プラス的 異世界の過ごし方

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2章 わたしに何ができるかな?

第40話 小さい村③応急処置

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「こんにちは」

 挨拶をしてそのままイタンのお家の土間にみんなで入っていく。
 イタンのお母さんらしき人がいた。イタンと同じ茶色の髪。無表情に出迎えられたが、わたしを見て少し目が大きくなる。

「あら、領主さまのところは女の子もいるのね」

「リディアです」

 ぴょこんと頭を下げておく。
 イタンがわたしがリンゴンをかじれないので、ナイフで小さく切ってやりたいんだというと、かじりかけの〝りんご〟を、わたしの口に入る大きさに切り分けてくれた。
 お礼を言って、ひとついただく。
 すっぱおいしいー!
 シャリっと歯応えもいい感じで、これは熟してないからだけど、赤くなってからならもっとおいしい。もふさまも、もらったりんごをいい音を立てさせて食べている。
 こんなおいしいものが育つ土地なんだ。

 彼らはこれから、果実の間引きをするという。果実を大きくするために間引く方が良くて、それは子供の仕事らしい。小さい村には子供は5人しかいない。
 その間引いた果実をどうするのか聞いたら捨てるというので、もらっていいかと尋ねるといいという。間引いたものを放り投げてもらい、それを兄さまたちが受け取って、運んでもらう。

 それをきれいに洗って、量がすごいことになりそうなので、3分の2は収納し、残りはりんご煮と焼きりんごを作ることにした。りんご煮の方は皮をむいたので、この皮はいつかアップルティーで飲みたい。

 りんご煮は仮家で、焼きりんごはその場で作ることにした。木々から離れた場所に土魔法でカマドを作る。スプーンで芯をくり抜いて、バターと蜜を詰める。それを土魔法で作った板の上にマルマラの葉に包んだりんごをのせる。大きなキャベツみたいなマルマラはその葉を一枚ずつはいで料理によく使われている。落とし蓋的に使うみたいだが、わたしは包んで使ってみた。使い勝手がいいし、水分の調整がうまいこといくので重宝している。
 あたりに焼きりんごというか蒸しりんごの甘い香りが漂いだすと、家に籠もっていた村人たちも、なんの匂いかと集まり出した。

 みんなで食べるには少ないかと、りんごはカットして、その上に蜜とバターを散らして焼いていく。焼きあがった〝ほくほくシャリ〟になった焼きりんごをみんなに食べてもらう。収穫前の酸っぱくて捨てていた果実が、火を入れることで甘く、そして違う食感になり、そしておいしいことに驚いている。
 父さまと村長さんもやってきたので、焼きりんごを差し出した。

 おいしさに一瞬元気になった村人たちが、突然哀しみにくれる。唐突に泣き出す人もいて、驚いて体が硬直する。大人が哀しみを露わにして泣くなんてよっぽどのことだと知っているからだろうか。それともそんな人に何もできることはないと知っているからだろうか。固まっていると、もふさまがわたしの足に擦り寄ってきた。呪縛が解けたように動けるようになり、もふさまを抱き上げる。

「こんなにおいしい恵みがある土地なのになぁ。村長、土地は捨てるしかないんですか?」

 涙を隠しながら一人が聞いた。

「領主さまと話し合ってな、これからみんなに集まってもらおうと思っていた。今、ここにみんないるようだから、告げることにする。土地にレアワームがいた」

 きょとんとしているのは子供たちだけで、一瞬にして顔が青ざめた。

「これからすぐに熱湯を撒いていく。まだ死んでない土の周りを厳重に、熱湯で区切っていく。ダメになったところは最低で3年は何も育たない」

「嘆く前に食い止めるのが先だな」

 大人たちが動きだす。わたしたちは置いてけぼりだ。



 座り込むと、もふさまは地面に降りて、焼きりんごだけでは足らなかったのか調理前のりんごを食べだした。

「やっぱ、オレ、町に働きに行くのかな」

「そうだな、土地の半分は3年以上育たないみたいだからな」

「ずっと土仕事して生きていくなんて嫌だと思ったけど、こんなうまいもん作れたんだな、うちの土はさ」

 もふさまの間引きしたりんごをそのまま食べる、しゃりしゃりという音だけが響く。

「どんな仕事あるかなー」

「大きい村の奴らが文字読めないなら仕事ないって言ってた」

「お前、大きい村の奴と話したのか?」

「ほら、この間ビリーが来た時」

 ビリーはこの村にも来てるんだな。
 そっか、文字が読めないと……。

「果物、お礼、教える」

「お礼? 何教えてくれんだ?」

「文字」

「お前、文字読めるのか」

「覚えたばっかり」

 子供たちは顔を見合わせている。

「教えるっていったって、紙とかもないし、オレ頭悪いし」

「だいじょぶ。まず、歌覚える」

 わたしはアラ兄が表にしてくれた文字列を前世の有名曲の音楽に合わせてのせた。これも一種の替え歌なのかな?
 10文字の意味のない文字列は呪文のようだ。音と合わせるとより馴染みやすいかなと思って。

 わたしは声を張り上げる。

「りーかーぱーほせく、あーみんだ。はい!」

 みんなの顔に疑問符が浮かぶ。

「同じ、歌う。真似して」

「りーかーぱーほせく、あーみんだ。はい!」

「「「「「りーかーぱーほせく、あーみんだ。はい」」」」」」

「はいは、いらない。わたし掛け声。声、小さい。もう一回」

「りーかーぱーほせく、あーみんだ。はい!」

「「「「「りーかーぱーほせく、あーみんだ」」」」」」

「次行くよ。けーぺる、いーなー、まろうじめ。はい!」

「「「「「けーぺる、いーなー、まろうじめ」」」」」

「ぜぢよぶ、ざー、ばと、ぴーわーしー。はい!」

「ぜー? 何? 聞き取れなかった」

 ビダに突っ込まれる。〝ぢ〟は言いにくいんだよ。

「ぜぢよぶ! ぢ! ぢ、だよ、ぢ!」

「リー、淑女は〝ぢ〟って何度も言うものじゃないよ」

 アラ兄に注意を受けるが、そういう問題ではない。

「しゅくじょ、関係ない。ぢ、なるときはなる」

 反論すると村の子たちはゲラゲラ笑っている。
 ああ、それてしまったが気を取り直して進める。

「ぜぢよぶ、ざー、ばと、ぴーわーしー。はい!」

「「「「「ぜぢよぶ、ざー、ばと、ぴーわーしー」」」」」

「ぐでゆび、ぼーぬそ、へーえーづー。はい!」

「「「「「ぐでゆび、ぼーぬそ、へーえーづー」」」」」

「おたをひ、がーげむ、のーぽーねー。はい!」

「「「「「おたをひ、がーげむ、のーぽーねー」」」」」

「どぞふは、つーずこ、らーべーさー。はい!」

「「「「「どぞふは、つーずこ、らーべーさー」」」」」

 歌はここで終わりだけど、あと11文字のために最初の小節に戻る。

「ごーぷれ、やぎちに、てーきーもす、これで覚えた71音。はい!」

「「「「「ごーぷれ、やぎちに、てーきーもす、これで覚えた71音」」」」」

 字余り。

「つーずこ、らべさってなんだよ」

 フッタがウケている。

「意味ない」

 アラ兄が歌通りに文字を地面に書いてくれていた。

「ここが、つーずこ、らべさだよ」

 枝を拾ってきて、ゲラゲラ笑いながらつーずこらべさを真似して書いている。
 10歳のツボはよくわからないが楽しそうなので、よしとしよう。
 アラ兄は父さまに紙をもらって、この表を渡すねと言った。
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