プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
117 / 890
3章 弱さと強さと冬ごもり

第117話 名も無いダンジョン⑧候補の試験

しおりを挟む
 アオは前マスターの意思を尊重するか、わたしを手助けするか、追い詰められていたみたいだ。

「アオ、アオのまま、いい」

「何言ってるでちか。マスターの命には絶対でなければいけないでち。それを黙っていたでちよ?」

「わたし、知ってること言え、言ってない。嫌だったら、嫌でいい。アオ、自由いい」

 話してから、考えがまとまっていく。

「ここに、サブハウスに、わたしたち、また来ていいか、決めるのアオ」

 ペンギンも八の字眉になるんだね。

「ハウスさん、わたしマスターいう。けど、アオまで、マスター、思うことない。仲良し、できたらいいけど」

 アオは混乱しているみたいだ。
 わたしは座り込んで、アオに近づく。

「魔使いさん、それが望み」

「マスターの望み?」

 わたしは頷いた。
 魔使いさんはそれぞれにマスターを選べるようにしたんだと思うよ。
 まさか300年も間が空いて、ハウスさんが魔力切れになるのは想定外だったと思うけど。ハウスさんたちが仕えたいようなマスターを選べと。ただそれをうまくアオたちに伝えられなかった。

 嫌だったら繋がらなければいいだけ、決定権があるのはハウスさんだ。嫌なやつならハウス自体から追い出せばいい。物を移動させたり、音を出したり、急に廊下が狭くなったり。そんな原因がわからないことが起こる家では、人は落ち着けず出ていくことを選ぶだろう。物件の価値を守るために、不可解現象が起こることは伝えずに。ハウスさんが眠りについてから100年は何も起きなかったのだろうけれど、それまで持ち主が頻繁に変わったんじゃないかな、長く居つく人はいなかった。だから〝魔使いの家だった〟なんて情報が残っていて〝格安〟だったのだと思う。

 サブハウスの自由度はさらに上をいく。相手側から言わなければハウスさんはサブルームを教えたりはしないだろう。そう、だけど、匂わせる仕掛けもしている。マスター候補には興味が出るようなダンジョン攻略ノートを置いておいた。サブハウスに繋がるものを。見せる情報と隠す情報を選んで。

 ノートもさ〝正解〟が書かれていないとは思っていたんだ。
 考察で3つぐらい案を出して、これだってクリアしたら印をつけちゃいそうなもんだと思うけど、そのままだった。はっきりとした正解を書かないまま、次のルートに進んでいた。〝攻略ノート〟と名付けたのはわたしだ。ダンジョンに関する日誌みたいなものだから、正解は書き留めなくても自分が知っているからいいというスタンスなのかな?と読み取っていた。

 でもその書かれなかったのが、マスター候補への試験。ダンジョンを攻略したいなら自分で。ヒントは書き残す。一緒にいる時にアオが見極めればいいと思っていたのではないかな。アオの管理するサブハウスとダンジョンに来てもいいかどうかを。サブルームに入れるかどうかは、アオの権限だろうからね。

 魔使いさんは自分の代で〝家終い〟をしなかった。誰かに引き継ぐこともしなかった。けど、ハウスさんとアオが〝生き続ける〟ことを望み、彼らがマスターを選べるよう、彼らが〝できる〟ことをいくつも作っておいた。魔使いさんは自分がどんなに凄いものを作ったかを残したかったわけじゃないと思う。ハウスさんとアオに自分とはまた違うパートナーと生きて欲しかったんだと思う。ハウスさんとアオが自分と暮らしている時に、楽しそうだと感じたから。タボさんだって〝自我〟が芽生えているんじゃと思うときもある。長く一緒にいたなら余計にそう感じて、人と触れ合うことが好きそうなふたりに選択肢を残した。
 ほとんど予想だけど、大きくは外れていないだろう。魔使いさんが自分が死んだ時に全てを止めなかったこと。どう考えてもハウスさんやアオに権限があることから、わたしはそう考えた。

 わたしはアオに言葉を尽くし説明した。わたしの語彙だと伝わっているか怪しいけど。

「……だから、アオ、選んでいい。わたしたち、来ていいか、どうか」

 ももんが兄弟たちは、居住スペースに増えたお客たちの肩から肩へ飛び移りながら、大きな目で見ていたけれど、最後はわたしの頭や肩に乗ってくる。
 重いんですけどっ。
 わたしは兄妹じゃないってば。

「おいらが認めても認めなくても、デュカートたちが、マスターを大好きでち」

「マスター、魔使いさんで、いい。わたし、リディア」

 そういうと、アオは顔をあげた。

「リーはマスターになりたくないの? なら、おれなる!」

『マスターの最低条件は魔力が5000以上だそうだ』

 元気に言ったロビ兄だが、もふさまの言葉に撃沈した。

「アオ、マスター、ひとりでいい」

 そういうと、アオの瞳が潤んだ気がしたけれど、そこから見ていない。
 ももんが母さんに抱き上げられたから。
 あ、この体勢はまずい、乳を飲まそうとしてる!

「いらない、違うんだってば!」

 わたしは力の限り踏ん張って、抱っこから抜け出す。そして後ろからお母さんに抱きつく。お父さんにも抱きついて、兄弟たちの頭も撫でた。

「またね!」

 真ん中の階段を覗き込む。

「ほら、行こう」

 ここにいると、いつおっぱい危機にあうかわからない。話し合うにしても他の場所に行かなくては。

「リー、ひとりじゃ危ないよ」

 アラ兄が追いかけてくる。
 もう一度振り返って、ももんが一家に手を振った。
 じーっと見ているだけだけど、きっと感謝は伝わった、そう思おう。
 先に一段ずつ降りていく。もらった毛皮は収納済みだ。

「ねー、リー、何を急いでるの?」

「いらないって何をいらないって言ってたの?」

 ロビ兄、勘がいいな。
 知られたら、これは絶対に笑われる。

「別に、なんでも、ない。地下3階、なんだっけ?」

 話を逸らすことに成功したと思ったが、それから個々にデュカートと何があったのだと探られた。本筋は話したのにさ。

 さ、気を引き締めていこう。採集はいっぱいしていきたいね。アオが来ちゃダメって思ったら、最初で最後のダンジョンになるんだから。




 地下3階は確か滝フィールドだ。
 ザーっという水音、これはメインの大きな滝が近いのだろう。

「抱っこしていい?」

 アオに尋ねるとこくんと頷く。
 わたしがステータスというとロビ兄に止められた。

「さっき、リーと別れたら、当たり前だけどマップが見えなくなったんだ。足の早い魔物や虫も出た。マップに頼りきってたみたいで、急に魔物が出たような感じがして驚いた。それが普通なのにさ。頼りきっちゃうとリーといない時に困るから、あまり見ないようにする」

 そっか。わたしがいないと見えなくなるのか。寝落ちしていたときはアオの力のおかげなのかモニターはそのままだったらしい。納得していると

「リディーはいつもマップを見ていいんだよ。いや、いつも見るようにしなさい。気配を探るのも難しいだろうし、リディーは素早い行動は苦手なのだから、探索にしっかり頼るんだ、いいね」

 父さまにしつこいぐらい、わたしは魔法に危険を察知してもらえと言われる。
 滝に向かうに従って赤い点が近くなっていく。水中にも相当だけど、周辺にも結構いると思ったら、大型犬サイズのウーパールーパーが岩の上で日光浴をしている。ウーパールーパーの隣にいるの、イグアナではありませんか? 蜥蜴っぽいのがみんな岩に張り付いて日光浴している。
 む、無理。

「リー、この階では何が出るんだっけ?」

「頼らないことにしたよね、ロビン?」

 兄さまににっこり笑顔で言われて、ロビ兄は舌を出した。

「だって、かなりの数いるよ。マップは頼らないけど、鑑定は欲しい。あと、一番ノート読んでいるのリーじゃん」

「ノートに書かれていたのは、ハブン、ホシクサ、ウパ、イグア、セルベチカ、キョホーだったと思います」

「アルノルト一回しか読んでないよね?」

 アラ兄に頷く。さすがアルノルトさん。

「水中、真っ赤な点。周り、抑えた赤」

 探索の情報を伝える。
 陸に上がっている魔物は、攻撃的ではないってことかな?

「あ」

 アオが短く叫ぶ。

「どした?」

「メインさまが帰ってこいと言ってるでち」

 ハウスさんが? 何かあった??
 わたしたちは顔を見合わせた。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

処理中です...