プラス的 異世界の過ごし方

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3章 弱さと強さと冬ごもり

第122話 アラ兄の決意

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 ふわふわパン祭りの夕飯は思いの外、豪華になった。

 丸パンにはハンバーグにトマトソースをかけ、シャキシャキ葉っぱと挟んだ。ハンバーガーチックにしてみた。

 食パンはシンプルな卵サンド、チーズとハムと葉っぱサンドを作った。
 クリーンができるようになったので、卵にクリーンをかけることができ、マヨネーズに着手できた。前世で手作りしたときは、これはこれでありだけど、わたしは某お人形さん印のおいしさをとったが、ここでは売ってないからね。似た味にはなったと思う。そしてピドリナさんがブラッシュアップしてくれたので、とてもおいしいマヨソースになった。

 付け合わせに芋を揚げ炒めしたものと、酢漬けの野菜を出す。
 わたしが成形したパンはどこか不格好だったが、具を挟めばそれは気にならなくなった。
 ランチのような食卓になったが、量もあったし、種類があったので、あちこち手を出すとお腹がいっぱいになった。

 ハンバーグと卵サンド、テッパンのフライドポテトもどきは子供とアオともふさまに大人気。明日のお弁当もハンバーガーが食べたいとのことだ。ピドリナさんがハンバーグを大量にこしらえていたのは、見越していたんだな、さすが。

 卵サンドは母さまがすっごく気に入っている。酢漬けもすっごい食べてる。酢ものは食べすぎると気持ち悪くならないかと心配になった。

 お腹がいっぱいになってからは、卵サンドの具だけがないのか尋ねて、双子が余っていた具を舐めるように食べている。マヨに反応しているね。

 食事時にお行儀が悪かったが、わたしは思いついていること、考えていること、行き詰まっていることも併せて話した。いい方法を思いついたら教えて欲しいとも。




 みんなで後片付けをして、お茶タイムだ。紅茶にしようと父さまが言ったので、わたしはあまーいミルクティーを作った。父さまとアルノルトさん以外はミルクティーになった。

「リーは魔具が作れるんだよね?」

 アラ兄に確かめられて、わたしは頷いた。

「多分」

「でも、設計と転写か付与のスキルはないんだよね?」

 アラ兄もメインルームの本を読んでいたから、魔具にも詳しくなっていた。

「付与ある。秘密、するけど」

 アラ兄は頷いた。

「魔具を作る〝設計〟の部分は、オレのスキルってことにできると思うんだ」

「アランのスキル?」

 アラ兄は父さまに頷いた。

「なんていうか、やり方で〝解読〟みたいなことができるんだ。本当は作り上げていく方のスキルだけど、それにはどういう成り立ちなのかわからないとでしょ? だからだと思うんだけど、鑑定とは違うけど、成り立ちを〝解読〟できるんだ。レベルも低いし魔力も多くないから大したことはまだできないけど。例えばあの柱時計。どういう仕組みなのか、解読を重ねるとわかるようになる」

 うわーーーー、それは凄い。

「そうか、作った魔具の設計図をアランが読み解いて作ったことにできるな」

 父さまが認めると、アラ兄は笑顔になる。

「そうやって、ふたりで作ったことにできたら、リーひとりが目をつけられないでしょ?」

 あ。
 何かができると目立ってしまう。それが〝使える〟ことだと思ったら、利用しようと狙われたり、出た杭は打つとばかりに叩かれたりするかもしれない。でもそれが複数人の合わせ技だったら。揃わなくちゃできないわけだから、目立ち度が分配されて、ひとりの危険度は下がる。ただアラ兄にも危険が及ぶことになるわけだけど……。

「3人だな」

 発言をしたロビ兄に視線が集まる。

「おれは〝移す〟ことができる。スキルで。アランが解読した設計図を、オレ、魔石に移せると思う」

 アラ兄とロビ兄が顔を合わせてニッと笑う。

「大変素晴らしいですが、あまり高度なことはしない方がいいかと思います」

 アルノルトさんが言いにくそうに言った。

「魔力量が多かったり、魔の使い方がうまいと〝危険〟です」

 言い切ったアルノルトさんの言葉にピドリナさんが頷く。そしてわたしたちに呼びかける。

「お坊っちゃま、お嬢さま。この国はもともと魔力量が多いものが生まれやすいのです。魔使いをテイマーと呼び名を変えるようになってから、テイマーは魔力量を定期的に調べられます。私の知り合いにテイマーがおりました。彼女がある魔物をテイムしてから魔力が莫大に跳ね上がりました。彼女は魔物を手放すか、魔力を封印するかを迫られました。彼女は外国に逃げるといい、そのまま行方不明になりました」

「それ、どういうこと?」

「真相はわかりません」

 そう言ったアルノルトさんを兄さまはみつめる。

「生きてないと思ってる?」

 兄さまが言いにくそうにいうと、ピドリナさんは頷いた。

「魔力が多いと診断されたものは、国に仕える仕事についたとか、外国に行ったと聞きますが、その姿を見た話は聞いたことがないのです。魔法士として仕えない限りは」

「魔力が多かったり、魔法で便利になることが、よくないとされているの?」

「魔使いの論文が論じられてから〝魔〟で人が支配されることを危険視しているのでしょう。魔具も同じです。便利になり、もっと便利さを求めて極まり、また他の誰かが〝魔〟で人を支配できると気づくかもしれない、そうならないように芽を摘んでいるんだと思います」

「他の国なら、そんなことはないの?」

 大人たちは俯いて残念そうに首を左右に振った。

「他の国ではそう魔力が多いものがいないから取り締まる声が聞こえてこないだけで、同じようなものだと思うわ」

 母さまが淋しげに言った。

「マスターもそうだったでち」

 呟くように言ったアオを見ると、哀しみが真っ黒な瞳に映り込んでいた。

「マスターって魔使いさん?」

 アラ兄にアオは頷く。

「マスター言ってたでち。魔力を測られたら、殺されるだけだって。だから外国に逃げようとしたけれど、国境は騎士が固めていて、脱出は不可能だったって。でもそれでよかったんでち。国境にいた騎士は違う国の騎士たちもいたそうでち。〝魔使い〟は危険だからみつけたら殺すよう言ってたそうでち」

 論文が発表されたときは、混乱を呼ぶ混乱になったんだ。確かに魔で人を思い通りにできるなんて職種の人が現れたら、心穏やかにいられないかもしれないが。すぐに内密にと規制をかけたのだろうけれど、外国にも情報は及んだんだね。……そして数多くのそんなことを考えたこともない〝魔使い〟たちの身の上に起こったことを思うと、ただただ恐ろしい。

「マスターは魔使いといっても魔力が多くて、属性魔法だけで生きてきて、使役している魔物はいなかったでち。強くはないのに、自棄になって、殺されるくらいなら魔物にやられる方がマシだとダンジョンに入ってきたんでち。そこでおいらと会って仲良くなったでち」

「ちょうど、論文がでて魔使いに出頭命令がでた時代の人だったんだね、彼は」

 兄さまがしんみりと言う。

 リアルタイムで被害にあったんだ、前マスターは。

「おいら、マスターともっと一緒にいたいと言ったでち。マスターは考えて、おいらに魔力を全部預けるって言ったでち。それからマスターのスキルでミラーダンジョンにして、サブハウスを作って、おいらをサブハウスの管理人にしたでち。おいらに〝魔〟を付与して、魔力を測りにいったんでち」

 アオは一息つく。

「マスターは帰ってきてからも、魔を戻さなかったでち。……最初からそうするつもりだったでち。魔力も、魔も好きなように使っていいって言ったでち。最初で最後の相棒に預けるって」

 アオの瞳が揺れる。

「魔使いさんは相棒のアオちゃんのことがとても大事だったのね」

 母さまが優しく言った。

「大事、でちか?」

「相棒で、いっぱい、幸せに暮らして欲しいから、自分の持っている全てをアオちゃんに渡したんだわ」

「アオってすげーんだな。おれと一緒にいっぱい冒険しようぜ」

「ロビンずるいよ。オレもアオと冒険する!」

 ただスゴイのを見たい、楽しそうだから、そんな理由が丸わかりの誘いはアオには心地が良かったみたい。

「冒険、いいでちよ。おいら、いろいろできるでち」

 モジモジしているが、誇りなのだろう。嬉しそうだ。

「父さま、オレ決めた。目標できた!」

 アラ兄が大きな声を出す。優しくていつも一歩引いたところがある彼には珍しいことだ。

「ほう、何だ?」

「オレ、魔法を自由に使える世の中にする!」

 父さまは笑顔を引き締める。

「リーやアオが魔法を好きなだけ使ってもおかしくない世の中にする」

 アラ兄……。

「神さまが楽しく生きるためにくれた力を、人が使っちゃダメなんて言うなんておかしいよ」

「……アラン」

「心配しないで、たてついたりしないよ。リーと同じ方法をとる」

「リディーと同じ方法?」

 アラ兄は父さまに頷く。

「便利なことや、それがないと困るってこといっぱいある。秀でた何かでなくても地道に伸ばせばいいんだ。人は絶対ついてくる」

 アラ兄は何かを確信しているみたい。

「アラン、おれ、手伝う!」

 アラ兄はすこぶるいい笑顔で頷いた。ふたりとも合わせたようにミルクティーに手を伸ばしている。シンクロ具合がまさしく双子だ。

「父さま、人が人を魔力で支配できるって本当なのかな?」

 兄さまが訝しむように父さまに尋ねた。

「……それは、わからない」

「でもさ、王族が権力で国民を支配するのと、魔力で支配するのと何か違うの? 両方ともされる側は自由じゃないって一緒じゃん?」

 大人たちはハッとしたようにロビ兄を見た。

 刺さる発言をした当のロビ兄といえば、ミルクティーでミルクティー髭を作り、とぼけた顔をしていたので、大人たちは吹き出して、それからほっとしたように笑い出した。
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