プラス的 異世界の過ごし方

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5章 王都へ

第196話 動いた世論

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「リー、剣を拾え」

 うっ。重たい足を引きずって短剣を拾い上げる。
 容赦無く照りつける太陽と、汗で張り付いた服が気持ち悪い。

「構えろ」

「ロビ兄……」

「泣いてもダメだ。剣が嫌なら魔法でいいから弾け。行くぞ?」

 ロビ兄が長剣を立ててわたしに向かってくる。
 剣先がわたしに届きそうになった時、改良に改良を重ねわたしに張られたシールドが景気良く弾け、ロビ兄を10メートルは吹っ飛ばした。

「ロビ兄!」

「それでいい」

 地面に座り込んだままロビ兄は声をあげる。

「だ、大丈夫?」

 手を出せばつかまったわたしには体重をかけずに起き上がる。

「なんてことない。リーは気づくのや反応が遅いだけだ。気づいてからでもシールドがこうしてできればそこからは魔法で攻撃できるだろ?」

 春のお茶会が終わってから、ロビ兄のスパルタ塾が始まってしまった。シールドも改良を続け、攻撃をされるとカウンターで跳ね返す膜を張っている。
 ダンジョンで出てきた護りの魔具があることにするつもりだ。
 アラ兄が増幅の魔具を読み解いてくれたこともあり、魔力15の風を〝攻撃〟となるまで昇華させてくれたので、魔法で〝攻撃〟も可能だ。


 なぜわたしの強化が始まったかといえば、父さまが中央から呼び出しを受け、しばらく離れ離れになるからだ。領主は任命されたときと、数年に一度は陛下に挨拶をするものらしい。父さまの場合、緊急で決まり陛下からの辞令を受けただけでお城に行かないですんだ。ウチの領が落ち着き、それから砦も次期辺境伯をシヴァに認める手筈が整い、同時に呼び出されたようだ。
 父さまは兄さまと双子を王都に連れて行くと言った。

 連絡があってから、家族会議をした。弟か妹の存在をバレるまでは隠すべく、町外れの家にはなるべく人を入れないようにする。届けを出すのは3歳なので、4年近くまだ日がある。母さまはお腹が大きい間は家に籠るようにする。
 父さまの不在時は全ての決定権はアルノルトが持つ。始めた子供の出店は父さまが不在の間、閉めるつもりだったのだが、評判がよく物が売れているし、遠くから買いにきてくださる方もいるので、閉められないかもしれない。
 わたしはもふさまとお留守番だ。ロビ兄の不在中はもふさまがわたしを鍛えると張り切っていて、そこは気が重たい。

 兄さまは王都へ行くのを渋った。わたしがどこにも行っちゃ嫌だと言ったからかと、帰ってくるなら待っていられるんだと言ったけれど、うんと言わない。

「あと5年したらフランは学園に入るんだぞ。寮暮らしになる。最初の1年は王都にひとりだ。王都にはそれまでに何度か行っておくべきだ」

「……父さま、学園は絶対に行かないといけないの?」

 兄さまがすがるように父さまに尋ねた。

「フランツは学園に行きたくないのか?」

 思ってもなかったみたいで父さまは驚いている。

「勉強ならどこでもできる。それなのにわざわざ王都に行って、リディーと離れて、学ぶことがあるのか、そこがわからない」

 父さまがチラッとわたしを見た。
 いや、そこまで縛りつけたつもりはないけれど、兄さま、どこにも行っちゃ嫌だをそう受け取った?と焦る。

「確かに勉強はどこででもできるが、学園でしか学べないこともある」

「学園でしか?」
「学べないこと?」

 双子が順に言って小首を傾げる。

「学園には同年代の子が大勢いて、教えることに長けている教師もいる。そこで勉強以外の人との付き合い方、いろいろな考えがあること、力を合わせること、人を想うこと、体験をして学ぶことができる。それが学園だ」

 父さまがそう語った時、目がキラキラしているような気がした。父さまの学園の思い出はとてもいいもののようだ。

「もしどうしても嫌だったら、帰ってきていい。人も合う、合わないはあるからな。でも、合わない人がいること、どういうところが合わなくて、何が自分の琴線に触れるのか、そういったことがわかることでもある。もし合わないなら帰ってきてもいいから、一度は学園に行って欲しいと思っている。それにアラン、ロビン、リディーが、先にフランツが行っていて学園のことを教えてくれたら、とても行きやすいと思うんだ。だな、リディー?」

 父さま、策士だ。

「うん。入る前にどんなところから教えてもらえたら、不安がなくなる」

「寮ってどんなのだろう? オレたちが入ったら兄さまと3人の部屋にしてくれるのかな?」

「学園に行っても、兄さまと寮が同じならいいな」

「わたしは?」

「リディーは女子寮だろう」

 仲間はずれか。

「わかった。アラン、ロビン、リディーがくる前に、どんなところか調査しておくよ」

 父さまがこっそり胸を撫で下ろしている。
 学園には行くと言ったものの、今回の王都行きにわたしと母さまを残すのを兄さまは心配したが、なぜか父さまはどうしても連れて行きたいみたいだ。
 わたしはまだ自分の身を守れていないので、ハウスさんに守ってもらうのが一番いいとお留守番だ。出店のことや自立支援団体の日々のやることもあるしね。



 お茶会が終わってから向かったスクワランで、ロサと話し合った。
 1月から3月の領地の決算で、前々年度の5倍は超えていた。前年度はマイナスだったから、比較するのにその前の年を持ってきたらしい。ロイヤリティーを見越しただけでも今後も利益を見込めると思ったようだ。
 前年度の倍にとすると、わたしが売り上げを抑えるだろうと見抜いたロサは、前年度より利益があがっていればいいとハードルを下げてきた。

 というのも、世論が動いたのも大きいだろう。
 桃色の髪の聖女の無責任な噂はどこまでも広がり、そしてモロールの領主の子に注目が集まった。光属性はないものの、魔力が漏れていると情報が露出して、魔力が漏れなくなれば光魔法が使えるようになると人々は盲目的に思ったようだ。聖女を見ようとモロールに人々が集まり連日列をなした。
 魔力漏れの身体を整えるにはまだ早いようだが、噂が立ってしまい危険を考慮され、その子は王都の神殿に身体を整えに行ったようだ。
 モロールの領主は娘と一緒にいることを望み、領地の返上の許可を得て、一緒に王都へ向かった。モロールの領主はタラッカ男爵がなったようだ。
 噂を作ってしまったのは多分わたしたちなので罪悪感があったが、オメロ曰く、最初は渋っていたものの、それはお父さんと離れるのが嫌なだけで、一緒に王都に行けるとなるとかなり喜んでいたらしい。それからわりと騒がれたりするのが好きなようで、あの性格はあれはあれで天晴れだと言っていた。
 自由奔放なオメロもつかめない、お嬢さんのようだ。そう聞いたら、本当のところはわからないけれど、心が軽くなった。

 ウチに入る物盗りはハウスさんが捕らえてくれていたが、それもその前にずいぶんblackさんだとか、自警団のおじいちゃんたちが数を減らしてくれていたのだと知った。降って湧いたようなお金があると思われていた頃は、物盗りの狙い目だったみたいだ。それが出店を始め、列ができ、他の領地からも使者がやってきて、商品登録のことが知れて行ったようで、どこかで金塊でもみつけたんじゃないかと思われていたのが、地に足のついた商売で売り上げを伸ばしているのだとわかると、見方が変わってきたようだ。物盗りに入った人たちが軒並み捕まっていることも、今までにない防犯魔具が作動し、隙のない屋敷と見直されているからでもある。

 殿下の婚約者候補も、元モロール領主の娘、アイリス・カートライト男爵令嬢説が有力となった。わたしはお茶会で兄さまという婚約者をアピールできたし。誰もがロサが興味を持って支持しているのは兄さまや双子で、わたしはそれのおまけだと認識されているっぽい。
 ロサの様子からわたしは婚約者候補からかなり外れたんじゃないかと思う。ロサは元々だけど、光の使い手を嫁にと思っている側室さまとロサのお爺さんはアイリス嬢に気持ちがいったのではないかと思う。婚約者から完全に外れたとなると、わたしが契約自体を覆すと思っているのか、口を割らないけどね。

 ウチの領が注目されたのは、わたしが何か力を持っているんじゃないかという期待と、殿下の婚約者候補に上がったからだ。
 その後、世の中に知れ渡った事実は、わたしが幾度か危ない目にあったが運よく助けられたことだった。運がいいとは思われているようだが、わたし自身が何かできたわけではないので、何の力もない小さな子が危ない目にあって……と同情的なものに変わった。そして婚約者もいて、殿下に新たな有力候補が現われれば、周りは静かになった。
 ありがたいことに商売はうまくいっている。間にランパッド商会が入ってくれているので、ほとんどお任せ状態だが、順調に売り上げを伸ばしている。
 出店では日替わりで好きに物を売っているので、目当ての物をなかなか買えないという意見があがるぐらいかな。
 そう、商売では名が上がるようになってきたが、その他のことでは静けさを取り戻している。物盗りも来なくなったし、防犯面もうまく回っていると思う。



 キートン夫人の決断には驚かされた。
 夫人は罰金を払う必要はなくなったのに、思い出のお屋敷を潔く売りに出した。買い手はすぐについた。そのお金でシュタイン領の小さな村に屋敷を建てた。子供自立支援団体の家のすぐ隣にだ。
 夫人は子供たちをかわいがり、砦からきたおじいちゃんたちのマドンナになった。おじいちゃんたちは夫人を主人のように崇め、自発的に警備をしマドンナの家も守っている。
 町から小さな村まで〝足〟が必要になったので、朝と夕方に幌馬車が走ることになった。馬が足りない時は牧場から借りて牛が引いたりもする。幌馬車は格安でヤスのお父さんたちが引き受けてくれて、今のところその馭者は小さい村に帰るor町に来るおじいちゃんたちがやってくれている。
 夫人は根っから教えることがお好きみたいで、誰にでも勉強も作法を教えてくれる。特にセズは〝侍女〟になれるぐらいに作法も完璧だと聞く。子供だけではなく村長さんや大人も博識な夫人に相談したりして、もう昔から村を仕切っていたぐらいに手腕を発揮し、慕われている。

 わたしはキートン夫人から楽器を習っている。夫人はいろいろな楽器を持っていて、すべて教えられるぐらいの腕をお持ちだった。楽器は家にあると練習をしなくてはいけなくなるので、簡単には買えないハープを選んだ。ハープは高いし、楽器を作る材料が希少らしいのだ。それに小さなわたしにとっては体力勝負なところがあるので、ほとんど弾けない。ゆえに弾けない。キートン夫人の家にお邪魔したときに習いながら弾かせてもらっている程度だ。ハープは滅多にあるものではないので、どこかで弾けと言われることもないだろうし。一応、楽器に触れていることにはなるので、お嬢さま必須である楽器の習い事もクリアだ。わたし、頭いい!

 キートン夫人はよく我が家にも来て、母さまと一緒に上掛けを作ることを楽しんでいる。綿毛のような海キノコのホウシを入れると、羽毛布団みたいな仕上がりになった。母さまたちはそれを作るのに今ハマっている。
 母さまの話し相手は少ないので、お腹のことがバレているキートン夫人が来てくださるといい気分転換になるみたいだ。
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