プラス的 異世界の過ごし方

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4章 飛べない翼

第161話 金塊

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 ホリーさんにもっと料理を登録すると思っていたと言われて、実は領地内で日替わりショップをやっていこうと思っていることを話した。
 さっきギルドの人に店はやらないと言ったので、驚いている。そっか、さっき聞かれたのはその場で食べていくタイプの店のことだと思ったのでやらないと言ったのだと伝えた。屋台で持ち帰りのお菓子などを売るんだというと食いつきがすごい。
 もちろんホリーさんたちに食べて欲しかった、プリン、オムレット、チョコトリュフ、ショートブレッド、一口パイ、ベイクドチーズケーキを出した。
 チョコは高いし流通が難しそうだから無理だけどね。だからチョコトリュフは単にお裾分け。

 ホリーさんたちはそろりと手を伸ばし、チョコトリュフを口の中に転がして悶絶した。

「な、なっ!」

「家族は気に入ってくれているんですけど。プリン、オムレット、一口パイは領地の子に食べてもらって好評でした」

 次々と口に入れては嬉しい感想をくれた。チーズケーキが気に入ったみたいで時間をかけて食べている。ハリーさんはショートブレッドがお気に入りだ。

「リディアお嬢さま、これをシュタイン領内で売るのですか?」

「え? あ、はい」

「他では売らないのですか?」

 なんか泣きそうだ。

「あの、量産が難しいし、売れるかどうかわからないので、まずは領地で。このところ外部の人も出入りがあるんです、ウチの領」

「第二王子殿下のお茶会に参加されたとか。商会でも話題になっています」

 え?

「話題とは?」

 父さまが聞き咎めた。

「次代を担う殿下がシュタイン領を支持したと」

 えー、王子といっても7歳がお茶会開いて招いただけで支持したとか言われちゃうの?
 わたしの心の声が聞こえたかのように説明してくれる。

「こちら方面の方々を集めたお茶会ならまだしも、宰相、騎士団長、侯爵、ハバー商会の子息令嬢の顔ぶれ。王都から呼び寄せ、そこにシュタイン家の4兄妹が招かれた。これはどう見てもシュタイン家の兄妹の顔見せ。商人の心を熱くします。領地の様子を見に、商人も訪れているでしょう」

 ホリーさんは自分で言いながら、うんうん頷いている。

「王族が新しいものを取り入れるのはなかなかないことですよ」

 ハリーさんも口添えした。ふーんそういうものか。

「それにしても、これは絶対に売れます。なのに、私が売ることができないなんてーーー」

 泣かれてびっくりする。

『リディア、泣いているぞ』

 ……そう言われても……。

「り、リディー」

 父さまに袖を引っ張られる。

「ホリーさん、あのいっぱいではないですが、元々、商品紹介のために、どこかで数量限定で売っていただけないかとお願いするつもりでした」

「わ、私に売らせていただけるんですか!?」

 ガバッと起き上がり、目が輝いたと思ったら両手を取られた。

「誠心誠意、努めます」

 兄さまが立ち上がり、わたしとホリーさんの間に来て無言でホリーさんの手を解く。
 ……兄さま。

「あ、すみません」

 ホリーさんは照れたように謝る。

「これは売れると思ったものを売ることは、私にとって何よりも喜びなのです。そこまで確信できる品に出会えることも稀です。わ、私はなんて幸運なんだ。お菓子といい、鞄も絶対に売れます! それに携わることができるなんて!」

 そっか、ホリーさんはこれは!と思えるものを探して売り、自分の目利きを感じられることが楽しいんだね。

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 ということで、日替わりショップにもホリーさんが噛んでくれることになり、自動的に手続きを〝商会通し〟でやってもらえることになった。そっか、売り買いが発生する時点でギルドを通さないとなんだ。わたしはすっぽりそんな考えは抜け落ちていた。父さまの言葉の端々から、父さまが商業ギルドに入っているから、それでやっていこうと思っていてくれたらしい。

 それにしても、父さまは今まで売り買いなんてことしていなかったと思うのだが、幽霊会員でもギルドに所属していられるものなのかしら?
 不思議に思って聞いてみると、父さまは砦でお酒の販売をする係だったそうだ。お酒は国からの審査に通ってないと作ってはいけないらしい。砦で作るお酒は〝火の酒〟と呼ばれているそうだ。口に含んだだけでも焼きつくような強いお酒として有名で、ファンも多いんだとか。その窓口をしていたので商人のギルドカードを持っていたようだ。

 それから鞄の打ち合わせをした。こちらも前に言われた点を考えて作り直してみた。ホリーさんはにっこりと笑ってくれた。

 日替わりの店を始めるのもお茶会が終わってからなので、日にちがわかったら連絡することになった。

 ハリーさんのお店が流行ってましたねというと、ハリーさんが頭に手をやって照れる。

「おにぎり、評判がいいんですよ。私では手が回らないので、売り子を雇いました。ああ、もちろんご飯を炊いているのは私です。売り子を頼んでいるだけですからね。これも全て、皆さんのおかげです」

 ホリーさんがまた泣いている。弟のやりがいを感じている姿を見て、嬉しかったらしい。ホリーさんって涙脆いみたいだ。
 気を紛らわそうとお昼にすることにした。生姜焼きをご飯に乗せた丼をどんどんテーブルに出していく。シャキシャキキャベツの千切りはお肉の下に敷いてある。ポテサラを人数分と塩揉みした野菜を口直しにつけてと。

「うまい。これ、何杯でも食べられそう」

 ロビ兄のいうとおり、危険な食べ物だよ、生姜焼きは。丼物ってそうだよね。ガガっとかきこんで知らないうちに食べ切っているんだよ。
 父さまは町に入荷して欲しいものをホリーさんに伝え、塀を作ることなどを伝えた。

「それは素晴らしいですね」

 そう言ってから少し躊躇った。

「実はひとつ噂がありまして」

「噂、ですか?」

「はい。ダンジョンに行かれたそうですね? そこで金塊でも出たんじゃないかって」

「あったーー」

 叫ぼうとしたロビ兄の口をアラ兄が封じた。

「あはは、金塊ですか?」

 父さまがホリーさんに尋ねる。

「ええ。高い魔具を発注されたでしょう? それでこちらにも情報が流れてきたんですよ」

 ウチやウチの領地が貧乏なことは一目瞭然だもんね。それが急にそんな高い魔具を買うって言い出したら……その上、次は塀でしょ。そりゃそのお金どっから都合した?って疑問が湧くかもね。アラ兄や兄さまが危惧していた通りだ。

「鞄や料理がシュタイン領発で売り出されればその話も消えるでしょうけれど、それまでは気をつけてくださいね。領主が金塊を持っているのではと噂になってますから」

 なまじかピッタリ賞なだけに、わたしたちは二の句が繋げなかった。



 ホリーさんとハリーさんと別れ、イダボアで買い物をして、家路へとついた。わたしは作業着をいっぱい買った。ダンジョンに行く時も必要だからね。暖かめのものが値下げされていたので飛びついた。それから初夏に向けてのものもいくつか買った。

 帰りの馬車の中で、双子がビリーの家にお泊まりをしたいと言った。兄さまも?とみるとにっこりと笑う。兄さまは行かないみたいだ。ご迷惑だろうと言った父さまに、迷惑はかけないからと誓ってゴリ押しした。
 父さまはイダボアで買った何かを手土産に双子に持っていくように渡して、町に近いところでふたりをおろした。
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