プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
194 / 823
4章 飛べない翼

第194話 お茶会⑨miasma

しおりを挟む
「リディーも言ってたでしょ。王になられた第一子が少ないって」

 わたしは恐る恐る頷く。

「ユオブリアに生まれる人が魔力が多いのは教えたわね?」

 わたしは頷く。

「その中でも王族がぐんを抜いて魔力が多いわ。これは母さまの生家に伝わってきたことだけど。初代の聖女さまは魔王を倒したとあるけれど、魔王とは魔の王でもなんでもない、ただの瘴気の塊だと聞いたわ。聖女さまでさえ浄化することができなくて、それを封じ込めたの。ユオブリアの王宮のはるか下に」

 !

「王族たちの魔力、それから地形を利用した魔法陣、いろいろな物を駆使してやっとのことで封じ込めているのだと聞くわ。瘴気は何もかも枯らせていくの。もし封じているものが出てきてしまったら、人は生きていられないでしょうね。
 リディーは不思議がっていたわね。聖女さまが最高権力者の王族と結婚することを。王族を愛した方もいらっしゃると思うけど、そうではない方もいたと思うわ。それでも王族と結婚をした。光の使い手を残すために。魔力が多いものを残すために。自分が王族に手を貸さなかったらいつか世界が壊れる。愛した方を愛するのでは、いつか世界が壊れてしまうから。愛する人たちを永遠に守っていくには、世界を守るしかない。それで王族に添い遂げたのだと思うわ」

 ! 壮絶すぎて心が痛くなる。

「封じているけれど、日々瘴気の上で暮らす王族には瘴気が溜まりやすい。解明はされていないけれど、第一子の第一子は体を壊すか、精神を壊す。まるで瘴気が意志を持ち、濃い血縁を残させないようにしているかのようにね。王妃さまはそれをご存知で、聖女さまはいらっしゃらないから、光の使い手が欲しかったんだと思うわ。
 母さまは、王妃さまのお子さまの侍女になるべきだったのかもしれない。でも、どうしても嫌だったの。母さまはともかく、人質となるとわかっている子を宿すなんて恐ろしかった。だから逃げたの。
 リディーの体が弱いのも母さまが背いた罰だし、呪いにあったのも、王室に尽くせなかったから、そんな私に罰がくだされたんだと思ったわ」

 母さまの目から静かに涙が流れる。

「母さま」

「ごめんなさい。誇れる母でなくて、ごめんなさい」

 わたしは両手で母さまのほっぺを押さえた。
 母さまの視線をわたしに合わせる。

「母さま。侍女にならないでくれてありがとう。父さまと婚姻してくれてありがとう。だから、わたし生まれた。この子もだから在る。母さまはわたしたちのために父さまと婚姻することが決まってたの!」

「……そ、そうね。父さまとじゃなかったら、リディーと会えなかったし、フランツ、アラン、ロビン、このお腹の子にも出会えなかったわ」

「そうだよ。だから、母さま悪くない」

「その通りだわ」

 母さまが泣き笑いになる。

 いろいろねじ曲がったりなんだりしているけど、根本の悪さしているものがわかった。それは〝瘴気〟だ。

 母さまはずっと心に秘めていて、とても辛かっただろうと思う。
 でもそっか、王妃さまとそんなしがらみがあるんだ。ってことはわたしをよくなく思う王族って王妃さまか。それで第一王子に気をつけろ、ね。繋がった。
 瘴気か……。聖女でも浄化できないほどの、封じるだけがやっとだった瘴気。

 ロサが言っていたのはこのことだね。王族のことを知らないって。確かに、ばらまいたら世界がダメになるような瘴気を封じ続けるのを担っているとは思いもしなかった。そのために、血の濃い方が狂う可能性と背中合わせなことも。
 聖女さまがこの地に現れるのもそういう理由か。外国がユオブリアにだけに現れる聖女にとやかく言わないのも、ユオブリアが一身に世界の均衡を保つために在るからなんだ。全くとんでもないものが組み込まれた世界だ。
 いやそんなことないか。前世にも人が自分たちではもうどうにもできないものを作り出していたし、それは危険性を薄めてやはり封じることしかできていなかった。瘴気も、もしかして人族が作り出したんだったりして。


 授業の時間をたっぷり使って、母さまと話し続けた。
 外国でなんとか暮らしているときに、陛下から手紙がきたそうだ。王妃さまからではなく。手紙は王妃さまが勝手に持ち出した提案について謝るような内容だったらしい。そして母さまにとって外国は危険であり、王妃さまのいうようには決してならないからと帰国を勧められた。母さまは省いてちゃんとは教えてくれなかったが、その危険というのはどうも母さまのお姉さま、双子の実のお母さまが関係しているみたいだった。
 陛下からの使者は母さまだけでなく、父さまにも手紙を渡した。やはり帰国を促す内容だったそうだ。
 父さまが帰国を決め、ふたりは帰ってきて砦を住処とした。
 婚姻を結ぶと王妃さまから手紙が届いたそうだ。結婚のお祝いとあの時のことを謝るものだったという。子供を産むことの不安から愚かなことをしてしまったのだと。お茶会の時あまりにもいいタイミングで母さまを助けるように起こった魔法の事故。お茶会でそんなことが起こるのも珍事だし、王妃さまは元々母さまと父さまが恋仲でお茶会の後に外国に駆け落ちするつもりだったと思っているような文面だったそうだ。それから母さまの光魔法の精度が高くないことも調べたようで、無謀なことを持ちかけたと思っていることも書かれていた。そして最後には母さまを陛下に近づけるようなことは決してないとあったそうだ。

 母さまはそれは遠く離れたところで静かに暮らせというメッセージと受け取った。その頃、陛下の子を宿した側室さまにいろいろな事故が起きている噂を聞いていただけに、今は自分を王室に近づけたくないと思っているんだと納得した。母さまは王室に近づかないことを心に決めた。
 そうか、だから母さまは王室と王妃さまを恐れているんだね。

 母さまが昔あったことを言いにくかったのは、王妃さまや王室、それから世界に対して悪いことをしたと思っているからだ。
 確かに全てを知ったら母さまの選択をなじる人はいるかもしれない。いずれの世界の危機に対抗できる力があるのに、なぜそれを差し出さない、そう言われるかもしれない。
 でも、わたしもやだな。わたしは母さまの選択を支持するよ。だってそうじゃなきゃわたしは生まれなかっただろうし。それからわたしも光魔法を使えるけれど、はっきりしたこともわかっていないのに、瘴気を薄めるためだけに力を放出させられるのも嫌だ。母さまと同じ選択をするだろう。
 神さまがくれた贈り物の力を、そんな哀しい使い方をしたって、くださった神さまはきっと喜ばないよと言えば、母さまは少しだけ笑った。

 偉い人たち、頭のいい人たち、魔力の多い人たち、そのトップたちがずっと考えて思いを巡らせ、そしてどうにもならなかったことだろうとは思うけれど。何か方法があってよさそうじゃないかと思う。




 部屋から出れば、ロサからの知らせが待っていた。
 父さまはオブラートに包んで言ってくれたが、ふんわりしていると意味がよくわからなかったので、わたしは突っ込んで聞いた。
 事実は容赦なかった。仮面をつけた男とコルヴィン夫人は亡くなったそうだ。詐欺と伯爵令嬢誘拐発覚を恐れ自害したと片付きそうだとのこと。わたしを誘拐したのはなぜかは突き止めることができなくなってしまったが、わたしに質問をしたことから〝知りたかった〟ことがあると推測される。で、さらに推察すると、わたしのしていたことが罠を仕掛けているようにもみえ、そのバックが誰なのかを調べたのではないかと思われる。ちなみに後片付けに紛れ込んでいたわたしを拐った実行犯は逃げおおせた。王室の名簿にある身分のしっかりしたお手伝いの人たちはコルヴィン夫人たちの遺体があったところで、縛られて眠らされていた。新規で雇われたまだ顔の覚えられてない人たちを眠らせて入れ替わっていたらしい。
 仮面をつけていたのはドナモラ伯爵。わたしが会ったのが仮面をつけたドナモラ伯爵だったかはわからないけどね。
 確かなことはわかっていないが、みんな心の中では口封じだと思っているに違いない。
 
 詐欺ももちろん悪いことだけれど、それを口封じされたってことは……詐欺が投資詐欺レベルでなくもっと大きなものをやっている組織だったか、そもそもキートン夫人を巻き込んだ事件が詐欺ではなく他の意味合いを含んでいたか、が考えられるだろう。




「何を考え込んでいるの?」

「アラ兄。うーーん、キートン夫人のお屋敷の件でロサが介入しなかったら、どうなっていたのかを」

 皆が凝視している。アオさえもだ。

「何?」

「殿下じゃなくて、リーがだよね?」

 何をおっしゃるウサギさん、だ。
 わたしの介入? なんてことを言うのだ。人聞きの悪い。
 ロサが場所を選び、ロサがキートン夫人を活気づけたから物事が動いたのだ。わたしがしたのはただの嫌がらせ。ちょっぴり効いたみたいだけど。

 そう、あんな子供騙しに乗ってしまう人がキートン夫人を騙せたことがおかしい。やっぱりあの人もただ利用されただけなんじゃ……。なぜあの人が? キートン夫人に含みを持つ人だったから?
 それにしても、キートン夫人は中央からとっくに退いている元侯爵夫人だ。なぜ、彼女を?

「……介入しなかったらどうなったかは永遠にわからないけど、介入すればどうなったかは分かったよね?」

 アラ兄は人差し指を立てた。

「訴えをあげれば、優秀な教え子たちが動いた」

 アラ兄の言う通りだ。

「今も侯爵夫人の一声で助けたいと思う、殿下や教え子たちがいっぱいいるってことだ」

 ロビ兄の〝まとめ〟を聞いて、わたしと兄さまはロビ兄をみつめる。

「え、何?」

「ああ、その通りだな」

 兄さまがロビ兄の頭を撫でて褒めた。
 そうだ。キートン夫人が今も力があると分かったことだろう、それを知りたかった誰かにも。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

処理中です...