プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
74 / 799
3章 弱さと強さと冬ごもり

第74話 執事と料理長

しおりを挟む
 兄さまが風で服を乾かしてくれた。
 洗ったわけじゃないから、こう、なんていうか気持ち悪い。潮の匂いが体にまとわりついている。
 恨みがましく見たからか、シヴァが抱きあげてくれた。いや、おろせと言っておろしてもらったのはわたしなんだけどさ。

 わたしがグズグズ泣いていると、みんなは魔物を倒したお金のことを相談し始めた。
 もふさまは魔石を3つ欲しいと言って、それ以外はいらないと言った。
 残りの魔石は家で使ったり、魔具を作ってもいいだろうと言われた。
 最終的に残り全額を人数分できっちり割ることにした。わたしたちの分は結構な金額になると思うから、そのほとんどは父さまと母さまにわたしたちが大きくなるまで預け、端数をお小遣いとしてくれると言った。

「わたし、戦う、してない」

 鼻を啜りあげながらいうと、アラ兄が首を振る。

「あの、土人形、凄かったよ」

「うん、畑仕事の時の大きなやつだな」

 ロビ兄がいうと、おじいさまが首を傾げた。

「リーは、土の人形を作って畑の世話をさせるんだ」

「な……なんと」

 おじいさまが絶句している。

「リディーは自分で動くの嫌いだもんね」

 うっ、その通りだけど、そういう言われ方すると、命令してやらせるのが好きみたいじゃないか。

「自分、動く、うまく、できない」

 やることはわかっているのに、自分でやるとうまくいかないんだよ。今、みたいに。
 今だって、足を濡らさないように、手を波に付けたかっただけなのに。
 少し先で手を地面につけたかっただけなのに、ぐしゃっと行った。

「リディアは不器用なところがあるのかもしれんな。でもその代わり、魔法の操作がうまいみたいだ」

「魔法、細かいこと、うまくできない」

「そうだな、細工のような細々したものは苦手なようだが、大筋を捉えるのには長けている。人とは違う魔法の使い方を考えられる。それはすごいことだぞ?」

 えへへ、そうかな?



  昼食を抜いてしまったので、食堂でご飯を食べた。海を眺めながら食べられる外に設置されたテーブルもあったので、そこで食べた。
 食堂の女将さんらしき人にもしかして海に入ったのかと聞かれた。ロビ兄が波打ち際で転んだんだと明かすと、塩水は洗い流さないと匂いはとれないし、後で塩をふくよと教えてもらった。まぁ、そうだよね。髪も固まってるもん。ベタベタしたまま。水魔法で洗えば良かったのかもしれないが、それには寒かったのだ。家に着いたらすぐにお風呂に入ろう。

 わたしはタタコのパスタにした。タタコは多分タコだろう。メニューの説明がきを読んでパスタが食べられるとウキウキした。
 おじいさまは焼き魚、シヴァとロビ兄はイカ焼き、アラ兄ともふさまは魚介のスープで、兄さまはエビの香草焼きにした。どれもパンがついてくるようだ。
 パスタはちょっと太いが、パスタだ! これ、作り方知りたい。
 タタコのパスタは絶品だった。魚醤と果汁が使われていて、さっぱりしていながら、タコの風味をよく生かしている。苦労しながらもフォークにくるくるまとめて食べていると、すっごい見られた。料理は大人用一人前なので半分も食べられなかった。もふさまがきれいに平らげてくれた。タコも気に入ったようだ。

 1匹の魔物を下ろしたお金で食事を食べ、今日は父さまと母さまにお土産を買うことにした。わたしたちが初めて自分たちで手にしたお金だったから。
 わたしは母さまにきれいな櫛を贈りたいと言った。みんな、家にあるのは歯がかけたやつだもんねと納得してくれた。父さまには髭剃りを買うことにした。父さまのも年季が入っているもんね。海とは関係ないものになってしまったけれど。雑貨屋さんで、素敵な櫛と、髭剃りをみつけることができてそれを買った。夕方だったので、慌てて帰る。3日後にはまた来る予定だ。
 もふさまの背中で、わたしは提案をした。父さまたちに預けられるお金で、もし買えるようなら荷馬車と馬を買えないかと。みんないい考えだと言ってくれた。
 そんな話をした後だったので、庭に荷馬車がいて驚いてしまった。って、荷物は積み込まれていたんだけど。


「ただいまー」

 ロビ兄がいの一番で家に入っていく。わたしはもふさまを抱え、シヴァに抱っこしてもらっている。シヴァはわたしの鼻の頭とちょんと触った。

「痛いですか?」

 どうやら傷になってるみたいだ。

「レギーナさんに治してもらいましょうね」

 ちなみに、クセとなり普段使ってしまわないように、光魔法は封印する勢いで使うなと言われていて、それを守っている。
 入っていくと居間には、背の高い柔らかい物腰ながらピンと張り詰めたような空気をまとった男性と、どしっとした感じの可愛らしい女性がいた。
 ふたりはおじいさまにむかい膝をつく。

「ご苦労。お前が来たのか」

「はい、砦にはほんわかしたゼップルがいた方が皆の気も休まると思いましてね」

「……頼んだぞ」

 おじいさまがそう言うと、その人は手を胸において頭を下げた。
 シヴァとも顔見知りのようで、軽く挨拶した後、父さまが声をかけた。

「子供たちを紹介する。フランツ」

 呼ばれて、兄さまは父さまの元に駆け寄った。

「アラン、ロビン」

 兄さまの横に双子が並ぶ。

「リディア」

 シヴァがおろしてくれたので、もふさまを抱えたまま、ロビ兄の隣に並ぶ。

「これから家で働いてくれる、執事のアルノルトに、奥さんで料理をしてくれるピドリナだ。ふたりとも砦にいたことがある。父さまや母さまと友達でもある」

「この度、縁あって、こちらで執事をやらせていただくことになりました、アルノルトと申します。よろしくお願いいたします」

 ピシッと頭を下げた。

「私はピドリナと申します。皆様のお食事を作らせていただきます。お好きなものがあったら教えてくださいね」

 彼女はにっこり微笑んで、わたしたちに頭を下げた。

「フランツ・シュタイン・ランディラカです。よろしくお願いします」

「アラン・シュタインです」

「ロビンです。肉が好きです」

「リディア、です。甘いの、好き、です。もふさまです。もふさま、なんでも食べます。こってりとお肉が好き、です」

 ピドリナさんがわたしの前でかがみ込む。

「あの時の赤ちゃんが、こんなに大きくなったのね」

「ピドリナはリディーが生まれたときに、顔を見に来てくれたのよ、辺境まで」

 母さまとピドリナさんは仲がいいみたいだ。


 ふたりも到着したばかりで、挨拶をしていたという。とりあえず、馬車で積んできたものを運び出してしまわないとということになった。みんなでやればすぐに終わり、馭者さんは馬車を動かした。今日はモロールに泊まり、辺境まで帰るそうだ。

 シヴァが母さまに言ってくれたみたいで、鼻の傷を光魔法で治してくれた。
 その時に、服や髪が汚れているわけを聞かれた。やはりロビ兄が転んだ事実を伝え、すぐにお風呂へ直行となる。
 お風呂は直したばかりだ。裏庭に脱衣所付きのわりと大きなお風呂を作った。井戸から取れるようにして水を貯めた。それを魔法でお湯にするのは、火魔法の使える、ロビ兄、母さま、兄さま、わたしだ。いずれ温めるのも、水道のように蛇口からお湯を出す魔具も買いたい。いや、作りたい。使ったお湯は排水溝を通り、地下のプールに貯めている。水などをきれいにする浄化の魔具は買ったのでこれできれいにして、川へと流している。
 母さまとピドリナさんとお風呂に入った。ピドリナさんも外国に行ったことがあるようで、そこでも一緒に入ったわねと懐かしそうに話す。ハーブ入りの石鹸に感動していた。香りがいいって。えへん。
 旅の疲れを一番に癒してもらいたいところだったが、わたしが汚れていた事情から、一番風呂をのっとり、さらにわたしを抱っこしたために汚れたシヴァが次に入った。
 髪の毛をタオルで拭いてもらっているとくしゃみがでた。もうそろそろ乾かさないでいるのは寒く感じるようになってきた。

 父さまは部屋数はいっぱいあるのでアルノルトさんたちに使ってもらおうと思っていたみたいだけど、使用人がそういうわけにはいかないと言われて、キッチンの裏口近くに土魔法で小屋をたてた。後から大工さんに頼んでちゃんと家を建てると言ったのだが、ふたりは土魔法の建物をいたく気に入ったみたいだ。父さまもわたしたちにいろいろ作らされて、魔法の精度があがっているし、上手くなっている。お風呂もそうだけど、普通に過ごしやすいんだよね、土魔法の小屋って。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」 パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。 夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる…… 誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...