プラス的 異世界の過ごし方

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6章 楽しい学園生活のハズ

第270話 総会前・寮長と決めたこと(後編)

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「寮長が反対意見というわけではないんですね?」

  一応、確認をとる。対外的なことではなくて、ガネット先輩の意思を。

「え? ガネット先輩は壁になるって」

 ダリアがわたしと先輩を交互に見る。

「違うよ、ダリア。先輩は再戦を申し込んでも自分だと難しいと言ったのよ」

 こそっとジョセフィンがダリアに告げる。

「何が違うの?」

 問われてジョセフィンは唸った。

「うーーん、自分が反対して壁になるわけでなくて、再戦は相手あってのことだから、そこで自分が障壁になってしまうって言ってるのよ」

「……ちょっと難しい。自分でももう一度考えてみる」

 ダリアが答えて、ジョセフィンも頷く。
 ガネット先輩がそんなやりとりをしたダリアとジョセフィンを優しい眼差して見ていた。

 先輩は申請書を通すので総会は問題なく開けると言った。
 わたしたちの案に賛成だとも。
 そして流れを教えてくれて、みんなを説得するためのアドバイスもしてくれた。
 わたしは道筋というか外枠しか思いついていなかったことがよくわかった。さっき説明した時に聞き返されたことで、足りていないことはわかったけれど、具体的でなかったと思い知らされた。

 ガネット先輩は再戦をすることになったら、自分は寮長を辞めると言った。理由はヤーガン令嬢に目をつけられているのはまさに自分なので、寮長でいると足を引っ張るだけだと。それから新しいことをするには、やっぱり自分が壁になってしまうのだと。
 自分が寮長を辞めたら誰もやりたがる人はいないだろうから、わたしに寮長となる覚悟をするように言った。
 1年生ですよ? と驚いて言えば、寮則でそれは禁じられていないと言われた。


「本当にこの案を通したいのよね? 寮を変えたいのよね?」

 先輩に問われて、わたしたちは顔を見合わせてから頷いた。

「だったら覚悟を決めてちょうだい。うまく説得できたらそれが一番いいけれど、多分みんな頑なになってしまうと思うから」

「準備はしっかりします」

「そういうことじゃないの。どんなに準備しても、どんなにあなたたちの案がいいことだと思えたとしても、何かが変わらないと飛び込めないと思うのよ」

 意味がよくわからない。

「何かが変われば飛び込めるんですか?」

 キャシーがいうと、先輩は頷いた。

「5年も一緒に暮らしていると、友達よりもっと親密になる。いくら平等と言われても平民だと辛いこともあって、絆は他の寮より深いと思う。だからかな、私の意見に反対する人がいなくなっちゃった。表に立たっていることへの恩も感じているんでしょう、みんな私に賛同してくれるの。そんなふうに長くきてしまったから、私任せになっているところもある。だからね、新しい何かを受け入れる体勢でないっていうか、……うん、どんなにいい案だとしても、私の意見に賛同するだけで、新しいことを受け入れられないと思うの。今のままではね」

 わたしたちは言葉なくガネット先輩をみつめる。

「……先輩たちがガネット寮長に賛同してくれるなら、寮長が食費のことと再戦に賛同してくれたら、みんな賛成するんじゃないですか?」

「……多分今までの私のしたことを否定されている気持ちになってしまって、頑なに否定する気がするのよね。それに私が再戦の足かせになるから寮長を辞めると言ったらそれこそ取り付く島がないぐらい反対すると思う。だから私がこの件に賛成していることは最後まで出さない方がいいと思うの」

「寮長が賛成なのを伝えないまま……先輩たちに賛成させるってことか」

 ジョセフィンが小さく呟いて、キャシーが眉を八の字にしている。

「元々、そのつもりだったでしょ? 寮のみんなの賛成を取り付けるっていう」

 へこんでしまった気持ちに喝を入れるようにレニータが言った。
 そうだ、レニータのいう通りだ。元からわたしたちは案を通すのにみんなの賛成が必要だった。思わぬことに寮長からの賛成が取れたと思って気が緩んだみたいだ。

「説得してみて。そうできたら一番いいから。でも、ダメそうなら荒療治しましょう。あなたたちに負担をかけて申し訳ないけれど、こんな先輩でごめんなさいだけど、寮長をリコールして」

「リコール?」

 キャシーが首を傾げる。

「寮長を辞めさせるってこと」

 ジョセフィンがキャシーに小さな声で告げた。

「そう。寮長の解職を提案して、賛同して、私を辞めさせて欲しいの」

「壁だから、ですか?」

 リニータが尋ねる。

「それが一番の突破口になるはずだから」

「わたしはガネット先輩が寮長であるべきと思います。だからガネット先輩が寮長のまま……」

「何かを壊さないと新しい風は吹かない。今回はたまたまそれが私なだけ」

 ガネット寮長の心は決まっている気がした。でもわたしは辞めさせたいわけじゃない。ご飯をしっかり食べたくはあるけれど、そのために寮長を変えるなんて変だよ。そうしなくてもいい方法はあるはずだ。だからわたしはもう一度言う。

「でも、わたしは何かを犠牲にしたり、悲しませてやりたいとは……」

「覚悟を決めたなら貫いて。寮を変えたいと言ったのはそんな中途半端な思いだったの?」

 強い調子で言われて、言い訳のように言葉が出る。

「そうではないですけど」

 わたしと先輩のラリーが続く。

「その案が通れば、あなたは寮がよりいいものになると思ったんじゃなかったの?」

「でもそれによって犠牲になるものがあるなら、犠牲が出ないよう考えるのが……」

 途中で遮られる。

「その考えはいいと思う。でもね、犠牲というほどでもないし……。この体制が結局は発端になったんだと思うのよ、こんなことになった」

 重苦しい雰囲気の中、もふさまが呑気に大きなあくびをして、また顔を伏せた。

「もう変わる時にいるのよ。……それでも心苦しかったら、気合を入れて総会でみんなを説得して。……説得できれば、寮長を辞めることは私がみんなを説得する」

 何がどうあってもガネット先輩は寮長を辞める気みたいだ。
 それを感じ取り、わたしたちは顔を見合わせる。

「ダメそうと思ったら合図をするから、そうしたら私をリコールしてちょうだい」

 そう言ったガネット寮長は凛としていて、静かな迫力があって、気がつくとわたしたちは頷いていた。




「いい、入るわよ?」
 ガネット先輩の部屋で事前打ち合わせをしていたことに思いを馳せていたら、いつの間にか5年A組の前まで来ていた。
 頷けばガネット先輩はドアを開けて中に足を踏み入れた。

 いくつかの男女同士の塊になっていて、その中の一番キラキラして見える塊に向かっていく。女の子たちの中心にはお人形のようなブレない美しさの令嬢が優雅に椅子に腰掛けていた。

 近づくわたしたちに気づき、表情は動かないがガネット先輩を睨みつけているように見えた。
 その視線に気づいたのか、塊となっていた少女たちが道を開ける。目の前にたどり着くとお人形が口を開く。

「朝から不愉快ね、何用かしら?」

「アベックス寮長のヤーガンさまにご挨拶をしに参りました」

 ガネット先輩は嫌味に反応することもなく理由を簡素に告げる。

「挨拶ですって?」

 令嬢は鼻で笑う。取り巻きたちも見下した表情を浮かべている。

「ドーン女子寮の、新寮長です。さ、ご挨拶して」

 促され、わたしは一歩前に出てガネット先輩の隣に並んだ。

「この度、ドーン女子寮の寮長になりました、1年生のリディア・シュタインです。どうぞよろしくお願いします。ヤーガンさま」

 わたしはカーテシーを決めた。
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