プラス的 異世界の過ごし方

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2章 わたしに何ができるかな?

第67話 ランパッド商会

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 ハリーさんが席を立つ。

「こちらの宿で、炊事場を使わせてもらえないか尋ねてきます」

 その手があったか。ハリーさんが部屋から出るとホリーさんに言われる。

「リディアちゃん、欲しいものありますか? 調味料の使い方のお礼です、なんでも言ってください。リボンが好きなのかな?」

 リボンだらけのわたしの服を見て言う。
 うっ。違うから! わたしの趣味じゃないから。

 ……お礼になんでもって言ったね?

 わたしは商人さんと繋がりが欲しい。でも5歳児に商売の話を持ち込まれても、お愛想に大きくなったらねと言われるのは目に見えている。だから、今日のところは興味を持ってもらえたらいいと思う。大きくなって話を持ち込んだ時に覚えていてもらえるくらい。

「……わかったら、教えて欲しい、です。これ、なんだか、わかりますか?」

 わたしはポケットから出すフリをして、人売りからもらった菓子を包み紙ごと出した。
 昨日寝る前に、タボさんに収納ポケットを追加しておいた。容量をできるだけ大きくしたいので、魔力を500とっておいて、残り全振りでできる範囲の大きな容量のポケットをとわがままを言ってみたら、発動した。どれくらい大きいのかはわからないけれど、かなり大きいと思う。魔力1000で、もふさまの収納箱と同じ、ドデカ魔物17匹は軽く入る大きさ。少なくてもその4倍はあるから!
 そしてタボさんを呼び出さなくても、思い浮かべるだけで収納ポケットはどこでも出し入れ可能だった。タボさんも声に出して呼ばなくても、強く思えば反応してくれるようになった。

 そんなわけでお菓子は入れてから時が経っていない状態だ。

「これは、ポルテンだね。甘い焼き菓子で、口中の水分を持っていかれるけど、クセになるおいしさがある」

「お菓子、包んでる、紙、わかりますか?」

「紙?」

 わたしは頷く。

「ええと、わかるけど」

「売ってる、ますか? ひとつ、いくら、ですか?」

「ええ? これが欲しいの??」

 ホリーさんが声をあげた。
 思いの外、声が大きかったことに気づいたのか、コホンと咳払いをする。

「ちなみに何に使うか聞いてもいいかな?」

「おにぎり、売る、包み紙」

 おにぎりでも、お菓子でもなんでもいいんだけど、テイクアウトで売るときにちょうどいいと思ったんだ。だから、これが手軽に手に入るものなのか、それからどれくらいの値段のものなのかを知りたかった。

「おにぎり……とは?」

 うーーん、どうしようかな。思いつきだけど、屋台の商売はイケる気がするんだ。
 調味料の使い道を教えるのは喜んで、なんだけど、今、全部手の内を見せるってのもなー。

「私としたことが、答えていなかったですね。その紙は、ワセランといいます。お菓子など包むのに使われますね。10枚で150ギルぐらいで売られています」

 ひとつ15ギルか。結構高いな。

「大量に購入するなら、もう少し安くなります。ワセランはどの商会でも扱っていますが、是非、我がランパッド商会にご用命ください」

 5歳児にも営業を忘れない、その心意気は好きだ。この人、いいね。

「領地、レアワームで貧乏。領地、豊かにする、商売、考えてます」

 ホリーさんの細い糸目がもっと細まる。

「リディー」

 何を言い出すんだという感じで、父さまがわたしの名前を呼ぶ。

「父さまも鞄売る、いい案言った」

「……カバン、とは、坊ちゃんたちが肩から斜めにかけていた布袋のことですね? 他の大陸でカバンというと聞いたことがあります。北部ではカバンを使われているのですか?」

「あ、いえ、これは娘が……」

 ホリーさんが背筋を伸ばした。

「そのお話も、じっくり聞かせていただきたいですね。……リディアお嬢さまに申し上げます。これから本当に商売をすることを考えているなら、その考えをうかつに話してはいけません。先に作って売られて専売の特許をとられてしまうこともあります」

 仕事人の顔になり、わたしの呼び方も変わった。
 この人ならいいやと思った。もしこの人となら何かあってもわたしは踏ん切りがつくだろう。今日、信じたことを後悔しない。子供の言うことなのに、受け止めて、その立場でも考えてくれる人だから。
 だから、引っ張りこむのは、この人がいい!

「うかつ、違う、です。ホリーさんだから、話し、ました」

 糸目の目が少し見開く。
 彼がどんな商人なのかは賭けの部分はあったが、わたしを助けてくれた時の人柄とも合わせて、魅力的な仕事人だと思えた。

「いつか、この町で、デモストレーションします。それ見て、良かったら、今後、商売、相談のってほしいです」

「……デモストレーション、とは?」

「実演。屋台、やってみる」

「待ちなさい、リディア。屋台って……」

「おにぎり、きっと売れる。領地は貧乏、屋台まだ早い。イダボアなら、屋台、いい」

「リディア、商売とはそんな簡単なものではないのだよ。お前の考えるものは確かにおいしいが、だからって売れるとは限らない。遊びですることではないぞ」

 それまで一切口を挟まなかったおじいさまに諭される。

「わかってる。遊び、思ってない。屋台、串焼き屋、お昼過ぎで串100本以上捨ててあった」

 昨日の売れ行きがよかったとしても、70本分ぐらいはお客さんがくるんだと思う。ひとり2本買ったとしても35人の客数はあったってことだ、半日で。

「スープ屋さん50枚以上、お皿、あった。パンは見えるとこ、いつも、15個置かれてた」

 コンスタンスにそれぐらい客は訪れるんだろう。

「リーはお客さんの数が知りたくて、串やお皿の数を数えていたんだね?」

 わたしはアラ兄に頷く。

「屋台、それなりに人、買いにくる。おにぎり、ご飯握ったもの。中の具なんでもいい。塩むすびもいい。ご飯炊くと倍になる。ご飯1キロ、炊くと倍。おにぎり一個100グラム。ロビ兄、ご飯1キロでおにぎり何個できる?」

「え? ええと、倍だから2000グラムで、100グラムのものを……20個」

 正解。

「ありがと。ご飯、1キロで20個できる。ご飯、1キロ。ええと。ロビ兄、5キロ1500ギル。1キロだと?」

「5キロ1500ギルなら1キロ、ええと300ギル?」

「ありがと。ご飯1キロ300ギル。お水、ただ。塩、ひとつ1グラムとして20個で20グラムいる、1キロ350ギルだったから……7ギル必要。炊くのは魔法の火。ワラセン20個、300ギル。ホリーさん、屋台出す、いくらかかる?」

「そうですね、場所と何日場所を押さえるかでも料金は変わってきますが、1日1300ギルぐらいでしょうか? 商人ギルドに加入済みとしてですが」

「おにぎり100個売るとする。アラ兄。それにかかる費用、種類、何がある?」

「えっ?」

 アラ兄は話を振られて一瞬驚いたが、すぐに真面目な顔になった。

「とりあえず1日として。まず場所代の1300ギルと、売るための台とかは……これは土魔法でいけるか。あとは商品の材料など。リーの言ってたものだね。包み紙がワセランで。あれ? 作るのや売るのも家族でやるならかかるのはそれだけかな?」

 すっごい、作り手や売り子の賃金まで組み込んだね。

「ロビ兄、アラ兄の言った費用、計算して」

「ええ? えっとぉー。1キロで20個だから、5倍で。ん? 5キロ必要ってことだから、ご飯は1500ギル。塩が100ギル。ワラセンが1500ギル。場所代が1300ギル。4400ギル!」

「おにぎり100個、4400ギルより高く売れれば、儲けなる」

 双子が仲良く頷いた。
 経営系の授業とか取っておけばよかった。全くもってちゃんとした説明ができない。とりあえず、かかったお金より、かってもらったお金の方が多ければ、儲けなことを伝えよう。

「おにぎり、1個130ギル売る。100個売れたら?」

「13000ギル」

 ロビ兄、計算できてるじゃん。計算ができるようになるって目標にしていたから、苦手なんだと思っていたよ。

「その場合、儲けは?」

「8600!」

 ご名答。

「お客さん50人。50個売れたら?」

「6500ギル」

「50個、半分でも売れれば、利益でてる」

「ってことは、4400ギルかかるんだから、130ギルで売って、…………34個? 34個売れたら、赤字じゃないんだな」

 わかってるじゃん!

「作る人、売る人にも、作る場所にも、本当はお金かかる」

 だから、これは家内制手工業を想定した、ギリギリラインの話だけど。

「さすが伯爵家。経営のことも、この年で学ばれているとは」

 ホリーさんが感嘆している。

「おじいさま、採算とれる。イダボアでなら、売れる、思う!」

 おじいさまは言葉を探しているような表情をした。
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