プラス的 異世界の過ごし方

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7章 闘います、勝ち取るまでは

第293話 花も恥じらう

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 ベアとレオの尻尾がピクッとしたかと思うと、すごい勢いでみんながリュックの中に入った。
 あ、探索をかけたマップに黄色い点が現れる。
 向こうから歩いてくる華奢なシルエット。
 長い髪は腰まで覆っていて、風にサラサラの銀髪が揺れる。近づくに連れて顔がよく見えるようになった。
 エリンとタイプは違うけれど、ものすごい美少女だ。儚げな美少女。なんか見ているだけで、助けてあげなきゃと思わせる何かがある。
 ロビ兄が黙って礼を尽くしたので、身分の上の方なんだなとわたしも礼を尽くした。

「ご機嫌よう」

 声をかけてもらったので、顔をあげる。
 うわー、近くで見るともっとかわいい。それになんかいい匂いがしそう。
 彼女は静かにわたしたちの横を通り過ぎて行った。

「どなた?」

「4年生のメロディー公爵令嬢。第一王子殿下の婚約者だ」

 今の人が!
 花も恥じらうって言葉があるけどさ、本来の意味も知っているけど、それはおいておいて。うん、あの娘を見たらどんなに美しい花も恥じらうんじゃないかって気がするよ。清く美しく儚げで。

『行ったな』
『見られてない』
『見られてない』
「おいらたち、気配よむの得意でち」
『そうですよ。だからリディアはもう少しわたくしたちを信頼するべきです』

 確かに探索より早く反応したもんね。さすがの本能?

「そうだね、これからは信頼して言わないね。だけど、気をつけてね。みんなとずっと一緒にいたいから」

 そう伝えると、わかったと言って胸に飛び込んできた。

「あのさ、リー」

「ん?」

「リーを貶めるような噂が立ってる」

「……知ってる」

「寮長となったり、5年生男子と言い合ったこと。それから寮母のこと、噂が回るのが早すぎる」

 兄さまも言ってた。
 ロビ兄が何か迷っているように手を組み指を弄んでいた。

「1日も経ってないのに、噂されてたもんね」

「寮母のことも……、事実を知っていたら寮母が生徒を引きずったとか、溜め水に落としたとかそう広がるのが普通だろう? でも実際流れてきたのはリーを悪者にするようなものばかりだった」

 苦笑いになってしまう。

「ロビ兄、嫌なこと言うなぁ。わかってるよ、いっぱいの人に嫌われてるってことだよね」

「違う!」

 ロビ兄に両肩を持たれる。

「いっぱいの人が嫌って噂になっているんじゃなくて、誰かが故意に悪意を持った噂を流してるんだ。そうじゃなきゃ、急速にリーを標的にした噂が広がるわけない」

「また、聖女系かな?」

「例の留学生が聞いたって言ってたアレが、同じ聖女の件なのかせめてわかればな。聖女の件は、先生がリーは聖女になれないって話せば落ち着くだろうけど」

 ロビ兄が押し黙る。

「……気をつける」

「お前たち、学園に来て念は感じないか?」

 ロビ兄がもふもふ軍団に尋ねる。

『感じるよ』

 え?

「誰だかわかるか?」

『それは難しいです。ぬいぐるみ防御をしている時は感覚が遮断されますから』

 ベアが申し訳なさそうに言った。

『遠くから見てる』
『近づいて来ない』
『先ほども、ほんのり感じましたねぇ』

「先ほど? いつだよ、いつ?」

『ですから……』

 みんながピクッとした。もふさまが校舎の方に視線をやる。

『アランだ』

 もふさまが言った。
 青い点が現れ、アラ兄は手をあげて合図をしてから走ってきた。

「アラ兄」

「ここにいたんだね。ロビンが帰って来ないから、さ」

 心配をかけたようだとわたしとロビ兄は目を合わせた。

「悪い。ここ、リーが喜びそうと思って寄り道したんだ」

「何もないなら良かったよ」

 アラ兄に甘えるアリとクイ。
 わたしたちは名残惜しくはあったけれど、日の暮れた通路を歩き出した。たわいもないことを話しながら。



 仮の寮母のおばあちゃんは、とても愛情深い人で、91人をすぐに覚え名前を呼んで挨拶してくれた。寮長として挨拶をして、寄付金の元手を集めるために人件費を削っていることを話した。1年生が寮長なことは聞いていただろうからリアクションはなかったけれど、寄付話をしたその時はものすごく驚いていた。
 おばあちゃんからは詳細はまだ決まっていないけれど、ドーン女子寮の家具など老朽化が激しいので、家具を変えたり、修理したりすることになると生活部から通達がきたと教えてもらった。
 そっか、それは良かった。

 ローマンおばあちゃんは食事でみんなが集まった時、挨拶と共に、前寮母が皆さんの信頼を裏切るようなことをしてごめんなさいと頭を下げた。おばあちゃんは何も悪くないのに。先輩がそう言ったが、ローマンおばあちゃんは首を横に振った。幼いみなさんが学ぶために家族と離れて暮らしている。寮は心と身体を休めさせるところであるべきなのに、怖い思いをさせました。仮ではあるけれど、こちらにいる間はみなさんが寛げるよう精一杯務めます、と。
 それとは別にわたしにも謝ってくれた。言いがかりのような理不尽に罰せられて怖かったわね。ごめんなさいねと言われた時は泣きそうになった。
 そうしてドーン女子寮は本来の姿を取り戻し、それを期に心安らげる場所へと変わっていった。



 こんな部屋あったんだ。
 次の日の夜、ヤーガン令嬢がドーン寮を訪ねてきた。
 前寮母が使っていたそうだが、ローマンおばあちゃんが片付けてくれた。客間のような部屋で、お客様はその部屋に通し、お茶も持ってきてくれた。
 取り巻きひとりを連れてのお越しだった。寮長のわたしが対峙する。
 表情は動いていない気がするが、寮のボロさに驚いているようである。悪気なく「酷いありさまですのね」ときれいな声で言った。

「今日、参りましたのは、ドーン女子寮の皆さまに謝罪するためです」

「謝罪、ですか?」

 わたしが聞き返すと、ヤーガン令嬢は頷いた。

「ミス・スコッティーをドーン女子寮の寮母に決めたのはわたくしです。書類上では問題のないように見えていたのと、彼女はずっと前にヤーガン家の下働きをしたことがあるのです。うちで働いた者なら身元は確か、そう思い起用いたしました。寮生に手をあげるような問題のある者と見抜けず起用し、ご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした」

 謝った……。
 取り巻きが慌てている。

「マリーさま! 頭をあげてくださいませ」

「謝罪を受け取りました」

 わたしが告げると、ヤーガン嬢は顔をあげた。

「総寮長として、二度とこんなことが起こらないよう努めます」

 この方は、謝ることができる人なんだ。役目にしっかり向き合っている人なんだ。ヤーガン嬢への見方が変わる。もっと取り付くしまのないぐらい頑なな人かと思っていた。

「大変な目に遭われたとか。寮生が皆怯えていたと聞きました」

 同情の声音だ。なんだ、そっか。たとえ嫌いな平民の寮にでもそういう感情が持てる人なんだ……。いや、酷いけど、ヤーガン令嬢は平民には目に映らなければなんでもいいぐらいに、自分の視界から切り離して考えているのかと思っていた。
 でも、だとしたら……。

「怖い思いをしましたが、もう大丈夫です」

「そうですか……。何かできることがあったら、おっしゃってください」

 なんと!

「ヤーガンさま……」

「なんでしょう?」

「ドーン女子寮の寮長として、アベックスの寮長にお願いにあがりたいことがあるのです。後日、時間をとっていただけませんか?」

「それはすぐに言えないことですの?」

「いえ、そうではありませんが。今頼むのは〝何かできること〟に便乗しているようで、さすがに卑怯かと思いまして……」

「策士には向かなそうですね。叶えられるかどうかはわかりませんが、話を聞きましょう」

 そう?
 わたしはヤーガン嬢をまっすぐ見据えた。

「アベックス女子寮に、ドーン女子寮との再戦を申し入れます」
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