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6章 楽しい学園生活のハズ
第236話 寮の1日目
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灯りの魔具を片手に、恐る恐る歩みを進める。
絶対、原因はある。それが証拠に変な音が一瞬確かに聞こえた。
下からだ。
最上階からひとつ階段を降りる。
ドアがいくつも立ち並ぶ。
ここからだ。ちょうどわたしの部屋の下に位置している。
ドアに耳をつけるようにして、音を確認する。
鼻をすするような音が。
ノックをする。
反応はなく、音は止まない。
ええいっ。
ドアは簡単に開いた。
わたしの灯りの魔具が目の前の塊を照らすと、その塊がごそっと動いた。
驚いた顔で振り返ったのがふたり。もうひとりは立ち上がり、さらにひとりはタタっと壁に走り寄る。部屋の灯りをつけたようだ。灯りが室内全体を照らした。
あれ、この子たち清掃班が一緒の子たちだ。目と鼻が真っ赤。頰も濡れている。
「シュタイン……さま?」
「なんで?」
わたしは変な音が気になり、眠れなくてここに来たんだと告げた。ノックをしたけれど返事がなかったので開けたのだと。
「私たち、泣いていたの」
!
いや、本人たちが切実なのはわかるが、そう主張するのがなんだかおかしくて。でも笑ったりしたら失礼だと思って、唇を噛みしめる。
ドアが開き急に人が入ってきたことに驚き涙が引っ込んだようだが。
どうやら寮が思っていたよりひどいところだったので幻滅していたのと、早くもホームシックにかかっていたようだ。それでも寝ようとしたところにゴングロが出た。
「それは何?」
と尋ねれば、黒光りし、地を這うくせに飛ぶこともでき、1匹いたら30匹いると思えと言われる、汚いところが大好きで生命力がやたらと強い虫のような生き物だという。Gだ、絶対。異世界にもいたか! わたしは部屋の壁と床に目を走らせる。うう、出てきたら嫌だな。寮母に告げれば、寮にはゴングロが付きものだとそんなことで騒ぐなと怒られたらしい。それでシクシクと涙が止まらなくなってしまったのだと。
寝具は寒いし、食事も少なかったし、泣けてきて仕方なかったという。
失礼して寝具を触らしてもらう。わたしの部屋のものよりもっとひどいものだった。ぺちゃんこだし、湿気も帯びている。部屋も埃とカビの匂いがすごい。さすがに可哀想と思って、わたしの部屋に誘ってみた。
貴族の部屋は違ったのかと言われたので、広さはあるのと、布団などもう少しましだが同じようなものだと告げた。ただ先ほど、掃除をしたし、寝具も家から持ち込んだものに変えたのでここよりはいいと思うというと、みんなに「本当にいいの?」と尋ねられる。
わたしは頷いた。
部屋に入ると、広さに驚き感動している。誰かのお腹が鳴ったので、ショートブレッドでお茶にした。お腹にものを入れると、頬に赤みが戻ってきた。明日の朝が早いので眠ろうと促す。大きなベッドだったので、小さな少女5人が寄り添って寝るにはちょうどよかった。
掛け布団があったかいと言われて、そうでしょと自慢しておく。みんなお金を溜めていつか布団を買ってくれると言った。紹介制でしか買えないから、みんなにはわたしが紹介者となるねと話をしながら眠った。
朝がやってきた。わたしの部屋には時計がある。6時10分になったのでみんなを起こした。玄関前に集合することにして、部屋に戻ってもらい、わたしも着替えた。
ミス・スコッティは意地悪そうな目を向ける。
みんな揃っているのを確認すると、つまらなそうに鼻を鳴らした。
箒とちりとり、雑巾、バケツなどを渡されて、上から掃除をするように言われた。みんな掃除をしたことがあるというので、別れてやることにする。わたしがひとりで5階。あとはふたりずつ組みになり、4階と3階、2階と1階チームに別れてもらう。ひとりが箒で掃き清めている間に、雑巾を請け負う子には先に窓枠をきれいにするように説いた。
首を傾げながらも昨日の恩を感じてか、その通りにすると言ってくれた。
みんなで別れて作業開始だ。
貴族部屋と物置のある5階を担当する。窓を全部開けて、手早く桟なども拭いていく。そして箒で埃を集め、その後に水拭きしていく。あとはクリーン込みで乾かした。30分かかってしまった。
下に行けば、4階は終わっていて、3階の水拭きを頑張っていた。わたしも少し手を貸す。
2階に降りて行けば終わっていて、1階の玄関の掃除を手間取っていた。みんなで協力してきれいにしていく。
7時25分、食事の始まる5分前に掃除を終え、ミス・スコッティに報告する。本当にもう終わったのか、早く終わらせたくていい加減にやったのではないかと散々言われる。わたしは寮母にいい感情を持てなかった。
上からチェックをしてきて、
「だいたいきれいにできているようですね」
と幾分悔しそうに言った。わたしもチェックしたし、クリーンをかけたからね。汚いなんてありえないから。
そう言ってから「でも、隅まで掃除できないものなのです」と窓の桟に指を這わせた。そして埃がつかなかったから驚いている。
「あら、ここもきれいにしたのですね。よく気がつかれたこと」
一瞬悔しそうだったが、ニンマリとする。
「掃除が得意なようだから、他の方にも教えてあげてください。あなたたちが掃除の先生となって、他の新入生にもきれいにさせるように。汚れているのを見つけたら、あなたたちを罰しますからね?」
と言いやがった。
「さあ、朝ごはんの時間ですよ。8時で食堂は閉まりますからね。時間厳守で動くのですよ」
朝ごはんは硬いパンとスープのみだった。食事の時間が30分とは?と思ったけれど、この量なら30分でも十分すぎるだろう。
先輩たちはただ咀嚼している。驚いた様子はない。
新入生たちは、スープにパンを浸して食べている。
これが普通なのか?
わたしは心の中で唸っていた。
絶対、原因はある。それが証拠に変な音が一瞬確かに聞こえた。
下からだ。
最上階からひとつ階段を降りる。
ドアがいくつも立ち並ぶ。
ここからだ。ちょうどわたしの部屋の下に位置している。
ドアに耳をつけるようにして、音を確認する。
鼻をすするような音が。
ノックをする。
反応はなく、音は止まない。
ええいっ。
ドアは簡単に開いた。
わたしの灯りの魔具が目の前の塊を照らすと、その塊がごそっと動いた。
驚いた顔で振り返ったのがふたり。もうひとりは立ち上がり、さらにひとりはタタっと壁に走り寄る。部屋の灯りをつけたようだ。灯りが室内全体を照らした。
あれ、この子たち清掃班が一緒の子たちだ。目と鼻が真っ赤。頰も濡れている。
「シュタイン……さま?」
「なんで?」
わたしは変な音が気になり、眠れなくてここに来たんだと告げた。ノックをしたけれど返事がなかったので開けたのだと。
「私たち、泣いていたの」
!
いや、本人たちが切実なのはわかるが、そう主張するのがなんだかおかしくて。でも笑ったりしたら失礼だと思って、唇を噛みしめる。
ドアが開き急に人が入ってきたことに驚き涙が引っ込んだようだが。
どうやら寮が思っていたよりひどいところだったので幻滅していたのと、早くもホームシックにかかっていたようだ。それでも寝ようとしたところにゴングロが出た。
「それは何?」
と尋ねれば、黒光りし、地を這うくせに飛ぶこともでき、1匹いたら30匹いると思えと言われる、汚いところが大好きで生命力がやたらと強い虫のような生き物だという。Gだ、絶対。異世界にもいたか! わたしは部屋の壁と床に目を走らせる。うう、出てきたら嫌だな。寮母に告げれば、寮にはゴングロが付きものだとそんなことで騒ぐなと怒られたらしい。それでシクシクと涙が止まらなくなってしまったのだと。
寝具は寒いし、食事も少なかったし、泣けてきて仕方なかったという。
失礼して寝具を触らしてもらう。わたしの部屋のものよりもっとひどいものだった。ぺちゃんこだし、湿気も帯びている。部屋も埃とカビの匂いがすごい。さすがに可哀想と思って、わたしの部屋に誘ってみた。
貴族の部屋は違ったのかと言われたので、広さはあるのと、布団などもう少しましだが同じようなものだと告げた。ただ先ほど、掃除をしたし、寝具も家から持ち込んだものに変えたのでここよりはいいと思うというと、みんなに「本当にいいの?」と尋ねられる。
わたしは頷いた。
部屋に入ると、広さに驚き感動している。誰かのお腹が鳴ったので、ショートブレッドでお茶にした。お腹にものを入れると、頬に赤みが戻ってきた。明日の朝が早いので眠ろうと促す。大きなベッドだったので、小さな少女5人が寄り添って寝るにはちょうどよかった。
掛け布団があったかいと言われて、そうでしょと自慢しておく。みんなお金を溜めていつか布団を買ってくれると言った。紹介制でしか買えないから、みんなにはわたしが紹介者となるねと話をしながら眠った。
朝がやってきた。わたしの部屋には時計がある。6時10分になったのでみんなを起こした。玄関前に集合することにして、部屋に戻ってもらい、わたしも着替えた。
ミス・スコッティは意地悪そうな目を向ける。
みんな揃っているのを確認すると、つまらなそうに鼻を鳴らした。
箒とちりとり、雑巾、バケツなどを渡されて、上から掃除をするように言われた。みんな掃除をしたことがあるというので、別れてやることにする。わたしがひとりで5階。あとはふたりずつ組みになり、4階と3階、2階と1階チームに別れてもらう。ひとりが箒で掃き清めている間に、雑巾を請け負う子には先に窓枠をきれいにするように説いた。
首を傾げながらも昨日の恩を感じてか、その通りにすると言ってくれた。
みんなで別れて作業開始だ。
貴族部屋と物置のある5階を担当する。窓を全部開けて、手早く桟なども拭いていく。そして箒で埃を集め、その後に水拭きしていく。あとはクリーン込みで乾かした。30分かかってしまった。
下に行けば、4階は終わっていて、3階の水拭きを頑張っていた。わたしも少し手を貸す。
2階に降りて行けば終わっていて、1階の玄関の掃除を手間取っていた。みんなで協力してきれいにしていく。
7時25分、食事の始まる5分前に掃除を終え、ミス・スコッティに報告する。本当にもう終わったのか、早く終わらせたくていい加減にやったのではないかと散々言われる。わたしは寮母にいい感情を持てなかった。
上からチェックをしてきて、
「だいたいきれいにできているようですね」
と幾分悔しそうに言った。わたしもチェックしたし、クリーンをかけたからね。汚いなんてありえないから。
そう言ってから「でも、隅まで掃除できないものなのです」と窓の桟に指を這わせた。そして埃がつかなかったから驚いている。
「あら、ここもきれいにしたのですね。よく気がつかれたこと」
一瞬悔しそうだったが、ニンマリとする。
「掃除が得意なようだから、他の方にも教えてあげてください。あなたたちが掃除の先生となって、他の新入生にもきれいにさせるように。汚れているのを見つけたら、あなたたちを罰しますからね?」
と言いやがった。
「さあ、朝ごはんの時間ですよ。8時で食堂は閉まりますからね。時間厳守で動くのですよ」
朝ごはんは硬いパンとスープのみだった。食事の時間が30分とは?と思ったけれど、この量なら30分でも十分すぎるだろう。
先輩たちはただ咀嚼している。驚いた様子はない。
新入生たちは、スープにパンを浸して食べている。
これが普通なのか?
わたしは心の中で唸っていた。
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