プラス的 異世界の過ごし方

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7章 闘います、勝ち取るまでは

第290話 寮母の言い分

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 時の人ばりに、悪い噂が駆け巡る。
 もう、こうなると笑うしかない。
 一時は落ち込みかけたが、クラスのみんなはわたしを心配してくれるし、もふもふ軍団もわたしの味方だ。
 それに、わたしは学園生活を楽しむと決めたのだからとお腹に力を入れた。
 折しもこの日は週末前で、家に帰れば父さまたちとも会えると思うと、わたしは浮上できた。

 授業が終わると、アラ兄の迎えで馬車に乗り込む。
 待ち構えるようにしていたロビ兄に寮で何があったんだと尋ねられた。兄さまも乗り込んできたところで、わたしはあったことを話した。なるべく感情は入れずに出来事を。
 馬車の中の空気が一気に悪くなったが、少しすると家についたので、変な汗が出てくる前に解放された。

 父さまと母さまに出迎えられて驚く。少し早いがヘリとデルは帰したようだ。

「学園から伝達魔法が届いた」

 父さまの言葉で納得する。ああ、学園から保護者に連絡がいったのか。それでまだ夜じゃないのに、こうして様子を見に来てくれたんだ。父さまと母さまともギュッとすると、気分は格段によくなった。着替えてから居間でみんなとお茶をしながら話した。

 尋ねられるままに、馬車で話したことと重複するけど、寮での出来事を話した。わたしの話はどうしても暗くなるので、何かいいことはなかったかと水を向けると、アラ兄は魔具クラブで作った魔具が評価されて、今度外国の人が学園を見にきた時に発表することになったと教えてくれた。
 アラ兄、凄い! 認められたんだね。
 父さまと母さまも喜んでいる。
 さすが双子というか、ロビ兄はクラブ発表の騎乗剣舞が評価されて、これまた披露することになったという。凄いね! 騎乗パレードをして歓待するらしく、音楽部と各クラスの有志で音楽を奏で、それに合わせてロビ兄たちが騎乗剣舞するらしい。おお、素敵!
 その様子は例の魔具で撮っておいて、エリンたちにも見せてあげようと盛り上がった。

 その魔具から連想したのか、ミス・スコッティーが部屋に入っていたことを思い出して少しげんなりする。みんなも連想したようだ。伝達魔法で、わたしの部屋に無断侵入した様子を見せて欲しいと学園から要請があったそうだ。録画テープのような役割をする魔石は入れ替えてきた。家にある魔具に魔石を入れて、みんなに見せた。

 堂々と入ってきたミス・スコッティーはまずわたしのベッドに腰かけた。そして布団の柔らかさを楽しみ、上掛けにもくるまってみている。
 気が済んだのか、今度は古びた机に移動して、人の本を勝手に開いたりしている。
 クローゼットの部屋着をひとつひとつチェックして嘲笑い、チェストの引き出しの下着まで見た。
 再び机に戻り、椅子に座った。大人には低いからだろう、居心地悪そうにしながらノートやら何やらを見ている。引き出しを開けて、念入りにチェックだ。入学祝いにいただいたネーム入りの筆記用具を舐めるように見ていた。
 しばらくゴソゴソやっていて、自分のいた痕跡を軽く直しながら見回り、そして部屋を出ていく。

 見終わると父さまたちは深い息をついた。

「お嬢さま、寮に戻られたら、机の引き出しを全て見てください」

「どういうことだ?」

 父さまが鋭く言った。

「少し長い時がありました。背中を向けていたのでよくわかりませんが、何かを仕込んだ可能性があります」

 えーーー。一気にブルーになる。

「あ、リディーは何かしたいことはない? 買い物でも、どこかに行くでも」

 兄さまが盛り立てるように言う。

「そうだな、いいぞ、リーのしたいことをしよう」

 ロビ兄が元気に言った。

『お出かけしよう、お出かけ!』

 今まで口をつぐんでいたもふもふ軍団が活気づく。

「いいぞ、好きなものを買いなさい」

 父さまがアルノルトに指示をして、兄さまが何かを受け取った。

「また夜に話しましょう」

 と母さまが言って、わたしたちは送り出された。

「リー、どこに行きたい?」

「市場!」

 3人は顔を見合わせたが、快く頷いてくれた。
 家のある第5地区からは市場も歩いていける。仮にも王都なので物価は高いけれど、品揃えは豊富で楽しい。珍しいものもいっぱいあるのだ。
 3軒目をひやかす頃には、すっかり昨日のことなど忘れて楽しい気持ちになっていた。

 買いまくりました! 春野菜が豊富だったので買い込んだ。肉屋ではもふさまが目が離せなくなったお肉の塊を買った。今日の晩ご飯にする約束をする。おやつを充実させるために果物もいっぱい買った。アオの大好物の珍しい木の実が売っていたので、それも。
 最後にいつものおばあさんのお店に行く。
 王都の端っこで野菜や果物を育てているおばあさんだ。品物がいいのと、常連さんには特別にジャムを売ってくれたりする。市場に来たときは絶対に寄ることにしている。
 おばあさんの露店には、背の高い淡い金髪のスマートな人がいて、おばあさんは困っているように見えた。

「嬢ちゃん! 坊ちゃんたちも」

「こんにちは」

 挨拶をすると、前客のスマートな人もわたしたちを見た。薄い青い瞳だ。

《何かお困りですか?》

 と兄さまがフォルガード語で話しかけた。スマートな人は目を大きくした。

《これと同じものがたくさん欲しいのです。いくつ買うことができますかと尋ねたいのですが、こちらの言葉が不自由でして》

 兄さまがおばあさんに、尋ねる。おばあさんはうちには5個しかないけれど、通りの向こうの店ならもっと売っているだろうと教えてくれた。それをまた兄さまが通訳する。
 外国人さんはおばあさんのお店で5つ買い、あとは向こうのお店にも行ってみると、通訳をした兄さまに感謝の言葉を述べた。

 兄さま、かっこいい。
 親切に、誰にでも手を差し伸べられるところも。

 新鮮野菜と果物を買い込む。ジャムを買うと、さっきの通訳のお礼と、ジャムを練り込んだ練り菓子をくれた。この食感面白い! あと、この生地ドーナツみたいに揚げてもおいしいかも。
 わたしたちはおばあさんにお菓子の感想とお礼を言って、別れを告げた。


「さっきの人は、外国人って見た目では全くわからなかったね」

 アラ兄が言って、わたしも頷いた。顔立ちではわからなかったもんね。
 そういえば、留学生のユーハン令嬢も、言葉が流暢だったので全くわからなかったといえば、兄さまたちも頷いていた。

 路地裏で荷物を収納し、家に帰り着くと、そこに見知ったシルエットがあった。わたしが息を呑むと、兄さまたちが警戒を強めた。もふさまがわたしの前に出る。
 家の前にいた人はわたしに一直線に向かってくる。

 もふさまが吠えて、アラ兄に抱え込まれ、兄さまとロビ兄が片手を突き出し、これ以上近寄るなと警告を示す。
 けれど彼女は物ともせずわたしに近寄ろうとしたので、兄さまたちに止められた。

「離しなさい。私はシュタインさんに話があるのです」

「妹が怯えています。近づかないでください」

 アラ兄が声を張り上げた。

「シュタインさん、あなた自分が悪いのに、どうして私を苦しめるの?」

 ほえ?
 目を見開いちゃったよ。

「自分が悪かったと学園に告げるのです。今だったら、私もあなたを許しましょう。きちんと自分のしたことを悔い改めなさい」

 この人……本気でそう思ってる? マジだ。この人の中で悪いのはわたしなんだ。わたし、悪いことした? 彼女を信頼できないと思えて好きになれなかったから良くない態度もあったかもしれない。でも、悔い改めるようなそんなことは……。

「……もしわたしが悪かったとするなら、言いがかりをつけられて最初に面倒だからと罰を受けたことでしょう。いくら考えても、わたしは罰をうけるようなことはしていません」

 言い切るとスコッティーの目がつり上がった。

 玄関前でうるさくしたからだろう、アルノルトが出てきて、慌ててわたしを抱き上げ、家の中に入れた。わたしに出てこないようにいい含め、兄さまたちが押し留めているのを手伝いに外に出た。
 もふさまが何度か外に出て状況を教えてくれた。アラ兄が警備隊に助けを求めに行って、彼女は連れて行かれた。アルノルトが事情を話したそうだ。
 みんなに怪我がなくてほっとしたけど、家までくるなんて。


 休息日はご飯を作りまくり、ちょっとだけダンジョンにも行き、夜は父さまと母さまに甘えて、元気を補充した。

 寮母のことは、父さまからも訴えを入れた。証拠の無断侵入の記録と一緒に。
 次の日にはミス・スコッティーを寮母に推薦した伯爵家から、謝罪とともに彼女を一切わたしには近づけないようにするという一文も添えられた手紙が届いた。

 後日わかったことも含めるが、ここにミス・スコッティーに関することを挙げておくと。
 学園側はスコッティーに事情を聞きに行ったそうだ。
 わたしの部屋に入ったのは貴族令嬢の持ち物はどんなものかと興味があり、つい出来心で部屋に入った。それが証拠に何も持ち出したりしていないというのが彼女の言い分だった。そんなことをしていたのに、彼女の中では素行の悪いわたしを矯正しなくてはと思っていて、取り調べられているのに、わたしがどんなに生意気かを語っていたという。

 で、スコッティーがドーン寮の様子などを伝えていたのは、懇意にしていた伯爵令嬢のようだ。なぜかそうすることで自分は〝お嬢さま〟にとってかけがえのない存在で〝お嬢さま〟のためになることをしていると思っていたようだった。盛んに〝お嬢さま〟を連発していたそうで、学園側はスコッティーのいうお嬢さまとは懇意にしている伯爵令嬢だと思ったそうだ。それで、その令嬢にも話を聞いた。令嬢曰く、スコッティーはよくドーン寮のことを話していたと。生粋の令嬢からするとドーン寮の暮らしぶりは不思議で面白かったらしく、スコッティーの話を聞いていた。話の最後にはいつもヤーガン令嬢の様子を聞かれたそうだ。
 スコッティーのさしていたお嬢さまとは、学園側が考える伯爵令嬢ではなく、ヤーガン令嬢だと思うのだけど、実際スコッティーがヤーガン令嬢と会ったのは、寮母として推薦されその挨拶をしたときだけらしい。

 ヤーガン令嬢とスコッティーはつながってない? ただのスコッティーの独り相撲?

 数日後、学園が彼女の家を訪ねたところ、スコッティー一家は夜逃げするように王都から姿を消していたそうだ。懇意にしていた伯爵家から背を向けられ、にっちもさっちも暮らしていけなくなったと近所の人の話を聞き結論づけた。
 生活部がいなくなったスコッティーの書類仕事を引き継ぎ、ひとつずつ見直すと
彼女のしていたいくつかの不正が発覚した。そこで初めてスコッティーを知る人々は〝逃げた〟のだと思い当たった。
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