プラス的 異世界の過ごし方

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2章 わたしに何ができるかな?

第38話 小さい村①怒ってくれた方がいい

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 父さまは自分がいないときに家族が危険な目にあったことがとても怖かったようだ。兄さまたちやわたしを見ると、すぐに確保する。抱きあげられる。最初は喜んでいた兄さまや双子たちも、すれ違うたびに抱きあげられて鬱陶しくなってきている。特にわたしはすぐに治したといっても怪我をした。それからどこに行くんでも心配なようで抱っこで運んでもらえる。嬉しいけど、足がなまるような気がする。

 わたしたちは父さまに村の様子がどうだったのかを聞いた。
 大きい村の方は、未だ現実を受け入れられない感じだという。
 被害が広がっている小さい村は、農地のほぼ半分が土壌を侵されているように見えたそうだ。それも土地ってのは繋がっているからこれからもそれは増えていくかもしれない。今年に入って2軒がもうこの土地はダメだと夜逃げしたらしい。父さまも村民たちが怒り心頭なのではと予想していたが、状況はもっと悪く、諦めというか絶望しているに近いみたいだ。怒る気力もないらしい。物資などは町の人たちが送っていて、それでなんとか暮らしていけてはいるようだ。とにかく生きる気力を失っているのが問題だという。唯一子供たちが、目の輝きを失っていないのだけが救いだと。
 父さまは、まだ生きている土地に、土魔法で空気を入れ、わたしが鞄に入れたマルネギとニンジを植えてきたそうだ。

 わたしは子供たちと遊びたいと言ってみた。子供だってできることがある。大人が元気がないのなら、子供が頑張らないと。
 話を聞いていた兄さまたちも、自分たちも行きたいと言った。

 もともとあの事件があってから、父さまは自分が留守にするときは町の宿にわたしたちを連れていくつもりだったみたいだ。村には宿がないからなーというので、テントを買おうと提案した。そうだね、母さまは町の宿屋にいてもらって、わたしたちは冒険者のようにテントで寝起きするんだ。不謹慎だけど、ちょっとワクワクする。それはわたしだけではなかったみたいで、兄さまたちも目が輝いている。

「村はよくない状態だ。お前たちが想像しているよりもな。でもそこで、気持ちが挫けない自信があるか? 大人でもそれは難しい。でもな、お前たちが挫けるのを見たら、そこに住む人たちはもっと苦しむんだ」

 あ、そうか。わたしたちは目を合わせる。

「わたし、それでも行きたい」

 衝撃は受けるだろう。でも乗り越えたい。だって、ウチの領地なんだもの。

「父さま、私も!」

「オレも」

「おれも」

 父さまは口の端を少し上げて、みんなの頭を撫でた。





 ウチから市場までが大人の足で1時間。町までなら40分ぐらい。
 市場から大きい村まで1時間ぐらいで、大きい村から小さい村までは40分ぐらいだそうだ。
 1時間大人が歩いて大体4キロだから、領地の幅?は12キロってとこか。
 前世のわたしが住んでいたところの6つの電車が乗り入れている大きめな駅までが歩いて1時間ぐらいって言われていた。わたしは電車が止まった時に一度頑張って歩いたらもっと時間はかかったし、足も痛くなったので、それ以降歩こうとは決して思わなかったけど。自転車でも30分以上かかるんだ。ちなみに最寄駅からその駅までは電車で8分だ。その3倍!
 そう思い出せば、結構、距離あるな。領地としては小さいのかどうかは知らないけれど。

 母さまは町の宿に泊まってって言ったんだけど、母さまも村に行くとのことだ。
 町でテントなど野営の道具を買って、そのまま村に行くことにした。家宝の袋が大活躍だ。
 ドヤ顔をしていたら、淑女がそんな顔をするのではありませんと嗜められた。この頃、普段から淑女ワードが出てきたから要注意だ。わたし平民で全然いいんだけどなー。でも反論しようものなら……。母さまは作法に思い入れがあるようなので、従うようにしている。反論したら長引くだけだ。
 ふうと息をつくと、もふさまと兄さまに笑われた。

 町ではテントを2つ、寝袋を人数分。それからカンテラやらを購入した。
 ビリーたちと会ったので、村に行くこと、村の人たちが元気がない話をすると、知っていたようだ。だから時々町の子供たちで村に行き、子供同士で遊んだりしていたそうだ。
 わたしたちも遊んだり、周りに森があると聞いたので、罠を仕掛けて獣を獲ったり、保存食作りをしたりするつもりだと話した。そう聞くと、明日は村に行こうかなという。わたしたちは最初小さい村に行き、何泊かして、大きい村でも何泊かすることになると思うと告げた。

 お昼寝タイムがやってきたようだ。人は眠ると重くなるというから頑張って目を開けているが、時間の問題な気がする。

「リディー、いいぞ、眠って」

 抱っこしてくれている父さまが言ってくれる。さっきからガク、ガクってなってるからね。

『リディア、マップだったかを見せてくれ』

「ん? ステータスオープン、マップモード」

 もふさまは父さまに抱っこされているわたしの上にぴょんと飛び乗ってきて、ボードを見る。

『端の小さい村に行くんだな?』

「父さま、端の小さい村、行く?」

 尋ねると、父さまは片手でわたしを抱えたまま、マップのこうもりの羽の左下の部分を指さす。

「ここが小さい村です」

 緑と白と黄色の小さな点は領地の真ん中よりちょっとだけ左寄りにある。
 羽の左下と羽の中央部分には青い丸が点在している。

『道すがらは人がいないようだな』

 スタッと地面に着地したもふさまは二、三歩歩いて、大きくなった。

「もふさま?」

『小さい村の近くまで運ぼう』

「みんな、乗って。近くまで運んでくれるって」

 双子が大喜びだ。
 もふさまに乗り込み、柔らかい毛に顔を埋める。

『では走るぞ』

 もふさまは空へと駆け出した。

「うわーーーー」

 感嘆の声が双子からあがる。もふさまがちょっと走ったら、あっという間に、小さい村の近くに着いた。わたしたちを降してからシュシュシュっと小さくなる。もふさまを抱き上げた。

「もふさま、ありがと」

 小さい村に入り、挨拶をする。15軒。少し前まで17軒だったけど、朝になったらいなくなっていたのが2軒。わたしたちが野営するというと、空いている家にでも泊まってくれと言われた。挨拶もそこそこにわたしはお昼寝をした。
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