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7章 闘います、勝ち取るまでは
第305話 聖女候補誘拐事件⑤不合理な加害者
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ユーハン嬢はわたしと同じく、ここに本当にその数人の大人しかいないのか訝しんだのだろう。
だから月の日発言で、相手の出方を待った。
そう、それを言うだけでことは済むのに、最初にわたしたちが女であると念を押す意味でわたしの胸当て話を持ち出したのだ。まぁ確かに冷静な会話より慌てさせる方が情報をこぼしやすい。だからってわたしの微かな膨らみを引き合いに出さなくても……。
わたしたちの誘拐はあのふたりが実行犯であり、この地での責任者なんだろう。ババさまと数人の世話係はいるみたいだけど、丸任せではないみたい。うちらの世話係の大人に決定権があるのなら、ババさまに話してくれですむ。
でもそうはしなかった。彼らに決定権があるということだ。
ユーハン嬢のいう通り、彼らはわたしたちが長くここにいることを思い描けてない気がする。そしてそれは一人は純粋に想定が甘いからで、反応したもう一人はここにいるのは短時間だと思っているから、な気がした。
具合の悪い王子、それが黒幕かな?
説明はしたが、アイリス嬢は意味がよくわからないという。もう一度話そうとしたが、考えることはあなたたちに任せると放棄した。
「ねー、どうしたらここから出て帰れるのかしら? 周りが荒地って本当なのかな?」
アイリス嬢の顔が歪む。
「探りましょう。とりあえず危害は加えられないみたいだけど、私は学園に帰りたいわ」
「あたしだって!」
「わたしも」
3人で頷き合う。とにかく今は情報が欲しい。
3人で隠れ里的なこの石の砦を見てまわることにした。小さな子供たちは船にいた子たちと足して全員で15人ぐらいかな。痩せ細っていて粗末な服を着ているけれど、みんな元気だ。
「ウミ姫さまー、何してるの?」
子供たちは学んだようで、もっぱら話しかけるのをアイリス嬢に定めている。
「散歩よ。ここがどういう風なのか見ておこうと思って」
「じゃあ、案内してあげる」
《ティー、フントさまに姫さまたちとあまり話すなって言われているだろ》
《そうだけど、ちょっとだよ。初めて来たんだよ。ここのこと教えてあげなきゃ》
そう言われた男の子は膨れっつらになる。
みんな浅黒い肌に、色素の薄い白髪のような髪の色だ。神聖国の特徴なのかもしれない。わたしたちに話す以外はフォルガード語で話している。
「ティーはここにずっと住んでるの?」
「ううん、前にシューゲキされて、ここに移ってきたの。あ、ここが砦の真ん中あたりだよ。あっちが、姫さまたちの塔のところ、その横がフントさまたちの家。そっちは行っては行けないよ。病気の人がいるから。向こうは畑がある。その横でみんなの寝る部屋があるんだ」
意図していたのならすごいけど、アイリス嬢とティーの会話でいくつかのことがわかった。
ここには本当に子供と数人の大人(老婆)しかいないこと。
この砦のリーダーは誘拐犯1と2。
病気の人がいる。(船で王子と言われていた人?)
野菜は育てているものがある。
数年前にここに移り住んできた。襲撃により大人がほとんど亡くなった。
証のありかは誘拐犯たちしか知らない。
食べ物などは誘拐犯たちが週に一度買いに行っている。
周りは死の砂漠と呼ばれている。
わたしたちのことは神聖国を蘇えらせる姫巫女と認識しているようだ。
例えば聖女にどちらかがなって証に力を注いだとしよう。それで国が蘇るって意味わからん。証が蘇った時、国として認めるって下地があるんならわかるけど。国ってさ対外的に認められて初めて国となるわけじゃない? 自分たちで国と言うだけならいくらでも国ができてしまうもの。対外的な要因でなり得るものなのに、証が蘇ることで叶うって変じゃない?
それに襲撃されてここに移り住んで、ここが神聖国っていうのもおかしくない?
「出入口はあそこ?」
と尋ねれば、わたしが話しかけたから驚いている。
「そうだけど、出たら危ないよ」
ティーは眉を八の字にしてそう言った。本当に外は危険と思っているようだった。
畑にはいくつかの野菜が育っていた。岩の多い場所だ、手狭でも開拓するのは大変だったろう。岩間から雑草が生えていた。花を咲かせている。白いかわいらしい小花だけどたくましいなと思って見ていると
「カタリの花ですわね」
ユーハン嬢が教えてくれた。これがカタリの花か。畑の隅にもカタリの花が群生していた。よくよく見るとその周りにあるの、緑草じゃない? 慌てて後ずさる。あ、魔力を遮断されてるんだっけ。今なら素手でも触りたい放題だね。別に触らないけどさ。
隠れ里を一周して、部屋に戻った。
アイリス嬢は考えることが苦手なので、することを指示してくれと言った。考えが足らずに何を言ってしまうかわからないから理由も言わなくていいと。思ったより潔い娘で驚いた。それはわたしたちを信頼しているということになるのかな?
ユーハン嬢はこの誘拐と、ふたりが主犯というのがチグハグに感じていたようだ。わたしも同意見だ。
自炊するから具材を用意してと言ってみたところ、ある程度のものを用意してくれた。服とかもそうだ。絶対にどっかからお金が出ている。姿を現さないバック。その人たちの方がよほど恐ろしい。ふたりの目的は神聖国とやらを蘇らせることなのかもしれない。けれどバックも同じ考えとは限らない。姿を現さないことに不気味さを感じる。蜥蜴のしっぽ切りという言葉が頭に浮かぶ。
もしそうなら、本来の誘拐目的は聖女となればそれでいいなんて、そんな甘いものではないだろう。
世話役のババさまはおっとりとした老婆で、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。時々記憶が混乱するようだ。それでわたしたちを姫さまと呼び、それをおかしいと思っていないのかもしれない。
ちなみに胸当てもすぐに支給されたが、薄い布を何枚か重ねて形にしたもので、はっきり言ってあんまり意味なく感じる。暑い国ではこれが普通なのかな? わたしは使い慣れているからか、ユオブリアの一般的なものが恋しい。
食事の用意はわたしとユーハン嬢が担当した。アイリス嬢は打算を考えないからか、有益な情報を自分では知らずに掴んでくる。それに味をしめ、簡単なお菓子を作っては持たせて、子供たちにばら撒き話をいっぱいしてもらうようにしている。
わたしは2日に一度眠っている時に魔力遮断の魔具を外してもらうようにした。魔力が使えればどうにでもなるのに。それが悔しくて仕方なかった。パニックにならずにすんでいるのは、この腕に嵌められた魔具を外せればなんとかなると思えているからかもしれなかった。
だから月の日発言で、相手の出方を待った。
そう、それを言うだけでことは済むのに、最初にわたしたちが女であると念を押す意味でわたしの胸当て話を持ち出したのだ。まぁ確かに冷静な会話より慌てさせる方が情報をこぼしやすい。だからってわたしの微かな膨らみを引き合いに出さなくても……。
わたしたちの誘拐はあのふたりが実行犯であり、この地での責任者なんだろう。ババさまと数人の世話係はいるみたいだけど、丸任せではないみたい。うちらの世話係の大人に決定権があるのなら、ババさまに話してくれですむ。
でもそうはしなかった。彼らに決定権があるということだ。
ユーハン嬢のいう通り、彼らはわたしたちが長くここにいることを思い描けてない気がする。そしてそれは一人は純粋に想定が甘いからで、反応したもう一人はここにいるのは短時間だと思っているから、な気がした。
具合の悪い王子、それが黒幕かな?
説明はしたが、アイリス嬢は意味がよくわからないという。もう一度話そうとしたが、考えることはあなたたちに任せると放棄した。
「ねー、どうしたらここから出て帰れるのかしら? 周りが荒地って本当なのかな?」
アイリス嬢の顔が歪む。
「探りましょう。とりあえず危害は加えられないみたいだけど、私は学園に帰りたいわ」
「あたしだって!」
「わたしも」
3人で頷き合う。とにかく今は情報が欲しい。
3人で隠れ里的なこの石の砦を見てまわることにした。小さな子供たちは船にいた子たちと足して全員で15人ぐらいかな。痩せ細っていて粗末な服を着ているけれど、みんな元気だ。
「ウミ姫さまー、何してるの?」
子供たちは学んだようで、もっぱら話しかけるのをアイリス嬢に定めている。
「散歩よ。ここがどういう風なのか見ておこうと思って」
「じゃあ、案内してあげる」
《ティー、フントさまに姫さまたちとあまり話すなって言われているだろ》
《そうだけど、ちょっとだよ。初めて来たんだよ。ここのこと教えてあげなきゃ》
そう言われた男の子は膨れっつらになる。
みんな浅黒い肌に、色素の薄い白髪のような髪の色だ。神聖国の特徴なのかもしれない。わたしたちに話す以外はフォルガード語で話している。
「ティーはここにずっと住んでるの?」
「ううん、前にシューゲキされて、ここに移ってきたの。あ、ここが砦の真ん中あたりだよ。あっちが、姫さまたちの塔のところ、その横がフントさまたちの家。そっちは行っては行けないよ。病気の人がいるから。向こうは畑がある。その横でみんなの寝る部屋があるんだ」
意図していたのならすごいけど、アイリス嬢とティーの会話でいくつかのことがわかった。
ここには本当に子供と数人の大人(老婆)しかいないこと。
この砦のリーダーは誘拐犯1と2。
病気の人がいる。(船で王子と言われていた人?)
野菜は育てているものがある。
数年前にここに移り住んできた。襲撃により大人がほとんど亡くなった。
証のありかは誘拐犯たちしか知らない。
食べ物などは誘拐犯たちが週に一度買いに行っている。
周りは死の砂漠と呼ばれている。
わたしたちのことは神聖国を蘇えらせる姫巫女と認識しているようだ。
例えば聖女にどちらかがなって証に力を注いだとしよう。それで国が蘇るって意味わからん。証が蘇った時、国として認めるって下地があるんならわかるけど。国ってさ対外的に認められて初めて国となるわけじゃない? 自分たちで国と言うだけならいくらでも国ができてしまうもの。対外的な要因でなり得るものなのに、証が蘇ることで叶うって変じゃない?
それに襲撃されてここに移り住んで、ここが神聖国っていうのもおかしくない?
「出入口はあそこ?」
と尋ねれば、わたしが話しかけたから驚いている。
「そうだけど、出たら危ないよ」
ティーは眉を八の字にしてそう言った。本当に外は危険と思っているようだった。
畑にはいくつかの野菜が育っていた。岩の多い場所だ、手狭でも開拓するのは大変だったろう。岩間から雑草が生えていた。花を咲かせている。白いかわいらしい小花だけどたくましいなと思って見ていると
「カタリの花ですわね」
ユーハン嬢が教えてくれた。これがカタリの花か。畑の隅にもカタリの花が群生していた。よくよく見るとその周りにあるの、緑草じゃない? 慌てて後ずさる。あ、魔力を遮断されてるんだっけ。今なら素手でも触りたい放題だね。別に触らないけどさ。
隠れ里を一周して、部屋に戻った。
アイリス嬢は考えることが苦手なので、することを指示してくれと言った。考えが足らずに何を言ってしまうかわからないから理由も言わなくていいと。思ったより潔い娘で驚いた。それはわたしたちを信頼しているということになるのかな?
ユーハン嬢はこの誘拐と、ふたりが主犯というのがチグハグに感じていたようだ。わたしも同意見だ。
自炊するから具材を用意してと言ってみたところ、ある程度のものを用意してくれた。服とかもそうだ。絶対にどっかからお金が出ている。姿を現さないバック。その人たちの方がよほど恐ろしい。ふたりの目的は神聖国とやらを蘇らせることなのかもしれない。けれどバックも同じ考えとは限らない。姿を現さないことに不気味さを感じる。蜥蜴のしっぽ切りという言葉が頭に浮かぶ。
もしそうなら、本来の誘拐目的は聖女となればそれでいいなんて、そんな甘いものではないだろう。
世話役のババさまはおっとりとした老婆で、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。時々記憶が混乱するようだ。それでわたしたちを姫さまと呼び、それをおかしいと思っていないのかもしれない。
ちなみに胸当てもすぐに支給されたが、薄い布を何枚か重ねて形にしたもので、はっきり言ってあんまり意味なく感じる。暑い国ではこれが普通なのかな? わたしは使い慣れているからか、ユオブリアの一般的なものが恋しい。
食事の用意はわたしとユーハン嬢が担当した。アイリス嬢は打算を考えないからか、有益な情報を自分では知らずに掴んでくる。それに味をしめ、簡単なお菓子を作っては持たせて、子供たちにばら撒き話をいっぱいしてもらうようにしている。
わたしは2日に一度眠っている時に魔力遮断の魔具を外してもらうようにした。魔力が使えればどうにでもなるのに。それが悔しくて仕方なかった。パニックにならずにすんでいるのは、この腕に嵌められた魔具を外せればなんとかなると思えているからかもしれなかった。
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