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4章 飛べない翼
第158話 家出少年④案外まとも?
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坊ちゃんはみんなから散々叱られたらしいのに、すっかり溶け込んでいる。
アラ兄が食事の前に教えてくれた。兄さまがわたしが悔しい思いをした以上の制裁を坊ちゃんにしたからと。
わたしの悔しい思いと制裁って何!?と焦って聞き返すと、侯爵子息が宿屋のできごと一部始終をみんなに話したそうだ。みんなが冷めた目で見ても坊ちゃんは悪いことをしたとも思ってない様子。それで兄さまがスイッチバック諭し方式を展開させたという。ってこれはわたしが名付けただけだけど。兄さまは怒る時、静かに怒る。水をむけて質問をして、答えていくうちに間違いとか悪いことを気づかせる方式をとるのだ。わたしはそんな目にあったことはないが、されている人を見ると本人が悪いにもかかわらずちょっと気の毒になる。人にそこが悪いと注意されるより、自分が悪いことを認め、逃げ場なくそれを告白しないといけないのは、結構くるものがある。そんなことがあってもけろっとしているのは……ある意味羨ましいストロングハートだ。
子供たちにはお茶とペアーンのパウンドケーキがサーブされる。
先に食べていいと促されて、ケーキにパクついた。
「これはペアーン?」
坊ちゃんが呆然と呟く。
ペアーンのシャリシャリした食感が楽しくて、少し爽やかで、濃厚な甘さが口に残る。ほろ苦い何かを入れた生地によく合う。
「シュタイン伯さま、ペアーンは夏実るもの。それがどうして春前に?」
「ああ、先祖が残してくれた収納袋のおかげです」
「……収納袋!」
坊ちゃんは目を大きく見開く。
「オメロは果物に詳しいのか?」
侯爵子息も仲良くなったんだね、名前呼びしている。
「まあね、商売をしているから……」
「オメロはどうして家に帰れないの?」
ロビ兄が率直に聞いた。
坊ちゃんはカップを見つめ、それから語り出した。
悩みって人によって様々だ。悩みの大きさを人が決めることではないことはわかっている。だが、あえて言おう。それが理由??
そんな理由で〝帰れない〟と思わせぶりなことを言い、宿に迷惑をかけ、最高峰の魔法士長に連絡をさせ、何考えてるんだ。
「それ、ただの駄々っ子じゃん」
「そんなことで家族に心配をかけることして……」
「お前、それで宿屋に言いがかりまでつけて、理由それかよ」
「君、自分勝手すぎるよ」
容赦ない意見の洗礼を浴びている。
従者くんがオロオロと坊ちゃんとみんなを見比べていた。
自分勝手だったり迷惑ではあるけれど、従者くんがこんなに慕っているということはいい面ももちろんあるんだろう。
父さまは含み笑いした。
「話を聞いて、どこでどう思って何を考えたかオメロくんにみんな伝えてみてごらん。オメロくんも冷静に受け止めて、反対意見があるならしなさい。お互い感情的になりすぎないこと。続きは部屋でやりなさい」
「あ、伯爵さま」
「なんでしょう?」
侯爵子息に呼びかけられて、父さまが反応する。
「朝の鍛錬をされていると聞きました。あの、私も参加してもいいですか?」
父さまはチラリと侯爵さまを見て、
「厳しくても良ければ」
と言った。オメロ坊ちゃんも参加を願い出て、子供は部屋に引き上げることになった。
ベッドではアオが変な寝息をたてていた。アリとクイは籠の中でおかしな体勢で眠っている。夜着に着替えて、もふさまとベッドに入る。アオを真ん中にして上掛けをかけた。
父さまたちはこれから晩酌みたいだ。レーズンバターやチョコトリュフ、クラッカーにハムや果物をのせた盛り合わせが出されていた。ドアを閉めるとき、侯爵さまが摘んだレーズンバターのせクラッカーを口にして目を大きくしていたので満足だ。
それにしてもあの坊ちゃん、今頃またみんなにけちょんけちょんに言われているのかな。
オメロ坊ちゃんのお兄さんは17歳と15歳。仕事を少しずつ習っている最中だそうだ。自分も混ざりたいと言ったが、オメロは8歳。まだ早いと却下された。久しぶりにお兄さんたちにじゃれつきに行くと全然相手をしてくれないし、兄たちと仲良くしているどこぞの商会に所属している大人が気に入らなかった。父親にその旨を訴えたところ、却下。兄たちの足を引っ張るでないと怒られた。自分も兄たちに混ざると交渉した結果、新たな顧客を掴んできたら考えてみようと言われた。そして、顧客を探しにシュタイン領に来てみたらしい。
顧客って、まだ客の開拓されていない領に目をつけたのはいいが、ウチみたいな貧乏なところじゃ、いい客にはなれないだろうよ。オメロ坊ちゃんはどこか残念だ。
そんなことに思いを巡らせているうちに、アオがベッドを温めてくれていたからか、心地よい眠りに引き込まれていった。
朝起きて、もふさまと井戸のところに行く。誰もいなかったのでお湯を出そうと思うと、
「私が水を汲もう」
背中に声がかかりびくっとしてしまった。
「悪いな、驚かせるつもりはなかった。レディには井戸はまだ危ないよ」
うわー、侯爵さまに水を汲ませるわたし何者?
わたしはお礼を言ってから顔を洗った。服が盛大に濡れると侯爵さまが乾かしてくれた、暖かい風で。
え?
わたしが驚いてみると、侯爵さまは人差し指を口の前に立てて、〝ないしょ〟の仕草をした。
「やっぱり、今のが凄いことなのはわかったんだね」
あ。
「寒くなかったです。ありがとうございます」
わたしはそれには答えずニコッと笑ってみせた。
「リー、起きたの? 顔洗った?」
「侯爵さまが水を汲んでくれた」
ロビ兄に告げれば、ロビ兄は侯爵さまにお礼を言った。
朝練ではハッスルしたようで、侯爵子息イザークとタラッカ男爵子息オメロは顔にまで傷を作っていた。母さまが薬草を練ったものを塗りつけている。母さまの光魔法はまだ不調だからね。
ピドリナさんがビュッフェ形式にして、おにぎりや昔ながらのパンでのサンドイッチ、唐揚げもどき、スープ、サラダを用意してくれて、男の子たちが争うように食べ、釣られたのか兄さまたちもものすごい量を食べて、見ているだけでお腹がいっぱいになってしまった。午後にオメロを送っていくことになり、午前中はわたしはいつものルーティーンだ。
みんな畑に集合して、わたしのやることを見ている。
もふさまは何か気になることがあったのか、柵の外に駆けて行った。
まぁ、もふさまは強いからね。心配することもないだろう。
「リディア嬢は伯爵令嬢なのに、どうして土いじりをするんだ?」
「畑の世話、楽しいから」
「畑の世話が楽しい?」
「特に今、冬だから何もすることないよね?」
ああ、そうか家族以外には冬の景色に見えてるんだね。ならばとわたしは芋のツタをひっぱる。うまっている場所を確認して、シャベルで掘った。人がいると土人形が使えないから時間がかかってしまう。
あ、出てきた。
「ほら」
わたしはまさに芋づる式に出てきた芋を見せびらかす。
「芋?」
「土は休んでいるときも、中にいる生物を育んで、いい土にしてくれてるんだよ。だからお水をあげたり、空気を入れてあげたりして、活発にさせないとね」
土に詳しい人からしたらうっそぉのことでも、こういう時はさも知っているようにかますのが言いがかりをつけられないコツだと思っている。
「作物を育てるのは、手のかかることなのか?」
わたしはもちろんと頷いた。
「俺もそうじゃないかと思っていたんだ。やはりあの商人は怪しい」
オメロは腕を組む。
「商人って?」
「話しただろ、兄たちと急に仲良くなった商人だ」
「気に入らないって言ってた商人?」
オメロは頷く。
「そうだ。野菜を作るのなんて簡単なんだからもっと買い取りは安くするべきだって言うんだ。野菜を育てるのは大変なんだって最初は兄たちも言ったそうだが、それは農民が土をよくするのにお金をかけないからだって。土がすっごくよくなるポーションがあってそれを売ってやればいいっていうんだよ。
兄たちはどちらかというと疑い深いはずなのに、いつの間にか頭っから信じているんだ。そのポーションというので土が良くなったところを見たのかって聞いたら、怒られてさ。その商人だとかいう奴らも子供には理解できない難しいことかもしれないですねとか言うし。
その上、使用人の質が悪すぎるから変える必要があるとか口を出してくる有様で」
「お前、なんで昨日そこまで言わないんだよ?」
「え?」
「お前、説明できてなさすぎ」
「オメロ、その商人おかしいよ」
「うん、オメロの感覚が正しい」
いきなりみんなに肯定されて、オメロは目を瞬いた。
アラ兄が食事の前に教えてくれた。兄さまがわたしが悔しい思いをした以上の制裁を坊ちゃんにしたからと。
わたしの悔しい思いと制裁って何!?と焦って聞き返すと、侯爵子息が宿屋のできごと一部始終をみんなに話したそうだ。みんなが冷めた目で見ても坊ちゃんは悪いことをしたとも思ってない様子。それで兄さまがスイッチバック諭し方式を展開させたという。ってこれはわたしが名付けただけだけど。兄さまは怒る時、静かに怒る。水をむけて質問をして、答えていくうちに間違いとか悪いことを気づかせる方式をとるのだ。わたしはそんな目にあったことはないが、されている人を見ると本人が悪いにもかかわらずちょっと気の毒になる。人にそこが悪いと注意されるより、自分が悪いことを認め、逃げ場なくそれを告白しないといけないのは、結構くるものがある。そんなことがあってもけろっとしているのは……ある意味羨ましいストロングハートだ。
子供たちにはお茶とペアーンのパウンドケーキがサーブされる。
先に食べていいと促されて、ケーキにパクついた。
「これはペアーン?」
坊ちゃんが呆然と呟く。
ペアーンのシャリシャリした食感が楽しくて、少し爽やかで、濃厚な甘さが口に残る。ほろ苦い何かを入れた生地によく合う。
「シュタイン伯さま、ペアーンは夏実るもの。それがどうして春前に?」
「ああ、先祖が残してくれた収納袋のおかげです」
「……収納袋!」
坊ちゃんは目を大きく見開く。
「オメロは果物に詳しいのか?」
侯爵子息も仲良くなったんだね、名前呼びしている。
「まあね、商売をしているから……」
「オメロはどうして家に帰れないの?」
ロビ兄が率直に聞いた。
坊ちゃんはカップを見つめ、それから語り出した。
悩みって人によって様々だ。悩みの大きさを人が決めることではないことはわかっている。だが、あえて言おう。それが理由??
そんな理由で〝帰れない〟と思わせぶりなことを言い、宿に迷惑をかけ、最高峰の魔法士長に連絡をさせ、何考えてるんだ。
「それ、ただの駄々っ子じゃん」
「そんなことで家族に心配をかけることして……」
「お前、それで宿屋に言いがかりまでつけて、理由それかよ」
「君、自分勝手すぎるよ」
容赦ない意見の洗礼を浴びている。
従者くんがオロオロと坊ちゃんとみんなを見比べていた。
自分勝手だったり迷惑ではあるけれど、従者くんがこんなに慕っているということはいい面ももちろんあるんだろう。
父さまは含み笑いした。
「話を聞いて、どこでどう思って何を考えたかオメロくんにみんな伝えてみてごらん。オメロくんも冷静に受け止めて、反対意見があるならしなさい。お互い感情的になりすぎないこと。続きは部屋でやりなさい」
「あ、伯爵さま」
「なんでしょう?」
侯爵子息に呼びかけられて、父さまが反応する。
「朝の鍛錬をされていると聞きました。あの、私も参加してもいいですか?」
父さまはチラリと侯爵さまを見て、
「厳しくても良ければ」
と言った。オメロ坊ちゃんも参加を願い出て、子供は部屋に引き上げることになった。
ベッドではアオが変な寝息をたてていた。アリとクイは籠の中でおかしな体勢で眠っている。夜着に着替えて、もふさまとベッドに入る。アオを真ん中にして上掛けをかけた。
父さまたちはこれから晩酌みたいだ。レーズンバターやチョコトリュフ、クラッカーにハムや果物をのせた盛り合わせが出されていた。ドアを閉めるとき、侯爵さまが摘んだレーズンバターのせクラッカーを口にして目を大きくしていたので満足だ。
それにしてもあの坊ちゃん、今頃またみんなにけちょんけちょんに言われているのかな。
オメロ坊ちゃんのお兄さんは17歳と15歳。仕事を少しずつ習っている最中だそうだ。自分も混ざりたいと言ったが、オメロは8歳。まだ早いと却下された。久しぶりにお兄さんたちにじゃれつきに行くと全然相手をしてくれないし、兄たちと仲良くしているどこぞの商会に所属している大人が気に入らなかった。父親にその旨を訴えたところ、却下。兄たちの足を引っ張るでないと怒られた。自分も兄たちに混ざると交渉した結果、新たな顧客を掴んできたら考えてみようと言われた。そして、顧客を探しにシュタイン領に来てみたらしい。
顧客って、まだ客の開拓されていない領に目をつけたのはいいが、ウチみたいな貧乏なところじゃ、いい客にはなれないだろうよ。オメロ坊ちゃんはどこか残念だ。
そんなことに思いを巡らせているうちに、アオがベッドを温めてくれていたからか、心地よい眠りに引き込まれていった。
朝起きて、もふさまと井戸のところに行く。誰もいなかったのでお湯を出そうと思うと、
「私が水を汲もう」
背中に声がかかりびくっとしてしまった。
「悪いな、驚かせるつもりはなかった。レディには井戸はまだ危ないよ」
うわー、侯爵さまに水を汲ませるわたし何者?
わたしはお礼を言ってから顔を洗った。服が盛大に濡れると侯爵さまが乾かしてくれた、暖かい風で。
え?
わたしが驚いてみると、侯爵さまは人差し指を口の前に立てて、〝ないしょ〟の仕草をした。
「やっぱり、今のが凄いことなのはわかったんだね」
あ。
「寒くなかったです。ありがとうございます」
わたしはそれには答えずニコッと笑ってみせた。
「リー、起きたの? 顔洗った?」
「侯爵さまが水を汲んでくれた」
ロビ兄に告げれば、ロビ兄は侯爵さまにお礼を言った。
朝練ではハッスルしたようで、侯爵子息イザークとタラッカ男爵子息オメロは顔にまで傷を作っていた。母さまが薬草を練ったものを塗りつけている。母さまの光魔法はまだ不調だからね。
ピドリナさんがビュッフェ形式にして、おにぎりや昔ながらのパンでのサンドイッチ、唐揚げもどき、スープ、サラダを用意してくれて、男の子たちが争うように食べ、釣られたのか兄さまたちもものすごい量を食べて、見ているだけでお腹がいっぱいになってしまった。午後にオメロを送っていくことになり、午前中はわたしはいつものルーティーンだ。
みんな畑に集合して、わたしのやることを見ている。
もふさまは何か気になることがあったのか、柵の外に駆けて行った。
まぁ、もふさまは強いからね。心配することもないだろう。
「リディア嬢は伯爵令嬢なのに、どうして土いじりをするんだ?」
「畑の世話、楽しいから」
「畑の世話が楽しい?」
「特に今、冬だから何もすることないよね?」
ああ、そうか家族以外には冬の景色に見えてるんだね。ならばとわたしは芋のツタをひっぱる。うまっている場所を確認して、シャベルで掘った。人がいると土人形が使えないから時間がかかってしまう。
あ、出てきた。
「ほら」
わたしはまさに芋づる式に出てきた芋を見せびらかす。
「芋?」
「土は休んでいるときも、中にいる生物を育んで、いい土にしてくれてるんだよ。だからお水をあげたり、空気を入れてあげたりして、活発にさせないとね」
土に詳しい人からしたらうっそぉのことでも、こういう時はさも知っているようにかますのが言いがかりをつけられないコツだと思っている。
「作物を育てるのは、手のかかることなのか?」
わたしはもちろんと頷いた。
「俺もそうじゃないかと思っていたんだ。やはりあの商人は怪しい」
オメロは腕を組む。
「商人って?」
「話しただろ、兄たちと急に仲良くなった商人だ」
「気に入らないって言ってた商人?」
オメロは頷く。
「そうだ。野菜を作るのなんて簡単なんだからもっと買い取りは安くするべきだって言うんだ。野菜を育てるのは大変なんだって最初は兄たちも言ったそうだが、それは農民が土をよくするのにお金をかけないからだって。土がすっごくよくなるポーションがあってそれを売ってやればいいっていうんだよ。
兄たちはどちらかというと疑い深いはずなのに、いつの間にか頭っから信じているんだ。そのポーションというので土が良くなったところを見たのかって聞いたら、怒られてさ。その商人だとかいう奴らも子供には理解できない難しいことかもしれないですねとか言うし。
その上、使用人の質が悪すぎるから変える必要があるとか口を出してくる有様で」
「お前、なんで昨日そこまで言わないんだよ?」
「え?」
「お前、説明できてなさすぎ」
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