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5章 王都へ
第208話 旅は道連れ
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「知り合い、ですか?」
ブライドさんに尋ねる。
「ハンソン伯のアダムご子息です。ハンソン伯にはよく取引をさせていただいています」
取引先か。
「私の方が教えてほしいな。なぜブライトとリディア嬢が手を繋いで、この町にいるのか。それから、会うたびに、君は驚くべき格好をしている」
「理由があり、行動しているだけです。それでは、ごきげんよう」
わたしはブライトさんの手を引っ張り歩こうとした。
「それはなぜなのか、教えてくれないのかい?」
「教えるような仲ではないと思いますが?」
と言えば、傷ついた顔をする。
今、父さまもアルノルトも兄さまたちもいない。だからわたしは、自分で自分を守るのに最大限気をつけている。
ブライドさんがハンソン伯の子息って認識しているみたいだし、近いうちに王都に帰るって言ってたから、警戒することはないのだろうけどね。
「王都に行くんだね? お兄さんたちに会いに」
キュッと口を結ぶ。
「私も王都に行くんだ。行き先が同じなんだ。一緒に行かないか?」
「一緒にでございますか?」
「リディア嬢、ウチの馬車に乗らないか? ブライドも。退屈だったんだ」
ブライドさんがわたしとアダムを交互に見て困っている。ブライドさんの取引先なら無碍にすることもできないのだろう。
「アダムさま、申し訳ありません。詳しくは話せませんが、お嬢さまをお守りする任を負っております。何卒、ご容赦ください」
「……守るならもっといい方法があるよ。彼女を妹のベスということにしてウチの馬車で行く。それなら貴族からの何かがあっても私が守れるよ?」
お前も子供だろうがとわたしは心の中でツッコミを入れた。
「それはそうかもしれませんが、ええと、それは契約と反するというかですね、私が離れないよう言いつかっておりますし」
「だからブライドもウチの馬車に乗って。商団はその後からついてきてもらえばいい」
「……ですが」
「商人が貴族の女の子に平民の格好をさせて連れて歩いているって、警備の人に告げてこようか?」
アダムは一人で帰るのによっぽど退屈していたらしい。
父さまからの依頼書もあるだろうし、わたしも証言すればブライドさんが不利になることはない。ただ足止めされるぐらいだ。
だが、ブライドさんが顔を青くしている。取引先の坊ちゃんだもんね、どちらかを立てるのも都合が悪く板挟みになっている。……仕方ない。
「わかりました。そちらの馬車に乗ればいいんですね?」
わたしが顔をあげれば、アダムは嬉しそうにする。
「妹のふりをしてくれ」
それはする必要はないと拒否してみたが、なんだかんだと丸め込まれ、アダムが買ってきた服を着せられる。
夕飯も一緒にいただく。ブライドさんが居心地悪そうで気の毒だった。
アダムはお兄ちゃんぶりを発揮して、嬉々としてわたしの世話を焼く。普段からこんなベスちゃんを甘やかしているの? ああ、だからベスちゃんがちょっと幼く見えたのか。兄さまたちだって、ここまでいちいちしないからね。いや、しそうだったのをわたしがダメ出ししたんだっけ。
お兄さまと呼べとうるさいので、そう呼べば満足気だ。
馬車は乗り心地がいい上、甘やかされ至れり尽くせりで快適な旅になった。道すがら、特産品のようなおいしいものもいただいた。
旅も終盤に差し掛かった頃、困った貴族との諍いがあった。ランパッド商会の一行だとわかると、その場で取り引きを持ちかけてきた。ところが、今回は商品を集めながら王都まで運ぶだけと絞っているので、余剰品はない。わたしを守るため、誰かとの接触を避けた結果らしい。売ることができないと言うと、逆上した。
そこにアダムが出て行きおさめた。バックが父親の伯爵だからってのもあるけど、12歳の男の子が場を収められるなんてスゴイことだと思う。
あと半日もすれば王都というときも、馬車の中では平和に兄妹ごっこをしていた。
もふさまが急に顔をもたげた。
もふさま?
『あいつの気配だ。こっちに向かってきてる』
あいつ、誰だろう? アダムとブライドさんが、いるから聞くことができない。
馬車が急停車した。もふさまと一緒に飛びあがったわたしをアダムが抑えてくれた。わたしの首からかけたポシェットの中のアオがぎゅーっと潰れている。
馬車のドアが勢いよく開く。
ドアを開けたのは。
シヴァだ!
「お嬢!」
手を差し出され抱きかかえられ、馬車から降りる。
「シヴァ、どうしたの? 迎えに来てくれたの?」
もふさまがシュタッと馬車を降りると、シヴァは剣を抜いた。
剣!
「ど、どうしたの?」
「何者だ? どうして、お嬢さまを王都に連れてきた?」
「シヴァ、剣を下ろして! 父さまから聞いてない? ブライドさんは父さまが頼んだランパッド商会の方で、こちらはハンソン伯のご子息のアダムさま。途中で会って目的地が同じ王都だから一緒の馬車に乗せてもらっていたの」
「お嬢、ジュレミーはお嬢を王都に呼んでいません」
え?
「……伝達魔法が……」
「それが誰かがジュレミーの名を騙って送ったもののようです」
「わ、私は本部から連絡が来て、その通りにしているだけです!」
ブライドさんが勢い込んで言った。
鞄をゴソゴソとやって、紙を突き出してくる。父さまからの依頼書かな?
「確かに、ランパッド商会にもジュレミーからの依頼がいったようだ」
ブライドさんが胸を撫で下ろす。
「だが、依頼を引き受けるはずだったブライド氏は南の地に出張中とのことだ」
え?
「待ってください、リディア嬢、その方はあなたの知り合いのようですが、本人ですか?」
え?
「何を?」
「私からすれば、急に馬車を止め、乗り込んできて令嬢を小脇に抱え我々に剣を向けるあなたも十分、怪しいです。リディア嬢、何も信じてはいけません、全て疑ってかかるのです。その者は、本当にあなたの知る、あなたの信頼する者ですか?」
ブライドさんに尋ねる。
「ハンソン伯のアダムご子息です。ハンソン伯にはよく取引をさせていただいています」
取引先か。
「私の方が教えてほしいな。なぜブライトとリディア嬢が手を繋いで、この町にいるのか。それから、会うたびに、君は驚くべき格好をしている」
「理由があり、行動しているだけです。それでは、ごきげんよう」
わたしはブライトさんの手を引っ張り歩こうとした。
「それはなぜなのか、教えてくれないのかい?」
「教えるような仲ではないと思いますが?」
と言えば、傷ついた顔をする。
今、父さまもアルノルトも兄さまたちもいない。だからわたしは、自分で自分を守るのに最大限気をつけている。
ブライドさんがハンソン伯の子息って認識しているみたいだし、近いうちに王都に帰るって言ってたから、警戒することはないのだろうけどね。
「王都に行くんだね? お兄さんたちに会いに」
キュッと口を結ぶ。
「私も王都に行くんだ。行き先が同じなんだ。一緒に行かないか?」
「一緒にでございますか?」
「リディア嬢、ウチの馬車に乗らないか? ブライドも。退屈だったんだ」
ブライドさんがわたしとアダムを交互に見て困っている。ブライドさんの取引先なら無碍にすることもできないのだろう。
「アダムさま、申し訳ありません。詳しくは話せませんが、お嬢さまをお守りする任を負っております。何卒、ご容赦ください」
「……守るならもっといい方法があるよ。彼女を妹のベスということにしてウチの馬車で行く。それなら貴族からの何かがあっても私が守れるよ?」
お前も子供だろうがとわたしは心の中でツッコミを入れた。
「それはそうかもしれませんが、ええと、それは契約と反するというかですね、私が離れないよう言いつかっておりますし」
「だからブライドもウチの馬車に乗って。商団はその後からついてきてもらえばいい」
「……ですが」
「商人が貴族の女の子に平民の格好をさせて連れて歩いているって、警備の人に告げてこようか?」
アダムは一人で帰るのによっぽど退屈していたらしい。
父さまからの依頼書もあるだろうし、わたしも証言すればブライドさんが不利になることはない。ただ足止めされるぐらいだ。
だが、ブライドさんが顔を青くしている。取引先の坊ちゃんだもんね、どちらかを立てるのも都合が悪く板挟みになっている。……仕方ない。
「わかりました。そちらの馬車に乗ればいいんですね?」
わたしが顔をあげれば、アダムは嬉しそうにする。
「妹のふりをしてくれ」
それはする必要はないと拒否してみたが、なんだかんだと丸め込まれ、アダムが買ってきた服を着せられる。
夕飯も一緒にいただく。ブライドさんが居心地悪そうで気の毒だった。
アダムはお兄ちゃんぶりを発揮して、嬉々としてわたしの世話を焼く。普段からこんなベスちゃんを甘やかしているの? ああ、だからベスちゃんがちょっと幼く見えたのか。兄さまたちだって、ここまでいちいちしないからね。いや、しそうだったのをわたしがダメ出ししたんだっけ。
お兄さまと呼べとうるさいので、そう呼べば満足気だ。
馬車は乗り心地がいい上、甘やかされ至れり尽くせりで快適な旅になった。道すがら、特産品のようなおいしいものもいただいた。
旅も終盤に差し掛かった頃、困った貴族との諍いがあった。ランパッド商会の一行だとわかると、その場で取り引きを持ちかけてきた。ところが、今回は商品を集めながら王都まで運ぶだけと絞っているので、余剰品はない。わたしを守るため、誰かとの接触を避けた結果らしい。売ることができないと言うと、逆上した。
そこにアダムが出て行きおさめた。バックが父親の伯爵だからってのもあるけど、12歳の男の子が場を収められるなんてスゴイことだと思う。
あと半日もすれば王都というときも、馬車の中では平和に兄妹ごっこをしていた。
もふさまが急に顔をもたげた。
もふさま?
『あいつの気配だ。こっちに向かってきてる』
あいつ、誰だろう? アダムとブライドさんが、いるから聞くことができない。
馬車が急停車した。もふさまと一緒に飛びあがったわたしをアダムが抑えてくれた。わたしの首からかけたポシェットの中のアオがぎゅーっと潰れている。
馬車のドアが勢いよく開く。
ドアを開けたのは。
シヴァだ!
「お嬢!」
手を差し出され抱きかかえられ、馬車から降りる。
「シヴァ、どうしたの? 迎えに来てくれたの?」
もふさまがシュタッと馬車を降りると、シヴァは剣を抜いた。
剣!
「ど、どうしたの?」
「何者だ? どうして、お嬢さまを王都に連れてきた?」
「シヴァ、剣を下ろして! 父さまから聞いてない? ブライドさんは父さまが頼んだランパッド商会の方で、こちらはハンソン伯のご子息のアダムさま。途中で会って目的地が同じ王都だから一緒の馬車に乗せてもらっていたの」
「お嬢、ジュレミーはお嬢を王都に呼んでいません」
え?
「……伝達魔法が……」
「それが誰かがジュレミーの名を騙って送ったもののようです」
「わ、私は本部から連絡が来て、その通りにしているだけです!」
ブライドさんが勢い込んで言った。
鞄をゴソゴソとやって、紙を突き出してくる。父さまからの依頼書かな?
「確かに、ランパッド商会にもジュレミーからの依頼がいったようだ」
ブライドさんが胸を撫で下ろす。
「だが、依頼を引き受けるはずだったブライド氏は南の地に出張中とのことだ」
え?
「待ってください、リディア嬢、その方はあなたの知り合いのようですが、本人ですか?」
え?
「何を?」
「私からすれば、急に馬車を止め、乗り込んできて令嬢を小脇に抱え我々に剣を向けるあなたも十分、怪しいです。リディア嬢、何も信じてはいけません、全て疑ってかかるのです。その者は、本当にあなたの知る、あなたの信頼する者ですか?」
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