プラス的 異世界の過ごし方

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3章 弱さと強さと冬ごもり

第134話 冬ごもり③サプライズ

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 雪にはしゃぐ気持ちにはなれず、ライオンサイズになってくれたもふさまにしがみついて馬車に乗った。いつのまにかもふさまに抱え込まれるようにして眠っていた。

 家に着いて、ケインにお水とマルサトウをあげ、庭に放す。雪は降ってくるのに、庭の中は積もらない。青々とした草をケインはおいしそうに食んでいる。後でブラッシングをする約束をして、家の中に入る。

「お帰りなさいでち」

 アオとアリとクイが出迎えてくれた。
 お腹が空いたので、軽くサンドイッチを食べた。

 今日は12月24日、クリスマスイブだ。こっちではなんの関係もないけど、わたしの体内時計がクリスマスイブを欲している。そう、クリスマスではなく、日本の前日の夜がメインのように盛り上がってしまうイブを。
 スポンジケーキは焼いておいた。わたしはシフォンをケーキ地にするのが好きだけれど、今日はスタンダートなところでいくことにした。生クリームも手に入ったしね。ベアベリーのショートケーキにするつもりだ。

 そしてピドリナさんと決めたイヴのメニューは、オニオングラタンスープ、トマトンとチーズのカプレーゼ風、温野菜のリース風、ベーコンとチーズのピザ、ローストビーフと牛肉のステーキだ。タイムスケジュールも相談しておいたのでサクサク進んでいく。それでも考えていたより時間をオーバーしてしまったが、兄さまたちがケインのブラッシングを済ませておいてくれたので間に合った。
 馬小屋も中に入れば雪が降っているほどの底冷えではない。ハウスさんが微妙に調整してくれているのかも。ひよこちゃんと仲良しで、デュカートの毛皮を一緒にかけてぬくぬくしているみたいだ。

 お風呂に入り、しっかり温まる。ピドリナさんと母さまにはドライヤーは好評だ。お風呂で着替えたらメインルームに行き髪を乾かし、それぞれの部屋に戻してもらう。もう、メインルームに置くならいいよねってことで3つ作った。それぞれすぐに乾かす。
 男性陣も使ってくれてはいるみたいだ。寒い思いはなるべくしない方がいい。


 さて、お待ちかねの夕飯です!
 テーブルにずらりと並べたメニューにみんな驚いている。

「なんだ、今日は特別な日か?」

 わたしは前世のクリスマスイベントのことを話した。

「素敵な催しだね」

 ケリーナダンジョンの桃を絞って、桃のジュースを作った。母さまとピドリナさんは同じく桃のジュース。父さまとアルノルトさんはお酒を飲むことにしたみたいだ。みんなで乾杯する。
 ジュースなんて久しぶりだ。あっまい桃だけど、アクはなくて、喉越しがいい。いくらでも飲めちゃいそうだけど、それでお腹をいっぱいにするのはもったいない。今日はご馳走だからね。

 熱いうちにみんなでステーキをいただく。
 パクッと食いつくと肉汁が口の中いっぱいに広がる。ダンジョン産のお肉は美味だ。塩だけでこんなにおいしい。ご飯をかっこみたいけれど、お腹がすぐにいっぱいになってしまうので、我慢だ。今日は炭水化物はピザを用意している。
 モッツレラチーズもどきを作っておいてよかった。トマトとモッツレラの相性は約束されたものだよね。爽やかになった口に、オニオングラタンスープを流し込む。ここにもチーズを使っているから、お腹にたまるスープだ。見た目のかわいらしいリース風に盛り付けた温野菜のサラダは、子供たちも手を伸ばしている。ステーキもローストビーフも意外に肉肉しいから野菜が恋しくなるのかも。ピドリナさん特製のニンジと丸ネギのドレッシングでペロリと食べられちゃう。ピザはトマトンソースが絶妙! 脂をパンパンにさせて今にも破裂しそうなベーコンがチーズの中で所々顔を覗かせている。チーズとベーコンをピザ生地と一緒に。あーー、ジュワッとね。ピザもやっぱりおいしいなー。ローストビーフ、こんなに柔らかくていいのかしら。ソースと絡めて。ご馳走感も手伝って、大満足だ。
 でもそれだけじゃない。今日は生クリームのついたケーキもあるのだ!

 約束したもふさまにはホール丸ごと、テーブルの上でもう1つのホールケーキをピドリナさんに切り分けてもらう。
 おれ、ここのが欲しいとリクエストが入る。
 みんなでケーキをいただく。アリとクイはとっくにミルクを飲み終わり、用意された籠の上で2匹でくっついてうたた寝している。

「これが生クリームか。甘い。うまい」
「今までのケーキも好きだけど、これもおいしい」
「リーが生クリームって叫んでた意味がわかった」

 でしょ?
 牧場の生クリームも作ってもらえることになったから、これから生クリームやミルクは不自由しないですみそうだ。

『これもまたおいしい』

 もふさまは3分の2残っていたケーキを一口で平げた。気に入ったようだ。また作ろう。

「もっと早く教えてくれていたら、プレゼントを用意したのに」

 兄さまが残念そうに言った。
 わたしはこちらでの季節のイベントのことを尋ねた。3月の終わりに春を祝うお祭りがあり、それが新年の始まりっぽい。夏に虫追い、どうも蛍狩りとお盆を合わせたような行事と、実りの秋を祝っての秋祭り。レアワームが発生していたので、今年は領地でやらなかったようだ。

 わたしの記憶にはいっぱいのイベントがあると話す。まず、1月1日が元旦。1年の初まりで挨拶をしにお参りに行く。1日にやることは、1年中やることになるという言われがあり、だから掃除とか洗濯、料理もなるべくしないで、遊んで楽しく過ごすんだというと、みんな目を大きくしている。お休みするために、12月最後の日におせちという3日間食べるものを作り、主婦たちも掃除も洗濯もしないでお休みをするんだと言った。
 元旦には家族で挨拶をして、ご馳走をいただく。子供はお年玉をもらえる。この日は朝からお酒が解禁で、おせちとお雑煮をいただく。七草に鏡開き。お餅があればな。2月は節分にバレンタインデー。3月はひなまつり、ホワイトデー。4月はエイプリルフールにお花見、花まつり。5月はゴールデンウィーク、子供の日、母の日。6月は父の日。7月は七夕、花火大会。8月は夏祭りにお盆。9月は敬老の日にお月見。10月は秋祭りにハロウィン。11月は七五三。12月はクリスマスと、大晦日、大掃除。
 言ってて思ったけど、イベントけっこうあるな。でもどれも思い出がある。なんだかんだ楽しんだ覚えがある。全部とは思わないけど、楽しいものならあってもいいかもね。
 わたしの説明じゃわかりにくかったと思うけれど、聞き返されて答えているうちに、行事の内容をわかってもらえたみたいだ。

「そのお正月だったか、ピドリナや母さまが休める日を作るのはいいな」

 ということで、30日には大掃除をして、3日分の食事を作り、元旦は仕事をしないと決めた。

 それから父さまは咳払いをして。みんなにプレゼントがあると言った。
 自分の隣に母さまを立たせ、そして言った。

「母さまが新しい命を授かった。来年の秋に、弟か妹が生まれる」

 え、弟か妹?
 みんな一瞬言葉をなくす。
 思っていたのと違う反応だったようで、父さまと母さまが慌てる。

 父さまと母さま、仲良しだな。
 そっか、光魔法の調子が悪かったり、情緒不安定だったのはそれが原因だったのかもしれない。

「赤ちゃんが来るの?」

「もう来てるんだよ、母さまのお腹に」

「もう来てるの?」

 みんなの視線が母さまのお腹に集中。

「お腹に赤ちゃんがいるから、みんな母さまを手伝ってくれ。母さまは動けない時もあるから、春になったら使用人を増やすつもりだ。砦の人に来てもらえたらと思っている。それまでピドリナの負担が増えてしまう。各自、自分のことは自分でやれるようになってくれ」

 ロビ兄が返事してから母さまの前に行く。

「お腹の中にいるの?」

 母さまが頷く。

「挨拶していい?」

 母さまが笑った。
 母さまがロビ兄の手を取って、お腹に導く。

「赤ちゃん、兄さまだぞ。待ってるから元気に出てこい」

 ピドリナさんが部屋を出て行き、アルノルトさんも続いた。わたしたちだけにしてくれたのかな?

 ロビ兄がアラ兄に場所を譲る。

「待ってるよ。外はとっても楽しいから、一緒にいっぱい遊ぼうね」

 兄さまに変わる。

「みんなで待ち望んでいるからね」

 わたしも立ち上がる。母さまのお腹に耳をつける。
 何も聞こえない。まだお腹膨らんでないもんね。そりゃそうか。

「姉さまだよ。待ってるからね」

 姉さまだって。ふふ。今までずっと末っ子だったから。なんかくすぐったい響きだ。
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