プラス的 異世界の過ごし方

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4章 飛べない翼

第177話 春祭り(上)

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 まだぬくぬくもふさまというお布団から出るのは辛いけれど、昼間はコートを脱いでも大丈夫なぐらい暖かくなる日もある。季節は静かに移り変わっている。

 3月の最後の日は春を祝うお祭りだ。豊穣を祝う秋祭りの方が盛り上がるし盛大なようだけど、レアワームの件でずっと下向きだったシュタイン領では、その憂いごとがなくなり、めいいっぱいこれからに期待していて、領地中が湧き立っている。

 父さまもお祭りは無礼講としてみんなで楽しもうと言っている。
 この日は商業ギルドに登録していなくても町中でなら屋台で物を売ってもいい。食べるものだけは安全を期するため登録していないとだけどね。
 ウチの屋台で何を売るのだと食べ物も期待されていたので、爆弾おにぎりと具沢山の豚汁もどき。それから甘いものは生ベリーのマフィンにした。ベリーの味が際立つように、ジャムもフレッシュも入れているから、ベアベリーのおいしさをより堪能できるはずだ。
 兄さまたちは手先の器用さを打ち出して、木刀を作っていた。
 わたしは布でアリクイを作りまくった。町の女の子たちには、お祭りでぬいぐるみを売り出すと伝えてある。売り子はセズたちがやってくれる。みんなお金の計算がわかるから助かる。

 毛皮のぬいぐるみは、母さまとハンナのスイッチが入って、驚くぐらいのクオリティーのものが家に山積みとなった。お茶会で売り出すつもりだ。とてもかわくて、かわいくて、かわいいので、8000ギルで売るつもりだ。ぬいぐるみももっと売りたいところだが、やはり毛皮が足りなくなった。これは手に入れるのが地味に大変なので貴重なものになりそうだ。
 今日お祭りで売る普通の布で作ったものは、領地の子価格にする。わたしの作ったものだし、最初は女の子たち限定で配ろうかなと思ったぐらいだ。そう、告げる時に渡すのにちょうど良さそうと思ったんだけど。それだと、本当に決別の挨拶みたいな感じになる気がして。そう思われたら嫌だなと思って……。
 ひとつ300ギルで売って、その収益は子供自立支援団体に寄付しようと思う。お小遣いがこの日までに貯まらないなら、取り置きするから言ってくれと伝えてある。


 明日から仮門が開かれる。連日父さまと双子が土魔法で仮の塀を作ってきた。出入りする人のチェックが始まるのだ。それを機に伸ばし伸ばしにしていた領地でのケジメをつけるつもりだ。
 開会の挨拶があるので、みんな町のウチの庭に集まってくる。最後に、今日の最後に言うつもりだったけど、今の方が軽い感じで言える気がした。
 わたしはぬいぐるみの取り置きの説明をもう一度した。息を整える。

「これからも何も変わらないけれど……」

 顔をあげると、みんながわたしを見ていて、一瞬ためらう。でも、決めたから。志すから。そのために。

「明日から門ができる。他の領地の人なんかもいっぱい入ってくる。だから、何も変わらないけれど、わたしたち子供以外がいるときは、わたしに敬称をつけて呼んで欲しいんだ。明日から」

 唇が震えているのを噛み締める。目に力を入れる。絶対水なんか出さない。
 もふさまがわたしの足に寄り添う。
 軽くビリーに頭を叩かれる。

「何、祭りの前にしけた顔してんだよ。明日からだな、わかった。俺さ、真面目にお前たちスゲーと思ってんだ。だからさ、お前たちのしたいように、することにできる限り協力する。それにさ、呼び方や態度を変えても、今までがなかったことになるわけじゃないだろ?」

「リディア、泣き虫」

 きっとわたしのが移ったんだ。目を真っ赤にしたミニーがわたしの眦を指で拭く。
 わたしもミニーの眦を拭いた。
 ふたりでえへへと笑い合う。
 兄さまに頭を撫でられた。

「さ、みんな、今日はお祭りを楽しもう」

 兄さまがみんなに声をかける。
 父さまの開会の挨拶が始まるようなので、ミニーとカトレアと手を繋いで、父さまの顔が見えるところに行った。
 所々でおじいちゃんたちがばらけていて、警備に入っているんだとちょっと安心をする。
 父さまが通る声で宣言をする。

「まず、祭りを始める前に言いたいことがある。前領主が迷惑をかけた。心より謝罪する」

 父さまは頭を深く長い間下げた。

「これからは領地が発展し、皆が豊かな生活をおくれるよう尽くすつもりだ。皆も手を貸して欲しい。明日から領地に入る者を調べることにする。犯罪歴のあるものが領地に入る時には足輪でどこにいるか常に把握できるようにする。
 4月中には塀づくりが始まり職人の出入りや商人など人が多くなるから気をつけて欲しい。……それだけではなく、これから人の出入りが多くなるだろう。人はいい面もあるが悪い面も持つ。皆、注意してくれ。特に子供たちに気をつけてやって欲しい。
 それから小さい村から順に水路を作っていく」

「水路?」

 誰かが声をあげた。

「有料とするが共同風呂を村、町それぞれの近くに作っていくつもりだ。今までは人も少ないから排水などで困ることはなかったが、これを機に領地内を整えていく。
 こういった知らせも、住処で班わけをして、それぞれの長に必要事項を伝えていくようにする。困りごとが私にすぐ届くようにそちらも整えていくつもりだ。
 祭りの前に話が長くなってすまない。今日は無礼講だ。楽しんで気力を溜めて、これから始まる1年をいいものにしよう!」

 わーっと歓声があがり、拍手が巻き起こる。

「あたし、まずリディアの新作買う!」

 ミニーの言葉にわたしは頷いて、屋台にスタンバイだ。
 並べた上にふわりとかけた布を取れば、ちっちゃな少しずつ表情を変えたアリとクイが、並んでいる。

「わぁーーーー」

 歓声が上がった。

「かわいい!」
「何これ!」
「いくら?」

「特別価格、300ギルだよ。絶対お金を貯めて買うってことなら、取り置きしておくよ。言ってくれればね」

 ほとんどの子はその場で買ってくれた。ふにふにとした感触も楽しんでいる。
 頬擦りしている。ふふ、嬉しいな。
 取り置きも5人から承った。4月半ばまでには貯めるからと泣きそうになっている。大丈夫、置いておくよ。布に名前を控えて、欲しい子のぬいぐるみの首に巻いて、収納袋に入れておく。
 兄さまたちの作った木刀も売れているみたいだ。
 ご飯ものも売れ行きがいい。
 セズが監督をしながら、みんな頑張って売ってくれている。

 ハリーさんとホリーさんが来ていた。イダボアのお祭りはと聞くと、今年は少し早めに5日前にあったそうだ。
 ホリーさんたちはウチの屋台からも全種類買ってくれて、特にぬいぐるみに目を留めた。お茶会で売るんだと特別に毛皮のベアを見せる。これはと期待に満ちた目を向けられたので、素材が足らないのでもう打ち止めなんだと告白しておく。

 あ、セズにはイラスト代として5万ギルを支払った。それから布製にはなるけれど5個のベアを渡した。すっごく喜んでいた。セズはみんなにひとつずつベアを渡した。色がかぶっているのもあったので、色違いの毛糸で編んだリボンをあげた。
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