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2章 わたしに何ができるかな?
第46話 大きい村⑤遅れてきた悲しみ
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お昼寝から起きると、兄さまたちも、もふさまも遊びにいったようだった。
「起きたか?」
寝ぼけ眼でぼーっとしていると父さまに頬擦りされる。髭がちょっと痛い。
「リディー、父さまと散歩に行くか?」
わたしは頷いた。
父さまに抱っこされる。それじゃあ、散歩にならないよと思ったけれど、どこか父さまが淋しそうに見えて、おろしてと言えなかった。
「レアワーム、いなくなって、よかった」
そう話を向けると、父さまは頷いた。
「ああ、本当によかった。それにカイの発見はすごいことだ。どの土でも、それにどのカイでもいいのかなど検証はすることになるだろうが、レアワームで困っていた人たちの救いになる」
「検証?」
「ああ、このことは報告をあげるから、国が調べることになるだろう」
そっかー。
「国に、調べられるの、いや?」
「ん? 嫌ではないぞ」
「何か、辛い?」
「辛くは……ないぞ?」
「じゃあ、何が悲しい?」
父さまがわたしを見た。わたしと同じという翠色の瞳がわたしを映している。
「悲しいのではなくて、心の整理がついてないんだ」
「心の、整理?」
父さまは足を止めて、わたしを抱っこしたまま切り株の上に腰を下ろした。
ふたりしてなにもない畑を見つめる。
「父さまは、父さまの父さまと仲がよくなかったんだ」
結婚をしておじいさまのところに身を寄せていたから、そんな感じだとは思っていた。
「考えが合わなくて、でもそれをどうしたら伝えられるかも分からなくて、父さまは逃げた」
深い後悔が伺える。
「いつか、話せる日がくると思っていた。逃げたことを謝って、言葉を尽くして、わかりあおうと思っていた。……でもいつかが来る前に亡くなってしまった」
……そうだったんだ。
「領地を賜って、うまくいっていると聞いていたんだ。それが急に。突然、具合を悪くして亡くなり、領地では2年ぐらい前からおかしなことをはじめていた。領地をめちゃくちゃにして、土地までもダメにした!」
苦しそうな声。
「ここまで事を悪化させて、どうにもできないところまできて、ひとりで苦しんで勝手に死んで!」
体を捻って父さまを見上げた。泣きそうな顔をしている。両手で頬を包む。
とても辛そうだから。
「ごめんな、こんなかっこ悪い父さまで」
わたしは首を横に振る。
「父さま、かっこいい。それに、悲しくていい。合わなくても、ダメでも、大切は大切。合わなくても、悲しんでいい。2度と会えない、悲しい。あたりまえ。父さま、悲しんでいい」
翠色の瞳から、一雫、涙がこぼれる。
「そうか、私は悲しかったのだな」
泣き顔を見られたくないかもしれないから、父さまの胸に抱きつく。頬をあてて、願うばかりだ。悲しみに終わりはないけれど、いつかよかったこと、嬉しかったことが思い出せるといい。きっとそんな瞬間もあったはずだから。
父さまは、父さまの父さまのしたことを少しでも軽くするためにここに来ることを決めたんだと気づく。一生懸命で、悲しむことも脇に追いやっていたのかもしれない。
村の人たちも、おかしくなったのは前領主がというより、貴族なのか金持ちの平民なのかわからないが、前領主につきまとっていた人たちがいて、そいつらに唆されて税をあげ、税を払えなければ土地を取り上げ、突然きた輩に土地を貸し出し、何かを撒かれたといっていた。
例え唆されたのだとしても、実際やったのは前領主、つまりわたしのおじいさまなのに、前領主自身を糾弾はしない。それまでは慕われていたということだろう。
会うことが叶わなかったおじいさま。どんな方だったんだろう?
息子である父さまが土地を元どおりにしたよ。
何を考えていたか、わかることはないけれど、安らかに眠ってくれるといい。父さまの胸の音を聞きながら、わたしはそう祈っていた。
散歩からの帰り道、モリーさんが駆け寄ってきて、夕ご飯に招いてくれた。村の人たちとの蟠りをわたしたちが解いてくれたお礼にと言って。
そこで、わたしは出会ってしまった! 夢にまで見た〝米〟に!
植物の葉っぱに包まれていた。アチチとなりながらその皮を剥くと……
「モリーさん、これ、米?」
「コメ? 私、国ではライズ、いいマス」
「どこで、買った、ですか?」
「イダボアで買ってきマシた」
イダボア、イダボアに行かなくちゃ!
「食べたことアリますか?」
「話、聞いた。おいしい、食べたい、思った!」
モリーさんはふふふと笑う。
「私の国の食べ物、キョウミ持ってくれて嬉しい!」
お米と何かを混ぜて餅米のようにも見えた。野菜と肉を一緒に入れて魚醤と一緒に蒸している、チマキ風のものだ。これは魚醤っぽいけど、醤油とかもイダボアにはきっとある気がした。
「もちっとしてて、おいしいね」
「独特の味だな」
「また食べたくなる」
母さまもきれいにぱくついている。
「もふさま、どう?」
『うまいぞ』
みんなお米、大丈夫そうだね。
「父さま、イダボア、行きたい。ライズ買い、行く」
父さまは母さまと顔を見合わせている。
「そうだな、思いの外早く、土の解決策がみつかったから、冬前にイダボアに行こう」
やったーーーーー!
「リディアちゃん、ライズ、そんな気に入った?」
「はい、とっても」
「この国の人も、おいしいと思うと思いマスか?」
どうだろう、この国の人たちはパンが主食だろうからね。でも、そのパンはあまりおいしくない気がするが……。
「パンと違う、すぎる、けど。おいしい、腹持ちする、調理の仕方で絶対気に入るのある、思う!」
「蒸す以外、調理アリますか?」
「ライズ、見せて、もらう、いい、ですか?」
お米だと思うけど、現物を見てみないと。
モリーさんが持ってきてくれたのは、あはは、本当にお米だ。籾殻を外した玄米だね。
「お水にいっぱいつけて炊くやり方、煮る、炒め煮する、いろいろある。……これ玄米。栄養たっぷり。外側はずす、栄養少なくなるけど、食べやすい人もいる」
モリーさんは興味深げにうんうん、頷いている。
「私、国では、ライズ育ててマシた。この村、田んぼない。ダメだとあきらめてマシた。でも育てたい」
「モリーさん、土魔法使える?」
モリーさんはニヤッと笑って頷いた。そっか、稲作もすっごく大変と聞いたけど。もし作ってくれたら嬉しいな。
「私、国違う。わかってもらえない、仕方ない思ってマシた。でも、違いマシた。ただ諦める理由探してただけ。私、村の人と話してみマス。やってみる。みんなにライズ食べてほしい」
モリーさんの瞳が輝きだす。なんか本当にキラキラしていた。
わたしは稲作のこと何にも知らないけれど、ぜひ応援したい。領地で作ったお米を食べる、理想じゃないか! 土魔法、風魔法、水魔法でお手伝いするぐらいしか思いつけないけど。
試行錯誤はあるよね。問題はその育たない時もあることで、収穫がないと収入が途絶えてしまうことだ。続けていくためには、お米が育たなくても暮らしていける支援がいる。……そのためにも、稼がなくちゃ!
わたしたちは次の日に家に帰ったけれど、後から父さまから聞いた。モリーさんは畑を田んぼにして、ライズを育てることに決めたそうだ。その田んぼ地帯を作ることが、村人からなかなか同意を得られなかったみたいだけど、彼女は頑張った。村の端で土魔法を駆使して田んぼを作り、オトーサンと一緒にライズを育てるそうだ。おじいちゃんは土仕事をしている時だけは、話が通じるみたいで、土に詳しい有能なアドバイザーを得たという。
「起きたか?」
寝ぼけ眼でぼーっとしていると父さまに頬擦りされる。髭がちょっと痛い。
「リディー、父さまと散歩に行くか?」
わたしは頷いた。
父さまに抱っこされる。それじゃあ、散歩にならないよと思ったけれど、どこか父さまが淋しそうに見えて、おろしてと言えなかった。
「レアワーム、いなくなって、よかった」
そう話を向けると、父さまは頷いた。
「ああ、本当によかった。それにカイの発見はすごいことだ。どの土でも、それにどのカイでもいいのかなど検証はすることになるだろうが、レアワームで困っていた人たちの救いになる」
「検証?」
「ああ、このことは報告をあげるから、国が調べることになるだろう」
そっかー。
「国に、調べられるの、いや?」
「ん? 嫌ではないぞ」
「何か、辛い?」
「辛くは……ないぞ?」
「じゃあ、何が悲しい?」
父さまがわたしを見た。わたしと同じという翠色の瞳がわたしを映している。
「悲しいのではなくて、心の整理がついてないんだ」
「心の、整理?」
父さまは足を止めて、わたしを抱っこしたまま切り株の上に腰を下ろした。
ふたりしてなにもない畑を見つめる。
「父さまは、父さまの父さまと仲がよくなかったんだ」
結婚をしておじいさまのところに身を寄せていたから、そんな感じだとは思っていた。
「考えが合わなくて、でもそれをどうしたら伝えられるかも分からなくて、父さまは逃げた」
深い後悔が伺える。
「いつか、話せる日がくると思っていた。逃げたことを謝って、言葉を尽くして、わかりあおうと思っていた。……でもいつかが来る前に亡くなってしまった」
……そうだったんだ。
「領地を賜って、うまくいっていると聞いていたんだ。それが急に。突然、具合を悪くして亡くなり、領地では2年ぐらい前からおかしなことをはじめていた。領地をめちゃくちゃにして、土地までもダメにした!」
苦しそうな声。
「ここまで事を悪化させて、どうにもできないところまできて、ひとりで苦しんで勝手に死んで!」
体を捻って父さまを見上げた。泣きそうな顔をしている。両手で頬を包む。
とても辛そうだから。
「ごめんな、こんなかっこ悪い父さまで」
わたしは首を横に振る。
「父さま、かっこいい。それに、悲しくていい。合わなくても、ダメでも、大切は大切。合わなくても、悲しんでいい。2度と会えない、悲しい。あたりまえ。父さま、悲しんでいい」
翠色の瞳から、一雫、涙がこぼれる。
「そうか、私は悲しかったのだな」
泣き顔を見られたくないかもしれないから、父さまの胸に抱きつく。頬をあてて、願うばかりだ。悲しみに終わりはないけれど、いつかよかったこと、嬉しかったことが思い出せるといい。きっとそんな瞬間もあったはずだから。
父さまは、父さまの父さまのしたことを少しでも軽くするためにここに来ることを決めたんだと気づく。一生懸命で、悲しむことも脇に追いやっていたのかもしれない。
村の人たちも、おかしくなったのは前領主がというより、貴族なのか金持ちの平民なのかわからないが、前領主につきまとっていた人たちがいて、そいつらに唆されて税をあげ、税を払えなければ土地を取り上げ、突然きた輩に土地を貸し出し、何かを撒かれたといっていた。
例え唆されたのだとしても、実際やったのは前領主、つまりわたしのおじいさまなのに、前領主自身を糾弾はしない。それまでは慕われていたということだろう。
会うことが叶わなかったおじいさま。どんな方だったんだろう?
息子である父さまが土地を元どおりにしたよ。
何を考えていたか、わかることはないけれど、安らかに眠ってくれるといい。父さまの胸の音を聞きながら、わたしはそう祈っていた。
散歩からの帰り道、モリーさんが駆け寄ってきて、夕ご飯に招いてくれた。村の人たちとの蟠りをわたしたちが解いてくれたお礼にと言って。
そこで、わたしは出会ってしまった! 夢にまで見た〝米〟に!
植物の葉っぱに包まれていた。アチチとなりながらその皮を剥くと……
「モリーさん、これ、米?」
「コメ? 私、国ではライズ、いいマス」
「どこで、買った、ですか?」
「イダボアで買ってきマシた」
イダボア、イダボアに行かなくちゃ!
「食べたことアリますか?」
「話、聞いた。おいしい、食べたい、思った!」
モリーさんはふふふと笑う。
「私の国の食べ物、キョウミ持ってくれて嬉しい!」
お米と何かを混ぜて餅米のようにも見えた。野菜と肉を一緒に入れて魚醤と一緒に蒸している、チマキ風のものだ。これは魚醤っぽいけど、醤油とかもイダボアにはきっとある気がした。
「もちっとしてて、おいしいね」
「独特の味だな」
「また食べたくなる」
母さまもきれいにぱくついている。
「もふさま、どう?」
『うまいぞ』
みんなお米、大丈夫そうだね。
「父さま、イダボア、行きたい。ライズ買い、行く」
父さまは母さまと顔を見合わせている。
「そうだな、思いの外早く、土の解決策がみつかったから、冬前にイダボアに行こう」
やったーーーーー!
「リディアちゃん、ライズ、そんな気に入った?」
「はい、とっても」
「この国の人も、おいしいと思うと思いマスか?」
どうだろう、この国の人たちはパンが主食だろうからね。でも、そのパンはあまりおいしくない気がするが……。
「パンと違う、すぎる、けど。おいしい、腹持ちする、調理の仕方で絶対気に入るのある、思う!」
「蒸す以外、調理アリますか?」
「ライズ、見せて、もらう、いい、ですか?」
お米だと思うけど、現物を見てみないと。
モリーさんが持ってきてくれたのは、あはは、本当にお米だ。籾殻を外した玄米だね。
「お水にいっぱいつけて炊くやり方、煮る、炒め煮する、いろいろある。……これ玄米。栄養たっぷり。外側はずす、栄養少なくなるけど、食べやすい人もいる」
モリーさんは興味深げにうんうん、頷いている。
「私、国では、ライズ育ててマシた。この村、田んぼない。ダメだとあきらめてマシた。でも育てたい」
「モリーさん、土魔法使える?」
モリーさんはニヤッと笑って頷いた。そっか、稲作もすっごく大変と聞いたけど。もし作ってくれたら嬉しいな。
「私、国違う。わかってもらえない、仕方ない思ってマシた。でも、違いマシた。ただ諦める理由探してただけ。私、村の人と話してみマス。やってみる。みんなにライズ食べてほしい」
モリーさんの瞳が輝きだす。なんか本当にキラキラしていた。
わたしは稲作のこと何にも知らないけれど、ぜひ応援したい。領地で作ったお米を食べる、理想じゃないか! 土魔法、風魔法、水魔法でお手伝いするぐらいしか思いつけないけど。
試行錯誤はあるよね。問題はその育たない時もあることで、収穫がないと収入が途絶えてしまうことだ。続けていくためには、お米が育たなくても暮らしていける支援がいる。……そのためにも、稼がなくちゃ!
わたしたちは次の日に家に帰ったけれど、後から父さまから聞いた。モリーさんは畑を田んぼにして、ライズを育てることに決めたそうだ。その田んぼ地帯を作ることが、村人からなかなか同意を得られなかったみたいだけど、彼女は頑張った。村の端で土魔法を駆使して田んぼを作り、オトーサンと一緒にライズを育てるそうだ。おじいちゃんは土仕事をしている時だけは、話が通じるみたいで、土に詳しい有能なアドバイザーを得たという。
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