プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
129 / 799
3章 弱さと強さと冬ごもり

第129話 ダンジョン再び⑦きっと牧歌的な戦い

しおりを挟む
 魔物たちにだいぶ近づいたところで、アオは足を止めた。

「いいでちか、この階では気を抜くと大変なことになるでち。みんな気を引き締めて、奴らに近づかないように戦うでち」

「近づかないように戦う?」

「奴らは厄介な魔法を持っているでち。近くに行くと魔法をかけられて、悲惨な目に遭うでち。マスターは試練となるあのホルスタとだけ戦ってさっさと下に行ったでち」

 アオが羽を伸ばしたその先にはやたら目つきの悪い大きく筋肉質な牛がいた。呑気に草を食んでいるけど。

「どんな魔法をかけてくるんだい?」

 アルノルトさんがアオに尋ねる。

「仲間にするでち」

「仲間?」

「ホルスタなら、ホルスタにするでち。かけられると自分はホルスタだってそう思うでち。だから草の上で寝たり、草を食べたりするでち。マスターが言ってたでちけど、本当の恐怖はそこからでち。この階の草を食べると壮絶にお腹を壊すそうでち」

 一定期間で魔法は切れ、するとお腹壊しタイムが発生するそうだ。牛なら牛、羊なら羊、ヤギならヤギになりきるらしいが概ね草を食べることになるらしい。
 地味に嫌な魔法だな!
 そんなことをして誰得なの?


 目が横についている動物は、顔を動かさないから、見えているのかわかりにくいんだけど。なるべく近寄らないようにしてボスホルスタを目指す。

「リディー、危ない!」

 兄さまに突き飛ばされ、ハッとして見上げれば、もこもこ羊が兄さまとみつめあっていた。
 羊が去ると、兄さまは四つん這いになる。そして歩いた。
 えーーーーーー、兄さまの心が羊に!
 草に顔を近づける。

「ダメーーーーーーーーーーーーーーー」

 あれ? 緑の大地と言っていいくらい草が生えていたのに、見渡す限り土しか見えない。

『土魔法、見事だ』

 もふさまが褒めてくれたが。魔法で草を全部どうにかしてしまったみたいだ。

「ンモーーーーー」
「ンメーーーーーーー」
「ンンメーーーーーー」

 皆さん怒っていらっしゃる。
 そりゃそうだ、食べようと思っていたまさにその時に、口に入る前に消えたのだから。マップの点が全部赤くなる。
 そして羊、牛、ヤギの目も真っ赤だ。

「ご、ごめん」

 誰に何に対してなのか自分でもよくわからなかったが、わたしは謝った。

「魔法で攻撃しろ」

 父さまの指示が飛ぶ。
 とりあえず

「土人形、兄さまを、優しく羽交い締め」

 兄さまより少し大きなサイズの土人形が後ろから兄さまを羽交い締めにする。
 あ、よかった。いつの間にかアリはしっかり避難してロビ兄の背中に張り付いていた。
 よし、兄さま確保。

 あとは向かってくる魔物たちに、みんなで総攻撃だ。
 風の刃が当たって、何頭かが煙となりドロップすると、余計にヒートアップした。
 こちらも応戦に力が入り、落とし穴を作ったり、風を飛ばしたり、火をお見舞いして、気づけばボスだけになっている。
 アルノルトさんがボスに短剣を投げたのを皮切りに、みんなの魔法がボスに炸裂する。もふさまがうずうずしてたので、みんなに目をつぶってと言って、とっておきのフラッシュをお見舞いしてやった。ライトを一瞬だけ強烈にしたものだ。
 ボスホルスタは眩しかったのだろう目を瞑り、その好機を逃すはずもなく、もふさまが蹴りを入れる。
 ポンと小気味のいい音がして、お宝の山となる。

「うっ、私は……」

「兄さま、だいじょぶ? ありがと」

 土人形を解除する。

「私はメーメになってたの?」

「大丈夫だよ、リーが草をなくしたから、草を食べてない」

「リディー、ありがとう」

「お礼いうの、わたし」

「お、肉だ!」

 ロビ兄が元気な声をあげる。
 瓶に入っているのにわかるのか、アリとクイがミルクの瓶に群がっている。
 匂いもしないだろうにわかるってすごいな。
 フロアには今まで倒してドロップしたものも転がっているから、全部を回収していく。ミルクが多かったのは嬉しい。牛肉もやっぱり出た! バターにチーズに生クリーム。生クリームだ!

「もふさま、生クリーム出た」

『ケーキとやらが食べられるんだな?』

 拾いながら、でもこの階の魔物を倒すのは厄介だと話していたところ、さっきのが一番有効ではないかということになった。目眩しをしてその隙に物理的攻撃をする。魔法は使うと魔力が減るからね。わたしもフラッシュはそこまで大変じゃないけど、無属性は魔力を食うからな。これも魔具であったらいいな。

 魔具で作りたいものがいっぱいだ。
 ドライヤーはもちろんだけど、フラッグも各階に行けるように数が欲しい。
 フラッシュや……。

「階段があったぞ」

 おお、目標クリア。地下8階にも行けそうだ。

「4時半のお知らせでち」

 アオが教えてくれる。
 タイムアウト!

 でも、どの顔も満足げだ。目的の牧場エリアに来られたからね。
 新たな家族も増え。
 あ、この子たちは家から出さないとかできるかね?

「帰る前に、決め事をしよう」

 父さまが言い出した。

「アオは人と、つまり私たち以外と触れ合いたいと思っているのかな?」

 父さまが屈み込んでアオに優しく尋ねる。
 アオは高速で首を左右に振る。

「オイラ魔物でち。マスターとしか関わる気なかったでち。今はみんなとは一緒にいたいでちけど、他の人は考えたこともないでち」

 父さまは頷いた。

「一緒にいたいと思ってくれてありがとう。あの家には人が来ることもあるから、その時はメインルームなり、サブルームになり避難して欲しい。お願いできるかな?」

 アオは頷いた。

「それじゃあ次はアリとクイをどうするかだ」

「え? 連れて帰るよね?」

 ロビ兄が慌てて父さまにすがる。

「それはそうだが、もしみつかると厄介だ。アオは自分から外には出ないと思うがこの子たちはどうだろう?」

「メインハウスはダメってこと?」

「アオに聞きたいのだが、誰かきた場合アリとクイをサブルームに移すのは可能なのか?」

「アリとクイが魔力に目覚めたらできるでち」

「では、ハウスさんにも相談して、誰かがきたらアリとクイはメインルームか、サブの方に移すようにしよう。魔力に目覚めたら、またその時に話し合おう」

 わたしたちは頷いた。

 そうだよね。アリとクイは魔物なんだもの。いくらこんなに小さくてかわいらしくて守ってあげなくちゃと思うものでも。
 そして人族全員がそう思うとは限らないのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

【完結・短編】婚約破棄された悪役令嬢は、隣国でもふもふの息子と旦那様を手に入れる

未知香
恋愛
 フィリーナは、婚約者の護衛に突き飛ばされここが前世の乙女ゲームの世界であることに気が付いた。  ……そして、今まさに断罪されている悪役令嬢だった。  婚約者は憎しみを込めた目でフィリーナを見て、婚約破棄を告げた。  ヒロインであろう彼女は、おびえるように婚約者の腕に顔をくっつけて、勝ち誇ったように唇をゆがめた。  ……ああ、はめられた。  断罪された悪役令嬢が、婚約破棄され嫁がされた獣人の国で、可愛い息子に気に入られ、素敵な旦那様と家族みなで幸せになる話です。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

処理中です...