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6章 楽しい学園生活のハズ
第246話 真夜中の相談
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「みなさま、そろそろお夕食にしませんか?」
ノックの後、スカートにダインをくっつけたピドリナが顔を出す。
「夕飯、お腹すいた!」
言われて思い出したように、元気よくエリンが立ち上がる。
「そうだな、夕飯にしよう。リディーはどうする?」
「わたしは部屋に戻ってるね」
父さまに、お茶の時に合流するといって部屋に戻る。
部屋に戻るともふもふ軍団はぬいぐるみ防御を解いた。
「アリ、ごめんねー」
妹の暴挙を謝る。
『防御で痛くないから大丈夫。エリンはすぐ投げる』
『ノエルはギュって握りしめる』
あの子たちってば。
「ごめんね。次の誕生日にはみんなのこと教えようかと思っているんだけど。ちょっとしたところで口を滑らしそうで躊躇っちゃうんだよね」
それで今まで教えられなかった。
『リディア、ベッドに入れ』
もふさまに言われる。わたしは頷いて、ガウンを脱ぎ、ベッドに横になる。
みんなが周りに入ってきた。ベアとアリとクイは足元の上掛けの上に丸くなる。定位置だ。
『学園はどうだったのだ?』
「始まったばかりだから何とも言えないけど、大変なこともありそう。でも友達もできたし、楽しい予感がする。寮がね、ちょっと不安だけど」
『さっきも言ってたな。そんなにおかしいのか?』
「他の寮と違いすぎるんだよね。貴族だけの寮と格差があるのは仕方ないことだったとしても、男子寮と女子寮で違いがある気がするんだ。これはどこかでおかしなことになっていると思う」
いつの間にか眠ってしまったようだ。カーテンの隙間から見える外の様子も暗く、もう夜だった。
みんなとお茶をするはずだったのに。
父さまと母さまに話そうと思っていたのに。
もう一度眠ってしまおうとも思ったが、まだ父さまと母さまは起きているかもしれないと思い直した。
もふさまもアオもレオも深く眠っている。ベアもアリもクイも寝息が聞こえた。
ベッドを降りてみても誰も起き上がらなかった。
室内ばきを履いてガウンを着て、部屋を出る。父さまたちの寝室の隙間から明かりが漏れている。よかった、起きているみたいだ。
わたしはノックをした。
「どうぞ」
父さまの声がしてわたしはドアを開けて中に入った。
鏡台の前で母さまは髪を梳いていた。櫛はわたしたちがプレゼントしたものを今も大切に使ってくれている。
父さまはソファーに腰掛けていた。
「リディー」
「どうしたの? あんなによく眠っていたのに」
母さまがそばに来て、わたしの頬を両手で挟む。
「目が覚めたの。今日、全然話せなかったから、少しお話しできないかと思って」
父さまと母さまは目を合わせている。
「ベッドの中で話そうか」
父さまがベッドに入って、わたしにおいでと言った。
ガウンを脱いで、父さまの隣にゴロンとする。
その横に母さまも横になる。
少しだけ父さまに抱きついて、母さまにも抱きつく。母さまの匂いだ。
「ほら、ちゃんと上掛けをかけて」
「友達ができたの」
わたしは話し始めた。レニータとキャシーとジョセフィン とダリア。同じ清掃班になった子たちだと。
父さまたちはただ頷いて聞いてくれたので、とにかく喋りまくった。
順番もめちゃくちゃだったし、思ったことも一緒に話したりしたので、意味不明なことばかりだったと思う。だけどただただ聞いてくれることが嬉しくて、わたしは話した。
副委員になってしまったこと。アイデラという不思議な子のこと。貴族をよく思っていないイシュメルのこと。同じクラスの貴族なのに、なんかわたしを嫌っているようなオスカー・ボビーのこと。副委員になって頭にきたけれど、オスカーも風紀委員にしてやったので、きっと仕事量は多いだろうからザマアミロと思っていること。
ポイント制だけど、うまくポイントを溜められるか不安なこと。兄さまたちがポイントでお昼ご飯を豪華にしてくれたこと。寮がダイエット食のようなので、ランチで補充できて嬉しかったこと。でも、食事事情は何とかしなくちゃと思えたこと。
寮母が意地悪そうだったこと。清掃をきちんとやったら監督班にされてしまったこと。寮長のガネットを少し怖く感じたこと。
平民用の寮はこういうものなのかと男子寮のことを聞いたら、ご飯が女子寮よりもきちんとしていたこと。それでおかしいと思ったので、調べ始めたこと。
図書室は吹き抜けの壁がぎっしり本棚になっていて、あの本をどうやってとるんだろうと思ったこと。寮史の本は面白そうで、じっくり読みたいと思っていること。組織図を見て寮のことは生活部の管轄だとわかったので、生活部の先生を訪ねたこと。寮で一番偉いのは誰かと尋ねたら生徒だと言われたので、何だか嬉しくなったこと。
心が止まる。しゅんと縮こまる。
【リディーは学園に通わなくてもいいんじゃないかな?】
兄さまの言葉が耳に蘇る。
「ん、どうしたリディア?」
「心配をかけて……兄さまが学園に通わなくてもいいんじゃないかって……父さまたちもそう思ってる?」
ドギマギしながら尋ねてみた。
「この3日でいろいろなことがあったようだね?」
父さまに尋ねられてわたしは頷いた。
「確かに心配ではあるが、学園に行くことでリディーは得ていることも確かにある。それに、リディーはどうしたいんだ? 学園に通いたいのか、行きたくないのか」
「行きたい。でも兄さまや父さまたちが反対するのなら、行くべきではないのかなって思えて……」
父さまの大きな手がわたしの頬に置かれる。
「行きたいのなら、父さまたちはその気持ちを応援するよ。兄さまも心配はしているけれど同じ気持ちなはずだ。それにしても、寮は少し困りごとだね、風邪もひいたことだし。父さまから学園に話をしようか?」
わたしは首を横に振った。
「寮のこと、わたしたちのことだから。わたしたちでやってみる。でも相談に乗ってもらうかも」
そういうと父さまはわかったと頷いてくれた。
「クラスにも個性的な子がいるようだね」
「うん、初めて会うタイプ」
「リディーは押し付けようとしていると感じたのに、そのアイデラさんとボビーくんを嫌だとは感じていないようだね」
「嫌と感じるまで、まだ知らないから。あ、でも知らなくても、近寄りたくない子はいるの」
「それはだぁれ?」
母さまに尋ねられてわたしは言った。
「聖女候補のふたり。アイリス・カートライト令嬢と、ルーシー・ユーハン令嬢」
ノックの後、スカートにダインをくっつけたピドリナが顔を出す。
「夕飯、お腹すいた!」
言われて思い出したように、元気よくエリンが立ち上がる。
「そうだな、夕飯にしよう。リディーはどうする?」
「わたしは部屋に戻ってるね」
父さまに、お茶の時に合流するといって部屋に戻る。
部屋に戻るともふもふ軍団はぬいぐるみ防御を解いた。
「アリ、ごめんねー」
妹の暴挙を謝る。
『防御で痛くないから大丈夫。エリンはすぐ投げる』
『ノエルはギュって握りしめる』
あの子たちってば。
「ごめんね。次の誕生日にはみんなのこと教えようかと思っているんだけど。ちょっとしたところで口を滑らしそうで躊躇っちゃうんだよね」
それで今まで教えられなかった。
『リディア、ベッドに入れ』
もふさまに言われる。わたしは頷いて、ガウンを脱ぎ、ベッドに横になる。
みんなが周りに入ってきた。ベアとアリとクイは足元の上掛けの上に丸くなる。定位置だ。
『学園はどうだったのだ?』
「始まったばかりだから何とも言えないけど、大変なこともありそう。でも友達もできたし、楽しい予感がする。寮がね、ちょっと不安だけど」
『さっきも言ってたな。そんなにおかしいのか?』
「他の寮と違いすぎるんだよね。貴族だけの寮と格差があるのは仕方ないことだったとしても、男子寮と女子寮で違いがある気がするんだ。これはどこかでおかしなことになっていると思う」
いつの間にか眠ってしまったようだ。カーテンの隙間から見える外の様子も暗く、もう夜だった。
みんなとお茶をするはずだったのに。
父さまと母さまに話そうと思っていたのに。
もう一度眠ってしまおうとも思ったが、まだ父さまと母さまは起きているかもしれないと思い直した。
もふさまもアオもレオも深く眠っている。ベアもアリもクイも寝息が聞こえた。
ベッドを降りてみても誰も起き上がらなかった。
室内ばきを履いてガウンを着て、部屋を出る。父さまたちの寝室の隙間から明かりが漏れている。よかった、起きているみたいだ。
わたしはノックをした。
「どうぞ」
父さまの声がしてわたしはドアを開けて中に入った。
鏡台の前で母さまは髪を梳いていた。櫛はわたしたちがプレゼントしたものを今も大切に使ってくれている。
父さまはソファーに腰掛けていた。
「リディー」
「どうしたの? あんなによく眠っていたのに」
母さまがそばに来て、わたしの頬を両手で挟む。
「目が覚めたの。今日、全然話せなかったから、少しお話しできないかと思って」
父さまと母さまは目を合わせている。
「ベッドの中で話そうか」
父さまがベッドに入って、わたしにおいでと言った。
ガウンを脱いで、父さまの隣にゴロンとする。
その横に母さまも横になる。
少しだけ父さまに抱きついて、母さまにも抱きつく。母さまの匂いだ。
「ほら、ちゃんと上掛けをかけて」
「友達ができたの」
わたしは話し始めた。レニータとキャシーとジョセフィン とダリア。同じ清掃班になった子たちだと。
父さまたちはただ頷いて聞いてくれたので、とにかく喋りまくった。
順番もめちゃくちゃだったし、思ったことも一緒に話したりしたので、意味不明なことばかりだったと思う。だけどただただ聞いてくれることが嬉しくて、わたしは話した。
副委員になってしまったこと。アイデラという不思議な子のこと。貴族をよく思っていないイシュメルのこと。同じクラスの貴族なのに、なんかわたしを嫌っているようなオスカー・ボビーのこと。副委員になって頭にきたけれど、オスカーも風紀委員にしてやったので、きっと仕事量は多いだろうからザマアミロと思っていること。
ポイント制だけど、うまくポイントを溜められるか不安なこと。兄さまたちがポイントでお昼ご飯を豪華にしてくれたこと。寮がダイエット食のようなので、ランチで補充できて嬉しかったこと。でも、食事事情は何とかしなくちゃと思えたこと。
寮母が意地悪そうだったこと。清掃をきちんとやったら監督班にされてしまったこと。寮長のガネットを少し怖く感じたこと。
平民用の寮はこういうものなのかと男子寮のことを聞いたら、ご飯が女子寮よりもきちんとしていたこと。それでおかしいと思ったので、調べ始めたこと。
図書室は吹き抜けの壁がぎっしり本棚になっていて、あの本をどうやってとるんだろうと思ったこと。寮史の本は面白そうで、じっくり読みたいと思っていること。組織図を見て寮のことは生活部の管轄だとわかったので、生活部の先生を訪ねたこと。寮で一番偉いのは誰かと尋ねたら生徒だと言われたので、何だか嬉しくなったこと。
心が止まる。しゅんと縮こまる。
【リディーは学園に通わなくてもいいんじゃないかな?】
兄さまの言葉が耳に蘇る。
「ん、どうしたリディア?」
「心配をかけて……兄さまが学園に通わなくてもいいんじゃないかって……父さまたちもそう思ってる?」
ドギマギしながら尋ねてみた。
「この3日でいろいろなことがあったようだね?」
父さまに尋ねられてわたしは頷いた。
「確かに心配ではあるが、学園に行くことでリディーは得ていることも確かにある。それに、リディーはどうしたいんだ? 学園に通いたいのか、行きたくないのか」
「行きたい。でも兄さまや父さまたちが反対するのなら、行くべきではないのかなって思えて……」
父さまの大きな手がわたしの頬に置かれる。
「行きたいのなら、父さまたちはその気持ちを応援するよ。兄さまも心配はしているけれど同じ気持ちなはずだ。それにしても、寮は少し困りごとだね、風邪もひいたことだし。父さまから学園に話をしようか?」
わたしは首を横に振った。
「寮のこと、わたしたちのことだから。わたしたちでやってみる。でも相談に乗ってもらうかも」
そういうと父さまはわかったと頷いてくれた。
「クラスにも個性的な子がいるようだね」
「うん、初めて会うタイプ」
「リディーは押し付けようとしていると感じたのに、そのアイデラさんとボビーくんを嫌だとは感じていないようだね」
「嫌と感じるまで、まだ知らないから。あ、でも知らなくても、近寄りたくない子はいるの」
「それはだぁれ?」
母さまに尋ねられてわたしは言った。
「聖女候補のふたり。アイリス・カートライト令嬢と、ルーシー・ユーハン令嬢」
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