プラス的 異世界の過ごし方

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3章 弱さと強さと冬ごもり

第101話 ファーストコンタクト⑫交渉(中)

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「好きな子、いるでしょ?」

「は? 何を藪から棒に」

 わたしから視線を逸らす。やっぱりな。その焦りかたはヨムと同じだ。

「候補者いっぱいいる。ロサ、誰でもいい。本命いるから。どうでもいいのが、騒いで、みんなの気を引くのが、ロサ、目的。そうすれば、本命、安全だから」

 王子がわたしに貴族令嬢の心構えを説いたとき、ひしひしと感じた。こいつ誰でもいいんだって。自分も今は諦めているから、わたしにも政略結婚で納得しろと言ってきたんだ。

「君、ますます妃むきだね」

 むかついたから、次のカードを出すとしよう。

 わたしが婚約者にならずにすむように言うことを聞くしかないのではなく、取引の相手だとわからせなければ。わたしはそちらの手の内を知っていて、そこを攻撃することもできるんだというところを見せないといけない。

「わたし一番以外はイヤ。一番好きでいてくれないと、我慢できない。わたしより前の順位のもの、壊さずに、いられないくらい」

 いつか言っていた王子の言葉を置き換えて言ってやる。彼は心底嫌そうな顔をした。
 人形遊びで言った言葉、あれは本音だと思った。だから怖っと思った。本音がそんな熱い人が、誰でもいいなんてあり得ない。っていうか、そんなことを思いついて言葉にするのは、そこまで人を思ったことがあるからだ。つまり、本命がいる。傀儡を探しているから、それは誰でもいいのだ。と考えたら、王子の全ての行動が見えた気がした。

「……どういう意味?」

 本命がいるだろうと突きつけ、わたしが一番じゃないなら前の順位のものを壊すと言ったから、本命を傷つけるつもりかとでも思ったのだろう。

「ロサ、言った、同じ意味」

 ロサが唾を飲み込む。

「わたしと婚約、言い忘れるぐらい、こと。そのまま、忘れるぐらい、なんともない。でしょ?」

 不敵に笑ってやる。

「君、性格悪いね」

「どっちが? わたし、表に立たせ、本命、守る気、だったくせに」

 一度スルーしたのは、さっき言った通りなのだろう。幼すぎてわたしの人となりがつかめないし、幼いから危険な目に合わせることにもためらいがあったんだと思う。〝裕福でない〟とわざわざ言ってきたぐらいだ。家が貧乏で守りがしっかりしていないとも思っただろう。だから一度は様子を見ることにした。けれど、戻ってきて、そこまで幼くないと確信して、ゴーサインを出した。

 傀儡がいれば本命は安全になる。だから、わたしの家に寄って、わたしが婚約者候補だと周りにアピールをしにきた。自分が引き連れてきた中の一人がわたしに危害を加えそうになり、初めて焦った。少しは悪いと思ったのだろう。まさか自分がいるところでそんなことが起こると思わず、そしてわたしでなく本命がそんな目にあったらと思ったから、激昂したのだ。多少はわたしに悪いと思っていたにしても、わたしのために怒っているのでないことぐらいは、わかる。
 それが許されるのが王族だけどね。

 でもロサは7歳。まだピュアだ。だからわたしに被害が及びそうになったことで胸を痛めている。そんな策略を立てた自分を汚いと思っている。
 そんなピュアな王子さまに申し訳ないが、そこを揺さぶるつもりだ。わたしはわたしの未来と領地が大切だから。対等でいないと。負けるつもりはない。

「……譲歩? 何が望み?」

 ロサが折れた。

「家族、婚約者、安全。5年、成果は出す。でも、10位以内は欲張りすぎ。そんなの、鉱山でも、でなくちゃ無理。それから本命、目眩し、なるつもり、ない。それと、ウチに来ないで」

「ちょっと都合がよすぎない?」

「多少でも成果出せれば、ロサにとって、結果、十分、はず。こっち知らないと思って、いっぱい話盛ったの、誰? ペナルティー」

「ペナルティー?」

「罰則。自分、有利、話、盛りすぎ」

「う、嘘じゃないぞ」

「課題、どの領が伸びるか、当てる、違う? 多少、口出すのはいい。何年後か様子みる。そんなところ?」

 王子が目を大きくしている。

「ロサ、王都からここ来るまで、領、見てきた。どこの領、伸びるか、見てきた」

 おじいさまは2週間くらいで王子たちは到着するだろうと言っていたのに、来たのはそれよりずっと遅かった。いろいろな領地を見ながら来たのだろう。町の宿にあまり泊まらず野営を選んできたと言うのも聞いて変だと思っていた。それは外から領の様子を見るためだ。
 同行者は宰相と経営コンサルタント。狩りも婚約者候補見定めも、そっちがついで。元々、継承者の課題の偵察に過ぎなかった。

「ロサ、課題の偵察、きた。婚約者、ついで。本命、隠す、わたし、表立たせる、いい案、思った。お付き、紛れ込んでた。わたし、危険、遭った。感想は?」

 ピュアなところをえぐる言葉を選び突きつける。
 ロサの顔色が悪くなった。

「……申し訳、なかった」

 とても素直に謝られた。最初に謝っていたから、わかっていたけれども、こちらも守るためには最高権力者の子供という土台を引き下げる必要があったんだ、同じ土俵になるために。……ごめんね。

「ピンときた領、なかった。だから、わたし、手、組んで、ウチ領、結果出したら、課題達成思った。違う?」

「シュタイン領はおっかないな。それで、5歳か」
 
 ……………………。

「わかった。10位以内はなしだ。成果を出し続けていれば、よしとする。5年は抑える。でもその間に成果が現れていなかったら、私は何もしないよ。……婚約者を守りたかったら君は婚約を解消すればいい。そしたら、婚約者は助かる。それで私と婚約を結ぶんだ」

「それはイヤ」

「君、失礼だぞ」

「本命、いるのに、婚約者いるわたし、解消しろ言う、ロサ、方が、よっぽど、失礼!」

 本命がいるくせに、婚約者がいるわたしに解消しろだの、いろいろと失礼なのはロサだと思う。


「なぜ、本命がいると思ったんだ?」

「女の勘」

 ニッと笑う。

「冗談じゃなくて、本当に君は妃むきだと思う」

「わたし、貴族向いてない」

 あ、まずっ。会話聞かれているんだっけ。貴族向いてないとか言っちゃった。
 母さまに貴族の勉強を倍とかにされそう……。

「いや、十分、やっていけるだろう」

「本命、がんばれ。ウチと、無関係で」

「完全に候補から外すのは無理だ。母上たちが納得しない。光の使い手の血筋を放っておくわけないだろう? 私が君を頑なに嫌がっても余計に関心を引く。だったら、まだ小さいし婚約者もいるから放っておく、時期を見て必要となったら婚約すればいいとしておいた方が、おじいさまも何もしないと思う」

 ロサはごねかたを考えてくれたようだ。

「それに君だって、婚約者がいるのに私が諦めきれない体裁をとっていれば、他の貴族たちが寄ってくることもなく、煩わしいことがないんじゃないか?」

「婚約してる。他貴族、寄ってこない」

「普通ならそうだけど、シュタイン領は注目を集めている。君たちと仲良くしたがる者はこれから後を絶たないと思うよ」

 注目を集めている? それは婚約者候補になったからだろ、と言いたい。

「ロサ、諦めない思えたら、お妃になりたい、家から、狙われる」

 んーとロサは考え込んだ。

「それは家族と婚約者に守ってもらいなよ。とりあえず一番危険な母上とおじいさまは止めとく。だから私とは定期的に会うんだ。フランツも一緒でいいから」

「……母さま、王族、昔思い出す。辛くなる。だから、母さま、そっとして、ほしい。だからウチ来ないで」

 ロサは目を細めた。

「そうだね、君たち家族には、王室のしていることがひどいと思われるのは理解する。だから私たちを遠ざけたいのも理解する。だけど、考えたことはない? なぜ王室が光の使い手を近くに置こうとするのか? その理由は歴史を調べればすぐに想像がつくはずだ。でも君たちは被害者意識ばかりでそこは少しも見ようとしないんだ」

 それは本気の言葉だった。便利と思っているのではなく、理由があるの? 光の使い手に執着する理由が……?

「考慮しよう。会うときは、近くの領地で。ここまで譲歩したんだ。会うときはごねるなよ。それから成果は出せ。じゃないと、私にだって何が起こるかわからないからな?」
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