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4章 飛べない翼
第183話 横やり
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アルノルトにイダボアに連れて行ってもらう。朗読のチェックをしてもらうためだ。双子は塀づくりに参加のため、今日は兄さまともふさまと一緒に行動だ。
イダボアの馬車置き場にケインと馬車を預け、貴族街に向かって歩いていると、兄さまより下でわたしよりも上の男の子たち5人がわたしたちの前にズラっと並ぶ。
いい生地の服を着ているから裕福な貴族の子供だろう。
わたしたちの前に立ったアルノルトに雑に言う。
「話があるだけだ、執事風情は退け」
ありゃ、残念なお子さまたちなようだ。
もふさまがわたしを見上げたので、わたしは首を横に振った。
もしなんかしてきたら、もふさまにお願いするかもしれないけれど。
いや、相手は子供だ。そんなことにはなるまい。
兄さまがアルノルトの服を引っ張る。
兄さまと頷き合って、アルノルトは少し下がる。
「お前たち、シュタイン兄妹だな?」
「先に名乗るべきだと思うが?」
兄さま好戦的だな。たとえ少年でも美形がいうと迫力が半端ない。あっちは完全に飲まれている。
「オレたちが誰でも関係ない。お前たち殿下の覚えがめでたいからって調子に乗っているようだな?」
どこがだよ?
「前置きはいい。何が言いたいの?」
兄さまがけしかける。
「お茶会を辞退しろ」
兄さまはため息をついた。
「これはますます聞かないとだね。どちらのご子息かな?」
「だから、それは関係ないだろ」
「関係あるに決まっているだろ。私たちは第二王子殿下から直々に茶会の手配を承った。それを辞退しろとは、世が世なら君たちは反逆を私たちに示唆している。これは殿下に報告しないと」
「反逆? 何を言っている、ただ辞退しろって言ってるだけだろ」
「それもわからないのか? 殿下の意思に背く意見は全部反逆だ」
5人が青ざめる。どうやらそこまで考えが及んでいなかったようだ。
でもそれにしても。そこまで考えられない頭なら余計に、イダボア開催を知っているのが腑に落ちないね。
「誰に教えてもらったのかな? イダボアでお茶会をやるって」
兄さまがさらに質問をする。
「そ、そんなの噂になっててみんな知ってる」
「招待客でもないものに殿下のいらっしゃるところを知らせるわけないだろう? 噂が本当なら、全員取り締まらないとな。殿下に何をするかわからない危険分子だ。アルノルト、イダボアの領主に進言してきてくれ」
「今、離れるわけにはいきません」
「ここは私が守るから行ってくれ。本当に頼む」
え? 脅しじゃなくて?
アルノルトは胸に手を置き、身を翻す。
兄さまを見上げれば、甘く優しい瞳でわたしに告げる。
「ああ、ごめんね。怖くなっちゃった? でもこれは反逆だから放っておくことはできない。私たちはお茶会の手配は頼まれているけれど、それ以外のことは殿下に受け持ってもらわないとね」
と、いい笑顔だ。
ああ、そっちが本心なんだね。
兄さまは通せんぼの子供たちに視線を戻す。
「そちらは癖のない茶色の髪。青みがかった瞳。アルヴェ伯爵家の、年からいってスタンご子息かな? 隣は絹の襟の立てた服、レイ子爵家のカラムご子息? アルヴェ家とレイ家と一緒にいるということは、ベアフット家のワジディご子息、ターゾ家のバリーご子息、ロウ家のネイサンご子息ってところかな?」
身バレしていないと思ってまだ余裕こいていた男の子たちの顔から完全に血の気がなくなる。
「すべて、殿下にご報告しておくよ」
兄さまは完璧な笑顔で声をかけた。5人は固まっている。
「た、頼まれたんだ」
この中でリーダー的な茶髪の子が言った。アルヴェ伯のご子息だっけ?
「コルヴィン男爵に? それともドナモラ伯爵にかな? でも、悪いけど、そんなの私には関係ないからどうでもいいんだ。もし、仮に私や弟たちに突っかかってきたのなら酌量してもいいけど、私の婚約者と一緒の時にそんなくだらないことで足を止められたのが許せない。執事が領主のところに行っているし、執事も君たちの身元ぐらいわかっているから、これから大変だね。でもひとつ賢くなっただろう? つく人は選ばないとね」
兄さまはわたしの肩に手を掛ける。
「さ、とんだ足止めになったね。寒くない? 大丈夫?」
「う、うん」
「さ、行こう」
促されて歩き出す。5人はショックから抜け切れないようで微動だにしてない。
「兄さま、本当? 本当にアルノルトは領主さまに言いにいったの?」
兄さまは頷いた。
「うん、そうだよ。私がそうお願いしたからね」
兄さまはわたしの鼻の頭をチョンと触った。
「リディーは優しいね。可哀想だと思ったの? リディーの足を止めさせたんだから、たっぷり罰を与えないとね」
ええ???????
「ふふ、それも本気だけど。コルヴィン男爵だかドナモラ伯爵だかわからないけど、彼らはやりすぎたね。元侯爵夫人がお優しいからって甘くみすぎた。リディーも何かするつもりなんだろう?」
いや、わたしのすることなんて、兄さまのお仕置きに比べたら笑っちゃうぐらいかわいらしいものなんだけど。
キートン夫人も、執事さんも暖かく迎え入れてくれた。
お茶を頂いてから、早速朗読を開始する。
本当はもっと長いお話なのだけれど、朗読用にちゃんと書き直したのだ。
短くしながらも、ひとりひとりの見せどころは削らずにね。
わたしが読み終えると、みんなが拍手してくれた。いつの間にかアルノルトも来ていた。
「とても上手に読めていると思いますよ。間の置き方も、会話のところで読む早さを変えているのはさすがですわ。物語がより盛り上がって聞こえます。何より、物語が素晴らしいわ。リディアお嬢さまがこちらを書かれたなんて、本当に素晴らしい才能ですわ」
手放しに褒められた。嬉しい。
「ひとつ、申し上げるとしたら、お嬢さまは〝さ〟と〝し〟と〝す〟をお話になるときに苦手意識があるようですわね。言いにくいのかしら? それは大きくなれば自然に言えるようになるから躊躇わなくて大丈夫よ。それよりも他の言葉と同じく発音した方が声がきちんと届いてよ」
うわー、キートン夫人すごいな。わたし〝さしすせそ〟がうまく言えない時があるんだよね。だから言うときに躊躇っちゃう。そうか、大きくなるにつれて、これは普通に言えるようになっていくんだ、よかった。
「気をつけます! あの、聞いてくださって、ありがとうございました」
兄さまも隣で一緒に頭を下げてくれた。
「いいえ、こちらこそ、素敵な物語をありがとう。とてもよかったわ」
それからまたお菓子とお茶をいただいた。
そして何気なく、お茶会の何日か前から、お菓子や物を運んできてもいいかを尋ねた。
いいといってくださったので、にんまりしてしまう。
収納袋もポケットもあるから本当のところ、前もって置きにくる必要はないんだけどね。このお屋敷から情報が出ないように、誰も近づけなくする必要がある。また変な魔具つけられたら嫌だし。
それではとお暇して、ホリーさんのところに寄った。
何日か前からキートン家にお茶会の荷物を搬入しておくこと。それを〝守る〟ために人の手配をしたいのだけれど、どこに頼むのがいいかと相談したら、高価なものや大切なものを扱うときのシステムがあるそうで、それを使わせてもらうことにした。
冒険者ギルドの確かな人を警護に頼めるそうだ。3日前からキートン家を守ってもらうよう、わたしたちは手筈を整えた。
イダボアの馬車置き場にケインと馬車を預け、貴族街に向かって歩いていると、兄さまより下でわたしよりも上の男の子たち5人がわたしたちの前にズラっと並ぶ。
いい生地の服を着ているから裕福な貴族の子供だろう。
わたしたちの前に立ったアルノルトに雑に言う。
「話があるだけだ、執事風情は退け」
ありゃ、残念なお子さまたちなようだ。
もふさまがわたしを見上げたので、わたしは首を横に振った。
もしなんかしてきたら、もふさまにお願いするかもしれないけれど。
いや、相手は子供だ。そんなことにはなるまい。
兄さまがアルノルトの服を引っ張る。
兄さまと頷き合って、アルノルトは少し下がる。
「お前たち、シュタイン兄妹だな?」
「先に名乗るべきだと思うが?」
兄さま好戦的だな。たとえ少年でも美形がいうと迫力が半端ない。あっちは完全に飲まれている。
「オレたちが誰でも関係ない。お前たち殿下の覚えがめでたいからって調子に乗っているようだな?」
どこがだよ?
「前置きはいい。何が言いたいの?」
兄さまがけしかける。
「お茶会を辞退しろ」
兄さまはため息をついた。
「これはますます聞かないとだね。どちらのご子息かな?」
「だから、それは関係ないだろ」
「関係あるに決まっているだろ。私たちは第二王子殿下から直々に茶会の手配を承った。それを辞退しろとは、世が世なら君たちは反逆を私たちに示唆している。これは殿下に報告しないと」
「反逆? 何を言っている、ただ辞退しろって言ってるだけだろ」
「それもわからないのか? 殿下の意思に背く意見は全部反逆だ」
5人が青ざめる。どうやらそこまで考えが及んでいなかったようだ。
でもそれにしても。そこまで考えられない頭なら余計に、イダボア開催を知っているのが腑に落ちないね。
「誰に教えてもらったのかな? イダボアでお茶会をやるって」
兄さまがさらに質問をする。
「そ、そんなの噂になっててみんな知ってる」
「招待客でもないものに殿下のいらっしゃるところを知らせるわけないだろう? 噂が本当なら、全員取り締まらないとな。殿下に何をするかわからない危険分子だ。アルノルト、イダボアの領主に進言してきてくれ」
「今、離れるわけにはいきません」
「ここは私が守るから行ってくれ。本当に頼む」
え? 脅しじゃなくて?
アルノルトは胸に手を置き、身を翻す。
兄さまを見上げれば、甘く優しい瞳でわたしに告げる。
「ああ、ごめんね。怖くなっちゃった? でもこれは反逆だから放っておくことはできない。私たちはお茶会の手配は頼まれているけれど、それ以外のことは殿下に受け持ってもらわないとね」
と、いい笑顔だ。
ああ、そっちが本心なんだね。
兄さまは通せんぼの子供たちに視線を戻す。
「そちらは癖のない茶色の髪。青みがかった瞳。アルヴェ伯爵家の、年からいってスタンご子息かな? 隣は絹の襟の立てた服、レイ子爵家のカラムご子息? アルヴェ家とレイ家と一緒にいるということは、ベアフット家のワジディご子息、ターゾ家のバリーご子息、ロウ家のネイサンご子息ってところかな?」
身バレしていないと思ってまだ余裕こいていた男の子たちの顔から完全に血の気がなくなる。
「すべて、殿下にご報告しておくよ」
兄さまは完璧な笑顔で声をかけた。5人は固まっている。
「た、頼まれたんだ」
この中でリーダー的な茶髪の子が言った。アルヴェ伯のご子息だっけ?
「コルヴィン男爵に? それともドナモラ伯爵にかな? でも、悪いけど、そんなの私には関係ないからどうでもいいんだ。もし、仮に私や弟たちに突っかかってきたのなら酌量してもいいけど、私の婚約者と一緒の時にそんなくだらないことで足を止められたのが許せない。執事が領主のところに行っているし、執事も君たちの身元ぐらいわかっているから、これから大変だね。でもひとつ賢くなっただろう? つく人は選ばないとね」
兄さまはわたしの肩に手を掛ける。
「さ、とんだ足止めになったね。寒くない? 大丈夫?」
「う、うん」
「さ、行こう」
促されて歩き出す。5人はショックから抜け切れないようで微動だにしてない。
「兄さま、本当? 本当にアルノルトは領主さまに言いにいったの?」
兄さまは頷いた。
「うん、そうだよ。私がそうお願いしたからね」
兄さまはわたしの鼻の頭をチョンと触った。
「リディーは優しいね。可哀想だと思ったの? リディーの足を止めさせたんだから、たっぷり罰を与えないとね」
ええ???????
「ふふ、それも本気だけど。コルヴィン男爵だかドナモラ伯爵だかわからないけど、彼らはやりすぎたね。元侯爵夫人がお優しいからって甘くみすぎた。リディーも何かするつもりなんだろう?」
いや、わたしのすることなんて、兄さまのお仕置きに比べたら笑っちゃうぐらいかわいらしいものなんだけど。
キートン夫人も、執事さんも暖かく迎え入れてくれた。
お茶を頂いてから、早速朗読を開始する。
本当はもっと長いお話なのだけれど、朗読用にちゃんと書き直したのだ。
短くしながらも、ひとりひとりの見せどころは削らずにね。
わたしが読み終えると、みんなが拍手してくれた。いつの間にかアルノルトも来ていた。
「とても上手に読めていると思いますよ。間の置き方も、会話のところで読む早さを変えているのはさすがですわ。物語がより盛り上がって聞こえます。何より、物語が素晴らしいわ。リディアお嬢さまがこちらを書かれたなんて、本当に素晴らしい才能ですわ」
手放しに褒められた。嬉しい。
「ひとつ、申し上げるとしたら、お嬢さまは〝さ〟と〝し〟と〝す〟をお話になるときに苦手意識があるようですわね。言いにくいのかしら? それは大きくなれば自然に言えるようになるから躊躇わなくて大丈夫よ。それよりも他の言葉と同じく発音した方が声がきちんと届いてよ」
うわー、キートン夫人すごいな。わたし〝さしすせそ〟がうまく言えない時があるんだよね。だから言うときに躊躇っちゃう。そうか、大きくなるにつれて、これは普通に言えるようになっていくんだ、よかった。
「気をつけます! あの、聞いてくださって、ありがとうございました」
兄さまも隣で一緒に頭を下げてくれた。
「いいえ、こちらこそ、素敵な物語をありがとう。とてもよかったわ」
それからまたお菓子とお茶をいただいた。
そして何気なく、お茶会の何日か前から、お菓子や物を運んできてもいいかを尋ねた。
いいといってくださったので、にんまりしてしまう。
収納袋もポケットもあるから本当のところ、前もって置きにくる必要はないんだけどね。このお屋敷から情報が出ないように、誰も近づけなくする必要がある。また変な魔具つけられたら嫌だし。
それではとお暇して、ホリーさんのところに寄った。
何日か前からキートン家にお茶会の荷物を搬入しておくこと。それを〝守る〟ために人の手配をしたいのだけれど、どこに頼むのがいいかと相談したら、高価なものや大切なものを扱うときのシステムがあるそうで、それを使わせてもらうことにした。
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