プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
268 / 890
6章 楽しい学園生活のハズ

第268話 厨房の事情

しおりを挟む
 タボさんの声で目覚める。
 擦りながら目を開ければアオのドアップだ。

「おはようでち」

「おはよう」

「リディア、昨日すぐ眠ちゃったでち」

  拗ねたような言い方だ。

「そうだね、ごめーん」

 アオを胸に抱きしめた。

「リディア、リディア」

 んー? 目の前にアリとクイとベアがいる。ベロンともふさまに顔を舐められた。

「リディア、おいらをギュッとしているうちにまたうとうとしちゃったでちよ。さっきが起きる時間だったでちよね?」

 ええっ?
 10分も経っている。
 わたしは挨拶もせずに洗面所に駆け込んだ。

 部屋着のまま寝ていたわたしグッジョブ。整えて、このままミス・スコッティ ーに挨拶しようと決めた。



 玄関前には今日の清掃班の子たちが揃っていた。心なしか眠そうに見える。

「おはよう」

「おはよう」

 挨拶をしているうちにミス・スコッティーがやってきた。いつも通り掃除を始めるようにと言って背中を向けた寮母を追いかける。

 ミス・スコッティーに寮長になったことを告げた。目が大きく見開かれた。

「あなた1年生でしょう? 何を勝手に」

 勝手に?

「寮の総会で決めたことです。勝手にしているわけではありません。それに1年生が寮長をやってはいけないという規則もありません」

 ミス・スコッティーは口を開きかけて言葉を飲み込む。

「こちらの手配をお願いします。今日付けで食費は元の予算へ戻すことにします。詳細はこちらに書いておきました」

 やってもらうことを書いたメモを渡しておく。

「な……、寄付はどうするのです? 寮長が変わるからと言ってお嬢さまとの約束を反故にするつもりですか?」

「お嬢さまとは?」

「アベックス寮長である、マリー・ヤーガン公爵令嬢さまですよ。去年D組は全員が退学になるところでした。そこに手を差し伸べてくださった方ですよ」

 退学になるところだったのを手を差し伸べた?
 退学に追い込もうとしたの間違いでしょう!

「わたしが知っている話と随分違うようです」

 寮母はニヤリとした。

「そうでしょう? あなたはまだ来たばかりだから先輩たちに言いくるめられているのよ。私が教えてあげます」

 この人怪しすぎる。
 頭ではその〝教え〟とやらを聞いて、言質をとるのがいいと思った。
 でもわたしの細胞のひとつひとつが嫌だと声をあげ、拒否している。
 この人から飛び出すD組を陥れようとしているかのような戯言は聞きたくなかった。

「それは然る時に然る場所でお願いします。わたしやることがいっぱいあるので、失礼します」

「何を言っているの? やることとはまずアベックス寮に報告に行くことよ」

 報告、ねぇ?

「寮長の交代は、旧寮長のガネット先輩と一緒にそれぞれの寮長を訪ねます、学園で」

 あなたと一緒に報告に行くようなことではないと含めたけどわかったかな?
 よくないけど、わたしはミス・スコッティーが嫌いなようだ。

 後ろで地団駄踏んでいる寮母をそのままに、厨房へ向かう。
 ノックをしてドアを開けると、ひとりの成人したばかりぐらいの女性が忙しく動きまわっていた。

「まだ、朝食の時間じゃないですよね?」

 きちっと髪をまとめ、清潔な装いでエプロンをしている。
 厨房を訪ねたのは急かしにきたのかと思ったようだ。

「はじめまして。新しく寮長になりましたリディア・シュタインです。どうぞよろしくお願いします」

「しゅ、シュタイン……貴族のお嬢さまですね。あたしはレノアといいます。厨房の……責任者です」

 こんな若いのに責任者なんて有能なんだなと思いながら挨拶を交わす。
 ん、この匂いは……。

「失礼します」

「え? あ、火を使っているから危ないです。ええ、獣? 厨房に動物は困ります!」

 わたしはコンロの火を止めた。
 後ろにやってきたレノアは、鉄板の上の惨状を見て頭を抱える。

「なんてこと! それでなくても成長期のお嬢さんたちに行き渡る量が少ないのに!」

 木の箱に入ったマルネギ5つと芋10個、ニンジが3本。これは今日の分の野菜だろう。その横にいろいろな野菜クズが一緒くたになった山積みの鍋が3つほどある。

「こちらが今日の分の材料ですか?」

 レノアは神妙に頷いた。91人の2食分がこれだけか。これだけで回してくれていたんだ。

「あの、こちらはクズに見えるでしょうが、形が悪いとか外側は貴族の方にはお出しできないとかそういう理由のもので、悪いものではないですよ。こちらは捨てるものをもらったので、費用はかかっていません。あ、捨てると言っても貴族には出せないというだけで……その……」

「他の寮の野菜クズをもらってくれていたんですね?」

「その……お腹が空くと思って、少しでも量を増やしたくて」

 鼻の奥がツーンとする。

「明日から費用がアップしますから、またよろしくお願いします。今日の朝ごはんはどうしましょうか? エプロン借りていいですか? それから獣ではなくお遣いさまです。清潔なので大丈夫です」

 もふさまは体を震わせれば、いつでもピカピカにきれいになるのだ。

「そうなんですね。え? お遣いさまって、ああ、聖樹さまの……、エプロン、なぜ?」

 レノアは混乱しているみたいだ。

「料理は得意なんです。手伝います。わたしが中断させて焦げさせたようなので」

 髪をまとめ、手をしっかり洗う。エプロンをつけ、思いついたメニューを告げる。小麦粉と多くはないがミルクならあるというからね。
 朝食の始まる時間までに終わらせないとなので、お互い話したいことは山ほどあるが後にする。

 焦がした芋はそのまま鉄板の上でマッシュする。野菜クズは茹でてもらった。
 マッシュした芋にバターと小麦粉を練って合わせたものをミルクで伸ばす。
茹でた野菜半分と一緒に混ぜ合わせれば濃い目の重たいペーストになる。
 パンにペーストと、残り半分の野菜で作ったスープだ。でき上がったものを素早く配膳する。

 もしやと思ったが、常勤の料理人はレノアのみ。夜におじいさんかおばあさんどちらかの助っ人が交代で来るだけだそうだ。レノアは成人したての18歳。去年この寮の料理人見習いとして採用された。その時は3人の料理人が常勤していて夜には助っ人が二人来ていた。それが年が明けたら急にリストラがあって、一番給金の安いレノアだけが残された。助っ人も1日ひとりだ。恐ろしいまでに削られた食費。その中で歯を食いしばりながらも、少しでもみんなのお腹を満たそうと孤軍奮闘してくれていた。夕食も手伝う約束をして、急いでわたしは朝ごはんを食べた。

 野菜いっぱいのペーストは味をしっかりつけたので、パンと一緒に食べるとお腹に溜まった。硬いパンもスープの蒸気で少し蒸したから、いつもより数段おいしい。野菜クズのスープもしっかりと塩をしたので、今日のはおいしい。
 みんなの表情を見れば、自画自賛でないことは見て取れた。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
【連載再開】  長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^) ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢  宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!

seo
恋愛
 血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。  いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。  これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。 #逆ハー風なところあり #他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...