プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
79 / 799
3章 弱さと強さと冬ごもり

第79話 ケリーナダンジョン④情報を売る子供

しおりを挟む
 階段を登ると、不思議なエリアがあった。

「これがセーフティーゾーンだ。ここには魔物が入ってくることはない」

 父さまが教えてくれた。冒険者は何日も泊まったりしてダンジョンを攻略していくそうだ。このセーフティーゾーンで休憩したり、テントを張ったりする。

『セーフティーとかいうのは面白いな。面白い結界の張り方だ』

 もふさまが楽しそうにあたりの匂いを嗅ぎ回った。
 お腹が空いたので、ここで昼食をとることにした。
 お弁当はおにぎりと唐揚げもどきと、甘い卵焼きと、ブッコロリーを茹でたもの。見かけも味もブロッコリーまんまだ。ピドリナさんが初挑戦したおにぎりは、いいあんばいだ。塩加減もだけど、ご飯の口の中でのほどけかたが最高! さすが料理人は違うね! みんなでワイワイ話しながら食べて、デザートのリンゴンをシヴァがナイフで切り分けてくれたまでは覚えているが、わたしはお腹がいっぱいになり眠ってしまったみたいだ。



「子供だけで来たのか?」

 おじいさまの呆れたような声音で目が覚めた。

 目を擦ると、わたしより少し上ぐらいの子と、兄さまぐらいの子と、もう少し大きな子がいた。3人はとても粗末な服を着ていて、何もかもが汚れていた。だいぶ寒くなってきたというのに、ズボンの丈がふくらはぎ下ぐらいまでしかない。それも擦れていてボロボロだ。

「親、いねーし。子供だけでも食いぶち稼ぐためにダンジョンも入るよ」

 あっけらかんと言われる。

「孤児院にいるのか?」

 シヴァが声をかけた。

「孤児院にいたんだけど、院長が嫌なやつだから出て、おれたちだけで暮らしてる」

 よくよく聞くと、さっきの4階のボスの対処の仕方を教えて、報酬をもらい、それで生計を立てているらしい。このダンジョンは子供でも入れるので、そうしてセーフティーのゾーンをうまく利用してこもり、4階でヒンヒをいくら倒しても終わりがなく難儀している冒険者に情報を売っていたようだ。

「それで、今度は5階の情報を売りに来たのか?」

 子供は首を横に振る。自分たちより小さな子供が5階に上がっていくのを見て、思わず上がってきてしまったみたいだ。
 セーフティーをうまく使うといっても、絶対魔物のいるところを通ることになる。それなのに、彼らは無傷。何か秘策でもあるのかな?

 邪魔はしないから5階の攻略の仕方を見ていていいかと尋ねてくる。今度はそれを売るつもりなのだろう。

「5階は魔物がかなり強い。4階までうろちょろしているところを見るとギフトで安全にいられる何かがあるんだろうが、5階はもう危険だ。下の階へ行け」

 シヴァがすげなく言った。

「なんだよ、ケチ!」

 おお、シヴァに口答えするとは勇気あるね。

「そんな小さい子が大丈夫なら、おれたちだって大丈夫だ」

「わたし、魔法ある」

 わたしがいるからって、わたしより大きな自分たちは大丈夫と思われても困る。

「おれたちもギフトある」

 一番大きな赤毛の子が言った。

「忠告はしたぞ」

 シヴァは気にしないことにしたようだ。それにみんなも倣う。
 気にはなるが、何を言っても聞き入れないだろうという気がした。

「リー」

 アラ兄に呼ばれて見ると、下唇に親指の爪を当てている。
 ハッとする。
 いけね。また指を食べていた。
 気をつけるようにはしているのだが、時々おしゃぶりしていて、ときにはアラ兄に身振りで注意される。

『来たぞ』

 ゴツゴツした岩がいっぱいあるフィールドだ。
 急に影が。鳥? 大きい。ワシ?
 岩より低く屈む。

「風魔法を使う?」

 兄さまたちが相談している。
 飛んでいったのがUターンしてきた。
 ついてきた3人に何かしようとしたようだが、弾かれる。誰かが結界みたいのを使えるんだね、ほっとする。

「あ」

 父さまが短く言って、

「岩に触るな、魔物だ」

 と叫んだ。
 魔物?
 岩だと思っていたものが、動き出す。岩を連ねた蛇みたいな生き物だ。
 まさかこの岩全部?と青ざめる。

「剣が効かない」

 おじいさまの剣も弾かれている。

 ゴタンゴ:岩でできた魔物。火、水、土、風魔法は効かない。体に1点ある粉砕点を突くのが有効

 その粉砕点はどこなのさ。わたしの鑑定じゃダメだ。

「おじいさま、ゴタンゴ、粉砕点突くしかない」

 声をあげると、おじいさまの瞳が鮮やかになる。
 きれい。そういえば、わたしも鑑定している時、何か変わっているのかな? だとしたら隠蔽しとかないとまずいはず。

「前から3つ目の岩の右下だ」

 シヴァが動いた。わたしを抱えたまま、ゴタンゴの右側にまわり、下の方を剣で突いた。
 勘? 色が違うわけでもなし、その1点以外ついたところで剣が負けたかもしれないのに。
 見事岩続きの3メートルはあったゴタンゴが粉砕した。
 灰色の石が残る。

「伏せろ!」

 父さまの叫び声。
 またワシ?
 いや、羽毛な感じじゃない。車サイズのナメクジに羽があるみたいな。

「メルトスラッグフライだ」

 前世と似通った言葉がよく使われている。それでいくと、溶かす空飛ぶナメクジって感じじゃない? なんて嫌な魔物!
 あんなのに抱きかかえられても、溶かされても嫌なんですけど。

「な」

 なんか足で掴んでる。
 え?

「エイブ!」

 子供たちが叫び声を上げる。
 ええ??
 あの足でつかまれてるの、一番小さな子?

「シヴァ、おろして。フライ離したら、子供、受け取れる?」

 おろしてもらって答えを待たずに声をあげる。ナメクジっていったら塩でしょ。

「風で、塩爆弾!」

 バッグから出すふりをしてつかんだ塩を、空飛ぶナメクジに投げつける。
 一直線にナメクジのところまで飛んで行き、上でブレイクする。
 白い粉がナメクジの体に降り注ぐ。
 傾き、身をよじり、子供を離した。シヴァが走り込む。
 間に合わない!

「「「「風」」」」

 父さまと兄さま、双子の声が合わさる。
 風で浮かそうとした4人の魔法が合わさって、ナメクジがいたところよりも高くまで子供が飛んだ。

「調整しろ、ゆっくりおろすぞ」

 父さまが言って、魔力を調整しながら子供の高度を下げていく。
 今度はゆっくりだったので、シヴァが抱えた。子供は気を失っていた。

「エイブ!」

 ふたりの子が駆け寄る。

「わかったか? ダンジョンは危険なんだ。今だってお嬢や坊ちゃんたちが魔法を使わなかったら、この子の命はなかった」

 そういうと、しゅんとうなだれた。
 魔力がいっぱいあるわけでないから、いつも危ないと思った時に結界のようなものを張っているようだ。急に近づいてきたナメクジには気がつかなかったみたい。
 そんな危ない橋を渡るようなやり方で……、今までよく生きていたものだと思ってしまった。
 でも、わたしは家族がいたから。だからのうのうとしていられたけれど。
 保護者がいなくて、頼れる人がいなかったら、自分たちで食い扶持をみつけるしかなくて。
 食べ物は一階の野菜とかでいけるとしても、その他いろいろお金がかかってくるわけで。
 彼らなりに危険ではあるけれど、生きる方法を模索した結果なんだろう。

 寝ぐらにしているのは町の端だというので、ダンジョンはここで切り上げ、彼らを送っていくことにした。一番上の子が気を失っているエイブを背負うといったが、あきらかに大変そうなのでね。

 各フロアには出口に転移できる場所があるそうだ。なんて至れり尽くせりな。
 シヴァが気を失った子を抱えていたので、わたしは頑張って歩いた。けれど、町外れにいく前には差が大きく開くようになったので、父さまに抱えられた。
 いっぱい魔法を使っていたから、魔力は大丈夫か尋ねられる。ボードを確かめたが50も減ってなかった。そういうと静かに驚かれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」 パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。 夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる…… 誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

処理中です...