プラス的 異世界の過ごし方

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2章 わたしに何ができるかな?

第66話 強さ

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 その日はイダボアに宿をとった。
 父さまと母さまと、わたしともふさまで、ひと部屋。
 おじいさまとシヴァと兄さまたちで、ひと部屋だ。

 明るいときはなんでもなかったが、暗くなるにつれて恐怖心が膨らんできた。
 隷属なんちゃらは短時間と言っていたし、もう効果は残ってないだろう。
 でも、眠るのが恐ろしかった。また、目覚めたら違う場所だったらどうしよう。

『我が絶対にそんなことはさせない。手洗いにもついて行ってやる。見ててやるから、眠れ』

 返事をしたか覚えていないが、それでやっとわたしは意識を手放した。
 ただ、おぼろげに覚えているだけで、2回夜中に声をあげて泣いた。
 その度に、母さま父さま、そしてもふさまがギュッとしてくれて落ち着きはしたが、恐怖は拭い去れなかった。



 よく眠れなかったので、まぶたが重い。もふさまを抱っこして隣の部屋に挨拶に行くと、ドア越しに父さまと兄さまたちが話しているのが聞こえた。

「ねえ、父さま、どうしたら強くなれる? どうしたらリディーを守れる?」

「おれも強くなりたい。どうやったら剣が上手くなる?」

「オレだって強くなりたい」

 兄さまたちの問いかけに、父さまは小さく息をつく。

「お前たちは強さというのはどういうものだと考える?」

「どういうもの?」

「ああ。父さまは腕っぷしが強いだけが強さではないと思う。腕っぷしの強さだったら、リディーはとても弱いことになる。でもリディーはたったひとりで、呪符を使われ、売られそうになって樽に閉じ込められても負けなかった。状況をきちんと見て、助けを求められるところで、自分にできることを最大限に生かして助けを仰いだ。大きな怪我をすることもなく、無事私たちの下に帰ってきた。自分の力で。父さまは、そういうことが本当の強さだと思う。腕っぷしで守れるものもある。だからそれも大切だ。でもそれだけじゃないことを忘れないでほしい。守り方はいろいろあると思うんだ」

 ふぅと息をつく。
 わたしはノックをして部屋に入る。

「兄さまたち、おはよう!」

 しっかりと笑顔で。

「おはよう、リディー」

 兄さまがわたしの頬にちゅっとすると、双子も次々とちゅっとしてくれる。父さまにはもうしたから、おじいさまに駆け寄る。

「おじいさま、おはよう」

 ほっぺにちゅっとする。

「シヴァ、おはよう」

 シヴァのほっぺにもだ。

「よし、リディーも起きたことだし、食事に行こう」

 宿のご飯を食べるみたいだ。時間が少し遅かったことと、宿に泊まっているのはわたしたちだけみたいなので、もふさまも一緒にご飯でいいという。やったー! わたしたちと同じ食事をお願いすると、それでいいのかい?と不思議顔だ。うん、子犬ではなくて、聖獣さまだからなんでもOK!

 宿のスープは絶品だった! いろんな旨みが詰まっていて。パンの上に片目焼きとチーズがこんもりのっていた。口を大きく開けていただく。硬いパンも卵のソースとチーズと一緒に食べるとおいしかった。宿には後2日、泊まることにしてあるそうだ。



 お昼前にホリーさんとハリーさんが様子を見に来てくれた。おじいさまたちの部屋の方が広いからそちらにみんなで集まる。

 わたしはもう一度お礼を言った。

「私も、もしあの男がリディアちゃんを姪と言わずに知り合いから預かったと言っていたら、そちらを信じたかもしれません」

「姪と言ったから気に留めたと?」

 父さまが相槌をうつ。

「あの男はどう見ても平民。それに反して、リディアちゃんの服は生地が良かったから、あれ?と思ったんです。後から夜着だと気づき、だから簡素なものだったのかと思いました。それに貴族でもその髪の滑らかさは稀でしょう。あれとは似ても似つかないしね」

 ああ、よかった。あれと似ていると言われたら、わたしの未来はどっぷりと暗かったよ。
 そうか、姪っ子って言ったから、それにしては似てないって思って、わたしの話に耳を傾けてくれたんだ。

「それにしても、リディアちゃんとあの男の言い合いは痛快でした。始めから勝算があったのかい?」

 わたしは首を横に振る。
 とんでもない、常に綱渡りな状態だった。

「嘘つき、証明できる言ったけど、あれ、嘘。シュタイン遠い。イダボア、ギルド・自警団なら近い。イダボア、来てもらえれば、何とかなる、思った。あいつ、嘘だらけ。話せば話すほど嘘増える。おかしい、思えば、イダボア、連れてきてくれる、思った。だから、いっぱい、嘘つかせた」

 みんな若干ひいているようだが、わたしだって必死だったのだ。

「なるほど、そうでしたか」

「嘘、ついて、ごめんなさい」

「いいや、君はちゃんと証明していたよ。嘘ではなかった」

 ホリーさんが優しい目で笑いかけてくれた。


 大人の話になってきたので、わたしたちは床に座り込んで静かに遊び始める。
 紙に井戸の〝井〟の字を書いて、マルかバツを3つ並べた方が勝ちのマルバツゲームをする。アラ兄はもうすぐ必勝法にたどり着きそうだ。兄さまは、気づいているんじゃないかなと思う。今のところ、わたしがいつも優勝する! 勝つので楽しい。
 飽きてきたら、753だ。棒消しゲームだ。ふふふ。今のところ、わたしの教えたゲームはジャンケン以外まだ勝っている。

「……面白そうなことをしていますね」

 覗き込んだホリーさんが言った。

「ええ、やってみると奥が深いですよ」

 父さまが答える。ロビ兄がすくっと立ち上がった。

「母さま、今日のお昼はどうするの?」

「あら、もうお昼の心配?」

「おれ、リーのご飯が食べたい」

「オレだって」

「私だって!」

『我もだ!』

 嬉しいこと言ってくれるね。

「リディアちゃんが食事を作るんですか?」

「うーうん、リーが指示するの」

 ホリーさんとハリーさんに何ともいえない表情で見られている。
 そ、そうね。ハタから聞くと、あれやれ、これやれって兄さまたち焚きつけてご飯作らせるって、わたし、酷いね。で、でもさ、わたしだと上手にできないんだもん。

「ひょっとして、〝ジョウユ〟〝ミソン〟を使われています?」

「ええ」

 と母さまが頷く。

「あの、わたしたちに、ハリーの店で買われた調味料の使い方をご教授頂けませんでしょうか?」

「リディー、ホリーさんたちに助けていただいたこともあるし、お話したら?」

 母さまに水を向けられる。
 恩人だし、ジョウユやミソンの素晴らしさは広めてほしいし、料理人さんたちに知ってもらってどんどんおいしいもの作ってほしいから、喜んで!

 そしてちょっぴり下心あり。商人さんとはこれからもお付き合いをさせていただきたいです! いろいろ売って、領地を豊かにしないとね。屋台で何か出品したら少し稼げたりしないかな? 心の中でそんなことを考えつつ、ホリーさんにお返事する。

「はい、もちろん。簡単、使える、もの、ばかり。ジョウユ……」

「ちょっと待った!」

 はい?

「あの、実際作っていただくことは可能ですか?」

 ああ、味もみたいよね?

「兄さま、アラ兄、ロビ兄、手伝って、くれる?」

「ああ、いいよ」

 快く引き受けてくれた。ただ、どこで作るかが問題なんだけど。
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