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1章 ここがわたしの生きる場所
第30話 目標
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服を着替え終わると父さまに尋ねられる。
「リディー、ステータスを見てごらん。魔力はいくつだ?」
わたしはボードを開いて、3200だと答えた。
あれ? 手のひらの傷を治した時は3しか魔力が減らなかったのに。
「光魔法を使う時は、特に気をつけなさい。魔力枯れを起こさないようにするんだよ」
わたしは神妙に頷く。
「父さま、母さまを呪った人、誰?」
直球で尋ねると、父さまはびくりとする。
「もう、呪いは解除できた」
まるで自分に言い聞かせているように感じるのは、うがちすぎだろうか?
そう、呪いは母さまに呪いをかけた人に返ったはずだ。それなのに、胸がざわつく。何故か不安なのだ。
「……また呪ってきたら、どうする?」
「……呪術は成功しなかった。母さまがそれだけの力を持つ光の担い手だとわかったら、同じことはしてこない」
確かに。その方法は無駄だとわかっただろう。
でも、父さまもこれで〝終わった〟と思ってないようだ。
母さまを良くなく思う人が複数いるか、命令した人がいるか……。
命を懸けることだから、代わりにやる人がいるか?とも思うが、同時に身分の高い人なら自分の身を危険にはさらさないだろうとも思う。違法なものは恐らく料金がバカ高い。名ばかりのようだけど〝伯爵〟の父さまも知り得ない古代魔術の〝呪術〟への伝手があり、呪術料をポンと払える存在。だとしたら身分は高くお金持ちだろう。お金があるんだとしたら、呪術に頼らなくてもセキュリティー皆無のウチなんか簡単にどうにでもできるだろうに、そうはしなかった。もふさまがいなかったら、呪術だとわからずに病気だったんだとしか思わないから、若くして亡くなったと悲しみにくれただけだろう。〝呪った人〟は襲われたとか事故にあったとか騒ぎにはしたくなかったんだ。
「呪いじゃない、違う方法で? 敵、いっぱいいる? それとも……後ろに命令する人、いる?」
また母さまに害をなそうとするだろうか?
父さまは〝しまった〟という顔をしている。コホンと咳払いをした。
「相手は多分わかっている。北部から出るときいて仕掛けてきたのだろう。でも回避したし、こちらが気づいたこともわかっているから、しばらくは手を出せない」
なぜそう確信できるのかはわからないが、それ以上話してくれないだろう。だけど、すがるように聞いてしまう。
「母さま、だいじょぶ?」
「ああ、大丈夫だ」
父さまは決意をこめた笑顔で頷いた。
もふさまは戻っていないけれど、先にお昼ご飯をいただくことにした。
久しぶりに母さまの作ったご飯だ。シチューを食べた時に、これとパンでパングラタンにしてもおいしいと言ったのを覚えていて、作ってくれた。いつもの硬いパンがまた違った表情を見せていておいしい。
ご飯を食べ終え、久しぶりにみんなでお茶を飲む。ゆったりした時間が流れた。
父さまは明日から領地に行き、本格的に立て直しに取り組んでいくとわたしたちに宣言した。そしてわたしたちにも期間を決めた目標を立てるように言った。
夕方にビリーたちがきて、教えてくれた。
例のメイドさんは朝早くに迎えがきて、モロールに帰ったそうだ。真っ青な顔をしていたという。呪いが返ったのだろう。
わたしたちはうまくいって母さまはもう大丈夫なんだと伝えると〝よかったな〟と、とても喜んでくれた。
わたしたちにはしばらくの間知らされることはなかったが、父さまはこの件を調べていて、実際母さまを呪ったのは、町に来ていたメイドさんの上司にあたるメイド頭さんだったことがわかったようだ。あの朝、メイド頭さんはベッドの中で亡くなった。寝る前まで元気だったので、事件性がないか調べられたようだ。使用人のことで騒ぎにまで発展することは珍しいそうだ。いくつかのことが重なって邸の中のこととはおさめられず〝領主の使用人が頓死した〟と領中に広まったらしい。引っ越すときに挨拶に来てくれていた人たちの名簿の中に、そのメイド頭さんの名前が残っていた。北部の町の住民ってことになっていたが、それは嘘だった。
メイド頭さんはおそらく仕えている領主メイダー伯爵の奥方に頼まれたのだとの推測だ。メイド頭さんも、メイダー伯爵家も名前を聞いたことがあるぐらいでウチとは関わりはないが、メイダー伯爵の奥方が現王妃さまの侍女をしていたことがあり、黒幕は王妃さまと確信していたようだ。
よくわからないが母さまの家系は王族に執着されるDNAを持っているようで、若い頃に(今だって若いが)何やらあったらしい。そして北部から多少王都に近い領地へと出てきたので、出てくるならと王妃さまが何やら企んだと。子供に聞かせるような話ではないから口を閉ざしていて、おかげで知らずに平和に過ごさせてもらったが。知った時の衝撃ったらなかった。
もふさまは一度、自分の家に帰り、また来てくれた。ってことは、また一緒にいてくれるってことだ!
わたしたちはもふさまにもう一度お礼を言って、もふもふボディを抱きしめ撫でまくった。
もふさまと母さまとお風呂に入る。聖水以外の水浴びなんてと渋っていたが、お湯に浸かると気持ちよかったみたいで、お風呂の虜になった。石鹸や、もふさま専用のブラシが欲しいな。
夜は兄さまたちと目標について話した。
兄さまは考え中。
アラ兄は土魔法で、領地の汚染された土壌をなんとかしたいと、領地を豊かにする手伝いをすることを決めていた。
ロビ兄は計算ができるようになると目標を掲げた。
わたしはやりたいことがいっぱいある。
まずは、文字の制覇。
次にひと冬困らない保存食づくり。魔法を極める。ギフトも使えるようにする。
それから鞄作り。アラ兄と一緒で領地の土壌を調べたいし、豊かになるようにしたい。
みんなで願いが叶った未来を想像してあれこれ話して、そのうちに眠ってしまった。
憂ごとのない朝がやってきた。着替えて挨拶をして、顔を洗い、畑の世話をする。収穫はこのところ毎日できていて、いいことなのにアラ兄が変だと言っていた。
朝ごはんを食べ、洗濯や掃除の手伝いをする。そして……礼儀作法の時間が設けられた。
もうすぐ5歳なのだからと始まってしまった。先生は母さまだ。母さまは決して怒りはしないが、にっこり笑って、もう一度と繰り返させる。できるまで決して許してくれない。歩き方、座り方、立ち上がり方。お辞儀。どうしたら優雅に見えるのか、徹底的に。
「今日は、このくらいにしておきましょう。今日できたことが、明日できなかったら、それは怠慢よ? わかるわね?」
とにっこり微笑む。母さま、最強だ。
終わった時はヘロヘロだった。
でもやっと持てる自分の時間。
わたしはギフトを解明したい!
生活魔法の5属性なら、そんなに魔力が取られないことがわかっている。広い範囲とか事象の大きさで使う魔力も増えるみたい。そして6つ目がなんなのかはわからないが、多分それがドカンと魔力を食うという認識が父さまと同じだったので、魔法の訓練は卒業だ。〝移動〟させるのは魔力を食うことがわかっているので、もし使ってしまったらそれは1日1回までと言われている。あとはステータスをこまめにみて、魔力枯れを起こさないようにすると約束した。
もふさまと庭に出る。
せっかくなので、あちらの2倍はあるニンジをひとつ掘り起こす。
この葉っぱがおいしくてわたしは好きなんだ。ちょっと油多めで炒めてスタンダードに塩と胡椒でいただきたい!
まず、10個に増やすと願ってみる。
何も起こらない。魔力が足らないのかと思って、ひとつ増やすにしてみた。
ダメだ。うーーーん、個数じゃないのかな?
『ニンジを前に、リディアは何をしているのだ?』
確かにニンジを目の前に置いて座り込んで、睨みつけているように見えただろう。
「ギフト、使えないかと、思って」
『ギフトなら、もう使っているではないか』
「いや、増えてないよ」
『増えてない?』
ギフトは人にいうものじゃないっていうけど、もふさまだし。もふさまはわたしのギフトがわかってるみたいだから相談してもいいよね?
「ギフト〝十〟。10個に増やすこと以外、思いつかない。でも、増やそうとしても、増えない」
もふさまが一見紺色に見える深緑の瞳を瞬かせる。
『どのようにギフトがくだったのだ?』
「文字が浮かんだ。前世の文字。数字の10を表すもの」
『見間違いではないのか?』
「簡単な文字。間違えない」
『他に意味はないのか?』
他に意味?
「たくさんって意味、あったかも」
もふさまが首を傾げる。
『本当に文字だったのか?』
「リディー、ステータスを見てごらん。魔力はいくつだ?」
わたしはボードを開いて、3200だと答えた。
あれ? 手のひらの傷を治した時は3しか魔力が減らなかったのに。
「光魔法を使う時は、特に気をつけなさい。魔力枯れを起こさないようにするんだよ」
わたしは神妙に頷く。
「父さま、母さまを呪った人、誰?」
直球で尋ねると、父さまはびくりとする。
「もう、呪いは解除できた」
まるで自分に言い聞かせているように感じるのは、うがちすぎだろうか?
そう、呪いは母さまに呪いをかけた人に返ったはずだ。それなのに、胸がざわつく。何故か不安なのだ。
「……また呪ってきたら、どうする?」
「……呪術は成功しなかった。母さまがそれだけの力を持つ光の担い手だとわかったら、同じことはしてこない」
確かに。その方法は無駄だとわかっただろう。
でも、父さまもこれで〝終わった〟と思ってないようだ。
母さまを良くなく思う人が複数いるか、命令した人がいるか……。
命を懸けることだから、代わりにやる人がいるか?とも思うが、同時に身分の高い人なら自分の身を危険にはさらさないだろうとも思う。違法なものは恐らく料金がバカ高い。名ばかりのようだけど〝伯爵〟の父さまも知り得ない古代魔術の〝呪術〟への伝手があり、呪術料をポンと払える存在。だとしたら身分は高くお金持ちだろう。お金があるんだとしたら、呪術に頼らなくてもセキュリティー皆無のウチなんか簡単にどうにでもできるだろうに、そうはしなかった。もふさまがいなかったら、呪術だとわからずに病気だったんだとしか思わないから、若くして亡くなったと悲しみにくれただけだろう。〝呪った人〟は襲われたとか事故にあったとか騒ぎにはしたくなかったんだ。
「呪いじゃない、違う方法で? 敵、いっぱいいる? それとも……後ろに命令する人、いる?」
また母さまに害をなそうとするだろうか?
父さまは〝しまった〟という顔をしている。コホンと咳払いをした。
「相手は多分わかっている。北部から出るときいて仕掛けてきたのだろう。でも回避したし、こちらが気づいたこともわかっているから、しばらくは手を出せない」
なぜそう確信できるのかはわからないが、それ以上話してくれないだろう。だけど、すがるように聞いてしまう。
「母さま、だいじょぶ?」
「ああ、大丈夫だ」
父さまは決意をこめた笑顔で頷いた。
もふさまは戻っていないけれど、先にお昼ご飯をいただくことにした。
久しぶりに母さまの作ったご飯だ。シチューを食べた時に、これとパンでパングラタンにしてもおいしいと言ったのを覚えていて、作ってくれた。いつもの硬いパンがまた違った表情を見せていておいしい。
ご飯を食べ終え、久しぶりにみんなでお茶を飲む。ゆったりした時間が流れた。
父さまは明日から領地に行き、本格的に立て直しに取り組んでいくとわたしたちに宣言した。そしてわたしたちにも期間を決めた目標を立てるように言った。
夕方にビリーたちがきて、教えてくれた。
例のメイドさんは朝早くに迎えがきて、モロールに帰ったそうだ。真っ青な顔をしていたという。呪いが返ったのだろう。
わたしたちはうまくいって母さまはもう大丈夫なんだと伝えると〝よかったな〟と、とても喜んでくれた。
わたしたちにはしばらくの間知らされることはなかったが、父さまはこの件を調べていて、実際母さまを呪ったのは、町に来ていたメイドさんの上司にあたるメイド頭さんだったことがわかったようだ。あの朝、メイド頭さんはベッドの中で亡くなった。寝る前まで元気だったので、事件性がないか調べられたようだ。使用人のことで騒ぎにまで発展することは珍しいそうだ。いくつかのことが重なって邸の中のこととはおさめられず〝領主の使用人が頓死した〟と領中に広まったらしい。引っ越すときに挨拶に来てくれていた人たちの名簿の中に、そのメイド頭さんの名前が残っていた。北部の町の住民ってことになっていたが、それは嘘だった。
メイド頭さんはおそらく仕えている領主メイダー伯爵の奥方に頼まれたのだとの推測だ。メイド頭さんも、メイダー伯爵家も名前を聞いたことがあるぐらいでウチとは関わりはないが、メイダー伯爵の奥方が現王妃さまの侍女をしていたことがあり、黒幕は王妃さまと確信していたようだ。
よくわからないが母さまの家系は王族に執着されるDNAを持っているようで、若い頃に(今だって若いが)何やらあったらしい。そして北部から多少王都に近い領地へと出てきたので、出てくるならと王妃さまが何やら企んだと。子供に聞かせるような話ではないから口を閉ざしていて、おかげで知らずに平和に過ごさせてもらったが。知った時の衝撃ったらなかった。
もふさまは一度、自分の家に帰り、また来てくれた。ってことは、また一緒にいてくれるってことだ!
わたしたちはもふさまにもう一度お礼を言って、もふもふボディを抱きしめ撫でまくった。
もふさまと母さまとお風呂に入る。聖水以外の水浴びなんてと渋っていたが、お湯に浸かると気持ちよかったみたいで、お風呂の虜になった。石鹸や、もふさま専用のブラシが欲しいな。
夜は兄さまたちと目標について話した。
兄さまは考え中。
アラ兄は土魔法で、領地の汚染された土壌をなんとかしたいと、領地を豊かにする手伝いをすることを決めていた。
ロビ兄は計算ができるようになると目標を掲げた。
わたしはやりたいことがいっぱいある。
まずは、文字の制覇。
次にひと冬困らない保存食づくり。魔法を極める。ギフトも使えるようにする。
それから鞄作り。アラ兄と一緒で領地の土壌を調べたいし、豊かになるようにしたい。
みんなで願いが叶った未来を想像してあれこれ話して、そのうちに眠ってしまった。
憂ごとのない朝がやってきた。着替えて挨拶をして、顔を洗い、畑の世話をする。収穫はこのところ毎日できていて、いいことなのにアラ兄が変だと言っていた。
朝ごはんを食べ、洗濯や掃除の手伝いをする。そして……礼儀作法の時間が設けられた。
もうすぐ5歳なのだからと始まってしまった。先生は母さまだ。母さまは決して怒りはしないが、にっこり笑って、もう一度と繰り返させる。できるまで決して許してくれない。歩き方、座り方、立ち上がり方。お辞儀。どうしたら優雅に見えるのか、徹底的に。
「今日は、このくらいにしておきましょう。今日できたことが、明日できなかったら、それは怠慢よ? わかるわね?」
とにっこり微笑む。母さま、最強だ。
終わった時はヘロヘロだった。
でもやっと持てる自分の時間。
わたしはギフトを解明したい!
生活魔法の5属性なら、そんなに魔力が取られないことがわかっている。広い範囲とか事象の大きさで使う魔力も増えるみたい。そして6つ目がなんなのかはわからないが、多分それがドカンと魔力を食うという認識が父さまと同じだったので、魔法の訓練は卒業だ。〝移動〟させるのは魔力を食うことがわかっているので、もし使ってしまったらそれは1日1回までと言われている。あとはステータスをこまめにみて、魔力枯れを起こさないようにすると約束した。
もふさまと庭に出る。
せっかくなので、あちらの2倍はあるニンジをひとつ掘り起こす。
この葉っぱがおいしくてわたしは好きなんだ。ちょっと油多めで炒めてスタンダードに塩と胡椒でいただきたい!
まず、10個に増やすと願ってみる。
何も起こらない。魔力が足らないのかと思って、ひとつ増やすにしてみた。
ダメだ。うーーーん、個数じゃないのかな?
『ニンジを前に、リディアは何をしているのだ?』
確かにニンジを目の前に置いて座り込んで、睨みつけているように見えただろう。
「ギフト、使えないかと、思って」
『ギフトなら、もう使っているではないか』
「いや、増えてないよ」
『増えてない?』
ギフトは人にいうものじゃないっていうけど、もふさまだし。もふさまはわたしのギフトがわかってるみたいだから相談してもいいよね?
「ギフト〝十〟。10個に増やすこと以外、思いつかない。でも、増やそうとしても、増えない」
もふさまが一見紺色に見える深緑の瞳を瞬かせる。
『どのようにギフトがくだったのだ?』
「文字が浮かんだ。前世の文字。数字の10を表すもの」
『見間違いではないのか?』
「簡単な文字。間違えない」
『他に意味はないのか?』
他に意味?
「たくさんって意味、あったかも」
もふさまが首を傾げる。
『本当に文字だったのか?』
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