プラス的 異世界の過ごし方

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1章 ここがわたしの生きる場所

第22話 宿屋に入る方法

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「リディアはともかく、犬が宿屋に入ったらまずいだろう」

「リーはなんで宿屋に入りたいの?」

 アラ兄に尋ねられる。

「多分、道具持ってきてると思う」

 壊れたら成就ってわかるわけだしね。かといって呪いのものだから肌身離さずというのも嫌なものじゃないかなと思う。そしたら宿に置いておくんじゃないかな?
 野菜もたんまり買ったそうだから、身軽なはずだ。道具が小さいものかもしれないし、いつも持ち歩いていたらアウトなんだけど。

「リディアは見たらそれが〝道具〟ってわかるのか?」

 ものすごく基本的な質問をされる。

「……もふさま、わかる。多分」

 ああ、そうだった。嫌になるくらい、いつも他力本願だ。
 もふさまにはっきりと聞いてないが、魔の属性もわかり母さまが呪いにかかっているのも見抜いた。そんな、もふさまならわかると思うんだ。

「お前、いくら鼻が効くからって、犬が見分けられるわけ」

 ビリーのツッコミが途切れる。
 急に日が翳ったと思ったら、もふさまが空から駆け下りてきた。今までにないスピードだったから、急に現れたように感じた。

「おかえり」
「お帰りなさい」

 わたしと兄さまたちが声をかける。もふさまは首を背中の方にまわして、何かを咥えると、わたしたちの前にそれらを積みあげていく。

「もふさま、これ……」

『肉だ! これを燻製にしてくれ』

 尻尾を左右にボフンボフンと揺らして土埃をあげている。
 まさか、でかけてくるって燻製肉が食べたくて獲ってきたとか?
 っていうか、これ、こんな大きいうえに大量なのをどうしろと!?

「スッゲー、これもしかして魔物?」

 ロビ兄が無邪気にはしゃいだ声をあげる。

『ああ、そうだ。だから魔石も取れるし皮も売れるだろう。良いお土産だろう?』

 もふさまの鼻が上にあがっている。誇らしそうだ。
 ふと横を見ると、ビリーとカールがへたり込んでいた。

「な、なんだよこれ」

 あ。そっか、初めて見たら驚くよね。

「森の主人さま、もふさまだよ」

「え? 説明それだけ?」

 カールがぼそっと何か呟いた。
 もふさまはシュシュシュと小さくなった。

「お前は、高位の魔物と話せるのか?」

 あ、それはわたしも知りたかった。なので尋ねる。

「もふさま、魔物?」

『我は聖獣、スノーウルフだ』

 へー、もふさまは聖獣なのか。

「もふさま、スノーウルフ、聖獣だって」

 ビリーが尋ねてきたくせに、聞いたとたん額を押さえている。

「すげー、この森守ってるのは聖獣なんだ? スノーウルフだって、かっこいい!」

 カールが感嘆の声をあげると、もふさまは胸をそらした。ちっちゃいとそんな仕草も可愛いだけなんだけど。
 それよりこの魔物、どうしよう。いや、それよりも。

「もふさま、媒体、見たらどれが道具かわかる?」

『普通のスノーウルフならわからないが、我はわかるぞ。我は魔を磨いたからな』

 ますます胸を張っている。
 わたしは近づいて抱き上げ、もふもふの背中に顔を埋めた。

「もふさま、凄い!」

 そして気持ちいい!
 わたしはもふさまを撫でながらみんなに告げる。

「もふさま、道具見ればわかる、だいじょぶ。あとは宿の部屋入るだけ。もふさまと」

 でも確かに宿は動物厳禁にするだろう。動物がダメなお客さんがいるかもしれないもんね。ということは……こっそり入るしかない。

「かくれんぼで、部屋入ったは?」

「かくれんぼ?」

 みんなの声が重なる。かくれんぼしないのか、こっちは。

「遊び。ひとりがオニになって、範囲内に隠れたみんなを探し出す。最初にみつかった人、次のオニ」

「なんだよそれ、すげー面白そう!」

「オレやってみたい」

 カールとアラ兄が釣れた。いや、釣りたいわけではなく。

「待て。それは楽しそうと思うけど、今は宿屋に入る方法だろ? 遊びで部屋に入ったとなったら、カトレアが後で怒られる」

 そっか、そうだよな。
 遊びじゃダメってことは。

「掃除の手伝いで入る、は?」

「領主の子供を手伝いには入らせないだろ?」

 ビリーのいうことはいちいちもっともだ。

「たださ、宿屋の飯って、居酒屋のトネルの親父さんが作ってるんだ」

 そうビリーがいって沈黙が訪れる。
 ん?

「……もふさま、この魔物、1匹もらうことはできますか?」

 兄さまがもふさまに尋ねる。

『1匹でも2匹でもいいぞ。あとのを燻製にしてくれればな』

「いいって。どうするの?」

「ありがとうございます、もふさま。その1匹をトネルさんの居酒屋に皆さんで食べてくださいって渡すんだよ」

「渡してどうすんだ?」

 ロビ兄が首を傾げる。わたしも一緒に傾げる。

「宿屋にも振る舞ってもらうんだ。だよね?」

「トネルの親父さんならそうすると思う。できればみんな居酒屋に行ってくれるといいよな。宿の人も。大宴会してもらって」

「その間に、部屋、入る!」

 兄さまとビリーが頷く。でもそれだと夕方から夜にかけて町にいることになる。
 夜は起きていられる自信がないし、まだ4歳のわたしが遅い時間に町にいることを許してもらえない気がする。

「私ともふさまで行く」

 兄さまが宣言した。

「え? だって、兄さま、もふさまと話せない」

「もふさまが私の言葉をわかるから問題ない。〝その通りだ〟は1回、〝違う〟は2回吠えてもらうと合図を決めればなんとかなる。私なら夜も起きていられるし、仲良くなった子の家に泊まらせてもらうのを許してもらえると思う」

「兄さま、ずっりー、おれも行きたい」

 兄さまは顎に手をやり、少し考える。仕草が父さまにそっくりだ。

「そうだな、ロビンは私と行動。アランはリディーといてくれるか? もふさまもいないから、しっかりみんなを守って欲しい」

 アラ兄はしっかり頷く。わたしのお留守番は決定みたいだ。

「もふさま、お願いできますか?」

 兄さまがもふさまに尋ねると

『いいぞ』

 と、もふさまは一回吠えた。

「……オレんち、狭いしきたねーぞ」

「泊めてくれるの?」

「父ちゃんに聞いてからになるけどな。それより、この肉、どーすんだよ? 捌けんのかお前らだけで?」

 いや、これは魔法で補助を入れても夜中までかかるよね。というより獣サイズならまだしも、こんな大きいの父さまだってどうにかできるか……。

「解体してくれるところ、町にある?」

「隣のモロールとかイダボアはでかいからギルドがあるからおろしてくれるけど、町の肉屋は3軒しかねーし、他にも仕事があるから遅くなる」

 おお、ギルドだって! ファンタジー要素きた!

『そうか、ではそのギルドに行こう』

「え? ギルドに?」

『我に乗れば一走りだ』

「もふさま、わたし、ギルドのこと、何も知らない」

 わかってない子供が行って、やってもらえるものなのかな?

『小童2人と、それから毛色の違う兄と行くぞ』

 ギルドのことや町のことに詳しそうだと思ったのだろう、ビリーとカールは決定みたいだ。

「どの兄?」

 もふさまはわたしの手から飛び降りて、兄さまの足元で尻尾を振った。

「わたしは?」

『お前は小さいから悪目立ちするだろう』

 もふさまがウキウキしている。
 わたしはビリーとカール、兄さまに、もふさまの話を伝える。

「オレ、ギルドカードとか持ってねーぞ」

「ギルドは入ってない人でもおろせなかったっけ?」

 カールがビリーに問いかけると、ビリーは額を押さえている。

「だから……できるけど、子供だぞ」

『その時は〝兄〟が名乗ればいいだろう。領主の子供だ』

 もふさまの言葉を伝えると、3人は顔を見合わせる。

『領地の近くまで飛ぶ。先にギルドに行って台車を借りてきてくれ。そして我が獲物を出す。ギルドで解体してもらい、肉と魔石は受け取り、皮は売れ。時間がかかると言われたら、3匹分の肉だけ先におろしてもらえ』

 なるほど、いろいろ考えられている。兄さまたちに伝えると、3人は神妙に頷いた。
 わたしたち居残り組には燻製の用意をしっかりするように言われた。
 はーい。
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