プラス的 異世界の過ごし方

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7章 闘います、勝ち取るまでは

第288話 ミス・スコッティーの逆襲(前編)

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「寮長、お話があります」

 玄関から入ると、仁王立ちしていたミス・スコッティーが言った。恐っと思う。目が据わっているというか、迫力ありすぎ。
 先に帰った子たちだろう。玄関でまず普通でない様子で出迎えられ通過したものの、その異様さに留まっていたみたいで階段から見ている。

 わたしは食堂に連れて行かれた。
 何人かが食堂に入ってきた。1年生だけではなく、先輩も混じっている。ミス・スコッティーは「食堂から出ていきなさい」と言ったけど、寮長に話すことなら私たちも一緒に聞きますと歯向かった。寮母の様子がおかしかったからだと思うけれど、大人に意見するのは怖いことなのに、わたしのために勇気を出してくれたことに、胸が熱くなった。

 ミス・スコッティーは目を細めたけれどもギャラリーは気にしないことにしたようだ、わたしに向き直る。

「あなたは寮の規律を乱しています」

 は?

「どの規律を乱したのでしょうか?」

 わたしは質問した。尞則はきちんと目を通した。規律を乱すようなことはしていない。

「また、口答えしましたね。最初からあなたはそうでした。貴族であってもここであなたはひとりの寮生に過ぎません。あなたには罰を受けてもらいます」

「? 罰を受けるようなことをしたなら、罰を受けます。でもきちんと説明をしてくださらないと何を罰せられるのかわたしにはわかりません。それは意味のないことだと思います」

「黙りなさい! そうやって口ばかり達者で生意気なのです。淑女とは黙って上の人の話を聞くものです。上のものを上とも思わないその態度、矯正しなければなりません。ここでこれを持って立っていなさい」

 水の入ったバケツが2つ、なんて用意がいいんだ。
 生意気が罪状ね。わたしがバケツを持つともふさまが声を上げる。

『リディア、従うのか?』

 理不尽だけど。寮母とはこれからも付き合っていくことになる。ずっと反感を持たれてもやりにくいかと、安易な考えで罰を受けた。

 食堂を閉める5分前まで続けさせられたので、このババァ(口が悪くて失礼!)と思った。食堂で食べているみんなも、居心地が悪そうだ。
 残り5分は割と短く、食べている途中で食堂から締め出された時には、この××ババァ(失礼!)とまで思った。

 一度受け入れてしまったのが悪かったのかもしれない、罰がエスカレートしていく。
 朝、夕、夜に絡まれ、小さいが罰を与えられる。口答えしただの、いやいやだっただの。罰は主に掃除となり、普段業者にやってもらうところをやらされたりした。なるべく部屋に引きこもるようにした。厨房責任者のレノアさんとは昨日話し合って、献立を作るのにアイデアを出した。食事作りも子供たちが手伝うから手は足りているようだし、わたしが毎回手伝わなくても大丈夫そうだ。
 食事時も絡まれてうざいので、部屋でとることにした。もふもふ軍団と一緒に取れるから却ってよかったぐらいだった。お風呂も部屋だし。だから玄関を通るのは学園に行く時と帰ってくる時だけだ。それなのにタイミングが合うのだから、すごい粘着力だ。
 わたしにいい感情がない先輩たちも、わたしに同情的だ。でも沸点が低いわたし、2日後には我慢も限界まできていた。


 風の曜日、うかつに上級生たちのわたしの噂話を耳にしてしまい、イラッときていた。そして帰った時にドアの閉め方が雑でうるさく淑女らしくないと言われ、カチンとくる。寮則には学園生に相応しい淑女となるべく普段から心がけることという伝統ある志しも含まれているので仕方ないが、わざと音をたてたわけではない。手が滑っただけなのに、なんでそんな責められなくちゃいけないんだと思ったし、彼女のターゲットはわたしなので、なんでわたしだけって拗ねたようにも思っていた。それが表情に全部出ていたのだろう。

「まったくなんてなっていないんでしょう。シュタイン家ではどういった教育をされてきたんだか。お兄さまたちはA組だけれど、それも怪しいわね、妹がこの出来では……」

「そうおっしゃるミス・スコッティーは淑女なんですか?」

 ミス・スコッティーはコホンと喉を整える。

「そうありたいと、いつも思っています」

「淑女というのは鍵付きの生徒の部屋に無断で入ることをいうのですか?」

「な、何をいうのです?」

 動揺している。手を掴みあげられた。
 昨日、わたしの部屋に入った証拠はバッチリと魔具に映りこんでいた。
 体調が悪いことにしてアルノルトに一緒についてきてもらって(もちろん学園に通達して)高いところから様子が映るように魔具を仕掛けてもらった。
 帰ってきて昨日チェックすると、お尻を揺らして何やら漁っている様子が映っていた。でもまだミス・スコッティーのみ。これで問い詰めては皆に魔具のことがしれてしまう。だから他のふたりが分かってから話すつもりだった。

 だけど、つい、イラッときて。でも堪え性がないのは問題だと思いながらも、言ってしまったことは仕方ないと開き直る。

「魔具に映っています。証拠は生活部に届けます」

「へ、変なことを言って、私を侮辱するつもりですね!」

『リディア!』

 もふさまが叫んだ時、わたしは目を瞑った。叩かれる、そう思ったからだ。
 あれ、衝撃がないと、目を開けてみれば、ミス・スコッティーが振り下ろした手を驚いたように見ている。
 あ、シールドか。そうだ、1回は衝撃を弾くシールドがわたしには張ってある。

 スコッティーはわたしの腕を掴んだ。そして強引に引っ張られる。足が追いつかずに転ぶとそのまま引きずられる。1回だけしか効果はないのだけど、叩けないと思ったからか。目指しているのはお風呂?

「ミス・スコッティー、やめてください」

 わたしが叫ぶと、周りの子たちが「やめてください」と同じように声を上げてくれた。わたし、まさに引きずられているから。もふさまが吠えた。牙を出してもスコッティーは怯まない。

「うるさい!」

 その顔はもう、常軌を逸しているように見えた。

『リディア、此奴はおかしいぞ』

 もふさまがスコッティーに噛み付いた。嘘、それでも何事もないように歩み続ける。そりゃ、もふさまも加減はしているだろうけど、噛まれているのに、痛みを感じないの?
 言ってもだめだと思ったのか、レニータがダリアが、スコッティーの腕を引っ張り、何人かが駆け出してどこかに行ったり、泣いているのが見えた。何人かスコッティーにしがみついているのに、彼女は着実に歩みを進め、わたしを風呂場に転がした。もふさまが噛むのをやめてわたしの前で威嚇する。噛まれた手をスコッティーは軽く振った。
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