プラス的 異世界の過ごし方

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2章 わたしに何ができるかな?

第54話 おじいさまがやってきた

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 父さまは町へ村へと、裏付け調査に付き合って大忙しだったけど、わたしたちは至って普通に過ごした。少し精神的に不安定な気がする母さまを抜かして、みんなにはあの冒険者の中にどういう目的かはわからないけれど、微妙な敵がいることは伝えた。

 ロビ兄が探索を便利だなというと、父さまが〝強くなりたいなら気配に敏感になれ〟と言った。それから慌ててわたしには、人には向きと不向きがあり気配で探ることは無理だと思うから、そのままボードに頼るよう言った。やっぱり年齢の問題だけでなく、わたしは能力が低そうだね。

 作業服を着て、燻し小屋でおろしてもらったカツオを燻していたときだった。
 庭で何やらうずくまっていたロビ兄がすくっと立ち上がって、そして飛び上がって手を振った。その様子を見てアラ兄も手を振り出す。
 兄さまが走って庭から飛び出すと、双子も走り出した。

 なんだ?
 もふさまと顔を合わせて、柵まで行ってみる。兄さまたちが駆け寄った先には大きな馬が二頭と、おじいさま(ひい爺さま)とシヴァがいた。

 わたしも走り寄る。もふさまもついてきた。追いついた時には抱擁が終わったところで、空いた手でわたしを抱きあげてくれる。

「リディア、元気でいたか?」

 わたしは頷いた。頬擦りがくる。おじいさまのほっぺはツルツルだ。

「おお、強そうなのを連れているな」

 もふさまに目をやるなり、そう言った。

『人族でも、この姿でわかるものもいるのだな』

 もふさまが感心している。

「おじいさま、もふさま」

 わたしは抱っこしてもらったまま、紹介した。

 おじいさまはわたしを下ろす。
 そしてもふさまの前で膝をついた。

「もふさま、ですか。私はリディアの曾祖父のイオン・シュタイン・ランディラカ。ランディラカの辺境伯を名乗っております」

「おじいさま、わかるの?」

 アラ兄が尋ねる。

「こんな強者の気配は久しぶりです」

『我はいま、この家に厄介になっている、リディアの友達だ』

 もふさまの言葉をおじいさまに通訳する。

「そうでしたか。ひ孫たちを守ってくださり、ありがとうございます」

 と頭を下げた。

「おじいさま、オレの部屋、見せてあげる」

「おれの部屋もある!」

 左右から双子がおじいさまを取り合った。

「シヴァ!」

 前に行くと抱きあげてくれる。

「元気そうですね、お嬢」

「うん、シヴァは?」

「俺も元気でしたよ」

 ぎゅーっと抱きつく。えへへ、安心する。
 視線を感じて下を見れば、兄さまと双子がジト目で見ていた。

 シヴァの馬に、もふさまと乗せてもらった。ロビ兄はあとで稽古をつけてと言っている。いいですよと言いながら、少し驚くシヴァ。ロビ兄たち辺境では修行が好きではなかったみたいだから驚くかもね。

 馬は庭に放し、おじいさまとシヴァを家の中へ案内する。

「おじいさま!」

 母さまは嬉しそうにおじいさまに走り寄る。

「レギーナ、息災だったか?」

「子供たちのおかげで元気にしております」

 おじいさまはそうかと頷く。
 おじいさまたちを居間に誘って、お茶と塩でもんだ野菜をお茶請けに持っていく。汗をかいただろうから、しょっぱいものがいいかと思って。

「ジュレミーは?」

「町か村に行っています」

 母さまはレアワームのこと、その報告書を上げると、裏付け調査の冒険者がきたんだと告げた。

「いろいろとあったようだな」

 大人の話があるのか、おじいさまがシヴァにアイコンタクトを送った。シヴァも到着したばかり、疲れているよね。子供の相手をさせるのも気の毒だ。

「兄さまたち、ご飯の支度しよう」

「何、リディアが食事の支度を?」

「うーうん、指導、する」

 おじいさまとシヴァが目をパチクリさせている。

「おじいさま、楽しみにしていてください。リディーの考えるご飯はとてもおいしいのです」

「うん、とってもおいしいんだよ!」

「夕飯、楽しみにしてて!」

 おじいさまたちもお米、大丈夫かな? 一瞬考えたが、ふたりとも辺境の地で戦ってきて、木の皮も食べたことがあるって言ってたから、なんでもいけそうな気がする。そしたら、さらにチャレンジ、お刺身にしようかなー。鰹節もどきはまだ、ソフト燻しぐらいなんだけど、使ってみよう。

 カチンコチンには程遠い鰹節もどきを小屋まで取りにいく。
 井戸で手をよく洗って、炊事場へ。風魔法が得意な兄さまに魚をおろしてもらいます!
 刺身だよ、刺身。ワサビがないのは残念だけど、お醤油だけでも十分よ。2度と醤油に会えないかと思ったもんね。

 人数が多いから、お寿司にして握るのは大変だ。刺身のっけ丼にしようかね。白米を炊いて酢飯にする。ロビ兄に厚手の紙で扇いでもらう。風魔法じゃないのがポイントだ。なんとなく、扇ぐ方がおいしそうじゃない?

 ソフト鰹節もどきを薄ーくスライスして昆布水と一緒に旨味を出して、濾します。こっちはあとでふりかけに。

 砂抜きをした貝を入れて沸騰させパカッと開いたら、ジョウユで味付け。今日はお吸い物だ。まぐろとイカののっけ丼。時間があったので、甘めの卵焼きをこしらえる。これにはアラ兄が釣れた。海藻サラダには、醤油の和風ドレッシングをね。
 あとはナマモノが苦手な人用に、燻製肉を焼いて葉っぱ野菜で巻いてみた。出来上がったものはどんどんバッグに入れてきたから、いつでも出来立てだ。

 思いつくものを作ってはバッグに入れているうちに父さまが帰ってきた。
 みんなで出迎える。父さまはおじいさまとシヴァを歓迎する。

「もう少し後かと思っていました」

 と父さまは微笑む。おじいさまたちは1週間はいてくれるそうなので、まず今日は疲れをとってもらおうと、お風呂に入ってもらう。おじいさまの後にお風呂に入ってもらおうとシヴァを呼びにいくと

「お嬢は、こちらでいろんなことができるようになったんですね」

 と頭を撫でてくれた。

「うん、少しだけ。でも抱っこで運んでもらうの、好き」

 シヴァが笑っている。移動したいとき、もれなくシヴァのお世話になってたからね。

「坊ちゃんたちに、気持ちを話せるようになったんですね」

 双子に連れられて走りまわされると、わたしは泣いてばかりいた。シヴァはそんなわたしを抱きあげて、嫌だったら泣くのではなくて〝嫌だ〟と伝えなければと根気よく何度も教えてくれた。リディアは〝嫌〟と言うことは挑戦したんだけれど、理由までは言えなかったから、双子は〝嫌じゃないよ、楽しいよ〟と取り合ってくれなかったのだ。双子は双子で思うところがあり、わたしに見せたいものがあったり、一緒に行きたいところがあったみたいだったから。ただわたしには、双子の速度と持久力で連れ回されるのは酷すぎた。
 シヴァの大きな手がわたしの頭にのっかる。

「いつも気持ちを口にしてくださいね。そうしたらお嬢のやりたいことを、応援できますから」

 藍色の短い髪。見慣れていた黒髪のように見えて、なんだか安心してしまう。黄金色の瞳を和ませて、わたしと手を繋ぐ。お風呂場に案内して、使い方を説明した。



 みんなのお風呂が終わってから、早めの夕ご飯にした。

 人数が多いので庭に双子がテーブルを作った。カンテラを配置して。夕暮れどきの明かりはどこかムーディーだ。テーブルの上に所狭しとご馳走を並べていく。生のお魚が苦手だったらと思って、別のメニューも作っていたら盛りだくさんになってしまった。深いお皿に酢飯にお刺身をのっけた丼を配り、醤油をかけて食べてと伝える。それから生のお魚が苦手な人用の燻製肉焼き、イカの醤油焼きがいい匂いを振りまいている。醤油の焦げた匂いって、嗅覚を刺激するよね。
 みんなに、もふさまも一緒でいいと言ってもらったので、双子に言って、わたしの隣に特別なもふさまの席を作ってもらう。もふさまが食べやすいように、同じテーブルにお皿を置き、ちょっと下にもふさまがお座りできるような作りにしてもらった。

 食前のお祈りを終えると、みんなの反応をみようと思っていたのも吹っ飛び、パクついてしまった。
 刺身のっけ丼いきます。
 マグロのトロッとした脂身をお醤油がしめる。それをほのかに甘い酢飯と一緒に! おいしーーーーーー。最高! 醤油が決め手なのよ。酢飯もグッジョブだ。抜群の縁の下の力持ちだね! イカ、甘いな。どっちのネタもおいしい。
 ふと横を見ると、もふさまがすごい勢いで食べていた。すごいな、もふさま。酢飯もいけるね。お刺身もおいしいみたいだ。
 やっと余裕が出てきてテーブルを見渡すと、みんなかっこんでいた。母さまはかっこみはしていないけれども、スピード、早っ。

「これは、なんというか、本当にうまい!」

 みんなナマモノも大丈夫みたいだ。
 イカ焼きもおいしい。お吸い物も、ソフト鰹節もどきがいい仕事していた。えらい。
 海藻サラダは血液のつかえをとってくれる気がする。
 何もかもがおいしかった。お腹、いっぱい。幸せ。

「これが海の幸か」

「ドラゴンの置き土産というやつですね」

 おじいさまもシヴァも満足そうだ。
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