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4章 飛べない翼
第155話 家出少年①言いがかり
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連日、町に赴いた。まだ外壁の工事は始まっていないのに、新顔を見かける。活気が出てきたともいえるけれど、その分やはりトラブルが起こっているみたいだ。
身なりのいい人たちもちらほら見えるので、少し心配だ。
『リディア』
もふさまにスカートを引っ張られる。
すんででぶつからなかった。
わたしより少し上ぐらいの身なりのいい少しぽっちゃりしたお坊っちゃまだ。
「おい、チビ。なぜ、見るんだ」
お前がぶつかってきそうになったからだろ。急に方向転換したくせに。
「特に見ていません。失礼します」
「ちょっと待て。謝罪の機会を与える。お前に役目をやろう。町を案内させてやる」
何だそりゃ。
目の端にカールが見えた。踵を返したから、誰かに伝えてくれるかも。
「おい、見ていたぞ」
さらに身なりのいい男の子がわたしを庇うように間に入る。
「自分より小さなものに言いがかりをつけるとは」
ぽっちゃりお坊ちゃんの従者だろう。影のように後ろに控えていた彼より少し年上の細い男の子は坊ちゃんの服を引っ張り耳打ちした。
「え? イザークさま?」
「従者は俺のことを知っているようだな」
「失礼しました! 行くぞ」
ぽっちゃり坊ちゃんは細い男の子と一緒に退場した。
『こやつは魔力量がすごいぞ。リディアより上だ』
もふさまが教えてくれる。へー、そうなんだ。
「ありがとうございました」
「いや、何、目にあまる行為だったから止めに入ったまで。気にしなくていいぞ」
有名な子みたいだし、貴族でもいい子なんだね。
「家まで送ろう。またあんなのに目をつけられたら良くないからな」
「ありがとうございます。でもお迎えきたから大丈夫です」
カールが兄さまたちを連れてきてくれている。
「そうか、よかったな」
「ありがとうございました」
歩き出した紺色の長髪の子に、わたしはもう一度頭を下げた。
「リディー、大丈夫? 言いがかりつけられてるって」
「助けてもらった」
振り返って紺色の髪の男の子に視線を向ける。
「ああ、彼が助けてくれたの?」
「うん、有名な子みたい。従者の子が名前言ったら、逃げてった」
「なんて名前?」
「えーと、イザ? イークとか何とか。あ、カール、兄さま呼んできてくれてありがと。もふさまもさっき、引っ張ってくれてありがと」
わたしは一応貴族だから、何とかなるかもしれないけど、領地の子があんなこと言われたら断れないからな。
「出歩きにくくなるね。あんなのが出てきたら」
「そうだね。子供でも、問題起こしたら領地に入れなくするとか、そういうの打ち出してもいいかもね」
なるほど、とわたしは頷いた。
町の家に行き兄さまが父さまに報告をしたら、わたしはもふさまとだけの外出は禁止されてしまった。がっくし。
今日はカトレアの家にお邪魔することになっている。ミニーも合流することになっている。おもたせはプリンで、わたしたちのおやつはオムレットにした。おいしい生クリームに砂糖があるからね。そしてみずみずしく味のいい果物もある。コラボしておいしくないわけがない!
近頃、午前中で余った時間はお菓子作りに勤しんでいる。いつか売ることになるかもしれないから、食べてもらって感想をもらうのも大事だ。ただ食事を作るピドリナさんの邪魔をしても申し訳ないので、時間を決めてやっている。
アルノルトさんと手を繋いで、カトレアの家に着いた。カトレアの家は宿屋だ。一階と半地下がカトレアたちの居住スペースだそうだ。裏から回ってノックをするとカトレアが顔を出した。
「いらっしゃい!」
と言ってからアルノルトさんに気づいて、少し恥ずかしそうに挨拶をした。
「ミニーもきてるわよ。入って」
「アルノルトさん、ありがと」
「いえ、夕方に迎えにきますから、それまで外には出ないでくださいね。カトレアさま、もふさま、お嬢さまをよろしくお願いします」
アルノルトさんが胸に手をやり頭を下げると、カトレアは頬を赤らめてお辞儀を返した。
家に入ってから「奥さんいるよ」と告げると「そんなんじゃないわよ!」と背中を叩かれた。居住区ならもふさまも入っていいと言われているので、トコトコと後ろをついてくる。
反対側の入り口からカトレアのお母さんが入ってきた。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
「ああ、こちらが噂のわんちゃんだね。抱き上げてもいいかい?」
もふさまが、カトレアのお母さんが屈み差し出した手に手をかける。
「いいみたいです」
告げると、お母さんは抱き上げて、モフっとした白い毛に頬擦りする。
「かわいいねー。客商売だから生き物は飼えないんだけど、私はふわふわしたのが好きなんだよ」
すっごい嬉しそうだ。もふさまも満更じゃないみたい。尻尾が揺れているからね。
お母さんは、もふさまに抱っこをさせてくれたお礼を言って床へと下ろした。
わたしは持ってきたプリンをおばさんに渡す。
「皆さんで召し上がってください」
「あら、ありがとう。たった今、執事の方からもいただいたのよ。領主さまからって。ありがとうね」
そういって、カトレアにわたしたちにココアを出すように指示している。ココア? ココアだ、やったー!
「リディア、ミニーがいるから部屋に入ってて」
カトレアに言われてわたしは頷いた。
部屋に入ると本棚があり、古めではあるけれど本がぎっしり入っていた。
「あ、リディア! もふさまも!」
「ミニー!」
一昨日も会ったのだが、会えるとテンションがあがる。
「カトレアの部屋、本がいっぱいだね」
「大切に扱うなら、本を貸してくれるのよ」
へー、そうなんだ。
ミニーはもふさまをもふっている。
そのうちに、お盆にカップ3つとお皿?を乗せたお盆を抱えて、カトレアが入ってきた。
お皿には水が入っていて、もふさま用だった。
3つのカップには濃い茶色。ココアの甘い匂いが漂う。
「わーココア?」
尋ねたミニーにカトレアは頷いた。商人さんにお土産でもらったものだそうだ。
「あ、おやつ出していい?」
「え? プリンだけじゃなくて、他にも持ってきてくれたの?」
「あれはお家に。こっちはわたしたちのおやつ」
ワセランでオムレットを巻いてきた。
「なにこれ、かわいい!」
「オムレット。生クリームと果物をケーキで巻いたの」
ワセランに印をつけてきた。
「これがベアベリーで、ピーチンで、ペアーンで、グレーンだよ。どれがいい?」
ふたりは真剣に考えこんでいる。
カトレアが顔をあげた。
「全部4等分にしない?」
それはいいとわたしたちは頷いた。
今日の家族のおやつもみんなオムレットだ。気に入るといいな。
カトレアがカットしてきてくれた。もふさまにだけ、最初にひとつずつとりわけ、あとはそれぞれのワセランから手を出していただくことにした。
最初にペアーンに手を伸ばす。洋梨だ。生クリームよりきっとカスタードの方が合うだろうと作る時から思っていただけに残念だけど。あ、生クリームとも、悪くない相性だ。
「ペアーンも初めて食べたけど、爽やかな感じがちょっとして。果物だけでもおいしいんじゃない? それが生クリームと、ケーキ? やー、すっごくおいしい」
「リディア、おいしい!」
さて、次はぶどう、グレーンだ。あ、これもまた、あまっ、だけど、しつこくはないね。
「グレーンも生クリームと合うね」
「こっちもおいしい」
「ピーチンとベアベリーは間違いなく生クリームと合うから」
わたしは太鼓判をおす。
ハッとしてみると、もふさまは全部平らげていた。わたしの視線に気づき
『どれも、うまかったぞ』
とペロンと舌で口を舐めた。
身なりのいい人たちもちらほら見えるので、少し心配だ。
『リディア』
もふさまにスカートを引っ張られる。
すんででぶつからなかった。
わたしより少し上ぐらいの身なりのいい少しぽっちゃりしたお坊っちゃまだ。
「おい、チビ。なぜ、見るんだ」
お前がぶつかってきそうになったからだろ。急に方向転換したくせに。
「特に見ていません。失礼します」
「ちょっと待て。謝罪の機会を与える。お前に役目をやろう。町を案内させてやる」
何だそりゃ。
目の端にカールが見えた。踵を返したから、誰かに伝えてくれるかも。
「おい、見ていたぞ」
さらに身なりのいい男の子がわたしを庇うように間に入る。
「自分より小さなものに言いがかりをつけるとは」
ぽっちゃりお坊ちゃんの従者だろう。影のように後ろに控えていた彼より少し年上の細い男の子は坊ちゃんの服を引っ張り耳打ちした。
「え? イザークさま?」
「従者は俺のことを知っているようだな」
「失礼しました! 行くぞ」
ぽっちゃり坊ちゃんは細い男の子と一緒に退場した。
『こやつは魔力量がすごいぞ。リディアより上だ』
もふさまが教えてくれる。へー、そうなんだ。
「ありがとうございました」
「いや、何、目にあまる行為だったから止めに入ったまで。気にしなくていいぞ」
有名な子みたいだし、貴族でもいい子なんだね。
「家まで送ろう。またあんなのに目をつけられたら良くないからな」
「ありがとうございます。でもお迎えきたから大丈夫です」
カールが兄さまたちを連れてきてくれている。
「そうか、よかったな」
「ありがとうございました」
歩き出した紺色の長髪の子に、わたしはもう一度頭を下げた。
「リディー、大丈夫? 言いがかりつけられてるって」
「助けてもらった」
振り返って紺色の髪の男の子に視線を向ける。
「ああ、彼が助けてくれたの?」
「うん、有名な子みたい。従者の子が名前言ったら、逃げてった」
「なんて名前?」
「えーと、イザ? イークとか何とか。あ、カール、兄さま呼んできてくれてありがと。もふさまもさっき、引っ張ってくれてありがと」
わたしは一応貴族だから、何とかなるかもしれないけど、領地の子があんなこと言われたら断れないからな。
「出歩きにくくなるね。あんなのが出てきたら」
「そうだね。子供でも、問題起こしたら領地に入れなくするとか、そういうの打ち出してもいいかもね」
なるほど、とわたしは頷いた。
町の家に行き兄さまが父さまに報告をしたら、わたしはもふさまとだけの外出は禁止されてしまった。がっくし。
今日はカトレアの家にお邪魔することになっている。ミニーも合流することになっている。おもたせはプリンで、わたしたちのおやつはオムレットにした。おいしい生クリームに砂糖があるからね。そしてみずみずしく味のいい果物もある。コラボしておいしくないわけがない!
近頃、午前中で余った時間はお菓子作りに勤しんでいる。いつか売ることになるかもしれないから、食べてもらって感想をもらうのも大事だ。ただ食事を作るピドリナさんの邪魔をしても申し訳ないので、時間を決めてやっている。
アルノルトさんと手を繋いで、カトレアの家に着いた。カトレアの家は宿屋だ。一階と半地下がカトレアたちの居住スペースだそうだ。裏から回ってノックをするとカトレアが顔を出した。
「いらっしゃい!」
と言ってからアルノルトさんに気づいて、少し恥ずかしそうに挨拶をした。
「ミニーもきてるわよ。入って」
「アルノルトさん、ありがと」
「いえ、夕方に迎えにきますから、それまで外には出ないでくださいね。カトレアさま、もふさま、お嬢さまをよろしくお願いします」
アルノルトさんが胸に手をやり頭を下げると、カトレアは頬を赤らめてお辞儀を返した。
家に入ってから「奥さんいるよ」と告げると「そんなんじゃないわよ!」と背中を叩かれた。居住区ならもふさまも入っていいと言われているので、トコトコと後ろをついてくる。
反対側の入り口からカトレアのお母さんが入ってきた。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
「ああ、こちらが噂のわんちゃんだね。抱き上げてもいいかい?」
もふさまが、カトレアのお母さんが屈み差し出した手に手をかける。
「いいみたいです」
告げると、お母さんは抱き上げて、モフっとした白い毛に頬擦りする。
「かわいいねー。客商売だから生き物は飼えないんだけど、私はふわふわしたのが好きなんだよ」
すっごい嬉しそうだ。もふさまも満更じゃないみたい。尻尾が揺れているからね。
お母さんは、もふさまに抱っこをさせてくれたお礼を言って床へと下ろした。
わたしは持ってきたプリンをおばさんに渡す。
「皆さんで召し上がってください」
「あら、ありがとう。たった今、執事の方からもいただいたのよ。領主さまからって。ありがとうね」
そういって、カトレアにわたしたちにココアを出すように指示している。ココア? ココアだ、やったー!
「リディア、ミニーがいるから部屋に入ってて」
カトレアに言われてわたしは頷いた。
部屋に入ると本棚があり、古めではあるけれど本がぎっしり入っていた。
「あ、リディア! もふさまも!」
「ミニー!」
一昨日も会ったのだが、会えるとテンションがあがる。
「カトレアの部屋、本がいっぱいだね」
「大切に扱うなら、本を貸してくれるのよ」
へー、そうなんだ。
ミニーはもふさまをもふっている。
そのうちに、お盆にカップ3つとお皿?を乗せたお盆を抱えて、カトレアが入ってきた。
お皿には水が入っていて、もふさま用だった。
3つのカップには濃い茶色。ココアの甘い匂いが漂う。
「わーココア?」
尋ねたミニーにカトレアは頷いた。商人さんにお土産でもらったものだそうだ。
「あ、おやつ出していい?」
「え? プリンだけじゃなくて、他にも持ってきてくれたの?」
「あれはお家に。こっちはわたしたちのおやつ」
ワセランでオムレットを巻いてきた。
「なにこれ、かわいい!」
「オムレット。生クリームと果物をケーキで巻いたの」
ワセランに印をつけてきた。
「これがベアベリーで、ピーチンで、ペアーンで、グレーンだよ。どれがいい?」
ふたりは真剣に考えこんでいる。
カトレアが顔をあげた。
「全部4等分にしない?」
それはいいとわたしたちは頷いた。
今日の家族のおやつもみんなオムレットだ。気に入るといいな。
カトレアがカットしてきてくれた。もふさまにだけ、最初にひとつずつとりわけ、あとはそれぞれのワセランから手を出していただくことにした。
最初にペアーンに手を伸ばす。洋梨だ。生クリームよりきっとカスタードの方が合うだろうと作る時から思っていただけに残念だけど。あ、生クリームとも、悪くない相性だ。
「ペアーンも初めて食べたけど、爽やかな感じがちょっとして。果物だけでもおいしいんじゃない? それが生クリームと、ケーキ? やー、すっごくおいしい」
「リディア、おいしい!」
さて、次はぶどう、グレーンだ。あ、これもまた、あまっ、だけど、しつこくはないね。
「グレーンも生クリームと合うね」
「こっちもおいしい」
「ピーチンとベアベリーは間違いなく生クリームと合うから」
わたしは太鼓判をおす。
ハッとしてみると、もふさまは全部平らげていた。わたしの視線に気づき
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