プラス的 異世界の過ごし方

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6章 楽しい学園生活のハズ

第248話 聖樹(上)

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 学園に向かう馬車の中では、別れはやはり哀しくてなかなか涙が止まらなかったが、また新しい一週間が始まるのだと気持ちを入れ替える。せっかく学園に入れたんだもの、楽しまなくちゃね。

「新入生は今日、聖樹さまとの顔合わせがあるよね?」

 アラ兄に言われて思い出す。確か、そんなことを聞いた気がする。

「木じゃないの?」

「木だよ。会えばわかる。言葉はないけど、繋がったって気がしたから。会えば会ったって表現したくなるよ、きっと」

「そうなんだ、楽しみ!」


 兄さまたちと歩くと視線が突き刺さった。気にしないことにする!
 今日は寮には寄らず、そのまま教室に行った。

「リディア、もういいの?」

 とジョセフィンに駆け寄られて、何が?と思ったが、そういえば先週……と思い出した。

「リディアを抱き上げて運んだ人が婚約者?」

 レニータに興奮した声で尋ねられる。
 わたしは控え目に頷いた。

「5年生? すっごくかっこいい先輩だね!」

「3年生」

 と言えば、レニータたちだけではなく、聞き耳を立てていた女の子たちが一様に驚いている。

「リディアをすっごく大切に思っている感じだった!」

「なんかリディアが倒れて心配するところなのに、ほわって見ちゃってた!」

 恥ずかしい。いたたまれない気持ちで顔に手をやると、熱を持っているのがわかる。

「リディア、顔赤いよ。熱が上がったんじゃない? 保健室にいく?」

「もう、ダリアったら。リディアは今婚約者の愛を噛みしめているの!」

「そうなの?」

「……保、保健室にいく必要がないのは確か。ありがと」

 そこに朝のホームルームの始まりを告げる鐘が鳴ったので、みんな席についた。



 午前の授業は3コマだ。
 一般教養と魔法史、薬草学がある。午後は聖樹さまとご対面だ。
 一般教養はヒンデルマン先生なので緊張せずに済んだ。
 ユオブリアの成り立ちについて今日は習った。母さまから聞いたのより、深く専門的な話が聞けた。ユオブリアに集まった人たちが強くて、ここを治めたのが始まりだと思っていたのだが、元々この地に力があり、それを狙い力ある人たち同士で取り合ったと聞き、どうやってこの地に力があるってわかったんだろうと、そればかり考えていた。

 休み時間になり、しっかりみんなを見たところ、女子が痩せこけた気がした。言ってみると、みんな自分の頬を触った。休息日はお昼ご飯も出なかったそうだ。朝と夜が質素でも、平日は学園のランチで栄養が取れる。けれど休息日はそういうわけにもいかない。それで平日になるのが待ち遠しかったという。
 わたしは風邪が治ったようだし、ほっぺがぷくんとしていると喜んでもらった。みんな優しいので余計に食事事情をなんとかしなくちゃと思った。


 前の席のニコラスに今日の朝ごはんを聞いた。呆れ顔ながらも教えてくれた。キャシーたちから聞いた女子寮の朝ごはんよりしっかりしたものだ。休息日のランチのことを尋ねたら、お肉とパンとスープという簡単なものだが出たそうだ。夕飯もと聞いてみると、ちゃんとしたものが出ていた。
 これはやっぱり、ドーン女子寮がおかしい。


 魔法史はA組の担任のウィルバー・エックルズ先生だった。
 最初の授業だというのに、ビシバシ指して質問をされた。みんな四苦八苦している。

「リディア・シュタイン」

「はい」

 わたしの番になり立ち上がる。

「相反する属性をあえてぶつけ効果を相殺する、このことをなんという?」

「無効化と言います」

「その無効化を唱えた偉大な魔法士の名は?」

「スタッフル魔法士です」

「そうだ。スタッフルは貴族ではない。平民だが魔力量が多く、魔法士となり偉大な功績を残した。努力したことは必ず糧になる。それを忘れるな」

 厳しいだけじゃなくて、ちゃんとした教師のようだ。



 薬草学の先生は、とても小さなおばあちゃん先生だ。声も小さくて、音を少しでも立てたら先生の説明を聞き逃す自信がある。いつになくみんな集中した。
今日は前振りのようなものだけど、実習もあるというので楽しみだ。



 お待ちかねのお昼だ。西食堂に向かう。
 わたしが迷いなく歩くので絶賛された。兄さまたちから詳しく聞いておいたのだと言っておいた。割と広めに範囲で地図を出しておいて、ピンクの点に近づかないよう動いた。彼女一人だけ点の色が違うことに感謝だ。

 西の食堂はDクラスの子たちでごった返していた。ガネット寮長もいた。
 特に女生徒たちが必死に食べている。そりゃお腹すくよね、あの食事じゃ。
 わたしは屋台で売っているような串焼きのお肉を食べることにした。
 みんなは定食だ。ここのパンは固いパンだね。寮のよりは柔らかそうだけど。
 お肉と野菜がどどーんとお皿に鎮座していて、濃厚なスープもつく。みんな嬉しそうに食べている。
 規定を読んだところ、寮生が厨房を使うことができるんだよね、申請すれば。問題は材料だ。
 あ、予算の使い方の開示を求めないと。これは生徒会に言えばいいのかな? 生活部に確かめといた方がいいか。


 午後は新入生の聖樹とご対面だ。
 A組からなので、D組は最後となる。
 それまで教室で待機のようなので、レニータたちとお喋りをしていた。

「先生、聖樹と顔合わせってどんなふうにするんですか?」

 誰かが質問すると、みんな興味があったらしくそれぞれお喋りをやめて先生を見た。

「することは、ひとつ。聖樹さまに触れるだけだ」

 教室のドアがノックされた。D組の番となったようだ。

「しっかりついて来いよ」

 先生は並んで雛鳥のようについて回るわたしたちに不穏なことを言った。
 校舎を抜けるまでは問題なかったが、遠いし、速度は速いしで疲れてきてしまった。マップによると、学園の中央に向かっている。
 ある程度まで中央にくると、空気が変わった。静謐な……聖域に入ったような不可思議さがあった。みんなも何か感じているようで、学園の中にいるはずだし、周りは開けた場所なのだが、キョロキョロと辺りを窺っている。
 先生が立ち止まる。前の人に倣って立ち止まると、唐突にわたしたちの目の前には大きな大きな木があった。幹だって大人が10人ぐらいで手を繋いで両腕を回して届くかどうかの太さで、豊かに枝と葉が絡み合って繁っていた。っていうか、遠くからでも見えなきゃおかしい木が、唐突に現れたことが変だ。
 先生は足を早めた。幹に手が届くところまで近くに行く。

「聖樹さまだ。5年間お世話になるんだ、しっかり挨拶しろ」

 そう言って先生は自身の胸に手をあて、聖樹さまに向かって礼を尽くした。

「聖樹さま、D組、新入生の35名です。どうぞよろしくお願いします」

 長いことたっぷり頭を下げ、わたしたちに向き直る。

「アイデラ 」

 呼ばれたアイデラが聖樹さまに歩み寄った。その前で胸に手をやり頭を下げる。

「アイデラです、聖樹さま」

 そう言って、聖樹さまの幹を触った。
 サワッと葉が揺れる音がして、アイデラが何かに包まれたような気がした。
 アイデラは手を離し、くりんと振り返ってこちらに歩いてきた。先生は次の生徒の名を呼んだ。
 みんなが挨拶をし手で触れてそして戻ってくる。どんな順番だったのかわからないが、わたしが最後だった。
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