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6章 楽しい学園生活のハズ
第252話 苦手なこと得意なこと
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早く着替えないとお昼の時間がなくなってしまう。そうは思っても走り回ったのが今頃足にきていて、着替えるのも億劫だ。みんな気怠そうではあるものの、それでも待ちに待ったランチなので、急かされる。みんなわたしの〝絶対土地勘?〟をあてにしているのだ。まだ誰も地図を持っていないので、迷いもせず目的地に到着できるわたしは、今だけ限定のヒーローだった。
「わたしたち西の食堂に行くよ」
移動する時は行き先を声掛けしておく。たどり着けるか不安な子は一緒に団子になって移動した。
わたしも今日は定食だ。チケットもポイントと同じく念じるとステータス画面と同じように目の前に展開され、難なく使うことができた。チケットはわたしの分はひと月分の30枚だが、もふさま専用のチケットがあった。細やかな配慮、聖樹さま、凄い。
部屋で作り置きのご飯を出すよと言ったのだけど、もふさまはわたしと同じでいいと言った。もふさま用のプレートを出しよそってもらうようにすると、なんでそんなの持ってるの?と突っ込まれた。聖樹さまが用意してくれたことにした。みんなふんふん頷いている。調理場の人にも知れ渡っているようで、骨を特別にくれて、もふさまの目が輝いた。よかったね!
今日のお肉は鶏肉みたいだ。チーズと一緒に焼いたものにホワイトソースをかけたのかな。根菜の付け合わせも盛り沢山だ。固めのパンにソースをつけながらいただく。
「おいしー」
レニータが呟く。実感こもっているね。
「寮はずっと質素な食事だったのかなぁ?」
貧乏な時のウチだって、パンと芋ひとつはあったのに。
わたしが食べながらいうと、ダリアが
「今年に入ってかららしいよ」
と言った。
「なんで知ってるの?」
と尋ねれば、食事の時に隣になった4年生の先輩から聞いたという。
冬の試験で負けたから、しょうがないと言えばしょうがないと言っていたそうだ。
「え、4年生に聞いたの?」
と聞くと
「自然に話しているうちに、そう言ってた」
とお肉を口に入れた。
「ダリア、凄い!」
「え?」
「そんな情報を掴んでくるなんて」
「な、何言ってるの。ただちょっと話しただけだよ」
「それができない人もいるんだから、そんなわたしからすると、凄いよ!」
ダリアは目をパチクリさせた。
「わたしは何気ないお喋りで多くは引き出せない。だからそれも才能だよ」
「才能? 大げさ……でも、そんなこと初めて言われた。いつもだいたい、ズレてることを言うとか、余計なことを言うとか。じゃあと思って口を閉じていると意見はないのかとか。いろいろ言われるうちに、何を話したいのか話したくないのかわからなくなってきて……。訳が分からなくなっていると、父さんと母さんが学園に行けって。学園には同い年の子がいっぱいいるから、私と合う人も必ずいるはずだからって」
ダリアもそうだったんだ……。
「わかる」
そう口にするとダリアが顔をあげた。
「リディアが?」
素っ頓狂な声をあげたのはキャシーで、自分で口を抑えた。
ジョセフィンが含み笑いをする。
「キャシーが声をあげたのはわかる。だって、リディアっていつでも誰とでも堂々と話しているイメージがあるから」
「うんうん」
とレニータも頷く。
「そう見えてたら嬉しいけど、わたし話すの苦手だよ」
「うっそぉ」
「小さい頃、〝疲れる〟を理由に話さずにいたら話し方がわからなくなっちゃってて。引っ越しを機に話すようになったんだけど、話し方も変だったみたいで、そのことが頭にあるから、話す時に身構えちゃうの」
キャシーが大きく頷く。
「私、大きな音が苦手なの。大きい声で高圧的に言われるのも怖くて。怖いのが嫌なの。それでいつもオドオドしているって怒られているわ」
「怖いと身がすくむよね」
わかると頷けば、上目遣いで見られた。
「リディアはどうやって苦手意識を克服したの?」
「克服できているかはわからないけれど、とにかく思いついた単語を口に出した」
「克服したくて?」
ジョセフィンに尋ねられる。
「うーん、そういう考えではなかった。気づいたから、かな。伝えたいことがあることに。伝えきれなくても、伝えたいって思っていることだけでも伝えたかった。言葉が出てこなくてもどかしかったけれど、とにかく話すようにしたの」
砦で膝をつき諭してくれたハンナの顔が浮かんだ。
「わたしずいぶん変な話し方をしていたみたいなんだけど、気づいてなかった。変な話し方をしないように注意してくれた人がいて。変な話し方でもいいから話そうとしていることが嬉しいと思ってくれている人もいて。いつもやりたいことをやりたいと、嫌なことは嫌と教えてくれればそれを応援すると言ってくれる人がいて。めちゃくちゃに話しても聞いてくれる人もいた。何か言われると攻撃されたみたいに感じてそれしか見えなくなっちゃう時もあるけど、実は攻撃してくる方が少なくて、聞いてくれていた人たちがいっぱいいたって気づいた。そうしたら少しずつ心に余裕ができてきて、ゆっくりでもわたしの速度で話しても聞いてくれる人は聞いてくれるってわかって、話せるようになった気がする」
最後のニンジを頬張る。
「でも、目的があって話すのはいいんだけど、何気なく話すのは苦手意識があるから苦手。親しくなってからなら別だけど。だから目的なく〝談笑〟できるって凄いと思う」
「確かにダリアって話しやすいよね」
「うん、聞き上手だね」
ダリアは自分の両頬を押さえた。
「そんなこと初めて言われた」
「ジョセフィンは公正だよね。レニータはなんでもよく気付くし、キャシーはいつも〝最後の人〟に自分がなって誰も淋しくないようにしてくれてる。怖いのが嫌って聞いて納得だよ。怖いのが嫌だから人の〝怖い〟に敏感なんだね。最後の〝怖さ〟を受け持つようにしてくれてる」
「そ、そんな立派な思いじゃないけど……」
照れたキャシーの頭をレニータが撫でた。
「……リディアこそ、よく見てるっていうか。さすが領主の娘。そうやって人を見て適材適所につかせるんだね」
みんなが頷きあっている。
それこそ、そんないいものを持っているとは思えないが、いつか〝能力〟に発展させられたらいいな。
そう思いながらお水を飲んで急に思い出した。
「どうしたの?」
ハッとしたのがわかったみたいだ。
「お昼休みに生活部に行こうと思っていたのに、今から行ったんじゃ午後の授業に間に合わないや」
「生活部って?」
ジョセフィンに聞かれてわたしは事情を話した。
予算の使い方の開示方法を聞いてこないとなのに。
「ねぇ、リディア。リディアは調べて、それでどうするつもりなの?」
「え? 食事はちゃんと食べたい!」
みんなが目をパチクリさせた。
「え、そこ?」
「そこって、一番大切じゃん」
「ま、そうだけど……」
ひとりが笑い出すとみんなクスクスと笑い出した。
「リディア、私もなんとかしたいから、一緒にやる」
「私も!」
「私も!」
「もちろん私も!」
放課後はクラブ活動見学も視野に入れたいので、生活部に行くのも休み時間に行きたいんだよね。そういえば保健室も行かないとだった。みんながわたしが保健室に行っているときに生活部に行ってくれると言ったが、地図がないからたどり着くのは難しいだろうと結論に達した。
次の休み時間に保健室に行き、クラブ見学の前に生活部に行くことに決めた。
「わたしたち西の食堂に行くよ」
移動する時は行き先を声掛けしておく。たどり着けるか不安な子は一緒に団子になって移動した。
わたしも今日は定食だ。チケットもポイントと同じく念じるとステータス画面と同じように目の前に展開され、難なく使うことができた。チケットはわたしの分はひと月分の30枚だが、もふさま専用のチケットがあった。細やかな配慮、聖樹さま、凄い。
部屋で作り置きのご飯を出すよと言ったのだけど、もふさまはわたしと同じでいいと言った。もふさま用のプレートを出しよそってもらうようにすると、なんでそんなの持ってるの?と突っ込まれた。聖樹さまが用意してくれたことにした。みんなふんふん頷いている。調理場の人にも知れ渡っているようで、骨を特別にくれて、もふさまの目が輝いた。よかったね!
今日のお肉は鶏肉みたいだ。チーズと一緒に焼いたものにホワイトソースをかけたのかな。根菜の付け合わせも盛り沢山だ。固めのパンにソースをつけながらいただく。
「おいしー」
レニータが呟く。実感こもっているね。
「寮はずっと質素な食事だったのかなぁ?」
貧乏な時のウチだって、パンと芋ひとつはあったのに。
わたしが食べながらいうと、ダリアが
「今年に入ってかららしいよ」
と言った。
「なんで知ってるの?」
と尋ねれば、食事の時に隣になった4年生の先輩から聞いたという。
冬の試験で負けたから、しょうがないと言えばしょうがないと言っていたそうだ。
「え、4年生に聞いたの?」
と聞くと
「自然に話しているうちに、そう言ってた」
とお肉を口に入れた。
「ダリア、凄い!」
「え?」
「そんな情報を掴んでくるなんて」
「な、何言ってるの。ただちょっと話しただけだよ」
「それができない人もいるんだから、そんなわたしからすると、凄いよ!」
ダリアは目をパチクリさせた。
「わたしは何気ないお喋りで多くは引き出せない。だからそれも才能だよ」
「才能? 大げさ……でも、そんなこと初めて言われた。いつもだいたい、ズレてることを言うとか、余計なことを言うとか。じゃあと思って口を閉じていると意見はないのかとか。いろいろ言われるうちに、何を話したいのか話したくないのかわからなくなってきて……。訳が分からなくなっていると、父さんと母さんが学園に行けって。学園には同い年の子がいっぱいいるから、私と合う人も必ずいるはずだからって」
ダリアもそうだったんだ……。
「わかる」
そう口にするとダリアが顔をあげた。
「リディアが?」
素っ頓狂な声をあげたのはキャシーで、自分で口を抑えた。
ジョセフィンが含み笑いをする。
「キャシーが声をあげたのはわかる。だって、リディアっていつでも誰とでも堂々と話しているイメージがあるから」
「うんうん」
とレニータも頷く。
「そう見えてたら嬉しいけど、わたし話すの苦手だよ」
「うっそぉ」
「小さい頃、〝疲れる〟を理由に話さずにいたら話し方がわからなくなっちゃってて。引っ越しを機に話すようになったんだけど、話し方も変だったみたいで、そのことが頭にあるから、話す時に身構えちゃうの」
キャシーが大きく頷く。
「私、大きな音が苦手なの。大きい声で高圧的に言われるのも怖くて。怖いのが嫌なの。それでいつもオドオドしているって怒られているわ」
「怖いと身がすくむよね」
わかると頷けば、上目遣いで見られた。
「リディアはどうやって苦手意識を克服したの?」
「克服できているかはわからないけれど、とにかく思いついた単語を口に出した」
「克服したくて?」
ジョセフィンに尋ねられる。
「うーん、そういう考えではなかった。気づいたから、かな。伝えたいことがあることに。伝えきれなくても、伝えたいって思っていることだけでも伝えたかった。言葉が出てこなくてもどかしかったけれど、とにかく話すようにしたの」
砦で膝をつき諭してくれたハンナの顔が浮かんだ。
「わたしずいぶん変な話し方をしていたみたいなんだけど、気づいてなかった。変な話し方をしないように注意してくれた人がいて。変な話し方でもいいから話そうとしていることが嬉しいと思ってくれている人もいて。いつもやりたいことをやりたいと、嫌なことは嫌と教えてくれればそれを応援すると言ってくれる人がいて。めちゃくちゃに話しても聞いてくれる人もいた。何か言われると攻撃されたみたいに感じてそれしか見えなくなっちゃう時もあるけど、実は攻撃してくる方が少なくて、聞いてくれていた人たちがいっぱいいたって気づいた。そうしたら少しずつ心に余裕ができてきて、ゆっくりでもわたしの速度で話しても聞いてくれる人は聞いてくれるってわかって、話せるようになった気がする」
最後のニンジを頬張る。
「でも、目的があって話すのはいいんだけど、何気なく話すのは苦手意識があるから苦手。親しくなってからなら別だけど。だから目的なく〝談笑〟できるって凄いと思う」
「確かにダリアって話しやすいよね」
「うん、聞き上手だね」
ダリアは自分の両頬を押さえた。
「そんなこと初めて言われた」
「ジョセフィンは公正だよね。レニータはなんでもよく気付くし、キャシーはいつも〝最後の人〟に自分がなって誰も淋しくないようにしてくれてる。怖いのが嫌って聞いて納得だよ。怖いのが嫌だから人の〝怖い〟に敏感なんだね。最後の〝怖さ〟を受け持つようにしてくれてる」
「そ、そんな立派な思いじゃないけど……」
照れたキャシーの頭をレニータが撫でた。
「……リディアこそ、よく見てるっていうか。さすが領主の娘。そうやって人を見て適材適所につかせるんだね」
みんなが頷きあっている。
それこそ、そんないいものを持っているとは思えないが、いつか〝能力〟に発展させられたらいいな。
そう思いながらお水を飲んで急に思い出した。
「どうしたの?」
ハッとしたのがわかったみたいだ。
「お昼休みに生活部に行こうと思っていたのに、今から行ったんじゃ午後の授業に間に合わないや」
「生活部って?」
ジョセフィンに聞かれてわたしは事情を話した。
予算の使い方の開示方法を聞いてこないとなのに。
「ねぇ、リディア。リディアは調べて、それでどうするつもりなの?」
「え? 食事はちゃんと食べたい!」
みんなが目をパチクリさせた。
「え、そこ?」
「そこって、一番大切じゃん」
「ま、そうだけど……」
ひとりが笑い出すとみんなクスクスと笑い出した。
「リディア、私もなんとかしたいから、一緒にやる」
「私も!」
「私も!」
「もちろん私も!」
放課後はクラブ活動見学も視野に入れたいので、生活部に行くのも休み時間に行きたいんだよね。そういえば保健室も行かないとだった。みんながわたしが保健室に行っているときに生活部に行ってくれると言ったが、地図がないからたどり着くのは難しいだろうと結論に達した。
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