プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
155 / 799
4章 飛べない翼

第155話 家出少年①言いがかり

しおりを挟む
 連日、町に赴いた。まだ外壁の工事は始まっていないのに、新顔を見かける。活気が出てきたともいえるけれど、その分やはりトラブルが起こっているみたいだ。
 身なりのいい人たちもちらほら見えるので、少し心配だ。

『リディア』

 もふさまにスカートを引っ張られる。
 すんででぶつからなかった。
 わたしより少し上ぐらいの身なりのいい少しぽっちゃりしたお坊っちゃまだ。

「おい、チビ。なぜ、見るんだ」

 お前がぶつかってきそうになったからだろ。急に方向転換したくせに。

「特に見ていません。失礼します」

「ちょっと待て。謝罪の機会を与える。お前に役目をやろう。町を案内させてやる」

 何だそりゃ。
 目の端にカールが見えた。踵を返したから、誰かに伝えてくれるかも。

「おい、見ていたぞ」

 さらに身なりのいい男の子がわたしを庇うように間に入る。

「自分より小さなものに言いがかりをつけるとは」

 ぽっちゃりお坊ちゃんの従者だろう。影のように後ろに控えていた彼より少し年上の細い男の子は坊ちゃんの服を引っ張り耳打ちした。

「え? イザークさま?」

「従者は俺のことを知っているようだな」

「失礼しました! 行くぞ」

 ぽっちゃり坊ちゃんは細い男の子と一緒に退場した。

『こやつは魔力量がすごいぞ。リディアより上だ』

 もふさまが教えてくれる。へー、そうなんだ。

「ありがとうございました」

「いや、何、目にあまる行為だったから止めに入ったまで。気にしなくていいぞ」

 有名な子みたいだし、貴族でもいい子なんだね。

「家まで送ろう。またあんなのに目をつけられたら良くないからな」

「ありがとうございます。でもお迎えきたから大丈夫です」

 カールが兄さまたちを連れてきてくれている。

「そうか、よかったな」

「ありがとうございました」

 歩き出した紺色の長髪の子に、わたしはもう一度頭を下げた。



「リディー、大丈夫? 言いがかりつけられてるって」

「助けてもらった」

 振り返って紺色の髪の男の子に視線を向ける。

「ああ、彼が助けてくれたの?」

「うん、有名な子みたい。従者の子が名前言ったら、逃げてった」

「なんて名前?」

「えーと、イザ? イークとか何とか。あ、カール、兄さま呼んできてくれてありがと。もふさまもさっき、引っ張ってくれてありがと」

 わたしは一応貴族だから、何とかなるかもしれないけど、領地の子があんなこと言われたら断れないからな。

「出歩きにくくなるね。あんなのが出てきたら」

「そうだね。子供でも、問題起こしたら領地に入れなくするとか、そういうの打ち出してもいいかもね」

 なるほど、とわたしは頷いた。
 町の家に行き兄さまが父さまに報告をしたら、わたしはもふさまとだけの外出は禁止されてしまった。がっくし。



 今日はカトレアの家にお邪魔することになっている。ミニーも合流することになっている。おもたせはプリンで、わたしたちのおやつはオムレットにした。おいしい生クリームに砂糖があるからね。そしてみずみずしく味のいい果物もある。コラボしておいしくないわけがない!

 近頃、午前中で余った時間はお菓子作りに勤しんでいる。いつか売ることになるかもしれないから、食べてもらって感想をもらうのも大事だ。ただ食事を作るピドリナさんの邪魔をしても申し訳ないので、時間を決めてやっている。
 アルノルトさんと手を繋いで、カトレアの家に着いた。カトレアの家は宿屋だ。一階と半地下がカトレアたちの居住スペースだそうだ。裏から回ってノックをするとカトレアが顔を出した。

「いらっしゃい!」

 と言ってからアルノルトさんに気づいて、少し恥ずかしそうに挨拶をした。

「ミニーもきてるわよ。入って」

「アルノルトさん、ありがと」

「いえ、夕方に迎えにきますから、それまで外には出ないでくださいね。カトレアさま、もふさま、お嬢さまをよろしくお願いします」

 アルノルトさんが胸に手をやり頭を下げると、カトレアは頬を赤らめてお辞儀を返した。
 家に入ってから「奥さんいるよ」と告げると「そんなんじゃないわよ!」と背中を叩かれた。居住区ならもふさまも入っていいと言われているので、トコトコと後ろをついてくる。
 反対側の入り口からカトレアのお母さんが入ってきた。

「いらっしゃい」

「お邪魔します」

「ああ、こちらが噂のわんちゃんだね。抱き上げてもいいかい?」

 もふさまが、カトレアのお母さんが屈み差し出した手に手をかける。

「いいみたいです」

 告げると、お母さんは抱き上げて、モフっとした白い毛に頬擦りする。

「かわいいねー。客商売だから生き物は飼えないんだけど、私はふわふわしたのが好きなんだよ」

 すっごい嬉しそうだ。もふさまも満更じゃないみたい。尻尾が揺れているからね。
 お母さんは、もふさまに抱っこをさせてくれたお礼を言って床へと下ろした。
 わたしは持ってきたプリンをおばさんに渡す。

「皆さんで召し上がってください」

「あら、ありがとう。たった今、執事の方からもいただいたのよ。領主さまからって。ありがとうね」

 そういって、カトレアにわたしたちにココアを出すように指示している。ココア? ココアだ、やったー!

「リディア、ミニーがいるから部屋に入ってて」

 カトレアに言われてわたしは頷いた。
 部屋に入ると本棚があり、古めではあるけれど本がぎっしり入っていた。

「あ、リディア! もふさまも!」

「ミニー!」

 一昨日も会ったのだが、会えるとテンションがあがる。

「カトレアの部屋、本がいっぱいだね」

「大切に扱うなら、本を貸してくれるのよ」

 へー、そうなんだ。
 ミニーはもふさまをもふっている。
 そのうちに、お盆にカップ3つとお皿?を乗せたお盆を抱えて、カトレアが入ってきた。
 お皿には水が入っていて、もふさま用だった。
 3つのカップには濃い茶色。ココアの甘い匂いが漂う。

「わーココア?」

 尋ねたミニーにカトレアは頷いた。商人さんにお土産でもらったものだそうだ。

「あ、おやつ出していい?」

「え? プリンだけじゃなくて、他にも持ってきてくれたの?」

「あれはお家に。こっちはわたしたちのおやつ」

 ワセランでオムレットを巻いてきた。

「なにこれ、かわいい!」

「オムレット。生クリームと果物をケーキで巻いたの」

 ワセランに印をつけてきた。

「これがベアベリーで、ピーチンで、ペアーンで、グレーンだよ。どれがいい?」

 ふたりは真剣に考えこんでいる。
 カトレアが顔をあげた。

「全部4等分にしない?」

 それはいいとわたしたちは頷いた。
 今日の家族のおやつもみんなオムレットだ。気に入るといいな。
 カトレアがカットしてきてくれた。もふさまにだけ、最初にひとつずつとりわけ、あとはそれぞれのワセランから手を出していただくことにした。
 最初にペアーンに手を伸ばす。洋梨だ。生クリームよりきっとカスタードの方が合うだろうと作る時から思っていただけに残念だけど。あ、生クリームとも、悪くない相性だ。

「ペアーンも初めて食べたけど、爽やかな感じがちょっとして。果物だけでもおいしいんじゃない? それが生クリームと、ケーキ? やー、すっごくおいしい」

「リディア、おいしい!」

 さて、次はぶどう、グレーンだ。あ、これもまた、あまっ、だけど、しつこくはないね。

「グレーンも生クリームと合うね」

「こっちもおいしい」

「ピーチンとベアベリーは間違いなく生クリームと合うから」

 わたしは太鼓判をおす。
 ハッとしてみると、もふさまは全部平らげていた。わたしの視線に気づき

『どれも、うまかったぞ』

 とペロンと舌で口を舐めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

処理中です...