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7章 闘います、勝ち取るまでは
第286話 血統
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休み時間になるとわたしの周りにみんなが寄ってくる。そこにはなぜか先生も含まれていた。
謙遜ではなく、わたしのは〝演奏〟と呼べるものではない。
とりあえず音を拾えているかなってところで、楽器本来の素晴らしい音を響かせられてもいないし、リズムも正確ではなく弾きやすさ重視で、でたらめだ。ハープの音色に助けられているといっても拙いのは誰もがわかるだろうに。
それでもみんなは絶賛してくれて、もふさまも、もっと聞きたいと言ってくれる。アオ以外はわたしにしか声が聞こえないからだろう。時々リュックの中から話しかけてくる。この時は弾いて欲しい曲のリクエストで、ふんふんメロディーらしきものを口ずさむのだが、レオは時々調子っぱずれになるので笑いそうになってしまった。
「ハープを持っている方は少ないわ、どこでハープを?」
「ウチの領地にキートン元侯爵夫人がいらして、弾かせてもらいました」
「まぁ、まあ! キートン夫人に!」
先生は感動している。
キートン夫人をご存知のようだ。
談笑していると、休み時間は終わった。
後半の音楽の時間は音に親しむということで、席の隣の人とペアでピアノに触れるそうだ。待っている間は音楽史を覚えるようにと言われる。
教科書をパラパラめくっていると偽アダムが声をかけてきた。
「シュタイン嬢、さっきの曲は君が作ったの?」
「まさか」
「……そうか。じゃぁ、曲名は?」
「ええと、〝前奏曲〟」
「前奏曲?」
「すべてはこれから始まるってこと」
偽アダムは虚を突かれた顔をして、打って変わって楽しそうに笑った。
なんだ、そんな顔もできるんじゃん。
何もかもつまらないと諦めきった顔じゃなくてさ。
ピアノの鍵盤は素人らしく人差し指で押すようにして、音あてを楽しむフリをする。アダムは耳がいいようで、さっきの前奏曲の最初の音はこれだね?と人差し指で鍵盤を押していた。〝きっとそうですわ、エンターさまは耳がおよろしいのね〟と大げさに褒めると、気分を害していた。
先生の采配は凄い。わたしたち最後のペアが遊び終わると、授業の終わる鐘が聞こえた。
教室に戻り、帰りのホームルームとなる。
先生は次の自分が担当する授業の時間も今日結論が出なかった話し合いの場にするから、それぞれ考えてみて自分の意見を持って欲しいと言った。その言葉にみんなどこか思い詰めたような顔になり、叱られたわけではないのに微妙な空気になる。そしてそのままクラブ活動へと散っていった。
人もまばらになってくると、アダムが声をかけてきた。
「君、校内地図買ったんじゃなかった?」
「うん、あるよ」
「クラブに行かないの?」
「行くけど、ひとりで動かないように言われているの。兄さまが送ってくれるって」
偽アダムは顔をしかめる。
「過保護だな」
「変なのに狙われたからね」
「ああ、そうだったね……」
鞄を手に立ち上がっていたのに、アダムはもう一度座り直した。
「ヤーガン公爵令嬢にはいつ申し込みに行くんだい?」
「魔法戦が組み込めないとなると……ってまだ考え中。みんなの意見を聞いてからになるし。まだまだ先のことだね。ただ……わたしは一応寮長だけど、ヤーガンさまが話に応じてくれるかわからない」
『あの迷い子のような人族か?』
迷い子のような? 一瞬もふさまを見てしまった。
アダムと会話中だったことを思い出して、口早に言う。
不安に思っていたことだ。怒りでもなんでもいい、話に乗ってきてくれさえすれば、会話運びでどうにかなるかもしれない。でもお目通りをしてくれなかったら、まずそこで頓挫してしまう。
わたしが好き勝手をやっていると情報がいった。わたしを見定めにきた。いや、潰しにきたのかもしれない。でも潰せずに、ロサとの繋がりを知った。そんなわたしが寮長になったのだ。ドーン寮が好き勝手しているのを不快に感じる令嬢だからこそ、元凶のわたしの相手をしてくれるか……。
「いや、君を無視できないだろ?」
「確かに寮長にはなったけど……」
寮母からしか話がいってない場合、食費などを戻したことで寄付をする気がないと思っているかもしれない。そう扇動したのはわたしだ。反乱分子と思い、わたしを徹底的に無視するかもしれない。わたしはそう危惧していることを話した。
アダムは真顔になって、わたしを探るように見た。
「だけどシュタイン家令嬢を無視できないだろ?」
再び言われる。そうかな?
「え? まさか、本当に無視できると思ってる?」
1年生だとか。前の寮長をリコールしたとか。そんな者とは話せないと弾かれる理由を持っている。
「そりゃ、寮長といっても、前の寮長をリコールした1年生だし。あちらは公爵令嬢ではっきりと伯爵ごときとも言われたしね、ありうるでしょ?」
「へぇ、伯爵ごときって言われたんだ? 会ったんだね」
「気に食わなかったんだと思う。門のところで、待ち伏せしてたんじゃないかな」
アダムはやっぱりなと言う顔だ。ん?
「伯爵ごときと言いつつ、あちらから君に接触してきたんだね?」
思い返す。
「取り巻きのひとりが品の良くないことを呟いたから思わず反応しちゃって。恐らくヤーガン令嬢だと思ったから、挨拶をしたの」
「で、口をきいた」
わたしは頷く。
「わたしが無礼だったみたいで怒ってらしたけど、ちょうど生徒会の人たちが通って収拾してくれたの」
「そうか。でもヤーガン令嬢は君に反応してたってことだね。それならやっぱり、彼女は知ってるんだ。彼女の家は血統主義だから爵位が低い人とは目も合わせないし口も聞かないはずだ。何か目的がある以外はね」
ああ、彼女は寮長だから、寮の方々や他の寮長とは話さないととかそういうこと?
「君は特殊な血筋だから」
は?
「あれ、知らないの? ……君んちわりと拗れてるね、とっくに知っているかと思ったよ。あんなに近くにいて」
アダムは意味不明なことを言った。
学園にいる公爵令嬢は5年生のヤーガン嬢、4年生の第一王子婚約者でもあるメロディー嬢、1年生のセローリア嬢のみ。
侯爵令嬢は4年生のフリード嬢、2年生のリブ嬢。
でも、侯爵令嬢ではヤーガン家の相手にならないかも、とアダムは息をついた。
公爵家の中でも特に血筋にうるさい家系だそうだ。
「ヤーガン公爵令嬢と渡り合えるのは、今のところ学園の女子で一番爵位が高くなるメロディー公爵令嬢。そして変わり種の、シュタイン伯爵令嬢、君だけだ」
は?
アダム、頭がおかしくなった?
「何言ってるの? ウチは伯爵だよ」
「確かに伯爵だ。けれど、君の血筋はそれだけじゃない」
「血筋?」
「君の母君は侯爵の血筋だ」
母さまは実家の侯爵家とは縁を切っている。
「君の母君の母君は公爵令嬢だった」
おばあさまが? 母さまの母さまは公爵令嬢だったの?
「シュタイン伯の母君は侯爵令嬢。ランディラカ辺境伯の奥方は公爵家の令嬢だ。みな爵位の下の方と婚姻することで縁を切ったり切られたりしたようだから語られなくなっているけれど、年配の方々はみんな知っていることだよ。君、第二王子の婚約者候補に伯爵令嬢が選ばれるのはおかしいと思わなかった?」
一瞬、情報量の多さにわからないまま頷きかけたが。
「……たとえおばあさまたちが爵位が高くったって、わたしは伯爵家だよ」
アダムは首を横に振った。
「血筋を慮る方たちはやはり血筋を大切にしていてね。確かに伯爵令嬢ではあるけれど、爵位の上の方たちは、君の存在を重んじる方々がけっこういるんだよ。公爵家、王族の血統だとね」
王族の血統? なんて恐ろしいことを言うんだ。そしてハッとする。
「……なんでそんなこと知ってるの? 南部は独特で中央にはこないものなんでしょ? でも6年前、すでにあなたは中央に伝手があって、自由に過ごしていた。あなた、何者?」
「ゴーシュ・エンターだよ。そう言ったろ?」
睨むと彼はつまらなそうに肩を竦めた。
謙遜ではなく、わたしのは〝演奏〟と呼べるものではない。
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先生は感動している。
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教科書をパラパラめくっていると偽アダムが声をかけてきた。
「シュタイン嬢、さっきの曲は君が作ったの?」
「まさか」
「……そうか。じゃぁ、曲名は?」
「ええと、〝前奏曲〟」
「前奏曲?」
「すべてはこれから始まるってこと」
偽アダムは虚を突かれた顔をして、打って変わって楽しそうに笑った。
なんだ、そんな顔もできるんじゃん。
何もかもつまらないと諦めきった顔じゃなくてさ。
ピアノの鍵盤は素人らしく人差し指で押すようにして、音あてを楽しむフリをする。アダムは耳がいいようで、さっきの前奏曲の最初の音はこれだね?と人差し指で鍵盤を押していた。〝きっとそうですわ、エンターさまは耳がおよろしいのね〟と大げさに褒めると、気分を害していた。
先生の采配は凄い。わたしたち最後のペアが遊び終わると、授業の終わる鐘が聞こえた。
教室に戻り、帰りのホームルームとなる。
先生は次の自分が担当する授業の時間も今日結論が出なかった話し合いの場にするから、それぞれ考えてみて自分の意見を持って欲しいと言った。その言葉にみんなどこか思い詰めたような顔になり、叱られたわけではないのに微妙な空気になる。そしてそのままクラブ活動へと散っていった。
人もまばらになってくると、アダムが声をかけてきた。
「君、校内地図買ったんじゃなかった?」
「うん、あるよ」
「クラブに行かないの?」
「行くけど、ひとりで動かないように言われているの。兄さまが送ってくれるって」
偽アダムは顔をしかめる。
「過保護だな」
「変なのに狙われたからね」
「ああ、そうだったね……」
鞄を手に立ち上がっていたのに、アダムはもう一度座り直した。
「ヤーガン公爵令嬢にはいつ申し込みに行くんだい?」
「魔法戦が組み込めないとなると……ってまだ考え中。みんなの意見を聞いてからになるし。まだまだ先のことだね。ただ……わたしは一応寮長だけど、ヤーガンさまが話に応じてくれるかわからない」
『あの迷い子のような人族か?』
迷い子のような? 一瞬もふさまを見てしまった。
アダムと会話中だったことを思い出して、口早に言う。
不安に思っていたことだ。怒りでもなんでもいい、話に乗ってきてくれさえすれば、会話運びでどうにかなるかもしれない。でもお目通りをしてくれなかったら、まずそこで頓挫してしまう。
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「いや、君を無視できないだろ?」
「確かに寮長にはなったけど……」
寮母からしか話がいってない場合、食費などを戻したことで寄付をする気がないと思っているかもしれない。そう扇動したのはわたしだ。反乱分子と思い、わたしを徹底的に無視するかもしれない。わたしはそう危惧していることを話した。
アダムは真顔になって、わたしを探るように見た。
「だけどシュタイン家令嬢を無視できないだろ?」
再び言われる。そうかな?
「え? まさか、本当に無視できると思ってる?」
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アダムはやっぱりなと言う顔だ。ん?
「伯爵ごときと言いつつ、あちらから君に接触してきたんだね?」
思い返す。
「取り巻きのひとりが品の良くないことを呟いたから思わず反応しちゃって。恐らくヤーガン令嬢だと思ったから、挨拶をしたの」
「で、口をきいた」
わたしは頷く。
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「そうか。でもヤーガン令嬢は君に反応してたってことだね。それならやっぱり、彼女は知ってるんだ。彼女の家は血統主義だから爵位が低い人とは目も合わせないし口も聞かないはずだ。何か目的がある以外はね」
ああ、彼女は寮長だから、寮の方々や他の寮長とは話さないととかそういうこと?
「君は特殊な血筋だから」
は?
「あれ、知らないの? ……君んちわりと拗れてるね、とっくに知っているかと思ったよ。あんなに近くにいて」
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は?
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「確かに伯爵だ。けれど、君の血筋はそれだけじゃない」
「血筋?」
「君の母君は侯爵の血筋だ」
母さまは実家の侯爵家とは縁を切っている。
「君の母君の母君は公爵令嬢だった」
おばあさまが? 母さまの母さまは公爵令嬢だったの?
「シュタイン伯の母君は侯爵令嬢。ランディラカ辺境伯の奥方は公爵家の令嬢だ。みな爵位の下の方と婚姻することで縁を切ったり切られたりしたようだから語られなくなっているけれど、年配の方々はみんな知っていることだよ。君、第二王子の婚約者候補に伯爵令嬢が選ばれるのはおかしいと思わなかった?」
一瞬、情報量の多さにわからないまま頷きかけたが。
「……たとえおばあさまたちが爵位が高くったって、わたしは伯爵家だよ」
アダムは首を横に振った。
「血筋を慮る方たちはやはり血筋を大切にしていてね。確かに伯爵令嬢ではあるけれど、爵位の上の方たちは、君の存在を重んじる方々がけっこういるんだよ。公爵家、王族の血統だとね」
王族の血統? なんて恐ろしいことを言うんだ。そしてハッとする。
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