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2章 わたしに何ができるかな?
第57話 懺悔
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父さまにまだ起きていられるか確認を取られた。
まだ、大丈夫と頷く。
おじいさまたちを客間に案内し、わたしたちは居間に戻った。
「リディアをもっと驚かせることになるかもしれないが、アランとロビンとも本当は従兄弟なんだ。届け出は兄妹になっているが」
わたしは遅れて頷く。
「これも知っていたか」
「うん」
「そうか。もう少し大きくなったら話そうと思っていた。兄さまたちにはその都度、小さいのに酷だとは思いながら、話したし、尋ねて自分たちで決めてもらってきた。父さまたちの子になるのでいいか、自分で選んでもらった」
うおー、わたしはまだ大人の記憶があるからだけど、兄さまたち4~6歳で境遇を知り、自分で選んできたのか。これは甘ったれのわたしなんかと全然覚悟が違うはずだ。しっかりしたできる子供な理由がわかった。
「生を受けて始まった人生は自分だけのもの。どんな辛いことがあろうとも、父さまが変わってやることはできない。自分の人生だから、フランツにもリディアにも、自分で決めて選んでもらった」
わたしは頷く。
「だからって、自分たちでどうにかしろというわけではない。できる限り望むことを、父さまたちは支援する」
隣で微笑む母さまは顔色が戻っていて、ほっとした。
その前置きのあとで、双子から聞いた兄さまと双子の生い立ちを、もう少しだけ詳しく父さまの口から聞くことができた。兄さまは母さまの従姉妹の結婚した相手の先妻の子。双子は母さまのお姉さんの子供。兄さまたちの本当の父さまたちは亡くなられていて、親戚の元で暮らすか、父さまと母さまの子として暮らすかそれぞれに尋ねたみたいだ。
「お前たちと家族になるとき、決めたことがある」
父さまがみんなの顔を順繰りに見ていく。
「父さまは、父さまの父さまと折り合いが悪かった。考えが違いすぎて、すれ違ってばかりいた。それでも話してわかり合おうとするべきだったのに、それが苦痛で父さまは逃げた。幸い、おじいさまが味方になってくれたから、そこに甘えた。……結局いつかちゃんと話そうと思っていて、その日を逃したまま亡くしてしまった。それは取り返しがつかなくて、とても辛いことになってしまった」
父さまは胸を押さえる。
「家族といってもわかりあえないこともある。でも、わかりあえないとわかるようになるまで、いつも言葉を尽くしたい。気持ちがわからないなら、わからないでいい、そう言ってほしい。合わないなら合わないでいいから。けれど、いつも向き合ってほしい。幸せを感じてほしいから、そう支えたいから、何が嬉しくて、楽しくて、幸せなのか、父さまたちに教えてほしい。嫌だとか苦手だとか、怖いとか。支える手伝いをしたいだけだから。味方でいたいから。どうか、なんでも口にしてほしい。それでどうしてもわかりあえないことがあったら、その時はその時だ。また考えよう。考えも思いも変わっていくものだ。だからフランツもリディアも、婚約のことで迷いが生じたらいつでも相談してほしい」
わたしと兄さまは顔を見合わせて頷いた。
「フランツも、アランも、ロビンも、本当の母さまのことを聞きたいときは、いつだって母さまに聞いてちょうだい。母さまたちは仲が良くて家を出るまではいつも一緒にいたの」
ふたりを偲ぶ表情は、従姉妹とお姉さんが大好きだったんだと伝わってくる。
「フランツの義母さまのカレンお姉さま、アランとロビンの母さまのフローラお姉さまが辛い目に遭っているときに、親族は動かなかった。ひどく冷たいと思っていると思うけれど、一族にとってはそれが最善のことだった」
アラ兄とロビ兄は真剣な顔で聞いている。
「母さまの生家は身分が高くて、王族を率先して支えなくてはいけない血筋で。母さまたちの父さまや母さまは、子供の幸せを望んではいるけれど、一族にがんじがらめになり疲れてしまっていた。王族と添い遂げる意思がないなら、一族から去るようにと小さい頃から言われきたの。そして去るのなら、一族とは完全に手を切り、親の死に目にも合えず、墓にも来てはいけない、とね。逆にその覚悟がないなら、王族に尽くせとね」
それまた、厳しい。極端というか、間の選択肢がなかったものなのかと思ってしまう。
「私たちは結局3人とも一族から去った。愛する人ができたから。縁を切ったから一族は私たちに手を差し伸べることはできなかった。差し伸べて一族に戻ってしまったら、王族のいうことには逆らえなくなるから。だから私たちの味方は3人だけ。姉さまたちは、旦那さまを亡くされたときに、私を頼って辺境に来たの」
母さまは話し始めたときから目を赤くしていたけれど、そこまでいうと極まってしまったみたいで、涙が絶え間なく流れた。呪いにあっても、あんなに気丈であった母さまがナーバスになっている。母さまの姉さまたちのことと、王族に関することには気持ちが乱れるみたいだ。
「レギーナ、少し、休もうか」
わたしたちにここにいるように言って、父さまが母さまを支えて部屋をでた。
兄さまと目が合った。
「兄さま、本当にいいの?」
思わず確かめてしまう。
「婚約のこと?」
わたしは頷く。
「私が言い出したんだよ?」
そうだけど……。
「青春、棒に振るよ」
「セイシュンって何?」
「えーと、青い春?」
「青い春? うーん、ごめん、よくわからない」
ごめん、わたしも青い春じゃ全く意味がわからないよ。わたしも少なからずテンパっているみたいだ。
「……けど。ただわかるのは、リディーの隣に〝誰か〟がいるのは嫌で、〝誰か〟は私でありたいんだ」
兄さま、それ告白みたいだよ? 兄さまはある意味、天然かもしれない。悪気なく乙女心を刺激することを、深い意味なく言っちゃう人。兄さまの〝天然〟の被害に遭う乙女が出ないように気をつけないとだね。
「兄さま、恩人は、もう、いいからね」
わたしは釘を刺す。そういうとクスクス笑う。
「だって、恩人は恩人だもの。私の凍てついた睫毛を溶かしてくれた、ね」
そう言って意味ありげに笑うのだった。
まだ、大丈夫と頷く。
おじいさまたちを客間に案内し、わたしたちは居間に戻った。
「リディアをもっと驚かせることになるかもしれないが、アランとロビンとも本当は従兄弟なんだ。届け出は兄妹になっているが」
わたしは遅れて頷く。
「これも知っていたか」
「うん」
「そうか。もう少し大きくなったら話そうと思っていた。兄さまたちにはその都度、小さいのに酷だとは思いながら、話したし、尋ねて自分たちで決めてもらってきた。父さまたちの子になるのでいいか、自分で選んでもらった」
うおー、わたしはまだ大人の記憶があるからだけど、兄さまたち4~6歳で境遇を知り、自分で選んできたのか。これは甘ったれのわたしなんかと全然覚悟が違うはずだ。しっかりしたできる子供な理由がわかった。
「生を受けて始まった人生は自分だけのもの。どんな辛いことがあろうとも、父さまが変わってやることはできない。自分の人生だから、フランツにもリディアにも、自分で決めて選んでもらった」
わたしは頷く。
「だからって、自分たちでどうにかしろというわけではない。できる限り望むことを、父さまたちは支援する」
隣で微笑む母さまは顔色が戻っていて、ほっとした。
その前置きのあとで、双子から聞いた兄さまと双子の生い立ちを、もう少しだけ詳しく父さまの口から聞くことができた。兄さまは母さまの従姉妹の結婚した相手の先妻の子。双子は母さまのお姉さんの子供。兄さまたちの本当の父さまたちは亡くなられていて、親戚の元で暮らすか、父さまと母さまの子として暮らすかそれぞれに尋ねたみたいだ。
「お前たちと家族になるとき、決めたことがある」
父さまがみんなの顔を順繰りに見ていく。
「父さまは、父さまの父さまと折り合いが悪かった。考えが違いすぎて、すれ違ってばかりいた。それでも話してわかり合おうとするべきだったのに、それが苦痛で父さまは逃げた。幸い、おじいさまが味方になってくれたから、そこに甘えた。……結局いつかちゃんと話そうと思っていて、その日を逃したまま亡くしてしまった。それは取り返しがつかなくて、とても辛いことになってしまった」
父さまは胸を押さえる。
「家族といってもわかりあえないこともある。でも、わかりあえないとわかるようになるまで、いつも言葉を尽くしたい。気持ちがわからないなら、わからないでいい、そう言ってほしい。合わないなら合わないでいいから。けれど、いつも向き合ってほしい。幸せを感じてほしいから、そう支えたいから、何が嬉しくて、楽しくて、幸せなのか、父さまたちに教えてほしい。嫌だとか苦手だとか、怖いとか。支える手伝いをしたいだけだから。味方でいたいから。どうか、なんでも口にしてほしい。それでどうしてもわかりあえないことがあったら、その時はその時だ。また考えよう。考えも思いも変わっていくものだ。だからフランツもリディアも、婚約のことで迷いが生じたらいつでも相談してほしい」
わたしと兄さまは顔を見合わせて頷いた。
「フランツも、アランも、ロビンも、本当の母さまのことを聞きたいときは、いつだって母さまに聞いてちょうだい。母さまたちは仲が良くて家を出るまではいつも一緒にいたの」
ふたりを偲ぶ表情は、従姉妹とお姉さんが大好きだったんだと伝わってくる。
「フランツの義母さまのカレンお姉さま、アランとロビンの母さまのフローラお姉さまが辛い目に遭っているときに、親族は動かなかった。ひどく冷たいと思っていると思うけれど、一族にとってはそれが最善のことだった」
アラ兄とロビ兄は真剣な顔で聞いている。
「母さまの生家は身分が高くて、王族を率先して支えなくてはいけない血筋で。母さまたちの父さまや母さまは、子供の幸せを望んではいるけれど、一族にがんじがらめになり疲れてしまっていた。王族と添い遂げる意思がないなら、一族から去るようにと小さい頃から言われきたの。そして去るのなら、一族とは完全に手を切り、親の死に目にも合えず、墓にも来てはいけない、とね。逆にその覚悟がないなら、王族に尽くせとね」
それまた、厳しい。極端というか、間の選択肢がなかったものなのかと思ってしまう。
「私たちは結局3人とも一族から去った。愛する人ができたから。縁を切ったから一族は私たちに手を差し伸べることはできなかった。差し伸べて一族に戻ってしまったら、王族のいうことには逆らえなくなるから。だから私たちの味方は3人だけ。姉さまたちは、旦那さまを亡くされたときに、私を頼って辺境に来たの」
母さまは話し始めたときから目を赤くしていたけれど、そこまでいうと極まってしまったみたいで、涙が絶え間なく流れた。呪いにあっても、あんなに気丈であった母さまがナーバスになっている。母さまの姉さまたちのことと、王族に関することには気持ちが乱れるみたいだ。
「レギーナ、少し、休もうか」
わたしたちにここにいるように言って、父さまが母さまを支えて部屋をでた。
兄さまと目が合った。
「兄さま、本当にいいの?」
思わず確かめてしまう。
「婚約のこと?」
わたしは頷く。
「私が言い出したんだよ?」
そうだけど……。
「青春、棒に振るよ」
「セイシュンって何?」
「えーと、青い春?」
「青い春? うーん、ごめん、よくわからない」
ごめん、わたしも青い春じゃ全く意味がわからないよ。わたしも少なからずテンパっているみたいだ。
「……けど。ただわかるのは、リディーの隣に〝誰か〟がいるのは嫌で、〝誰か〟は私でありたいんだ」
兄さま、それ告白みたいだよ? 兄さまはある意味、天然かもしれない。悪気なく乙女心を刺激することを、深い意味なく言っちゃう人。兄さまの〝天然〟の被害に遭う乙女が出ないように気をつけないとだね。
「兄さま、恩人は、もう、いいからね」
わたしは釘を刺す。そういうとクスクス笑う。
「だって、恩人は恩人だもの。私の凍てついた睫毛を溶かしてくれた、ね」
そう言って意味ありげに笑うのだった。
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