プラス的 異世界の過ごし方

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3章 弱さと強さと冬ごもり

第99話 ファーストコンタクト⑩拘束

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 自分の部屋に戻ってすぐに、わたしともふさまはメインルームへと転移した。5分後に〝家族〟をこの部屋へ呼んでもらうようお願いした。

 5分後、メインルームに転移してきたみんなは目をパチパチさせた。
 わたしは人数に合わせて部屋がますます広がったことに息をのんだ。だって元のままでも8人ともふさまが勢揃いしてもまったく狭くはなかったのに。

「スッゲーーーーーーー!」

 双子が大興奮。

「ハウスさん」

 わたしが話しかけると、呼びかけるだけで彼女は反応してくれた。

『マスター・リディアのご家族さま、はじめまして。私はこの地に付与された仮想補佐網・メインハウスです』

 声が部屋に響くと、なぜかみんな天井を仰いだ。上から声がした気がしたのかな?
 かくゆうわたしも、この部屋で声が聞こえた時、どこを見て話していいかわからなかったところはあった。

 すると、わたしたちのちょうど中央に光がたった。ホログラムのようだと思って見ていると、それは人型をとった。とても美しい女性。長い髪をサイドでゆるくみつあみにしている。髪飾りのようにのぞく耳がヒレ耳だった。そして身は七色に煌めいていた。
 動じないアルノルトさんさえ、口を開けて見ていた。

『姿がないと話しにくいとお見受けしましたので、仮の人型をとりました』

 にっこり微笑む。

『マスター・リディアからの願いで、皆さまをいつでもこのメインルームに来ていただけるよう整えております。そこで皆さまの仮想補佐とも繋がりたいのですが、許可をいただけますか?』

 わたしは繋がると、ハウスさんの魔力が届く範囲からなら、いつでもこのメインルームに来られることを告げた。

「リディアお嬢さま、それは、もしかして、ハウスさんの魔力が届く範囲からなら、ここに転移がいつでもできるということでしょうか?」

 質問してくれたアルノルトさんに頷く。

 父さまは仮想補佐で繋がっていないと、この部屋に転移するのは難しいのかを尋ねた。
 ハウスさんの答えは繋がっていなくても、壁を触りどうしたいかを言えば転移は可能だそうだ。ただ家の外は端末がないので、よほどの魔力がないと探れないそうだ。だから外からの転移は難しくなる。

 父さまはそれぞれに繋がるかどうかの判断は任せると言った。家の中で危険があった時には、壁を触りここに転移して逃げ込むように話はついた。

 父さまは繋がることが嫌な人がいた場合のことを考えて尋ねてくれたようだ。父さまも仮想補佐は機能していたみたいだし、母さまと、ステータスボードを最近知ったアルノルトさんとピドリナさんはまだ仮想補佐は現れていなかったけれど、ハウスさんが刺激したら補佐が作動したみたいだ。そしてみんな仮想補佐をハウスさんと繋げることを選んだ。

 メインルームではあらゆることがわかる。というか、ハウスさんは家の中のことは全てお見通しだ。高性能の防犯カメラにもなり、見たい人がそれを見ることもできてしまう。そこで相談して決まりごとを設けた。

 それぞれの部屋で、ひとりまたは家族といるときの映像はハウスさんに見せてもらうのは禁止。
 誰かが来ている時は、誰かに映像で見られることもあることを理解すること。
 何が起こったのか調べる必要性が起きたときは、廊下はオッケー。部屋の中の映像を出してもらうときは、必ず大人3人以上の賛成票を得ること。

 それからアルノルトさんはハウスさんに、人を拘束することは可能かを尋ねた。
 ハウスさんはマスターであるわたしの許可があればできると言った。
 アルノルトさんは、王子ご一行が出入りしている間、個人の部屋に家族以外が入ることがあったら、その者たちを拘束してほしいとわたしに言った。
 その用心深さ、わたしも身に付けなくてはっ。
 許可してお客さんを部屋に入れるときは、それを仮想補佐かハウスさんに報告することが決まった。
 拘束した際は、みんなの仮想補佐に連絡がくることになった。
 これで家の中はずいぶん安心できる場所になったと思う。隷属の札みたいので呼び出されない限りは。

 話終わると、父さまに抱きしめられた。膝をつき、わたしに高さを合わせて。
 それからわたしの肩をつかんだまま、目を見て尋ねられる。

「不安か?」

 不安がないと言ったら嘘になる。だってあちらは最高権力者の子供だもの。
 でも、かっこいい顔を歪めて不安そうな顔でそう言われたら、わたしは嘘だってつける。みんなが考えられる最大限のことで守ろうとして守ってくれているのを知っているから。

「ちっとも」

 そういうと父さまはぎこちなく笑った。
 これは、なんとしても切り抜けなくては!


「……殿下たちが何を話しているか、見せてもらわないの?」

 兄さまがおずおずと切り出した。

「よくないことなのはわかるけど、何を考えているかわかった方がよくない?」

 アラ兄も支持する。

「……リディアはどうしたい?」

 みんなの視線がわたしに集まった。

「見なくていい」

 みんな、特に大人たちは探るようにわたしを見た。

「なんで?」

 ロビ兄に答える。

「もう眠い」
 
 あくびが出る。何はともあれ、考えるのは明日だ。
 転移でそれぞれの部屋に戻してもらった。

『そんなに眠いのか?』

 もふさまに尋ねられた。

「何か、聞いたら、眠れなくなる。その方、嫌」

 どうせ眠れちゃうんだけどさ。寝る前に不安が膨れ上がるのは嫌。スッキリ目覚めた頭で向き合っていく方が建設的な気がするのだ。
 夜着に着替えて、もふさまとベッドにゴロンとする。スーッと眠りについた。



 起きたとき、父さまと母さまのベッドだった。
 父さまたちは家に家族以外がいるのが安心できなくて、わたしが眠ってから、泊まり客にはバレないよう自分たちの部屋に運ぶことにしたらしい。最初に探索で調べ赤い点はなかったけれど、どこか心配だったのだろう。
 王子たちが来てから、部屋で眠りについたのに、朝は父さまたちの部屋で目覚めた。昨日からハウスさんのおかげでさらに安全になったので、目覚めても自分の部屋だろうと思っていたから嬉しかった。今日も朝から母さまにたんまり甘えることができた。

 2階では鍵の閉まる兄さまの部屋で、3人一緒に眠るよう指示していたようだ。同じく対外的にはバレないように。
 2階はお客さまの部屋があり、ゆえに廊下には騎士の見張りがいた。その騎士にバレないように、眠る挨拶をするていで、兄さまの部屋のドアを開けておき、それぞれと挨拶し、それぞれの部屋で寝る体裁を取りながら、兄さまの部屋に滑り込み、最後に兄さまの部屋のドアをしめたようだ。客間側なのが兄さまの部屋だから。そのドアに隠れて行動すれば、客間や見張り側からはそれぞれが部屋に引っ込んだように見えただろう。

 そして、この用心は先見の明があった。タボさんから拘束者が出たという報告を受けた。それもわたしの部屋。なんで!? 探索をかけたのに。赤い点はなかったのにとパニクったが、考えてみたら一行が戻ってきたときは、探索を怠った。

 拘束されたのは、お付きの若いふたりのうちの一人だった。文官の方。戻ってきたときに気が変わった? あ、王子が婚約者にすると明言したからか……。
 文官はゴドフリー・ヨーク男爵。口を割らないらしいが、恐らく懇意にしている、エーゴン伯爵が関係していると思われているようだ。エーゴン伯爵のご令嬢が7歳で王子の婚約者の候補に挙がっているらしい。
 外にも護衛の騎士たちがいることから外にわたしを連れ出すのは不可能。だとしたら考えられるのは……。部屋にわたしがいたとしても、もふさまとハウスさんの機能で免れたとは思うけれど、やはりそれを目にしていたら怖かったと思う。
考え出して極まったのがわかったかのタイミングで、もふさまが言う。

『リディア、絶対に護るから』

 抱っこしているもふさまが頬をぺろりとしてくれる。
 すぐに薄まるんだけど、この恐怖ってやつは厄介だ。頷きながら、そしてもふさまと父さまや兄さまたち、そしてハウスさんがいればとても安全だとわかるのに、焦るっていうか、急かされているような落ち着かない気持ちになる。


 拘束した文官を宰相さんに突き出したのは、父さまだそうだ。
 父さまより激怒したのは王子だった。荒げた声が、父さまたちの部屋まで聞こえてきて、耳を塞ぐ。母さまが抱っこしてくれた。
 子供は怒鳴り声、大声にも弱い。

「誰に何を言われて、リディア嬢に何をしようとした?」

 興奮しているのだろう、拘束された男も大きな声で返す。

「誰からも何も言われていません。殿下の目を覚さなければと思っただけです。貴族の気品もない、あんな娘がこの国のもっとも尊い方の伴侶に選ばれるなど、許されることではありません! 教養もなく、言葉もきちんと話せない。なぜアレを選ぼうとするのですか?」

「お前が相応しくないと思うただそれだけの理由で、5歳の女の子に何かしようとしたのか? そんなお前のどこに貴族としての品があるというんだ!」

 危険な目に遭うのは嫌だ。でもわたしだけなら、まだいいと思っていた。
 だけど、外出したわけでなく、家の中にいたのに、家族もいるのに。王子に同行して泊まりに来た先でこんなことを起こすなんて、大胆にもほどがある。
 けど、わたしの物差しで測るからそう思うだけであって、何かを達成する意気込みの前では本当に常識なんか通用しないのだなと思った。
 警備する人がいて。対象者の家族がいる家で。王子も一緒にいるのに、そんなことしちゃえるんだ。

 危害を加えられるのは怖いし嫌だけど、わたしを守ろうとして誰かが傷ついたらどうしよう。その方がもっと怖い。
 家の中は安全が確保できるようになってきたけれど、こんなことがまた起こったらシャレにならない。婚約者がいるし、王室に入る気はないって言ってるのにこのざまだ。これは早急に完全に対象から外れなければ。
 わたしは母さまの胸に顔を埋めながら、頭を働かせた。
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