プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
142 / 799
4章 飛べない翼

第142話 砦②もがれた羽

しおりを挟む
 1日過ごして、わたしは同年代の女の子に厄介者と思われていることをひしひしと感じた。
 リディア何した!? とセルフツッコミしたけど、それは逆で、何もしなかったことが原因なのかもしれなかった。とにかく居心地が悪い。

 女の子たちは急にいっぱい話すようになったわたしに困惑し、男の子たちはわたしが泣かなくなったので扱いやすいと思うみたいで、遊びに誘ってくれるようになった。

 子供たちは大人の手伝いをするのが推奨されているけれど、その時間は午前中と決められている。おじいさまの方針だ。子供は遊ばなくちゃいかんというのが持論だ。遊ぶ時間では男女に分かれることが多いようだ。わたしは兄さまたちと同じく男の子のグループに混ざるようにした。もふさまもその方が楽しそうだから。

 忌憚なく接してくれるのはハンナぐらいで、大人たちは戸惑っている。それは砦の序列に関係しているみたいだ。この砦のボスはおじいさまだ。次がシヴァ。その次がマルティンおじさん。で、その次が父さまだった。ただ父さまはおじいさまの身内だし、今は遊びにきている枠なんだけど、マルティンおじさんを立てるべきか、父さまを立てるべきかで微妙な空気が生まれるようだ。マルティンおじさんでいいと思うんだけど。そしてその雰囲気は子供たちにも伝わっている。子供たちにしては、わたしたちが友達枠なのか辺境伯の家族なのかそこでつまずいているっぽい。兄さまは〝おじいさまの子供〟と知れ渡っているらしく、兄さまには従うていのようだ。

 女の子にはそれがさらに顕著で、しかも何もできないみそっかすのわたしをボスの身内ってことで敬わなくちゃいけないのが嫌みたいだ。
 いえ、あなたたち全然敬っていないから!



 さて、本日も男の子グループに混じろうと思うと、女の子たちに捕まった。
 遊ぶ時間に繕いものをしているようで、砦にいるのだからこれぐらいの役に立てというようなことを言われた。まあ、従いましょう。
 みんなと並んで針を動かす。針仕事は鞄でずいぶん上達したはずだ。

「あら、できるようになったのね」

 隣の女の子がわたしの手元を覗き込んで言う。

「ジュディー」

 紺色の髪の子が鋭く声を上げる。わたしを褒めたオレンジ色の髪のジュディーはハッとしたように口をつぐんだ。

「レギーナさまはなんで来ないの?」

 紺色の髪の子に尋ねられる。

「留守番、なった」

「リディアがワズラワセルからじゃないの?」

  煩わせる? スゴイ言葉使ってきたな。大人がそう話しているのを聞いたんだろうな。どうやらわたしは砦で大人たちにも厄介者認定されているようだ。なんでかなー。

「いいわよね。辺境伯さまの家族だから追い出されないのよ。何もできなくて役に立たないのに砦にいるなんて迷惑だわ」

「本当、優秀なお兄さまたちと違って、リディアって迷惑よね」

 畳み掛けるように言われ、チクンと胸が痛む。この痛みをわたしは知っていた。呼び水となり、感情が呼び覚まされる。

 ……リディア……。過去のわたしを想って泣きそうになった。
 リディアはずっとここで、こういう扱いを受けてきたんだ。
 家族は優しいし大好きだ、だから余計に言えなかった。

 言い返しても、「できない」「役に立たない」「ダメだ」「迷惑」って言われ続けて、それであなたは〝嫌〟だなと漠然と思っていた。嫌な理由を考えてもわからないし、何をしてみても〝嫌〟なのは変わらなかった。それがあなたの〝疲れる〟だった。〝疲れる〟のが〝嫌〟な理由なら、自分も誰も傷つかないから。

 砦にも好きな人たちはいるけれど少数だ。おじいさまとシヴァに会いたかったけど、心踊らなかったのは、わたしは砦が好きではなかったんだ。だから引っ越して嬉しかった。嬉しかったから、引越し先で柄にもなくすぐに外に出て走り回ったりしたんだ。

 リディアは口が達者ではなかった。トロいし、不器用でガサツな上に大雑把。異質だったのかもしれない。それでも辺境伯のひ孫、表立って攻撃はできないから、大人のいないところで、何度も積み重ねるように言われてきたんだ。何もできなくて、役立たずで、迷惑だと。

 別に何かをされるわけでもないから。リディア以外が手を組んでいるだけだから、リディアは声をあげることもできなかった。そうして、何も期待しないように、ただ疲れるからと、いろいろなことに蓋をした。

 ひとつ思い出した。癇癪もちだと怖がられていた。できないって手足をバタバタして手がつけられなくなるんだと。思い出してきたよ。何か小声で言って、瞳を伏せる。そして決まって、お兄さまたちはあんなに立派なのにねと。せめてお兄さまたちの迷惑にならなうようにするべきだと言われ続けてたね。はっきりと言われなくても、それは澱のようにわたしの奥底に溜まり、目を伏せられるだけで言われているのと同じ効果を発揮するようになった。ものすごく怖くなって、いたたまれなくなって、できない自分に腹を立てた。自分を抑えられなくて手足をバタバタさせて心のままに大泣きした。ああ、癇癪にも理由があったんだね。原因となることが。

 ここに居たくない。立ち上がる。

「あら。大好きな部屋に帰るの? だったら出てこなければいいのに」

 少女たちを見渡す。言葉で攻撃はしてきていないが、にっこりと微笑んだのを見た。発言している子たちがその子の表情を確かめているのも見た。
 心臓がバクバクいってる。わたしはこの状況が怖いみたいだ。それでも、それなりに経験を積んだ記憶のわたしの負けん気が首をもたげる。

「あなたたち、そこまでにしておけば、よかったのに。〝出てこなければいいのに〟は余計だったね」

 わたしは普通の速度で歩き出す。

「リディア、どこに行くの? ネリーの言ったことが気に入らなかったなら私が謝るから許してあげて」

 栗色の髪した子がおっとりと言った。お前だろ、言わせているのは。

「許せる、範囲、超えた」

 栗色の子に微笑む。

「言いつけたって無駄よ。誰もそんな話し方しかできないリディアのいうことなんか信じない」

 言ったのは紺の髪の子だろう。
 わたしは振り返らなかった。
 砦にいるからか、もうひとつ思い出したよ。

 あれが最初だ。
 アイラがやったんだよね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

処理中です...