プラス的 異世界の過ごし方

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7章 闘います、勝ち取るまでは

第301話 聖女候補誘拐事件①海の上

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 たぷんたぷんと音がする。
 海の上では日差しを遮るものはない。風通りのいいノースリーブの白いワンピースを着せられているけれど、それでも暑さを感じた。
 船に乗る痩せ細った人たちは、みんな粗末な服を着ている。
 わたしたちに魔力遮断の魔具をつけ、わたしたちに清潔な服と食事を用意する、それで精一杯なのだろう。いくらつっけんどんに接しても、〝姫さま〟と尊さを込めて関わってこようとする。何度目かわからないため息がでた。




 気がついた時、簡易ベッドの上だった。地面が揺れているような気がして気持ちが悪く感じる。上半身を起こすと身につけているのは制服ではなくノースリーブの白いワンピースだった。シルバーに見える腕輪は魔力遮断の魔具だと予想がついた。喉が乾いたのに一滴の水さえ出せなかったから。

 ドアがノックされ、浅黒い肌の老婆が入って来たときは、上掛けを握り締めた。老婆はゆっくりと頭を下げて人好きのする笑顔を浮かべた。

「末の姫さまもやっと目を覚まされましたね。お腹が空かれたでしょう、今、食事をお持ち致しますね」

「ここはどこ? わたしに何をしたの?」

 わたしは鋭く聞いた。けれど声がひどく掠れていた。喉が痛い。というより乾ききっている。

「あんれ、まぁ、記憶がごっちゃになられているんですね。姫さまは国にお戻りになるんですよ、お姉さまたちと一緒に」

 そう言ってにこりと笑いまた部屋を出て行った。意味不明!
 もう一度自分の身の回りを確かめる。
 追跡魔具もネックレスもない。
 魔力が遮断されていたら、もふさまがわたしの魔力を辿れない……。

 っていうか、ここはどこよ? やっぱり揺れてる?
 立ち上がるのに時間がかかった。でもそんなことを気にしている場合ではない。
 裸足のままドアを出て狭い廊下を歩く。信じられないことにうまく歩けず、壁にガンガンぶつかっていた。またドアを開けると、船の甲板のようだった。

 船? 船って何よ?
 揺れていて歩くのも難しかったが、もっと情報を知りたくて、外に向かって歩き出す。

「ソラ姫さま、ここは風が強いです。部屋にお戻りください」

 わたしの手を掴んだのは、肌は浅黒くなっているけれど、顔はあの視察団の荷物持ちの男の子だ。
 わたしは手を払った。

「触らないで。わたしに何をしたの? ここはどこ?」

 船員たちが集まってくる。みんな心配そうな顔をしていた。

「ソラ姫さま、落ち着いて。全て話しますから」

「わたしはソラ姫なんて人じゃない!」

《フントさま、末姫さまはどうしたの?》

 小さな男の子が、フォルガード語で誘拐犯の手を引っ張り聞いた。

《ん、少し混乱なさっているんだ、大丈夫だよ》

 何を言ってるの? 頭がおかしくなりそうだ。

「末姫さま、こちらでしたか。お食事にしましょう。姫さまは2日も眠っていたのですから」

 老婆がわたしと誘拐犯の顔を見比べながら言う。
 2日? 2日も眠っていたの? 

「失礼しますよ」

「触らないで!」

 抱えられてしまい、暴れたけれど、どこ吹く風だ。
 部屋に戻るとベッドの上に置かれて、さっきの老婆が持って来た水を渡された。喉は乾いていたけれど、素直に飲む気にはならなかった。

「まずは体調を整えてください。元気になられたら、お姉さまたちとお会いできますから」

「姉はいない。わたしを誘拐して、何が目的なの?」

「ゆっくり教えて差し上げますのに、末姫さまはせっかちですね。水を飲んでください。それでなくても2日間、ほとんど何も召し上がっていないのと同じなのですから」

 それでも睨みつけていると、彼は言った。

「力をお貸しください。本来の姿を取り戻すために」

 力を貸す? 何を言ってるの?
 トントンとノック音がする。

「末姫さまが目覚めたって?」

 ひょこっと覗いた顔を、視察団の中で見た気がする。やはり成人前ぐらいの若い男の子だ。

「わたしの服と荷物は?」

「もう必要のないものだから売りました」

 必要のない? 

「危害を加える気はない。あんたたちはただ力を発揮してくれればいい。もし〝ハズレ〟でも命を取るようなことはしないさ」

 色白の男は軽い感じでそう言った。

「元の場所に返して」

 男ふたりは顔を合わせる。

「これから行くところが、これからのあんたの居場所だ。起きたばっかだろ、水を飲め。何も入ってない」

「これからあなたはソラ姫さま。3人姉妹の末の姫さまです。それ以外の思いは捨ててください。ここはもう海の上。魔法も使えなくしています。子供がひとりで大陸には帰れませんよ。僕たちに従わなければ死あるのみ」

 思い通りになってたまるか。
 わたしは見せバッグを呼び出した。収納ポケットは魔力が使えなくても使用できる。でもその力がバレると良くないので、バッグを呼び出した。これもわたしの魔力を使っているわけではない。バッグの機能のひとつで、所有権をわたしにしてあり、落としたり盗まれたりしても、わたしの元に戻ってくるようにしてあるからだ。
 魔力を封じているはずなのに、バッグを呼び寄せたから驚いたみたいだ。

「な、どこから」

「魔力を封じたのに」

 バッグを取られた。わたしはそれをまた、自分の手元に呼び戻す。

「……所有権のある収納箱だ」

 誘拐犯2、色白の方がほっとしたように言った。
 わたしは中から果物を取り出して、それを口にした。
 誘拐犯2が鼻で笑う。

「信用ないから、おれたちの出すものを口にしない気らしいな」

 わたしは答えずに、オレンジを食べた。
 誘拐犯ふたりはアイコンタクトをとり部屋から出て行った。

 オレンジを探った時、違和感を覚えた。わたしが出し入れした場合、実際のバッグの中ではなくどこかの空間に入る。だから袋の浅いところに何かあるのは変なのだ。紙切れが入っていた。

【絶対助けるから、それまで頑張ってくれ】

 急いで書いた兄さまの字だ。わたしはメモをバッグに入れて、バッグを抱きしめた。
 泣かない。泣くもんか。
 わたしがいなくなり、アクションを起こしてくれている。わたしが収納ポケットを使うのに偽装するため見せバックを呼び寄せるとふんで、メモを入れたんだ。
 バッグを引き寄せたから、向こうではバッグがなくなり、わたしが生きているとわかったはず。

 なんとかして逃げなきゃ。この魔力遮断の魔具を外せればなんとかなる。
 末の姫設定みたいだから、学園からあとふたり誘拐してきたのだろう。そのうち一人は誰だかわかっている。

 力を貸せとか、一体どういうことだろう?
 それを知る機会は船を降りるまでこなかった。
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