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7章 闘います、勝ち取るまでは
第287話 温度差
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「リディー、遅くなってごめん」
ドアからひょこっと兄さまが顔を出した。
「あ」
あれ? アダム? 横を見て忽然と姿を消したアダムに驚く。
「どうかした?」
兄さまが心配そうに首を傾げる。
『あやつは後ろから出て行ったぞ』
もふさまが教えてくれる。
え。
なんだ、あいつは。
わたしは鞄を持って立ち上がる。
「兄さま、忙しいのにごめんね」
「いや、私はリディーをエスコートできて嬉しいよ」
「忙しいんだから、無理しないでね。もふさまもいるし、わたしは大丈夫だよ」
そういうと手を強く持たれた。
「リディー、確かに主人さまがいれば安全だけど、私にも守らせて欲しい」
普段から十分守ってくれてるよ。そう思いながら感謝を伝えれば、やっと兄さまは微笑んでくれた。
「兄さま、兄さまはおじいさま、正しくはひいおじいさまの奥さん、ひいおばあさまのこと何か知ってる?」
「若い時に亡くなったそうだから知ってることは多くないな。公爵令嬢で、おじいさまの一目惚れだったそうだよ。おばあさまが奉仕活動をする時に護衛したって。おじいさまは男爵家三男、公爵令嬢には手は届かないって思いながらも慕い続けて、ついにおばあさまを振り向かせた。けれど家族は大反対で駆け落ちしたって。おばあさまは縁を切られた。成人してからフォンタナ家を出ていたようなものだけど、それを機にフォンタナ家とも距離を置いたようだ。公爵家から何もされないようにだろうね。おじいさまが強くて功績をあげたのは確かだけど、辺境伯を授ることができたのは、おばあさまが公爵令嬢だったことが大きいって言ってたよ」
いや、十分すぎるほど知ってるでしょ。
「兄さま、おばあさまが公爵令嬢って知ってたんだ」
「え? まぁ、そりゃ書類上でも〝母〟のことだからね」
兄さまは考える表情になる。
「それにしても、身分を上の女性を好きになるのは血筋なのかな。父さまの父上も侯爵令嬢に求婚して、結婚に反対されてたから勘当されたし、父さまも侯爵令嬢の母さまと結婚。母さまも実家と縁を切っているから、皆さまご存命だけど縁はないものね」
兄さまはふうと息をつく。
……知らなかったのはわたしだけか。行き来がないから、親戚はいないのだと勝手に思っていた。縁を切ってるだけか。
「わたしがロサの婚約者候補にあがったのは、光の使い手の血筋ってだけでなく、そのおばあさまとか公爵の血統もあるからってこともあると思う?」
兄さまは少し訝し気に、でも答えをくれる。
「そうだね。王族の血統は光を授かる可能性が高くなるから。だから、リディーやエリンは場合によって王族の次ぐらいに思う人たちもいるんだ。現に婚約者がいるっていうのに、外国からリディーと結婚したいって手紙は届くよ。エリンにも。だから学園にくるまでリディーは父さまと一緒じゃないと領地以外には出さなかっただろ。あれはそのせいだよ」
え?
確かに領地からはあまり出なかったけど、それはまだ小さいからだと思っていた。
「そ、そうだったんだ。〝出来が悪いから早くに嫁ぎ先を確保しておいた〟なんて言われているのに、外国は知らないものね」
その温度差にクスッと笑うと、兄さまにグイッと手を引っ張られる。
「誰が言った?」
兄さまに真顔で問いかけられる。
あまりの真剣さに息をのみ、言葉が出なくなる。
もふさまが兄さまの足に足を乗せた。
「あ、ごめん。強く掴んじゃったね。そういうことを言う人は、リディーと縁が持てなくて悔し紛れに言うだけだから、気にしないで。だけど、誰が言ったかは覚えておいて私か父さま、アルノルトに言って欲しい」
「どうして?」
「そういう輩はエリンたちにもなんらかの縁を持とうとするだろうし、さっきは外国って限定したけど、本当はリディーには私という婚約者がいるのに、〝養子〟なんかとより我が血統と婚姻をって手紙は来るんだ。手紙を送ってこなくても、そういう考えの人はいるから、用心するために、誰が言っていたかは知っておきたいんだ」
そういうものか……。っていうか、兄さまを〝養子〟なんかっていう人がいるわけ?
「ガゴチ、特にあそこは気をつけるんだよ」
わたしは頷く。ガゴチ、お隣のエレイブ大陸にある小さな国だ。エレイブ大陸で国が乱立するさなか、傭兵たちの集まりで旗をあげたのが起源とされている。
昔、領地の家でメイドとして働いていたクララ。彼女はガゴチ国の者だった。ウチを探っているようなことをしているので、父さまとアルノルトが問い詰めた。わたしが探られているような気がしていたんだけど、クララがいうにはロビ兄とアラ兄が自分の探している方の落としだねではないかと口走ったという。
父さまは私の子に何を言うのだと怒りを露わにしたそうだ。
その翌日、話をもっと聞こうとしたところ、軟禁していた部屋から姿が消えていた。彼女の言っていたことから、クララはガゴチ国の者だとわかったという。
アラ兄とロビ兄のお父さんについては、ジェットという名前であること。傭兵をしてきたことしかわかっていないそうだ。ユオブリア王国に不法滞在していたので、アラ兄とロビ兄の戸籍が作れなかったらしい。そのお父さんがガコチの人かどうかはわかっていないけれど、ガゴチ国からウチが探られていたのは確かであり、ガゴチ国にはいい印象はない。ま、ガゴチ国に気をつけるっていうか、ガゴチの人って名札がつけているわけではないから、外国人には近づかないのがいいだろう。
クラブでは、物語を少し進め、それからオヤツ作りだ。ご飯の心配はなくなったし。もふもふ軍団のためのご飯は週末に作りだめしている。アオ以外はお肉の丸焼きみたいな豪快料理が好きなので、塩だったり、タレに漬け込んだり、ソースを変えてなどはするけれど、焼きっぱなしとか手をかけないものばかりなので楽チンだ。アオは生サラダが好きだから、ドレッシングを各種揃えている。
今日のおやつはホロホロクッキーだ。マルサトウを惜しみなく使えるからできること。エッジ先輩が一緒に作ってくれた。お菓子を作り慣れているから、共同でも作業しやすい。
ホロホロクッキーもいっぱいできたし、おやつで食べて見て評判は上々だ。もちろんリュックの中には差し入れ済み。
幸せな時間を過ごし、兄さまが迎えにきてくれて寮に帰ると、ミス・スコッティーが待ち構えていた。
ドアからひょこっと兄さまが顔を出した。
「あ」
あれ? アダム? 横を見て忽然と姿を消したアダムに驚く。
「どうかした?」
兄さまが心配そうに首を傾げる。
『あやつは後ろから出て行ったぞ』
もふさまが教えてくれる。
え。
なんだ、あいつは。
わたしは鞄を持って立ち上がる。
「兄さま、忙しいのにごめんね」
「いや、私はリディーをエスコートできて嬉しいよ」
「忙しいんだから、無理しないでね。もふさまもいるし、わたしは大丈夫だよ」
そういうと手を強く持たれた。
「リディー、確かに主人さまがいれば安全だけど、私にも守らせて欲しい」
普段から十分守ってくれてるよ。そう思いながら感謝を伝えれば、やっと兄さまは微笑んでくれた。
「兄さま、兄さまはおじいさま、正しくはひいおじいさまの奥さん、ひいおばあさまのこと何か知ってる?」
「若い時に亡くなったそうだから知ってることは多くないな。公爵令嬢で、おじいさまの一目惚れだったそうだよ。おばあさまが奉仕活動をする時に護衛したって。おじいさまは男爵家三男、公爵令嬢には手は届かないって思いながらも慕い続けて、ついにおばあさまを振り向かせた。けれど家族は大反対で駆け落ちしたって。おばあさまは縁を切られた。成人してからフォンタナ家を出ていたようなものだけど、それを機にフォンタナ家とも距離を置いたようだ。公爵家から何もされないようにだろうね。おじいさまが強くて功績をあげたのは確かだけど、辺境伯を授ることができたのは、おばあさまが公爵令嬢だったことが大きいって言ってたよ」
いや、十分すぎるほど知ってるでしょ。
「兄さま、おばあさまが公爵令嬢って知ってたんだ」
「え? まぁ、そりゃ書類上でも〝母〟のことだからね」
兄さまは考える表情になる。
「それにしても、身分を上の女性を好きになるのは血筋なのかな。父さまの父上も侯爵令嬢に求婚して、結婚に反対されてたから勘当されたし、父さまも侯爵令嬢の母さまと結婚。母さまも実家と縁を切っているから、皆さまご存命だけど縁はないものね」
兄さまはふうと息をつく。
……知らなかったのはわたしだけか。行き来がないから、親戚はいないのだと勝手に思っていた。縁を切ってるだけか。
「わたしがロサの婚約者候補にあがったのは、光の使い手の血筋ってだけでなく、そのおばあさまとか公爵の血統もあるからってこともあると思う?」
兄さまは少し訝し気に、でも答えをくれる。
「そうだね。王族の血統は光を授かる可能性が高くなるから。だから、リディーやエリンは場合によって王族の次ぐらいに思う人たちもいるんだ。現に婚約者がいるっていうのに、外国からリディーと結婚したいって手紙は届くよ。エリンにも。だから学園にくるまでリディーは父さまと一緒じゃないと領地以外には出さなかっただろ。あれはそのせいだよ」
え?
確かに領地からはあまり出なかったけど、それはまだ小さいからだと思っていた。
「そ、そうだったんだ。〝出来が悪いから早くに嫁ぎ先を確保しておいた〟なんて言われているのに、外国は知らないものね」
その温度差にクスッと笑うと、兄さまにグイッと手を引っ張られる。
「誰が言った?」
兄さまに真顔で問いかけられる。
あまりの真剣さに息をのみ、言葉が出なくなる。
もふさまが兄さまの足に足を乗せた。
「あ、ごめん。強く掴んじゃったね。そういうことを言う人は、リディーと縁が持てなくて悔し紛れに言うだけだから、気にしないで。だけど、誰が言ったかは覚えておいて私か父さま、アルノルトに言って欲しい」
「どうして?」
「そういう輩はエリンたちにもなんらかの縁を持とうとするだろうし、さっきは外国って限定したけど、本当はリディーには私という婚約者がいるのに、〝養子〟なんかとより我が血統と婚姻をって手紙は来るんだ。手紙を送ってこなくても、そういう考えの人はいるから、用心するために、誰が言っていたかは知っておきたいんだ」
そういうものか……。っていうか、兄さまを〝養子〟なんかっていう人がいるわけ?
「ガゴチ、特にあそこは気をつけるんだよ」
わたしは頷く。ガゴチ、お隣のエレイブ大陸にある小さな国だ。エレイブ大陸で国が乱立するさなか、傭兵たちの集まりで旗をあげたのが起源とされている。
昔、領地の家でメイドとして働いていたクララ。彼女はガゴチ国の者だった。ウチを探っているようなことをしているので、父さまとアルノルトが問い詰めた。わたしが探られているような気がしていたんだけど、クララがいうにはロビ兄とアラ兄が自分の探している方の落としだねではないかと口走ったという。
父さまは私の子に何を言うのだと怒りを露わにしたそうだ。
その翌日、話をもっと聞こうとしたところ、軟禁していた部屋から姿が消えていた。彼女の言っていたことから、クララはガゴチ国の者だとわかったという。
アラ兄とロビ兄のお父さんについては、ジェットという名前であること。傭兵をしてきたことしかわかっていないそうだ。ユオブリア王国に不法滞在していたので、アラ兄とロビ兄の戸籍が作れなかったらしい。そのお父さんがガコチの人かどうかはわかっていないけれど、ガゴチ国からウチが探られていたのは確かであり、ガゴチ国にはいい印象はない。ま、ガゴチ国に気をつけるっていうか、ガゴチの人って名札がつけているわけではないから、外国人には近づかないのがいいだろう。
クラブでは、物語を少し進め、それからオヤツ作りだ。ご飯の心配はなくなったし。もふもふ軍団のためのご飯は週末に作りだめしている。アオ以外はお肉の丸焼きみたいな豪快料理が好きなので、塩だったり、タレに漬け込んだり、ソースを変えてなどはするけれど、焼きっぱなしとか手をかけないものばかりなので楽チンだ。アオは生サラダが好きだから、ドレッシングを各種揃えている。
今日のおやつはホロホロクッキーだ。マルサトウを惜しみなく使えるからできること。エッジ先輩が一緒に作ってくれた。お菓子を作り慣れているから、共同でも作業しやすい。
ホロホロクッキーもいっぱいできたし、おやつで食べて見て評判は上々だ。もちろんリュックの中には差し入れ済み。
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