プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
208 / 799
5章 王都へ

第208話 旅は道連れ

しおりを挟む
「知り合い、ですか?」

 ブライドさんに尋ねる。

「ハンソン伯のアダムご子息です。ハンソン伯にはよく取引をさせていただいています」

 取引先か。

「私の方が教えてほしいな。なぜブライトとリディア嬢が手を繋いで、この町にいるのか。それから、会うたびに、君は驚くべき格好をしている」

「理由があり、行動しているだけです。それでは、ごきげんよう」

 わたしはブライトさんの手を引っ張り歩こうとした。

「それはなぜなのか、教えてくれないのかい?」

「教えるような仲ではないと思いますが?」

 と言えば、傷ついた顔をする。
 今、父さまもアルノルトも兄さまたちもいない。だからわたしは、自分で自分を守るのに最大限気をつけている。
 ブライドさんがハンソン伯の子息って認識しているみたいだし、近いうちに王都に帰るって言ってたから、警戒することはないのだろうけどね。


「王都に行くんだね? お兄さんたちに会いに」

 キュッと口を結ぶ。

「私も王都に行くんだ。行き先が同じなんだ。一緒に行かないか?」

「一緒にでございますか?」

「リディア嬢、ウチの馬車に乗らないか? ブライドも。退屈だったんだ」

 ブライドさんがわたしとアダムを交互に見て困っている。ブライドさんの取引先なら無碍にすることもできないのだろう。

「アダムさま、申し訳ありません。詳しくは話せませんが、お嬢さまをお守りする任を負っております。何卒、ご容赦ください」

「……守るならもっといい方法があるよ。彼女を妹のベスということにしてウチの馬車で行く。それなら貴族からの何かがあっても私が守れるよ?」

 お前も子供だろうがとわたしは心の中でツッコミを入れた。

「それはそうかもしれませんが、ええと、それは契約と反するというかですね、私が離れないよう言いつかっておりますし」

「だからブライドもウチの馬車に乗って。商団はその後からついてきてもらえばいい」

「……ですが」

「商人が貴族の女の子に平民の格好をさせて連れて歩いているって、警備の人に告げてこようか?」

 アダムは一人で帰るのによっぽど退屈していたらしい。
 父さまからの依頼書もあるだろうし、わたしも証言すればブライドさんが不利になることはない。ただ足止めされるぐらいだ。
 だが、ブライドさんが顔を青くしている。取引先の坊ちゃんだもんね、どちらかを立てるのも都合が悪く板挟みになっている。……仕方ない。

「わかりました。そちらの馬車に乗ればいいんですね?」

 わたしが顔をあげれば、アダムは嬉しそうにする。

「妹のふりをしてくれ」

 それはする必要はないと拒否してみたが、なんだかんだと丸め込まれ、アダムが買ってきた服を着せられる。
 夕飯も一緒にいただく。ブライドさんが居心地悪そうで気の毒だった。
 アダムはお兄ちゃんぶりを発揮して、嬉々としてわたしの世話を焼く。普段からこんなベスちゃんを甘やかしているの? ああ、だからベスちゃんがちょっと幼く見えたのか。兄さまたちだって、ここまでいちいちしないからね。いや、しそうだったのをわたしがダメ出ししたんだっけ。
 お兄さまと呼べとうるさいので、そう呼べば満足気だ。
 馬車は乗り心地がいい上、甘やかされ至れり尽くせりで快適な旅になった。道すがら、特産品のようなおいしいものもいただいた。

 旅も終盤に差し掛かった頃、困った貴族との諍いがあった。ランパッド商会の一行だとわかると、その場で取り引きを持ちかけてきた。ところが、今回は商品を集めながら王都まで運ぶだけと絞っているので、余剰品はない。わたしを守るため、誰かとの接触を避けた結果らしい。売ることができないと言うと、逆上した。
 そこにアダムが出て行きおさめた。バックが父親の伯爵だからってのもあるけど、12歳の男の子が場を収められるなんてスゴイことだと思う。

 あと半日もすれば王都というときも、馬車の中では平和に兄妹ごっこをしていた。
 もふさまが急に顔をもたげた。
 もふさま?

『あいつの気配だ。こっちに向かってきてる』

 あいつ、誰だろう? アダムとブライドさんが、いるから聞くことができない。
 馬車が急停車した。もふさまと一緒に飛びあがったわたしをアダムが抑えてくれた。わたしの首からかけたポシェットの中のアオがぎゅーっと潰れている。
 馬車のドアが勢いよく開く。
 ドアを開けたのは。
 シヴァだ!

「お嬢!」

 手を差し出され抱きかかえられ、馬車から降りる。

「シヴァ、どうしたの? 迎えに来てくれたの?」

 もふさまがシュタッと馬車を降りると、シヴァは剣を抜いた。
 剣!

「ど、どうしたの?」

「何者だ? どうして、お嬢さまを王都に連れてきた?」

「シヴァ、剣を下ろして! 父さまから聞いてない? ブライドさんは父さまが頼んだランパッド商会の方で、こちらはハンソン伯のご子息のアダムさま。途中で会って目的地が同じ王都だから一緒の馬車に乗せてもらっていたの」

「お嬢、ジュレミーはお嬢を王都に呼んでいません」

 え?

「……伝達魔法が……」

「それが誰かがジュレミーの名を騙って送ったもののようです」

「わ、私は本部から連絡が来て、その通りにしているだけです!」

 ブライドさんが勢い込んで言った。
 鞄をゴソゴソとやって、紙を突き出してくる。父さまからの依頼書かな?

「確かに、ランパッド商会にもジュレミーからの依頼がいったようだ」

 ブライドさんが胸を撫で下ろす。

「だが、依頼を引き受けるはずだったブライド氏は南の地に出張中とのことだ」

 え?

「待ってください、リディア嬢、その方はあなたの知り合いのようですが、本人ですか?」

 え?

「何を?」

「私からすれば、急に馬車を止め、乗り込んできて令嬢を小脇に抱え我々に剣を向けるあなたも十分、怪しいです。リディア嬢、何も信じてはいけません、全て疑ってかかるのです。その者は、本当にあなたの知る、あなたの信頼する者ですか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」 パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。 夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる…… 誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

処理中です...