した。

「違う、あれは隠してくれたの」

「隠す?」

 わたしは頷く。

「ルチア嬢のことを思い出して、泣きそうになって。それを隠してくれたの」

「……なぜ、ルチア嬢のことを思い出したの?」

「ダンスしているときに、笑ってって。楽しいこと思い出して笑ってって言われて。ルチア嬢とアイリス嬢と大笑いした時のこと思い出して笑ったの。……だけど、すぐに今近くにはいないことを思い出して、哀しくなって」

「そうだったんだね……」

 兄さまはそのまま口を閉ざした。

 大人たちのダンスは、もちろんダンスもうまいけど、息がぴったり合っているところが素敵だった。


 それからお茶を飲み、ふたりにお礼の品を渡した。わたしが作ったベアのぬいぐるみだ。
 いつも表情を変えないヤーガン嬢が、ほんの少し顔を綻ばせたようで嬉しかった。
 喜んでもらえたみたいだ。
 お菓子も女の子ウケするのをいっぱい持ってきたんだ。
 クジャク公爵さま、親戚の方たちのおかげで、お礼をすることができた!



 ふた家族を見送り、じゃあ、わたしたちもお暇かなと思っていると、侍従さんたちがそれぞれに大きなバッグを持ってきた。
 なんだ?と思っていると、これからみんなで領地の家に転移するそうだ。
 町の大型施設宿に泊まる予約もしているらしい。
 みんな母さまと下の双子に会いたかったみたい。そういうわけか。
 ということで、試験休みは思いがけず領地に帰れることになった!



 少し慣れない転移だが、目を開けると家の前だった。
 バタンとドアが開く。
 飛び出してきたのは、エリンとノエルだ。

「姉さま!」

 ドンと抱きつかれ、尻餅をつく。あいたた。と思ったけど、わたしがお尻にひいているのはもふさまだった。

 うへ?
 双子はわたしに顔をつけて大泣きしていた。

「ちょっと、どうしたの? なんで泣いているの?」

「どうしてじゃないわ。姉さまが拐われたと聞いて、どれだけ怖かったか」

 あ、そっか。心配かけたよね。

「ごめん。わたしは大丈夫よ。泣きやんで」

 ふたりの涙を拭う。

「わたしを助けるのに、尽力してくださった、親戚の方々よ。ご挨拶をして」

 もふさまにお礼を言いながら立ち上がる。

 ふたりは自分たちでもしっかり涙を拭いてから、皆さまに向き直った。
 しっかりと礼を尽くす。

「シュタイン伯、第4子、エトワール・シュタインです」

「第5子、ノエル・シュタインです」

 ふたりは言葉を合わせた。

「姉さまを助けてくださって、ありがとうございました」

 まぁと皆様が感激している。かわいい子たちにお礼を言われるとめろーんってなっちゃうよね。
 中から母さまが出てきた。母さまはわたしを抱きしめた。誘拐後、初の再会の瞬間だからね。小声で白いドレスがとても似合っていると言ってくれた。
 次々と子供たちに触れてから、親戚の方々に視線を合わせ、ご無沙汰していますと頭を下げ、なかなか顔をあげられなかった。父さまがその背中を支える。
 顔を上げたとき涙でいっぱいだった。

 グリフィスのおばあさまが母さまに手を伸ばし、ゆっくりと抱きしめた。
 おじいさまもそんな二人を包み込む。
 母さま、よかったね。


 家ではお茶だけ飲んで、みんなで町の大型施設宿に泊まることとなった。
 カトレアと再会して、抱きしめられた。やはり誘拐の噂を聞いて、すごく心配してくれてたみたいだ。ミニーも心配してたから、早く会ってあげてと言われた。
 大浴場も、生のお魚盛りも、みんな躊躇しなくて、十分楽しんでくれたようだ。わたしたちは1日目だけご一緒した。皆さまは街を勝手に見て回るからという。
 皆さまはキートン夫人と親しかったみたいで、小さい村に行ったり、施設でゆったりして過ごしたようだ。母さまだけ、グリフィス侯爵さま夫妻とライラック公爵夫妻さまたちと過ごした。長く離れていた時を取り戻すかのように。

 わたしは、カトレアの休憩時間に、彼女を連れてミニーに会いに行こうとした。お遣いモードのもふさまに乗って。
 カトレアはお遣いさまの話をすると驚いたようだけど、そのお遣いさまを、ただミニーのところへ行くのに馬車代わりに使っていいものなの?と聞かれた。
 た、確かに……まずいのかな?
 だけど、スクーターを町中で使ったら父さまに怒られちゃうもん。もふさまも乗っていいっていうし。いいんじゃないかなと思う。
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