プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
125 / 823
3章 弱さと強さと冬ごもり

第125話 ダンジョン再び③地下5階 砂漠エリア

しおりを挟む
 サソリンの弱点は、と。鑑定。

サソリン:ハサミ型の手をもち、尻尾の先の毒針を使い捕食する。体は硬い殻に覆われている。天敵から身を守るため集団で行動する。目が悪い。

 弱点がわからない。強いていえば目が悪い、だけど。
 天敵って何よ? せめてそれがわかれば。

「短剣がいくつあっても足りませんね」

 アルノルトさんがふぅと息をはいた。

「もふさま、サソリン、天敵知らない?」

『こやつは、初めて見た』

「アオは?」

「サソリンの天敵でちか?」

 アオが首を傾げる。

「うん」

「鳥でち」

 鳥? ! なんてことだ。ひよこちゃんがいれば……。
 あれ、鳥、いるじゃん!

「アオ、飛べる?」
「飛べないでち」
「羽、バタバタさせて」
「こうでちか?」
「バッチリ!」

 わたしは親指を突き出す。

 わたしは掌を自分に向けるようにして、胸の前で手首と手首を交差させ親指同士を絡ませる。そして残った8本の指をパラパラと動かす。

「同じ、やって」

 みんなわからないながらも、手を交差させ親指を絡めて指を動かしてくれた。

「もふさま、少し大きくなって、わたし高いところ、連れて行って」

 もふさまにお願いして、みんなに説明する。

「高いところから、灯り、みんなの手当てる。鳥の影、サソリンに見せる。最後にアオ登場。大きな鳥、羽バタバタする!」

 もふさまがライオンサイズになって、わたしを乗せてくれた。
 無属性魔法・ライトは得意だ。夜おトイレにいくときに欠かせないから。

 もふさまに少し高いところに行ってもらう。
 父さまやアルノルトさんが、照明からサソリンにどうするのが一番鳥の影っぽく見えるかを計算しながら位置を考えてくれている。場所が決まったようで、砂山に隠れるようにして、上に手だけを出して影絵で鳥になるように手を組んでくれた。サソリンたちが登ってくる、赤い川に見える砂地をスクリーンに見たて照明を当てる。いい具合に坂だったからできること。
 サソリンが鳥がきたと勘違いしてくれますように。

 小さな黒い影が赤い川に投影される。
 赤い川の流れが止まった。
 アルノルトさんがアオを支える。アオは小さな羽をパタパタさせた。空は飛ばないようだがさすが鳥。その影が赤い川に映された途端、サソリンは蜘蛛の子を散らすように逃げていき、そこは砂だけになった。

「アオ、ありがと。みんな、ありがと」

 もふさまにも首に抱きついてお礼をいう。

「ふふ」

 アオが笑った。ときどき嬉しそうにしたりはするようになったけれど、笑ったのは初めて見た。

「サソリンが、おいらの影を見て、逃げて行ったでち」

「ありがとな、アオ。お前のおかげで助かった!」
「ありがとう、アオ」

 ロビ兄とアラ兄がお礼をいう。
 アオがちゃんと笑った。嬉しそうに。
 うまくいってよかった。いくらもふさま、父さまやアルノルトさんが強いといっても数が数だったからね。

 サソリンたちは目が悪く、天敵がいた。鳥というから、空から狙われるんだと思った。空から狙われる、異変に気づくのはきっと影に入るからだ。完全に思いつきで突貫工事だが、なんとかなってよかった。
 アオがみんなとハイタッチしている。
 父さまがわたしの頭を撫でる。そして抱きあげてくれた。

「砂漠は方向が分かりにくいですね。あと出るのはストーンゴーレム。あれは体力だけはありますから戦うのは億劫ですね」

 珍しくアルノルトさんが辟易している。

『この階に試練はあるのか?』

「この階はないでち。マスターは無駄に体力を消費させるエリアって言ってたでち」

『斜め端か?』

 多分、もふさまが確かめたのは階段のありかのことだろう。

「そうでち。沈まない太陽に向かっていくと階段はあるでち」

 もふさまが大きくなる。

『我が運んでやろう』

 お礼を言いながらみんなでもふさまに乗り込む。
 もふさまが空を駆ける。
 風に運ばれるだけの砂が形を変え、絵を描いている。

 ところどころ、大きな動物の骨みたいのが、そのままの形で残っている。
 どういうことと思うと、すぐ近くで黒っぽい魔物が砂に飲み込まれていくのが見えた。流砂?
 ただ静かにこぼれ落ちていく砂に紛れ、魔物が足掻いている。
 言葉なくわたしたちはそれをみつめた。

『捕まれ!』

 もふさまの鋭い声が上がり、わたしたちは捕まりあった。父さまがわたしとアオの上に被さり、アルノルトさんは兄さまたちに被さる。
 チラッと見えたのは大きな大きな石でできた腕。
 腕?

 もふさまの体勢が傾く。わたしたちは捕まりあい、父さまがわたしとアオをますます押しつける。

 もふさまが何かをキックした。揺れまくったが、父さまに押さえつけられていたから無事にすんだ。

『大丈夫か?』

 みんなで顔を合わせる。

「だいじょぶ」

 そうっと下を覗きこむと、大きなゴーレムが仰向けに倒れていた。
 倒れているのは地面だから小さく見えないとおかしいのに。
 もふさまが倒したんだね。……あんな大きいのが立ち上がってちょっかいをかけてきたんだ。
 少し強めの風が吹くと、ゴーレムの一部が風に持っていかれ、たちまち砂の塊になった。金色の何かが光る。
 もふさまは駆け降りて、金色のものを咥えた。そして背中にそれを投げる。アルノルトさんがキャッチした。
 金色の石だ。
 父さまとアルノルトさんが喉を鳴らした。

 もふさまは陽を追いかけ、階段をみつけた。わたしたちを下ろしてサイズダウンする。

「もふさま、ありがと」

 わたしが抱きつくと、兄さまたちも真似してもふさまに抱きつく。

『腹が減ったな』

「地下6階は森フィールド。階段を降りてすぐにセーフティーエリアがあるでち」

「ではそこでお昼にしますか」

 そう言ったアルノルトさんにみんなで頷いた。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...