プラス的 異世界の過ごし方

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4章 飛べない翼

第170話 自立支援

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「よし、では聞こう」

 もふさまが大きくあくびをする。アオは母さまの膝の上で心配そうにこちらを見ている。アリとクイは籠の中で寝ていて「スーピー」という規則正しい音がしていた。
 兄さまが深呼吸をする。

「子供がひとりでも自立して働いて暮らしていけるように支援する団体を設立します。10歳までは、予備軍として物品の報酬で働くことができます」

「規模は?」

「小さい村の空き家を拠点に考えています。2軒分です。塀ができ、門ができれば防犯面ももう少し安全になりますが、町は人の出入りが増えてきました。その点、小さい村は人が少ないだけに村人以外がいたらすぐにわかります。また仕事で大きな村、町まで移動することにはなりますが、領地内の街道なら、塀ができてからは安全です」

 父さまは小さく頷く。

「設立の資金は、第二王子殿下の声がけでリディアが初主催となるお茶会で募ろうと思っています。お菓子やその他に出すものを今考え中ですが、販売しその収益を設立資金に回します」

「その菓子やら販売するものを作る資金はどうするつもりだ?」

 腕を組んで目を閉じる。

「元々、第二王子殿下のお声がけで、かかる経費は全て殿下からということでしたが、そうしてしまうと団体の設立が殿下のすることになってしまうので、私たち兄妹で資金を用意します。出資者となります」

 父さまは片目だけ開く。

「菓子は日持ちが難しいだろう。たくさん買い込んでしまって、王都まで2週間はかかる、どうするんだ?」

「これはお茶会限定ですが、そのまま持ち帰られるか、後で届けるかを聞きます」

 両眼が開く。

「後で届けるとは?」

「ランパッド商会にお願いするつもりですが、無理でしたら、タラッカ商会にお願いできないか聞くつもりです。ダンジョン産の収納袋を貸し出して、王都に菓子を届けてもらいます。その時に収納袋に他の物を入れてもらっても構いません」

 腕を組んだまま父さまは頷いた。
 届けてもらう対価は収納袋の貸し出しだ。それを〝益〟と見るか〝損〟と捉えられるかは相手次第だが、ハングリー精神の商人なら〝益〟にすることを考えるのではとわたしたちは予想している。

「だいたいどれくらいの規模のお茶会なんだ?」

「リディー」

 兄さまに促されて、わたしは答える。

「殿下によれば、招待客は33名です。場所などはまだ教えてもらっていません。甘いものが嫌いでも25名は買ってもらいたいところです」

「何を売るんだ?」

「プリン6個セット。ホールのケーキ。レモンのパウンドケーキ。もしチョコが手に入ればチョコトリュフ。ショートブレッド、今のところその5つを考えています」

「いくらだ?」

 アラ兄の袖を引っ張る。

「それ以降、日替わりショップで売る時は、プリンひとつ200ギル計算で6個のセットで1200ギル。ホールケーキが3600ギル。8等分したものは450ギル。レモンのパウンドケーキが1500ギル。10等分したものは150ギル。チョコトリュフ が5つセットで3600ギル。ひとつ720ギル。ショートブレッドが6つ入りで1000ギル。バラ売りで160ギル。日替わりショップでは単体で売ります。お茶会ではそれぞれに支援金を2000ギルとします。だからプリンが3200ギル。ケーキが5600ギル、パウンドケーキが3500ギル、トリュフが5600ギル。ショートブレッドが3000ギルです」

「菓子に高すぎやしないか?」

「あのおしゃれな街のお菓子を参考にしているからそこまで高くはないはずだよ。支援金がそれぞれに2000ギルはどう思われるかはわからないけどね」

 計算を請け負ってくれていたアラ兄が、おしゃれな街のお菓子の価格を比べた詳細の紙を渡す。

「殿下の親しい方たちみたいだから、みんなお金持ち。王子がクッキーを喜ぶレベルのお菓子のクオリティーだから、お茶会で食べたら絶対買うと思う。王都からシュタインまでは2週間かかる。買いにはなかなか来られない、そう思ったら、余計に買うと思う。全部一通り買ったら20900ギル。25人が買ってくれれば、522500ギルになる。それからあと何か、商品を増やしたいと思っている」

 わたしは決意を持って拳を握る。

「それだけで設立資金にはならないだろう?」

「だいじょぶだよ、父さま。客人だけにお金払わせはしないでしょう、大ボスは」

「ま、まさか、王子殿下の寄付を狙っているのか」

 父さまから表情が抜け落ちる。不敬なこと言ったかな?

「あのね、父さま。実際、設立するための資金がいるっていうのを見せるためで、目標額は100万。それだけあれば、とりあえず5人が暮らしていける礎は作れると思うんだ」

 魔法持ちだからなのと、やりたいことがいっぱいあるけれど、人手が足りない、だからできることだけどね。子供でも自分たちで働けば暮らしていけるシステムを作れれば、あとはまわると思う。
 父さまは苦虫を潰したような顔をした。父さまも同じ考えだったからだろう。

「おれ、よくわからないんだけど、100万って〝設立〟させるには少ないの?」

 ロビ兄が兄さまに聞く。

「うん。規模にもよるだろうけれど、新しいことを始めるのに100万は軌道にのる前に使い切ってしまうと思う。でも、私たちは魔法がある。だから家を作ったり、最低限の暮らしができるところまでは支えられると思うんだ。けれど、対外的にはよくない。お金がいくらでもあるとか、支援するのが簡単そうに見えたら困るから。だから、決して少なくはなくこんなふうに資金を作ったっていう実績が欲しいんだ。あとは、本当に自立できるよう支える筋道を立てる。幸いなことに仕事はいっぱいある。子供ができるようなことを含めてね」

「先走るんじゃないぞ。その機関に入る条件としてシュタイン領の者とすることにしよう」

「領民基本台帳を作るの?」

 兄さまが父さまに尋ねる。
 ああ、歴史で習った。戸籍やら詰め込んだ台帳だね。

「今までもあったんだがな。項目も増やし、それから地域ごとに班長を決めるようにするつもりだ」

 砦にあったシステムだね。……そういうシステムは統制を取るには不可欠であるけれど、まだ人格が出来上がってない子供同士にやらせるのは危険だよね。それでモロールの孤児院では辛い思いをする子が出てきたのだ。

「父さま、合格?」

 兄さまが尋ねれば

「穴だらけではあるが、構想としてはよかった。寄付やバザーはあるものだが、殿下の名の通ったお茶会でそれを打ち出すとは愉快だ」

 愉快?

「仕事ができるのは、まだセズだけだ。セズにはどんな仕事を考えていて、4人の子はその間どうするつもりなんだ?」

「やってもらいたいことはいっぱいあるんだ。今、早急に欲しいのが、堆肥」

「堆肥?」

「うん。小さい村の土が痩せてるって話したでしょ? コッコを飼うとか、馬とか牧場の子たちの糞尿を腐らせてワラと混ぜるの。それを土に撒く」

「それは大変な作業だな」

「大変だよね。やっぱり、各村や町に堆肥を作るところがある方がいいのかな?」

 わたしは腕を組む。子供でも運ぶのはいけるかと思ったけれど、重たいし無理かな?

「腐らせるんだよね? 匂い、凄そう。町や村の中じゃ問題あるんじゃない?」

「じゃあ、どうしたら?」

「町と村の間にさ、そういうところ作るのは? それで糞尿やワラをそこに運んで来るんだ。欲しい人がそこから運ぶ。その手助けをするのに、子供をつけてもいい」

 ああ、それはいいかも。

「あと、お風呂もいると思う」

 今が父さまに訴える時と意気込んだ。

「風呂か……。その時には水路も一緒にやりたいんだよな」

 父さまが呟く。あ、父さまもお風呂は考えていたんだね。

「水路?」

「ああ。どう道筋を作るのかが一番いいかを考えるためにも、やはり領民基本台帳を作って、体制が整わないとなー」

 なるほど。作るときはいっぺんに全てを考慮してやるのがいい。それにはまず全部を知らないとだものね。

「そうだな。町の前に、小さい村ならまだ人が少なめだからな。あそこでまず作り上げるのがいいかもしれないな」

 モデルとするんだね。
 そうとわかったら。
 わたしは久しぶりにマップモードを呼び出して、アオに大きな画面を出してもらった。小さい村をできるだけクローズアップして、アラ兄に地形を書いてもらう。写実的なことがうまいからね。

「正確には、無理だよ?」

「下にマス目があるといいんだけどね」

「マス目?」

「うん。格子になっていたら、かなり正確に書けるでしょ?」

 あっても、わたしにはできない技術だけど。

『マスター、マス目とは?』

 タボさんに話しかけられる。

「えっと」

 アラ兄から紙を奪って格子を書く。

「こういうふうに、同じ間隔で縦も横も線を引くの。このマップの下に1メートルごとに縦と横の線を引く。こういうのマス目」

『こういうことでしょうか?』

 地図の下にマス目が現れた。

『1メートル四方で線を引きました』

 グッジョブだ! タボさんにお礼を言う。

「アラ兄、これ1メートルの線だって」

「1センチのマス目で同じように描けば100分の1ってことか。かなり正確になるね」

 アラ兄は言った後、真剣にマップを描き出した。それをみんなで見守った。
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