プラス的 異世界の過ごし方

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3章 弱さと強さと冬ごもり

第117話 名も無いダンジョン⑧候補の試験

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 アオは前マスターの意思を尊重するか、わたしを手助けするか、追い詰められていたみたいだ。

「アオ、アオのまま、いい」

「何言ってるでちか。マスターの命には絶対でなければいけないでち。それを黙っていたでちよ?」

「わたし、知ってること言え、言ってない。嫌だったら、嫌でいい。アオ、自由いい」

 話してから、考えがまとまっていく。

「ここに、サブハウスに、わたしたち、また来ていいか、決めるのアオ」

 ペンギンも八の字眉になるんだね。

「ハウスさん、わたしマスターいう。けど、アオまで、マスター、思うことない。仲良し、できたらいいけど」

 アオは混乱しているみたいだ。
 わたしは座り込んで、アオに近づく。

「魔使いさん、それが望み」

「マスターの望み?」

 わたしは頷いた。
 魔使いさんはそれぞれにマスターを選べるようにしたんだと思うよ。
 まさか300年も間が空いて、ハウスさんが魔力切れになるのは想定外だったと思うけど。ハウスさんたちが仕えたいようなマスターを選べと。ただそれをうまくアオたちに伝えられなかった。

 嫌だったら繋がらなければいいだけ、決定権があるのはハウスさんだ。嫌なやつならハウス自体から追い出せばいい。物を移動させたり、音を出したり、急に廊下が狭くなったり。そんな原因がわからないことが起こる家では、人は落ち着けず出ていくことを選ぶだろう。物件の価値を守るために、不可解現象が起こることは伝えずに。ハウスさんが眠りについてから100年は何も起きなかったのだろうけれど、それまで持ち主が頻繁に変わったんじゃないかな、長く居つく人はいなかった。だから〝魔使いの家だった〟なんて情報が残っていて〝格安〟だったのだと思う。

 サブハウスの自由度はさらに上をいく。相手側から言わなければハウスさんはサブルームを教えたりはしないだろう。そう、だけど、匂わせる仕掛けもしている。マスター候補には興味が出るようなダンジョン攻略ノートを置いておいた。サブハウスに繋がるものを。見せる情報と隠す情報を選んで。

 ノートもさ〝正解〟が書かれていないとは思っていたんだ。
 考察で3つぐらい案を出して、これだってクリアしたら印をつけちゃいそうなもんだと思うけど、そのままだった。はっきりとした正解を書かないまま、次のルートに進んでいた。〝攻略ノート〟と名付けたのはわたしだ。ダンジョンに関する日誌みたいなものだから、正解は書き留めなくても自分が知っているからいいというスタンスなのかな?と読み取っていた。

 でもその書かれなかったのが、マスター候補への試験。ダンジョンを攻略したいなら自分で。ヒントは書き残す。一緒にいる時にアオが見極めればいいと思っていたのではないかな。アオの管理するサブハウスとダンジョンに来てもいいかどうかを。サブルームに入れるかどうかは、アオの権限だろうからね。

 魔使いさんは自分の代で〝家終い〟をしなかった。誰かに引き継ぐこともしなかった。けど、ハウスさんとアオが〝生き続ける〟ことを望み、彼らがマスターを選べるよう、彼らが〝できる〟ことをいくつも作っておいた。魔使いさんは自分がどんなに凄いものを作ったかを残したかったわけじゃないと思う。ハウスさんとアオに自分とはまた違うパートナーと生きて欲しかったんだと思う。ハウスさんとアオが自分と暮らしている時に、楽しそうだと感じたから。タボさんだって〝自我〟が芽生えているんじゃと思うときもある。長く一緒にいたなら余計にそう感じて、人と触れ合うことが好きそうなふたりに選択肢を残した。
 ほとんど予想だけど、大きくは外れていないだろう。魔使いさんが自分が死んだ時に全てを止めなかったこと。どう考えてもハウスさんやアオに権限があることから、わたしはそう考えた。

 わたしはアオに言葉を尽くし説明した。わたしの語彙だと伝わっているか怪しいけど。

「……だから、アオ、選んでいい。わたしたち、来ていいか、どうか」

 ももんが兄弟たちは、居住スペースに増えたお客たちの肩から肩へ飛び移りながら、大きな目で見ていたけれど、最後はわたしの頭や肩に乗ってくる。
 重いんですけどっ。
 わたしは兄妹じゃないってば。

「おいらが認めても認めなくても、デュカートたちが、マスターを大好きでち」

「マスター、魔使いさんで、いい。わたし、リディア」

 そういうと、アオは顔をあげた。

「リーはマスターになりたくないの? なら、おれなる!」

『マスターの最低条件は魔力が5000以上だそうだ』

 元気に言ったロビ兄だが、もふさまの言葉に撃沈した。

「アオ、マスター、ひとりでいい」

 そういうと、アオの瞳が潤んだ気がしたけれど、そこから見ていない。
 ももんが母さんに抱き上げられたから。
 あ、この体勢はまずい、乳を飲まそうとしてる!

「いらない、違うんだってば!」

 わたしは力の限り踏ん張って、抱っこから抜け出す。そして後ろからお母さんに抱きつく。お父さんにも抱きついて、兄弟たちの頭も撫でた。

「またね!」

 真ん中の階段を覗き込む。

「ほら、行こう」

 ここにいると、いつおっぱい危機にあうかわからない。話し合うにしても他の場所に行かなくては。

「リー、ひとりじゃ危ないよ」

 アラ兄が追いかけてくる。
 もう一度振り返って、ももんが一家に手を振った。
 じーっと見ているだけだけど、きっと感謝は伝わった、そう思おう。
 先に一段ずつ降りていく。もらった毛皮は収納済みだ。

「ねー、リー、何を急いでるの?」

「いらないって何をいらないって言ってたの?」

 ロビ兄、勘がいいな。
 知られたら、これは絶対に笑われる。

「別に、なんでも、ない。地下3階、なんだっけ?」

 話を逸らすことに成功したと思ったが、それから個々にデュカートと何があったのだと探られた。本筋は話したのにさ。

 さ、気を引き締めていこう。採集はいっぱいしていきたいね。アオが来ちゃダメって思ったら、最初で最後のダンジョンになるんだから。




 地下3階は確か滝フィールドだ。
 ザーっという水音、これはメインの大きな滝が近いのだろう。

「抱っこしていい?」

 アオに尋ねるとこくんと頷く。
 わたしがステータスというとロビ兄に止められた。

「さっき、リーと別れたら、当たり前だけどマップが見えなくなったんだ。足の早い魔物や虫も出た。マップに頼りきってたみたいで、急に魔物が出たような感じがして驚いた。それが普通なのにさ。頼りきっちゃうとリーといない時に困るから、あまり見ないようにする」

 そっか。わたしがいないと見えなくなるのか。寝落ちしていたときはアオの力のおかげなのかモニターはそのままだったらしい。納得していると

「リディーはいつもマップを見ていいんだよ。いや、いつも見るようにしなさい。気配を探るのも難しいだろうし、リディーは素早い行動は苦手なのだから、探索にしっかり頼るんだ、いいね」

 父さまにしつこいぐらい、わたしは魔法に危険を察知してもらえと言われる。
 滝に向かうに従って赤い点が近くなっていく。水中にも相当だけど、周辺にも結構いると思ったら、大型犬サイズのウーパールーパーが岩の上で日光浴をしている。ウーパールーパーの隣にいるの、イグアナではありませんか? 蜥蜴っぽいのがみんな岩に張り付いて日光浴している。
 む、無理。

「リー、この階では何が出るんだっけ?」

「頼らないことにしたよね、ロビン?」

 兄さまににっこり笑顔で言われて、ロビ兄は舌を出した。

「だって、かなりの数いるよ。マップは頼らないけど、鑑定は欲しい。あと、一番ノート読んでいるのリーじゃん」

「ノートに書かれていたのは、ハブン、ホシクサ、ウパ、イグア、セルベチカ、キョホーだったと思います」

「アルノルト一回しか読んでないよね?」

 アラ兄に頷く。さすがアルノルトさん。

「水中、真っ赤な点。周り、抑えた赤」

 探索の情報を伝える。
 陸に上がっている魔物は、攻撃的ではないってことかな?

「あ」

 アオが短く叫ぶ。

「どした?」

「メインさまが帰ってこいと言ってるでち」

 ハウスさんが? 何かあった??
 わたしたちは顔を見合わせた。
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