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1章 ここがわたしの生きる場所
第27話 魔法のない生活
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願いごとばかりだなと思いながらも、思わずにいられない。
どうか、母さまをもう少しの間、呪いからお守りください。
目が覚めたがベッドには誰もいなかった。後ろ向きにベッドからおりて、隣の部屋に向かう。誰もいないのでキッチンに向かうと、父さまと兄さまたちが総出で火を起こすのに奮闘していた。
自分で撒いた種ではあるが、地味にダメージを受けている。短い期間内に、すでに家族の魔法に頼りきっていたみたいだ。魔法を一切使わずの生活は、大変の一語に要約できる。火をつけるのが困難だった。火付け石で綿埃みたいなヒワタに火を飛ばしてつける方法と、板と枝を擦った摩擦熱でヒワタを燃やす方法があり、どちらも兄さまたちでさえ時間がかかった。わたしは石では火花は飛ばないし、摩擦は煙が立たなかった。それなのに手の皮だけはむけるのだ。
邪魔になるので、部屋に戻る。洋服を見繕って着替える。わたしも兄さまたちと同じシャツとズボンだけでいいんじゃないかな。誰かに会うわけじゃないんだから。
それから、こっそり父さまたちの部屋に入って母さまの様子を確かめる。横にある椅子によじ登り見れば、顔色が悪い。眠っているからなのか呼吸をしているかわからないくらい静かで、不安になる。少しだけ上掛けが動いて、やっと安心した。ここにいたら起こしてしまうので部屋を出る。
顔を洗いたいところだけど、井戸の水を汲んでもらうのは気が引けるので、部屋に戻った。
知っていたけれど、役立たずなわたしは、足を引っ張るだけな存在だ。
だめだ、気持ちが暗くなるだけ。他のことを考えよう。
そういえば、町の子供たちにずいぶんお世話になった。お礼をしたいな。
ベッドに腰掛けて足をぶらぶらさせていると兄さまたちがやってきた。火は無事つけることができて、スープが出来上がったので起こしに来てくれたそうだ。
もふさまもやってきたので、挨拶で顔をふわふわの毛に埋める。鼻の先があたる地肌というか皮膚からもふさま本体の温かさを感じられて妙に安心する。
「ひとりで起きて着替えたんだね、えらいぞ」
とアラ兄は褒めてくれたが、ワンピースのお腹に結んだヒモが縦結びになっていたようで直された。
井戸で水を汲んでもらいながら、子供たちにお礼をしたい話をする。
「ああ、それなら鞄がいいんじゃないかな?」
「鞄?」
「うん、みんなリーがかけているのを見ていいなーって言ってた」
おお、いいなーと思っていてくれたんだ!
町でもあまり鞄の概念はないみたいだった。お腹に結んだ紐に布袋を引っ掛けているスタイルだった。見ていてよく落とさないなーと思っていた。
バッグか。自分たちのバッグなら余り布でいいけど、贈り物だとそういうわけにもいかない。バッグで一儲けできたら、みんなの分の布買ってできるかな。
「あのね、いろんな鞄作って、他の領地のお金持ち、売る、いいと思った」
「鞄をか?」
「おしゃれ、可愛い、いろんなのできる、思う。でも材料のお金ない。売れるかどうか、ひとつ作って売ってみよう、思う」
もしそれで儲けが出たら、みんなの分のバックの布を買える。そう話すと、兄さまたちが目を合わせている。
「どした?」
「これ」
ベッドの下から、布に包んだひと抱え以上の重たそうな何かをアラ兄が引っ張り出す。
「なあに?」
「ギルドに魔物を持っていっただろ。魔物の核の魔石17個と、その討伐料と皮とか素材として売れた。お肉を全部持ち帰っても腐らすから、もふさまに話して3分の2は引き取ってもらった、その料金」
包みを開けると、いろんな色に輝く透明度の高い宝石みたいな石と、獅子の絵だから……1万ギル硬貨が溢れてきた。
「い、いくら?」
「178万3400ギル」
「はっ?」
思わず素で聞き返してしまった。
討伐料と、素材と肉3分の2で? 魔石は入れないで……。そんな高額になるの? 単純計算で1匹10万ぐらいの何かしらの値になったってことだ。しつこいけど魔石なしで。
「大金貨はなくて、10万金貨が5枚しかないとかで、1万ギルばかりになっちゃったんだけど。もふさまに渡しても、足元に置いてくるんだ。だからリーが起きてから、話聞いてもらおうと」
「もふさま!?」
『宿代だ』
え?
「いや、いてもらってるのこっちだし。お肉も、いっぱいもらってる」
そう、だから、いつも食卓が潤っている。
『人の〝金〟は我に必要ない。ここで初めて、今までうまいと思っていたものよりうまい食べ方を知った。我はこれからもうまいものを食べたい』
「それは全然もちろん。一緒、ご飯食べよ。……本当にいいの?」
もふさまは頷いた。
す、すごい。これでバッグ作れる。
あ、いや、父さまたちに報告しなくちゃ。
朝ごはんの後、わたしたちは父さまの仕事部屋に雪崩れ込んだ。
「どうした?」
「あのね、父さま」
わたしたちはもふさまが燻製にしてくれと魔物を獲ってきたことから話し始めた。話おえると父さまは頭を抱えた。
「主人さま、本当によろしいのですか?」
父さまが尋ねると、もふさまは一回吠えた。
父さまが胸に手をやって綺麗なお辞儀をする。
「感謝いたします。では、ありがたくちょうだいしなさい。けれど、使い方は父さまに報告すること」
「え? 私たちが使っていいのですか?」
兄さまが驚いて尋ねる。
「お前たちがお金のいい使い方ができるよう見ているよ」
「リーが町のお世話になった子たちに鞄を作りたいって」
アラ兄が告げれば、父さまは頷いた。
「それはいい考えだね。布は町で買うんだよ。お金を使えば、お金が回るからね」
そうか、お金を使うと経済が回るんだよね。なるほど。
開いていた窓から風が吹き込み、机の上にあった書類が舞った。
わたしたちはそれぞれに拾う。
分布図だ。
この広い部分、「のう」……。
「ロビ兄、この最後の文字何?」
「ん? ち、だよ」
隣にいたロビ兄に聞いてみると答えてくれた。これは早急に文字ぐらいは読めるようにならないとだね。
農地か。この領地は農業が盛んだったんだ。それでいて、土がダメになって汚染が広がったならたまったもんじゃないね。
「父さま、土魔法、どんなこと、できる?」
「魔力の量やレベルによるみたいだが、基本、土を自由に扱えるってことだな」
「魔法、掛け合わせできる?」
「掛け合わせ?」
「土魔法に光魔法で土治療」
「ん? よくわからないが、聞いたことはないな。属性が2つ以上はそうないものだし、魔力量でできることも限られるからな。リディーはどちらも群を抜いている。それを価値があると思う人がいるだろう」
父さまが屈んで、わたしの目を覗きこむ。
「それを知ったらリディーの力をいいように使って儲けようと思う人が出てくるかもしれない。そういう人に目をつけられたら、どんなことをされるかわからない。自分のやりたいことがみつかった時に、その能力を遺憾無く発揮できるよう、自由に選べるようにするには、目をつけられないように気を配る必要がある。能力があるのに、そんなリディアにこうは言いたくないが、人に能力のことは明かさないようにしなさい」
とても言いにくかったみたいだ。目尻が心配げに下がっている。
わたしは頷いた。そうだね、やりたいことが見つかった時に、自由に選べるように。人に目をつけられないように生きないと!
部屋に戻って、魔道具のことをいろいろ聞いてみた。それから流れてギフトの話がでた。
兄さまたちはその話をしたくてたまらなかったみたい。
「リーのギフトってテイマーみたいなこと?」
「動物たちと話せるんだろ?」
「全部は言わなくていいからね、どういうのかということだけ」
わたしが黙り込むと、兄さまたちがハッとする。
「もしかして、なかったの?」
「うーうん、あったんだけど……」
「けど?」
「ピンとこない」
「え?」
〝十〟って何? 10個に増やせる能力なのかな? これが一番納得できてわかる〝気づき〟なの? 本当に1ミリもピンとこないんだけど。
それからわたしは夜ご飯の支度をするまで、文字を教わって過ごした。
数字は覚えた。
文字がさ、教える体系がなってないんだよね。平仮名なら50音、アルファベットなら26文字みたいな指針がない。簡単な単語で文字を覚えていくスタンスだ。ある単語が抜かされていたりすると、習ってない綴りが出てくるわけで。もうちょっとどうにかしてほしい。
そういえば、ステータスはギフトのときと同じで日本語だ。だから難なく読めた。みんなはこちらの世界の文字で見えているんだろう。
どうか、母さまをもう少しの間、呪いからお守りください。
目が覚めたがベッドには誰もいなかった。後ろ向きにベッドからおりて、隣の部屋に向かう。誰もいないのでキッチンに向かうと、父さまと兄さまたちが総出で火を起こすのに奮闘していた。
自分で撒いた種ではあるが、地味にダメージを受けている。短い期間内に、すでに家族の魔法に頼りきっていたみたいだ。魔法を一切使わずの生活は、大変の一語に要約できる。火をつけるのが困難だった。火付け石で綿埃みたいなヒワタに火を飛ばしてつける方法と、板と枝を擦った摩擦熱でヒワタを燃やす方法があり、どちらも兄さまたちでさえ時間がかかった。わたしは石では火花は飛ばないし、摩擦は煙が立たなかった。それなのに手の皮だけはむけるのだ。
邪魔になるので、部屋に戻る。洋服を見繕って着替える。わたしも兄さまたちと同じシャツとズボンだけでいいんじゃないかな。誰かに会うわけじゃないんだから。
それから、こっそり父さまたちの部屋に入って母さまの様子を確かめる。横にある椅子によじ登り見れば、顔色が悪い。眠っているからなのか呼吸をしているかわからないくらい静かで、不安になる。少しだけ上掛けが動いて、やっと安心した。ここにいたら起こしてしまうので部屋を出る。
顔を洗いたいところだけど、井戸の水を汲んでもらうのは気が引けるので、部屋に戻った。
知っていたけれど、役立たずなわたしは、足を引っ張るだけな存在だ。
だめだ、気持ちが暗くなるだけ。他のことを考えよう。
そういえば、町の子供たちにずいぶんお世話になった。お礼をしたいな。
ベッドに腰掛けて足をぶらぶらさせていると兄さまたちがやってきた。火は無事つけることができて、スープが出来上がったので起こしに来てくれたそうだ。
もふさまもやってきたので、挨拶で顔をふわふわの毛に埋める。鼻の先があたる地肌というか皮膚からもふさま本体の温かさを感じられて妙に安心する。
「ひとりで起きて着替えたんだね、えらいぞ」
とアラ兄は褒めてくれたが、ワンピースのお腹に結んだヒモが縦結びになっていたようで直された。
井戸で水を汲んでもらいながら、子供たちにお礼をしたい話をする。
「ああ、それなら鞄がいいんじゃないかな?」
「鞄?」
「うん、みんなリーがかけているのを見ていいなーって言ってた」
おお、いいなーと思っていてくれたんだ!
町でもあまり鞄の概念はないみたいだった。お腹に結んだ紐に布袋を引っ掛けているスタイルだった。見ていてよく落とさないなーと思っていた。
バッグか。自分たちのバッグなら余り布でいいけど、贈り物だとそういうわけにもいかない。バッグで一儲けできたら、みんなの分の布買ってできるかな。
「あのね、いろんな鞄作って、他の領地のお金持ち、売る、いいと思った」
「鞄をか?」
「おしゃれ、可愛い、いろんなのできる、思う。でも材料のお金ない。売れるかどうか、ひとつ作って売ってみよう、思う」
もしそれで儲けが出たら、みんなの分のバックの布を買える。そう話すと、兄さまたちが目を合わせている。
「どした?」
「これ」
ベッドの下から、布に包んだひと抱え以上の重たそうな何かをアラ兄が引っ張り出す。
「なあに?」
「ギルドに魔物を持っていっただろ。魔物の核の魔石17個と、その討伐料と皮とか素材として売れた。お肉を全部持ち帰っても腐らすから、もふさまに話して3分の2は引き取ってもらった、その料金」
包みを開けると、いろんな色に輝く透明度の高い宝石みたいな石と、獅子の絵だから……1万ギル硬貨が溢れてきた。
「い、いくら?」
「178万3400ギル」
「はっ?」
思わず素で聞き返してしまった。
討伐料と、素材と肉3分の2で? 魔石は入れないで……。そんな高額になるの? 単純計算で1匹10万ぐらいの何かしらの値になったってことだ。しつこいけど魔石なしで。
「大金貨はなくて、10万金貨が5枚しかないとかで、1万ギルばかりになっちゃったんだけど。もふさまに渡しても、足元に置いてくるんだ。だからリーが起きてから、話聞いてもらおうと」
「もふさま!?」
『宿代だ』
え?
「いや、いてもらってるのこっちだし。お肉も、いっぱいもらってる」
そう、だから、いつも食卓が潤っている。
『人の〝金〟は我に必要ない。ここで初めて、今までうまいと思っていたものよりうまい食べ方を知った。我はこれからもうまいものを食べたい』
「それは全然もちろん。一緒、ご飯食べよ。……本当にいいの?」
もふさまは頷いた。
す、すごい。これでバッグ作れる。
あ、いや、父さまたちに報告しなくちゃ。
朝ごはんの後、わたしたちは父さまの仕事部屋に雪崩れ込んだ。
「どうした?」
「あのね、父さま」
わたしたちはもふさまが燻製にしてくれと魔物を獲ってきたことから話し始めた。話おえると父さまは頭を抱えた。
「主人さま、本当によろしいのですか?」
父さまが尋ねると、もふさまは一回吠えた。
父さまが胸に手をやって綺麗なお辞儀をする。
「感謝いたします。では、ありがたくちょうだいしなさい。けれど、使い方は父さまに報告すること」
「え? 私たちが使っていいのですか?」
兄さまが驚いて尋ねる。
「お前たちがお金のいい使い方ができるよう見ているよ」
「リーが町のお世話になった子たちに鞄を作りたいって」
アラ兄が告げれば、父さまは頷いた。
「それはいい考えだね。布は町で買うんだよ。お金を使えば、お金が回るからね」
そうか、お金を使うと経済が回るんだよね。なるほど。
開いていた窓から風が吹き込み、机の上にあった書類が舞った。
わたしたちはそれぞれに拾う。
分布図だ。
この広い部分、「のう」……。
「ロビ兄、この最後の文字何?」
「ん? ち、だよ」
隣にいたロビ兄に聞いてみると答えてくれた。これは早急に文字ぐらいは読めるようにならないとだね。
農地か。この領地は農業が盛んだったんだ。それでいて、土がダメになって汚染が広がったならたまったもんじゃないね。
「父さま、土魔法、どんなこと、できる?」
「魔力の量やレベルによるみたいだが、基本、土を自由に扱えるってことだな」
「魔法、掛け合わせできる?」
「掛け合わせ?」
「土魔法に光魔法で土治療」
「ん? よくわからないが、聞いたことはないな。属性が2つ以上はそうないものだし、魔力量でできることも限られるからな。リディーはどちらも群を抜いている。それを価値があると思う人がいるだろう」
父さまが屈んで、わたしの目を覗きこむ。
「それを知ったらリディーの力をいいように使って儲けようと思う人が出てくるかもしれない。そういう人に目をつけられたら、どんなことをされるかわからない。自分のやりたいことがみつかった時に、その能力を遺憾無く発揮できるよう、自由に選べるようにするには、目をつけられないように気を配る必要がある。能力があるのに、そんなリディアにこうは言いたくないが、人に能力のことは明かさないようにしなさい」
とても言いにくかったみたいだ。目尻が心配げに下がっている。
わたしは頷いた。そうだね、やりたいことが見つかった時に、自由に選べるように。人に目をつけられないように生きないと!
部屋に戻って、魔道具のことをいろいろ聞いてみた。それから流れてギフトの話がでた。
兄さまたちはその話をしたくてたまらなかったみたい。
「リーのギフトってテイマーみたいなこと?」
「動物たちと話せるんだろ?」
「全部は言わなくていいからね、どういうのかということだけ」
わたしが黙り込むと、兄さまたちがハッとする。
「もしかして、なかったの?」
「うーうん、あったんだけど……」
「けど?」
「ピンとこない」
「え?」
〝十〟って何? 10個に増やせる能力なのかな? これが一番納得できてわかる〝気づき〟なの? 本当に1ミリもピンとこないんだけど。
それからわたしは夜ご飯の支度をするまで、文字を教わって過ごした。
数字は覚えた。
文字がさ、教える体系がなってないんだよね。平仮名なら50音、アルファベットなら26文字みたいな指針がない。簡単な単語で文字を覚えていくスタンスだ。ある単語が抜かされていたりすると、習ってない綴りが出てくるわけで。もうちょっとどうにかしてほしい。
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