プラス的 異世界の過ごし方

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6章 楽しい学園生活のハズ

第275話 寮長ですが、何か?⑤手にするために

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「リー!」

『リディア、大丈夫か?』

 アラ兄ともふさまに心配してもらう。

「うん、中で匿ってもらってたの」

「そうなの? じゃあ、お礼を」

「わたしがちゃんとお礼を言ったから」

 アラ兄がノックをしようとしたのを止める。

「そう? ここは留学生がご両親と会ったりする時に使う部屋だから、一般生徒は立ち入り禁止なんだ」

「そうなんだ……」

 ってことは偽アダムは留学生だったのか?

「リー、ロビンが迎えに行ったらいないっていうから探してたんだ」

 あれ、職員室に寄るから門に行ってろってところから仕組まれていた?

「そしたらもふさまがメッシーたちを積み上げていてね……」

「メッシー? 赤の点だった人たちのこと?」

 アラ兄に手を取られ保健室へと向かった。歩きながら、何が起こったのかを話し、アラ兄の知っていることも聞いた。
 もふさまが積み上げた〝メッシーたち〟とは、2年A組のクラスメイトで、普段からアラ兄とロビ兄にウザ絡みしてくる人たちのことらしい。今は兄さまとロビ兄で保健室に連れていき、手当てをしている。ちなみにもふさまが直接傷つけたわけでなく、追い詰められて転んだなどして怪我をしたためだ。
 お遣いさまからの制裁だったので、聖樹さまの意にそぐわないことをしたこととみなされ、手当ての後は生徒会が事情を聴くという。
 わたしはロビ兄の友達から門に先に行っているよう伝言をもらい教室をでた。探索で敵がいることがわかったので迂回をし、けれど挟み撃ちをされてしまったことを話した。
 もふさまに乗って突破しようと思ったけれど、その前に近づかれてしまって、もふさまが吠えて驚いた隙に逃げた。走っても追いつかれそうなのでどこかで隠れようと思っているときに、あの部屋にいた先輩に助けられたのだと。

 アラ兄は、わたしが伝言を聞きひとりで門まで行こうとしたらお遣いさまが何かを感じたようで、お遣いさまに導かれるまま遠回りしたことにしようと言った。

 保健室に入ると、ロビ兄が誰かを床で羽交い締めにしているところで、それを青い髪のメリヤス先生と兄さまが引き剥がそうとしている。

「ロビ兄!」

 思わず声をあげると、ロビ兄はわたしを見てハッとした。
 ロビ兄の気が削がれた隙に、先生と兄さまが引き剥がしそのまま兄さまがロビ兄を押さえ込んだ。
 床に寝転んだままの、わたしに声をかけてきた体格のいい男子の目尻には涙があった。

「ロビン・シュタイン、減点1」

 メリヤス先生が声を張り上げた。
 ロビ兄は黙って肩で息をしている。

「ざまあないな!」

 組み敷かれていた子が嬉しそうにいうと、メリヤス先生が声をあげる。

「メソン・メッシー、減点5」

「え? なぜですか? 俺は殴られたのに!」

「これは私の評価だ。年下の女生徒を数人で捕らえようとしたなんて、生徒会や学園側からも罰が下されるはずだ」

「捕らえようなんて、声をかけただけだ!」

「お遣いさまが君たちの行いをよくないものだと感じ取られている」

 メリヤス先生がそう言えば、床に座り込んだメッシーとかいう奴も、オドオドしながら成り行きを見ていた奴らも、ハッとしたように、もふさまを見た。
 兄さまはアラ兄とロビ兄にわたしを連れて家に帰るように言って、自分は生徒会のことで残るからと言う。追い立てられるように保健室を後にした。



 馬車の中は暗く重たい雰囲気だったが、大変なことを思い出して馬車を止めてもらう。わたしの部屋にもふもふ軍団がいる。馬車は寮の門のところで待っていてもらって、ふたりともふさまに付き添ってもらって寮にたどり着いた。外でふたりには待っていてもらい、寮の階段を登った。

「あれ、リディア、外泊の日よね?」

「うん、忘れ物しちゃって」

「そっか。楽しんできてね」

「ありがとう」

 レニータの後ろからクラスの子と数人すれ違う。みんな今日の夕飯作りを手伝うようだ。来週からきちんと料理の手伝いと掃除の手伝いは当番制になり、今週は掃除は休息日は業者の人がやってくれるので問題なく、ご飯は手伝える人が手伝うことになっている。
 最初手伝うのは1年生だけになるかなと思ったんだけど、率先してガネット先輩がやると言ってくれたので、なし崩しに全員で受け持つことになった。全員での当番制なら休みもしっかりあるから続けて行くのも無理がないかなと思っている。

 部屋に入ると、シーンとしていた。みんなぬいぐるみのままだ。

「どうしたの、みんな?」

 いつもならわたしに飛びついてくるのに。

『どうした?』

 もふさまもみんなの静けさを異様と思ったのか尋ねる。

『リーと主人さまだ』
『ちゃんと、リーだ』
「よかったでち」
『緊張するな!』
『全くです』

「どうしたの?」

 尋ねて、わたしは固まった。
 わたしが学園に行っている間に3人の人がこの部屋に入り、何か探しまわっていたというのだ。
 ひとりは大人の女性というから、ミス・スコッティーだろう。
 それから女生徒が合わせてふたり。

 わたしは目元を覆った。
 何も持ち出されてはいないとのこと。
 今日はいろんなことがあって、気持ちがめげていた。
 その中でも一番痛みを感じたのは、家族の評判を下げたことだった。
 わたしの評判が落ちるのは別にいいと思っていたけれど、それが兄さまやアラ兄、ロビ兄にまで及ぶとは思っていなかった。そこはショックだった。
 敵が現れたのもショックだし、偽アダムに会ったのも衝撃的だった。
 そして極めつけが、部屋に入られた。一応簡単な鍵があるのに。

 寮母は鍵を持っているだろう。わたしはアベックス寮の手先はミス・スコッティーだけならいいと思っていたけれど、ガネット先輩が心配していたように、寮生の中にも手下がいるようだ。

 何それ。わたしの中に膨れ上がる気持ち、それがなんなのかわからないけれど、まわりを覆っているのは怒りという膜だった。
 そう、わたしは、まず、怒っていた。
 なんだかわからないけど、こんなのあんまりだと思った。
 楽しい学園生活を夢見ていたのに。楽しいことがいっぱいだと思っていたのに。
 楽しいこともちゃんとあったけど、どうしてままならないこともセットでやってくるのだ? 酷い。酷すぎる!

『リディア?』

「どうしたでち?」

『そんなに手を握りしめたら、手が痛がっているぞ』
『リー、お腹すいた』
『お腹すいた』
『蜜を舐めますか?』

「あったま来た!」

 思ったより大きな声が出た。

「ど、どうしたでち?」

「わたし、戦う!」

『何とだ?』と、もふさま。
『ダンジョンか?』と目を輝かせたのがレオ。
『ダンジョン好き』尻尾をブンブン振りながら言ったのがアリ。
『ダンジョン楽しい』首を伸ばすようにして言ったのがクイ。
『ダンジョンも楽しいところですねぇ』頷いているような仕草をしたのがベア。

「楽しい学園生活を邪魔するものは蹴散らかす。強くならなきゃ。ダンジョンもいいかも」

「じゃあ、みんなでダンジョンでちか?」

 アオに頷けば、みんな飛び上がって喜んだ。

 みんなをリュックに入れて部屋を出る。部屋に入れないようにするか、防犯カメラの魔具みたいの取り付けないとだね。家族に相談してからになるが、少々お高い魔具でもこの際買う。幸いお小遣いは溜めている。
 どんなに邪魔されようが、わたしは楽しい学園生活を手に入れる。だってそのために学園に入ったのだから。貴重な〝少女時代〟は一度しかないのだから、絶対に楽しんでやる!
 部屋の外はお肉の焼ける香ばしい匂いがしていた。反応してお腹がぐーと音を立てた。
 腹が減っては戦はできぬってね。まずはお腹を満たして、それから考える。同時に強くなる。ヨシ!
 大雑把な方向性を決めて、わたしは力強く歩く。
 決意を拳に込めながら。




<6章 楽しい学園生活のハズ・完>
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