プラス的 異世界の過ごし方

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2章 わたしに何ができるかな?

第59話 冒険者VSシヴァ

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 兄さまも双子も、楽しそう。
 シヴァとの特訓でめちゃくちゃ盛り上がっている。
 もふさまも、うずくみたいで打ち合いをしているところに飛び込んだりしている。でもそれが、いいアクセントになっているみたい。

 わたしは畑仕事と、カツオ燻しを頑張っている。神様への祈りは、夜寝る前にしようと思うと、する間もなく眠ってしまうので、この畑仕事のときに感謝と祈りを捧げることにした。感謝と祈りをして、これまでの報告をする。そして好きなことがあったら教えてくれればそうしますのでと結ぶ。

 朝ごはんは念願だった蜜をたっぷりかけたフレンチトーストにした。子供にはもちろんウケたけど、母さまを元気づけられたみたい。甘いものがそこまで好きではない父さまとおじいさまにはベーコンもどきをつけた。シヴァは甘いもの大好きなんだよね。一切甘さは受け付けないようなイカツさが前面に出ているんだけど。予想通りバクバク食べてくれた。もふさまは蜜少なめで味わうのが好き。パンが柔らかく、そしてあんなにおいしくいただけるのはいいよね。あむっと口に入れると、卵と優しい甘みがパンにギュッと染みていて、最後はバターのあまじょっぱいのが広がる。ああ、アイスをのせたらもっとおいしいのに。

 そんな幸せな朝食の後、父さまとおじいさまは出かけた。父さまはシヴァの馬を借りて。

 それにしても、マルネギもニンジもひと月近く収穫がある。わたしもアラ兄の真似をして、このことについて、考えるのを放棄した。うん、いつまでも実るのだもの、ありがたいよね。異世界ってのはずいぶん収穫時が長いんだなということにしておこう。
 後から足したアカナスや豆やカボッチャやトマトンも順調に大きくなり、収穫できるようになってきた。こちらの世界の野菜はサイズも大きい。さらに市場のよりもサイズは大きいし、わたしがしっかり世話をしているからだろう、おいしい気がする。ビワンもずっと実をつけている。これ一年中ずっと実ったら面白いなと思っている。

 作法の授業は、近隣の国を含めた歴史の授業に変わった。作法の授業は最悪だと思っていたが、もっと最悪なものがあったので驚いた。国の名前が覚えにくい。この国のことでは、とても聖女さまを大事に思っているのはわかるけど、初代から聖女さまの名前を覚える必要はあるのだろうか? そしてほとんどが正室になられているから、名前がめっちゃ長い! 
 ドロシー・マロニエル・ネへ・クロム・ド・ユオブリア。
 ユオブリアは国名だし、〝ド〟は妃を表し、ド・ユオブリアはみんなつくんだけど、その前が4センテンスあるって長すぎだろと思ってしまう。王族はみんなこんな感じだから、本当に勘弁してほしい。

 歴代の聖女さまは、確かに国を救ってきたみたいだ。聖女さまが現れたときには、必ず何かが起こっている。いや、逆なのかな。何かがあるから聖女さまが現れるのか?
 初代は魔王がでたみたい。マジか、魔王いたのか。怖いな、異世界! 次は山の噴火。次は川の氾濫。そして流行病の蔓延。聖女がいなかったら、人類滅亡に近いことになっただろう。だから聖女さまは大事にされて、称え、望まれれば国家の最高権力者の伴侶となり、その後の不自由ない暮らしを約束するんだろう。それにしてもこの国に高確率で聖女が現れているところが不思議だ。他の国でもそうなのかな? わたしが知らないか、情報を出しているかどうかの違いなのか。

 修行が終わり、お風呂で汗を流すみたいだ。
 ハーブ入りの石鹸は好評だ。石鹸は最初から作ったわけじゃない。作り方、なんとなくしか知らないし、なんか急激に温度があがるとか作業が大変&危険だった気がする。わたしのは買ってきた石鹸を溶かして、アラ兄がいい香りだといったハーブを煮出したエキスと合わせて固めただけ。それが洗い終わった後もどこかその香りがしていいんだよね。
 それとね、リンスもどきを作った。酢が手に入ったし、ベアさんがくれた蜂の巣、蜜をとった後ももったいないから持っていたんだけど、これを水に晒しておいたら巣にくっついていたヌルッとしたものが水に溶けていい感じだったので、保護剤としてみた。せっかくのプラチナブロンドの髪がキシキシなのは悲しかったんだよね。手触りが、残念でならなくて。母さまが大のお気に入りだし、みんな3割ましでイケメン度が上がったよ。おじいさまやシヴァも使ってくれているみたい。髪にいい成分が入っているわけではないから、何かよくなったわけではないけれど、キシキシしなくなったことで大満足だ!


 みんながお風呂に入っている間にわたしと母さまでご飯を炊いて、おにぎりをこしらえた。具はベアシャケをほぐしたものと、出汁をとったときの昆布と鰹節もどきを細かくして甘辛く煮たものだ。後はお肉を焼いて、葉っぱ野菜でくるっと巻いておく。
 わたしの作ったおにぎりはとても小ぶりだが、兄さまたちが取り合って食べてくれた。
 少し早めのお昼ご飯を、庭のテーブルで食べ、そしてわたしはお昼寝をした。


 目が覚めそうな時だったからだと思うんだけど、部屋に誰か入ってきたような気がして、額に何かが触れた気がして目を開けた。でも部屋には誰もいない。

「もふさま?」

 もふさまが出入りしたのかと思って声をかけたが、反応はない。
 目を擦りながら庭に出てみると、お客様がいらしてた。
 出会い頭のウィリアムさんににっこり微笑まれる。

「小さなレディ、こんにちは。お邪魔しています」

 びっくりしたー。

「ご機嫌よう」

 わたしはカーテシーを試みる。
 顔洗ってないんだよな。冷たくないからよだれは出ていないはずだが、痕があるかもしれない。
 挨拶もそこそこにわたしは井戸へと向かった。
 お水を汲むのは無理なので、魔法でお水を出し桶を満たそうと手をあげたところに後ろから声がかかった。

「水を汲むの、手伝おうか?」

 優しげな印象のカークさんがいた。その瞬間、わたしはこの中の誰かが敵なことを思い出した。

「いいえ。だいじょぶ、です。お客さま、お手伝い、してもらうこと、違うです」

「やっぱり貴族は違うなー。小さくてもしっかりしてる。おれにも妹がいたんだけど、兄を顎で使っていたよ」

「いた?」

「……あ、うん。病気で亡くなったんだ。とにかく、いつもくっついてきて、足が痛いだ、お腹が空いただ、ビービー泣いてた。君みたいに、しっかり挨拶もできないし、手伝いもほんっとできなかったなー。でも自分でやるってうるさくて。だからやらせればできなくて泣いて、結局おれがやることになるんだ」

 懐かしむ声に〝哀しみ〟がちょっぴり混じっている。

「リー、起きたのか?」

 ロビ兄がやってきた。

「なんだ、水か?」

 うんとわたしは頷く。いや、魔法で出せるんで本当は問題ないんだけど。

「にーちゃんきたなら、大丈夫だね。あちらに行ってるよ」

 そう手をひらひらさせるので、わたしはペコっと頭を下げた。
 滑車に手をかけてくれているので、そのまま水を汲んでもらった。

「どした?」

「ありがと。カークさん、妹いたって。病気、亡くなった」

 桶に手を入れてお水を掬ってそこで顔を洗う。
 顔を亀のように長く突き出してやったのに、胸のところがびちょびちょになった。今日は失敗だ。
 カークさんに悪いことをした。お客様に水を汲ませるなんてと思ったのも本当だけど、疑心暗鬼になって、なんか疑っちゃったんだ。

 わたしが押し黙ったからか、ロビ兄が見当違いのことを言う。

「それでも、妹は貸し出せるもんじゃないから、どうにもなんないだろ?」

 まぁ、貸し出してもらっちゃ困るので頷いておく。

「父さま、約束、夕方言ってた。なんで早く来た?」

 父さまはウィリアムさんたちと夕方トネルの親父さんの居酒屋で文書を見せ合う約束があるとかで、それまで時間があるからとおじいさまと出かけたのに。
 ロビ兄は首を傾げる。

「シヴァ、どういう人、言った?」

「護衛で来たって言ってたよ。そしたらウィリアムさんが手合わせして欲しいって」

  ウィリアムさんとシヴァが手合わせをするというので、見に行く。ふたりとも剣を構えたまま動かない。時間だけが過ぎる。拮抗してるのかしら?
 兄さまたちは前のめりで見ている。メンバーさんたちもだ。

 あまりにも動かないので、ハシビロコウですか?と心の中でツッコミを入れたとき、ふたりの剣が音を立てて合わさり、それから目に止まらない激しい打ち合いが始まった、3歩シヴァが押せば、次の瞬間にはウィリアムさんが3歩押すという感じで、ふたりが動いているのはわかるけれど、剣の動きは全く見えなかった。カン、カキーン、カシャって音だけが耳に届く。ふたりが同時に後ろに飛び去る。二人とも肩で息をして汗びっしょりだ。

 ふたりは足を揃えて同時に礼をした。

 終わり? どっちが勝ったの?? さっぱりわからない。
 兄さまが案内してふたりは水浴びしたようだ。シヴァは着替えて、ウィリアムさんには、シヴァが服をかしたみたい。

 シヴァにこっそりどっちが勝ったのかを聞くと、引き分けだそうだ。

 母さまがお茶を運んでくる。双子が作ったテーブルにお茶を並べていく。テーブルに意匠が施されていて驚いた。進化している。

「領主さまはどちらにいかれたのですか?」

「今日のお約束は夕方と聞いておりますが?」

 母さまがおっとりと首を傾げる。

「その通りです。すみません、ただ気になって」

「護衛を雇われたのですか?」

 ドードリーさんが尋ねてくる。
 母さまはシヴァを見て、意味ありげに笑い

「護衛だなんて、引越し先を見にきてくださったんですのよ」

 と伝える。
 もふさまが顔を上げる。

『帰ってきたようだぞ』

 椅子を降りて、庭をみるようにすると、馬に乗ったおじいさまと父さまが帰ってきた。
 みんなで走り寄る。

「お帰りなさい!」

「お帰りなさい」
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