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5章 王都へ

第216話 裁判①異例尽くし

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「リディーにお願いがあるんだ」

 神妙な顔で父さまが言った。鞄の店オープンを見届けた日、フォンタナ家に帰ってきてご飯をいただいた後のことだ。とても大事なことを言おうとしているんだと感じて、わたしは背筋を伸ばした。

「怖いことを思い出させることになるのは気がひけるが、父さまはリディーに乗り越えて欲しい。あったことに怯えるのではなくて、ひとつひとつ対処して終わらせて、力にしていって欲しいんだ。
 リディアは父さまの自慢の娘だ。大きくなるに従って、いろいろな困難がお前の前に立ちはだかるだろう。その時に乗り越えたという証がお前の力になってくれる。だからあの怖かった出来事を、一緒に終わらせて乗り越えよう」

 差し出された手に手を出して頷く。父さまもゆっくり頷いた。

「リディーは聞かれたことに答えるだけでいい」

「答えるだけ?」

 父さまは首を傾げるわたしに肝心なことを言ってなかったと思い出したみたいだ。

「裁判で証言をして欲しい」

 さ、裁判ですとーーーー?



 いよいよ明日が裁判という日、父さまに神殿に行こうと言われた。やだなぁと思った。わたしの隠蔽はわりとレベルアップしているから大丈夫だとは思うが、王都って魔力の高い人がゴロゴロいるという。なんとなく、わたしより魔力の高い人には、バレるのではないかと気がきじゃないんだよ。そう伝えたら、レオが自分がやろうかと言ってくれた。もふさま曰く、自分より劣るがレオも魔力は高いそうだ。それならと、レオにお願いすることにした。
 アイリス嬢は連れさられたわけじゃない。それなのに、追跡の魔具はアイリス嬢に接触してきた犯人を追跡したのだ。魔力が高い人が魔具に力を吹き込むとそんなことまでできてしまう。これは凄い発見らしい。犯罪者が町にいる時など、どこにいるかわかるようにする魔具、あれはバカ高いらしいが、追跡の魔具で魔力の高いものが魔力を注げば精度が高くなるなら、追跡の魔具でことすむ。
 事例がアイリス嬢だけなので他にもデータをとりたい意味もあるのだろう。
 レオは気負うことなく、簡単にやってくれた。レオにお礼をいえば、嬉しそうにシッポを揺らした。もふさまは自分がいれば、わたしを追跡できなくても問題なかろう、そんなことは起こらないのだからと、少しぷりぷりしている。軽く抱きついて頼りにしているというと機嫌がなおった。抱きついていると間にアオとレオが入ってくる。遊びだと思っているのかも。
 前日はゆったりと過ごした。



 異例づくしの裁判となった。証言者のひとりが被害者である伯爵令嬢、5歳であることを考慮された結果だ。ギャラリーは絞られ、令嬢の姿が好奇の目に晒されないよう配慮された。5歳ゆえ大人たちの剣呑とした雰囲気では何も話せなくなるのではと、リラックスできる空間を打ち出すことになり、裁判席にソファーが置かれるという珍事が起きた。しかも5歳の幼女(わたし)はいつも一緒の犬(もふさま)と一緒に裁判に臨んだ。

『魔力が恐ろしく多いものがゴロゴロいるぞ』

 返事をする代わりに、わたしはもふさまの頭を撫でた。
 父さまに連れられて入ってきたが、父さまは発起人であるので一緒にいられないらしく、身なりのいい優しそうな女性が隣で世話役をつとめてくれた。

 裁判に参加するのは初めてだ。前世でもテレビドラマの裁判のシーンを見たことがあるぐらい。
 法廷というより劇場のようだ。舞台スペースと観客席スペースに分かれていて、裁判に参加する人が舞台スペースに、傍聴人は観客席にという感じだろうか。
 正面の少し高くなったところにまだ人がきていない席がある。恐らく裁判長の席だろう。その左右に置かれた机にはピシッとした格好をし、青いマントをつけた人がいた。
 マントまでが制服なのだろう。そのマントを着ても暑くないような空調が施されている。部屋が寒いので長袖を着てくるよう言われたが、このためだったのね。わたしは半袖の大人しめのドレスに暖かいケープを着込んでいる。

 舞台の左側には緑のマントがふたりと、右側には赤いマントのふたり。検察側と弁護人側って感じかな? わたしのソファーの向こうには、手首を拘束された人が椅子に座っている。ガルッアロ伯だろう。容疑者と被害者だね。そしてその中央には裁判長の前で話すような席がある。きっとあそこで証言するんだ。
 部屋には5カ所の出入り口があるがその赤いマント側の人たちの背中に当たる入り口から拘束されたカークさんが入ってきた。
 彼はわたしと目が合うと、ふっと笑う。
 隣の女性はわたしを慌てて抱きかかえ、カークさんからの視線を遮った。カークさんは緑のマントの人たちに連なって座った。

『怖いか?』

 もふさまが唸る。

「だいじょぶ」

 実はやはりちょっと怖く感じるかなと思って不安だったけど、なんともなかった。後ろの傍聴席では父さま、兄さまたちが身を乗り出していた。わたしは頷いて見せる。ポシェットはシヴァが持つことになったみたいだ。アオとレオが入っているポシェットをシヴァが首からぶら下げていたので、笑いそうになってしまった。わたしに合わせたポシェットだからファンシーだし、シヴァが首にかけると胸よりも上にポシェットがきていて、アンバランスなんだもん。
 笑いそうになって、緊張していたのがほぐれてきた。

「第一書記官が入室されます、ご起立ください」

 隣の人にソファーから下ろしてもらって立ちあがる。
 入ってきたのは黒いマントのおじいさんだった。裁判長の席につく。裁判長じゃなくてここでは第一書記官というんだね、きっと。

「礼」

 と号令がかかり、わたしも倣ってカーテシーをした。
 女性がソファーに座らせてくれた。
 もふさまがわたしの横にお座りする。

 第一書記官さまは、最初にこの裁判が普通とは違う非公開のものであること、被害者が幼いことを考慮し、柔軟な姿勢でのぞむ必要があることを説いた。
 緑のマントの人たちは〝発起人〟と呼ばれた。訴えた父さまの代理人というところだろう。理路整然とした訴えが静かに朗読される。殺害とか怖い言葉が入っているのに、淡々と書式に則った文章になると、全然大したことじゃないっていうか、現実味が薄くなる気がした。わたしはあの時とても怖かったのに。あの時、ひとつ間違えればわたしは二度と家族と会えなかったかもしれないのに。淡々とした儀式めいたここでは、そんな感情はひとつも役に立たないのだと言われている気がする。

 審議は昨年の11月、シュタイン伯第三子のリディア・シュタイン5歳が拐われ人売りに売りつけられた件についてだ。令嬢を拐った者はガルッアロ伯に令嬢殺害をするよう脅されたという。今日は幼い子を人売りに売った罪、経緯を審議する場ではなく、焦点はこの件にガルッアロ伯が関わり罪があるかどうかを明らかにする場だ。
 ガルッアロ伯が証言台に呼び出され、既述に間違いがないか問われる。ガルッアロ伯は堂々と、私には身に覚えのないことだと告げた。

 ちなみにガルッアロ伯は父さまたちの監禁と暴行で3年の強制労働が決まっている。ガルッアロ伯は父さまが少々痛めつけられたことを根に持ち、3年の強制労働では生温いと、新たな罪をでっち上げているんだと憎々しげに言った。
 赤いマントの人たちは被疑者の弁護をする人たちみたいだ。第一書記官さまに促され、確かにシュタイン伯と喧嘩のようになり監禁したことは認め、罰を受けることも決まっているが、この件は濡れ衣だと主張した。
 前の裁判でもガルッアロ伯は監禁なんかしていないと逃れようとしたけれど、踏み込んだ状況が状況で、目撃者が多かったので実刑を受けたのだ。

 その調べの中で、ではなぜ、シュタイン伯を監禁したか取り沙汰され、昨年の11月に起きたわたしの殺人示唆についての疑惑が生まれた。そして時を同じくして、ガルッアロ伯の指示でカークさんを脅したゴロツキが捕まった。それでこの裁判に漕ぎ着けることができるようになったのだという。

 カークさんが証言台に立つ。
 第一書記官さまは今日は実行犯であるカークさんの罪を裁くための法廷ではないが、その証言のせいで自分が不利になることもあるから、よく考えて口にするよう忠告があった。
 わたしを誘拐して人売りに売りつけた、間違いがないかと問われ、カークさんは間違いありませんと言った。なぜ令嬢を誘拐したのかと問われれば、そうしろと脅されたからだと答えた。誰に脅されたのですか?と問われ、カークさんは少し後ろを向いて、ガルッアロ伯を指差した。

「それは確かですか?」

「はい」

「嘘を言うな! 私はお前など知らん。会ったこともない。第一書記官さま、お調べください、私はこんなものとあったことはございません。そこのシュタイン伯がそのものと結託して私を陥れようとしているのです!」

 書記官さまは左右の青マントの人と少し話し、カークさんに詳しく依頼を受けた時のことを話すようにいい、ガルッアロ伯には口を出さないよう注意した。
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