プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
153 / 799
4章 飛べない翼

第153話 空飛ぶおまる

しおりを挟む
 わたしは町に来た馬車の中のお昼寝だけでは足りなかったようなので、町の家のソファーで眠った。その間、双子は土魔法の伝授を、風や水は兄さまがと、魔法のレッスンをしていたみたいだ。

 ぼそぼそと話し声が聞こえて、わたしは目が覚めた。
 父さまともふさまが話していた。魔具を使ったようだ。

「魔具を買うのに使わせていただきたいのです」

 もふさまの尻尾が揺れる。

『前にも言った通り。我には使い道がない。思うように使うが良い。我に報告もしなくていいぞ』

「報告はさせてください」

 父さまが苦笑いしている。ふと、こちらを見て目が合う。

「起きたか?」

 父さまが隣にきて体を起こしてくれた。

「リー、起きたの?」
「リー、起きたか?」

 双子が部屋に飛び込んできた。その後に兄さまも続いている。

「うん、起きた」

「ちゃんと先生はできたのか?」

 父さまが尋ねると、嬉しそうに答える。

「ちゃんとかはわからないけど。みんな魔力はそうないっていいながら使えてたよ」

「ビリーとヤスは土台づくりいけるかもしれないよ」

「そうか!」

 双子の報告に笑顔になる。父さま、それ狙ってた?

「父さま、わたしは?」

「リディアは〝土〟を持っていないだろう?」

 頬が膨らんだらしい。
 兄さまにほっぺを突っつかれる。

「父さまと一緒にいる時に、父さまがやっていることにしてやっていいから、それで我慢しなさい」

「はーい」

 アラ兄が心配そうな顔をする。

「いくら半分は山に囲まれてるといっても……土台は土魔法の使い手でやるとして、職人雇って鉱石を入れるんだよね? お金、大丈夫なの?」

「子供はそんな心配をするんじゃないと言いたいところだが、お前たちは現状を知っているしな。相談してからになるが、鉱石はケルト鉱石が使えないかと考えている。それから金銭面だが、確かに前より潤ってはいるが、本当のところ領地の諸々に回せるようなお金はなかった。だが、ダンジョンで主人さまがストーンゴーレムを倒しただろう?」

 わたしたちは頷く。

「おれたちを乗せたままひと蹴りだ! もふさま、つえー!」

 ひと蹴りの言葉に合わせてロビ兄はエア飛び蹴りを決める。なんで跳んでもブレずにあんな体勢がとれるんだろう?

「うん、本当に強い。あんな大きいのに、急所を捉えて」

 兄さまが珍しく興奮したようにもふさまを見る。

「急所?」

 アラ兄が首を傾げると、兄さまは大きく頷いた。

「そうだよ、もふさまは急所を蹴ったんだ。それでストーンゴーレムが粉々になったんだ」

「もふさま、なんで急所わかるの?」

 勢い込んで聞いたロビ兄。もふさまの尻尾が気持ちよさそうに左右に揺れる。

『我が強いからだ。強くなると相手がよく見えるのだ』

 わたしは通訳した。
 兄さまたちは真剣に聞いている。
 あ、話がそれた。

「ゴーレム倒した。覚えてる」

 わたしは父さまに話を振る。

「ああ、みんなよく覚えているようだな」

 父さまは苦笑気味だ。

「あのゴーレムを倒してドロップしたのが金色の石だった」

 ああ、そういえば、もふさまがとってきて放り投げていた。

「あれは〝金〟だった」

「金?」

「ああ、金版に使われる、あの金だ」

 わたしたちは口を開けた。

「……大きくなかった?」

 アラ兄が胸の前でこれくらいと手を広げる。

「ああ、そうだ。主人さまにいただき、使い道を考えていたのだが、領地の防犯体勢を整えるのに、使わせていただくことにした」

 自警団に砦から来てくれる人たちを組み込むそうだ。昔から一線で活躍していた猛者たち。彼らも年月による身体の衰えには抗えなかった。いざっていうときに足を引っ張ることになったら洒落にならないからと、引退することをおじいさまに相談していたらしい。そこを父さまがスカウトしたそうだ。

 領地を塀で囲み、門を作り門番を置く。門ではイダボアにあった犯罪歴をチェックする魔具を購入し、チェックすることにするそうだ。犯罪歴のあった人が領地の中にいる間どこにいるかわかるようにする魔具、それがバカ高いらしい。魔具、塀、人件費、その金塊で全ては解決できそうだという。

 金塊だったの? すごい! あのゴーレムにそんな……。
 ごくんと生唾を飲み込む。
 え、だって、ということは、あれをこれからも倒せば……。

「リディー」

 呼ばれてハッとする。

「あのゴーレムは父さまとアルノルトでも倒すのにかなり難しいだろう。主人さまだからできたことだし、恐らくドロップするものも倒し方で物が違ってくるだろう。だから変な考えは起こさないようにな」

 お見通しだなー。
 もふさまの尻尾が左右に強く揺れている。

「父さま、急にそんなお金を使うようなことをして、どこからお金を?って思われない?」

 兄さまが心配そうに声をあげる。

「ああ、それか。それなら大丈夫だろう」

 わたしたちは父さまを見上げる。
 わたしたちが第二王子殿下のお茶会に呼ばれたことは、密やかに広く知れ渡っているらしい。そして急に父さまと仲良くしたくなった人が増えて、贈り物やら援助やらの声がいっぱいかかったんだって。
 どれも断っているが、声をかけてくれた人が多いだけに、勝手にあそこから借りたんだろうとか想像するはずだと言っていた。へー、そういうものか。

 なんてわたしたちは話していたのだが、もちろんいくつかのところと仲良くなっているのだろうと思われているようだが、どうもわたしたちはダンジョンで多くを得たのではないかと噂になったようだ。
 砦の近くのダンジョンに急に人がわんさか詰めかけたという。ダンジョンが流行ったので、魔物の氾濫が少なくなるのを知るのは、時が経ってからだ。


 移動手段が欲しい。切実に。
 マルサトウのこともあるから、村にも行きたい。もふさまに乗せてもらえば簡単に行けちゃうけど、バレてしまうし。だからってライオンサイズになってもらったら、……小さいサイズに戻ったらそれもおかしいことだから、抱っこができなくなっちゃう。それは嫌!
 電車もバスも車もない。せめて自転車でもあったら。いや、自転車で小さい村まではかなり遠いな。自転車でないなら……。
 ! わたしは空飛ぶアヒルおまるを作ろうと思う。
 いや、本物のおまるじゃないよ。形だけ、ね。
 あの形、今のわたしにとても合うと思うのだ。風の永久魔石でふよふよ飛ばすの。ハンドルもついているから行きたい方へ舵が取りやすいし、いっぱい歩かないですむ。

 家に帰ってからメインルームで魔具作りに勤しんだ。
 ケルト鉱石で形を作るよ。座る部分と胴体と首部分と。アヒルの顔にして。ハンドルをつける。

『リ、リディア、それはなんだ?』

「アヒルのおまる」

『おまるとは何だ?』

「……レディは、口にしちゃいけないの」

『?…………』

 全体のシルエットだけだよ。携帯トイレにするわけじゃないもん。

「アヒルって、あのアヒルでちか?」

 アオは首を90度傾けて、今度は反対に傾ける。

「多分、そのアヒル」

 何さ? 大きな丸いフォルムのクチバシ。どっからどう見てもアヒルじゃないか。
 
『まあ、それはいい。それでこれをどうするのだ?』

 わたしは座るところの下に風の永久魔石にした魔石を埋め込む。
 そして乗り込んでハンドルを持つ。

「テークオフ!」

 ふよふよと浮き上がる。

「浮いたでち」

「こうするの! これで村にひとりでも行ける!」

 もふさまが後ろに乗った。揺れはしたが、まだキャパオーバーではない。
 アオがわたしの前に乗り込んだ。おお、大丈夫だ。

「ハウスさん、廊下にお願いします!」

『イエス、マスター』

 廊下を3人乗りしたアヒルのおまるでふよふよと居間に飛んでいく。

「な、何それ!」

「スッゲー、飛んでる」

「父さま!」

「な、なんだそれは……」

「魔具作った。これで疲れないで移動できる!」

「……却下だ」

「え」

「ダメに決まっているだろう。そんな魔具、見たことも聞いたこともない」

 えーーーーーーーーーーーー。
 ああ、そうだった。今まで魔具が作れなかったのは、どこでどうやってこの魔具をと突っ込まれるのを避けるためだった。あまりにも欲しくて、いろいろすっぱぬけて、ただただ盛り上がってしまった!
 わたしがうなだれたからか、父さまがコホンと咳払いする。

「…………ミラーダンジョンの中だけは許可する」

 やったー。

「移動か……。ケインは無理だしな」

 ケインは賢くてわたしを乗せてくれるが、如何せんケインが動いてなくても、わたしは転げ落ちることができた。もふさまに助けてもらったけどね。ひとりでは乗っていることもできないのだ。

「私が乗せてあげるよ」

「でも、兄さま忙しい時もある。それにケイン、父さまが町にいく時に使うから、やっぱり移動手段ない」

 わたしたちは再び唸ったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

【完結・短編】婚約破棄された悪役令嬢は、隣国でもふもふの息子と旦那様を手に入れる

未知香
恋愛
 フィリーナは、婚約者の護衛に突き飛ばされここが前世の乙女ゲームの世界であることに気が付いた。  ……そして、今まさに断罪されている悪役令嬢だった。  婚約者は憎しみを込めた目でフィリーナを見て、婚約破棄を告げた。  ヒロインであろう彼女は、おびえるように婚約者の腕に顔をくっつけて、勝ち誇ったように唇をゆがめた。  ……ああ、はめられた。  断罪された悪役令嬢が、婚約破棄され嫁がされた獣人の国で、可愛い息子に気に入られ、素敵な旦那様と家族みなで幸せになる話です。

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...