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2章 わたしに何ができるかな?
第44話 大きい村③継ぐということ
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広場に松明を焚いて、ご飯の準備をしていると、父さまたちが帰ってきた。
いくつかの場所から土を持ってきたという。とってきたところの近くの木には記号を書いた紐を結んできたそうだ。そのCの土を見て、わたしは声をあげた。
「これ、貝」
それも中身を食べて捨てられた貝殻に見える。サイズは大きなホタテぐらいに立派だけれど。それが欠けたりなんだりしたのがザクザク入っている。
「カイ?」
「貝。海近い?」
「ん? どういうことだ、リディー?」
「海の生物、貝殻、思う。中身食べる。殻捨てる」
「海って、あの海? 湖より大きいとかいう?」
「水が全部、塩水っていう?」
「父さま、海が近いの?」
兄さまが聞いてくれた。
「いや、ここはかなり内陸部のはずだが」
「温度とかでも地形変わる」
大昔、海が近かったのかな?
「……父さま、レアじゃなくて、ワーム見たことある?」
父さまは頷いた。
「リーは見たことないの?」
わたしは頷く。でもなんとなく予想するものがあって。もし、それだったら、貝は食べないってなんかで読んだ気がするんだけど。
「これだぞ」
わたしは叫び声をあげ、みんなを驚かせてしまった。
だって、そんなの、急に目の前に突き出されたら、誰だって声あげるでしょ。しかも、こっちのは大きいんだから!
実物を見せてくれたロビ兄に、お礼じゃなくて恨みがましい視線を送ってしまう。
やっぱり、わたしの知ってるやつだった。大人の指一本ぐらいに太いけど。
「父さま、多分だけど、普通のワーム、貝食べない。なぜかは知らない」
もっとサイズは小さいけど前の世界でもいたことを話す。
「でも、レアワーム、なんでも食べる。だから食べちゃうかも? ワーム、食べないの、食感が好きじゃないからかもだけど、お腹を壊すからだとしたら?」
結局、仮定話なので意味はない、けれど、盛り上がってしまう。
「レアワームは、体よくないけど食べて、お腹壊すとか! だから昔から〝ワームさま、お怒りになったら森の土を撒け〟って言われてきた?」
そうだったらいいなという思いつきに過ぎないけれど。
でも伝えられてきたのは、なんかしら効果があったからだと思う。理由は分からなくても実証済みだから、継いでいくのだ。
父さまたちは松明を頼りに、黒い土の畑に森の土を撒いていった。平行して熱湯を撒くこともしていったが、2日後答えが出た。Cの土を撒いたところにだけ、毛糸みたいな太さの黄色いワームに似た何かの死骸で畑の表面が覆われていたのだ。
誰もレアワームを見たことがなかったけれど、恐らくそれがレアワームだろうということになった。その死骸を土と一緒にふるいにかけて集め、焼いた。
森の中の低地から貝の出る土を持っていき、砕いたものを小さい村でも撒いた。砕くといっても、ずいぶん脆くなっていて足で踏むだけで割れちゃうぐらいだったんだけど。やはり2日後には死骸が畑の表面を覆った。
死骸が出た畑の土を土魔法で動かそうとすると簡単に動いたので大丈夫だろうとは思ったが、その3日後には雑草が生えだした。レアワームがいなくなっても、殺菌作用が強いものが撒かれたようなものだから、生命を育めるようになるまで時間がかかると思っていただけに嬉しい誤算だった。そういえば、貝は土に混ぜるといいと聞いたことがある。そのままの貝だと吸収できないから焼かないとダメなはずだけど。でも、貝が良い作用をもたらした気がする。
大人たちは泣き出した。神さまと土に感謝して、そしておじいちゃんとモリーさんにお礼と今までのことを謝りに行ったようだ。
みんな反省したようだ。答えはこんなに近くにあった。先祖たちがその知恵を伝えてきてくれていたのに、いつの間にかそんな思いを自分たちは蔑ろにしてきた。なんでもできる気になっていて、できなければ、天候のせいだ、土のせいだ、薬を撒かれたせいだと糾弾するだけだった。だからって何もしようとしなかった。
もふさまが何か考え込んでいる。
「もふさま、どしたの?」
『いや、まさかな』
首を傾げては、まさかなを繰り返す。
「どしたの?」
『思い出したことがあって』
「思い出したこと?」
『我がまだ子供だった時のことだ』
「子供のとき?」
もふさまは頷いた。
『森のひとつに変なのが住みついたと騒がれてな』
「変なのが?」
『見に行ってみると真っ青のシードラゴンが腹を天に向けていびきをかいて寝ていた』
へー、真っ青のシードラゴンか。ドラゴンもヘソ天で眠るんだ。
『我は起こした。我の庭で何をしているんだと』
ふむふむ。
『眠くてたまらないそうなのだが、腹も減っていて、なんとか好物を獲ってきた。迷惑をかけたなら馳走する。一緒に食べないかと誘われて』
うんうん。
『その時食べたのが、そのカイに似ていた。変わった形の石みたいなものだったが、チョンチョンと爪で弾くとパカっと開いてな。中身を食べて、その殻は捨てたんだが、それが……そのカイとそっくりだ』
「それ、多分、貝。貝は、中身食べられる」
もしかして、この貝は、もふさまとシードラゴンが食べた貝の殻? そして妙に納得した。海が近いわけでもないのに、貝殻があるなんて変だもんね。
それにしても、きっとドラゴンというぐらいだから体は大きいだろう。もふさまも子供時代といってもある程度の大きさだよね。それがさ、この、もふさまたちにしたらシジミサイズの貝をひとつずつ開いて食べたと思うと……感慨深いものがある。
「あの貝、シードラゴンが持ち込んで、もふさまたちが食べて、殻を残して。おかげで、レアワームから土地を守れた!」
あの貝殻はシードラゴンともふさまが貝を食べた後だったんだ!
『腹がいっぱいになって、あいつはひと眠りしたら帰るって言ってたんだが……』
?
『まさかまだ寝ていることはないとは思うのだが……』
「それって、どれくらい前? もふさま、子供の頃」
もふさまが首を傾げる。記憶を辿るようにして。
『……500年……ぐらい前だ』
……結構、長寿だった。
「ドラゴン、500年も眠る?」
『あいつならあり得るかと思ってな』
「気になるなら、確かめ、行こう」
『確かめに?』
わたしは頷いた。
いくつかの場所から土を持ってきたという。とってきたところの近くの木には記号を書いた紐を結んできたそうだ。そのCの土を見て、わたしは声をあげた。
「これ、貝」
それも中身を食べて捨てられた貝殻に見える。サイズは大きなホタテぐらいに立派だけれど。それが欠けたりなんだりしたのがザクザク入っている。
「カイ?」
「貝。海近い?」
「ん? どういうことだ、リディー?」
「海の生物、貝殻、思う。中身食べる。殻捨てる」
「海って、あの海? 湖より大きいとかいう?」
「水が全部、塩水っていう?」
「父さま、海が近いの?」
兄さまが聞いてくれた。
「いや、ここはかなり内陸部のはずだが」
「温度とかでも地形変わる」
大昔、海が近かったのかな?
「……父さま、レアじゃなくて、ワーム見たことある?」
父さまは頷いた。
「リーは見たことないの?」
わたしは頷く。でもなんとなく予想するものがあって。もし、それだったら、貝は食べないってなんかで読んだ気がするんだけど。
「これだぞ」
わたしは叫び声をあげ、みんなを驚かせてしまった。
だって、そんなの、急に目の前に突き出されたら、誰だって声あげるでしょ。しかも、こっちのは大きいんだから!
実物を見せてくれたロビ兄に、お礼じゃなくて恨みがましい視線を送ってしまう。
やっぱり、わたしの知ってるやつだった。大人の指一本ぐらいに太いけど。
「父さま、多分だけど、普通のワーム、貝食べない。なぜかは知らない」
もっとサイズは小さいけど前の世界でもいたことを話す。
「でも、レアワーム、なんでも食べる。だから食べちゃうかも? ワーム、食べないの、食感が好きじゃないからかもだけど、お腹を壊すからだとしたら?」
結局、仮定話なので意味はない、けれど、盛り上がってしまう。
「レアワームは、体よくないけど食べて、お腹壊すとか! だから昔から〝ワームさま、お怒りになったら森の土を撒け〟って言われてきた?」
そうだったらいいなという思いつきに過ぎないけれど。
でも伝えられてきたのは、なんかしら効果があったからだと思う。理由は分からなくても実証済みだから、継いでいくのだ。
父さまたちは松明を頼りに、黒い土の畑に森の土を撒いていった。平行して熱湯を撒くこともしていったが、2日後答えが出た。Cの土を撒いたところにだけ、毛糸みたいな太さの黄色いワームに似た何かの死骸で畑の表面が覆われていたのだ。
誰もレアワームを見たことがなかったけれど、恐らくそれがレアワームだろうということになった。その死骸を土と一緒にふるいにかけて集め、焼いた。
森の中の低地から貝の出る土を持っていき、砕いたものを小さい村でも撒いた。砕くといっても、ずいぶん脆くなっていて足で踏むだけで割れちゃうぐらいだったんだけど。やはり2日後には死骸が畑の表面を覆った。
死骸が出た畑の土を土魔法で動かそうとすると簡単に動いたので大丈夫だろうとは思ったが、その3日後には雑草が生えだした。レアワームがいなくなっても、殺菌作用が強いものが撒かれたようなものだから、生命を育めるようになるまで時間がかかると思っていただけに嬉しい誤算だった。そういえば、貝は土に混ぜるといいと聞いたことがある。そのままの貝だと吸収できないから焼かないとダメなはずだけど。でも、貝が良い作用をもたらした気がする。
大人たちは泣き出した。神さまと土に感謝して、そしておじいちゃんとモリーさんにお礼と今までのことを謝りに行ったようだ。
みんな反省したようだ。答えはこんなに近くにあった。先祖たちがその知恵を伝えてきてくれていたのに、いつの間にかそんな思いを自分たちは蔑ろにしてきた。なんでもできる気になっていて、できなければ、天候のせいだ、土のせいだ、薬を撒かれたせいだと糾弾するだけだった。だからって何もしようとしなかった。
もふさまが何か考え込んでいる。
「もふさま、どしたの?」
『いや、まさかな』
首を傾げては、まさかなを繰り返す。
「どしたの?」
『思い出したことがあって』
「思い出したこと?」
『我がまだ子供だった時のことだ』
「子供のとき?」
もふさまは頷いた。
『森のひとつに変なのが住みついたと騒がれてな』
「変なのが?」
『見に行ってみると真っ青のシードラゴンが腹を天に向けていびきをかいて寝ていた』
へー、真っ青のシードラゴンか。ドラゴンもヘソ天で眠るんだ。
『我は起こした。我の庭で何をしているんだと』
ふむふむ。
『眠くてたまらないそうなのだが、腹も減っていて、なんとか好物を獲ってきた。迷惑をかけたなら馳走する。一緒に食べないかと誘われて』
うんうん。
『その時食べたのが、そのカイに似ていた。変わった形の石みたいなものだったが、チョンチョンと爪で弾くとパカっと開いてな。中身を食べて、その殻は捨てたんだが、それが……そのカイとそっくりだ』
「それ、多分、貝。貝は、中身食べられる」
もしかして、この貝は、もふさまとシードラゴンが食べた貝の殻? そして妙に納得した。海が近いわけでもないのに、貝殻があるなんて変だもんね。
それにしても、きっとドラゴンというぐらいだから体は大きいだろう。もふさまも子供時代といってもある程度の大きさだよね。それがさ、この、もふさまたちにしたらシジミサイズの貝をひとつずつ開いて食べたと思うと……感慨深いものがある。
「あの貝、シードラゴンが持ち込んで、もふさまたちが食べて、殻を残して。おかげで、レアワームから土地を守れた!」
あの貝殻はシードラゴンともふさまが貝を食べた後だったんだ!
『腹がいっぱいになって、あいつはひと眠りしたら帰るって言ってたんだが……』
?
『まさかまだ寝ていることはないとは思うのだが……』
「それって、どれくらい前? もふさま、子供の頃」
もふさまが首を傾げる。記憶を辿るようにして。
『……500年……ぐらい前だ』
……結構、長寿だった。
「ドラゴン、500年も眠る?」
『あいつならあり得るかと思ってな』
「気になるなら、確かめ、行こう」
『確かめに?』
わたしは頷いた。
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